第26話 死者の署名がある受取票
偽装が雑になる瞬間は、たいてい金の受け取り欄だ。
弔慰金と復職金の関連票を洗っていくうちに、私は一枚の受取票で手を止めた。受取人はギュンター・レーヴ。冬の警備中に亡くなった兵士の名だ。死亡報告書も、埋葬証明も、既に役場へ出ている。
「死者が受け取っていますね」
ヒルデが眼鏡の位置を直し、同じ票を覗き込む。
「それとも、死んだあとで筆跡が育ったのか」
皮肉が過ぎる時、彼女は本気で怒っている。
署名自体も怪しかった。死者本人の軍務署名写しと比べると、字幅が広すぎる。さらに立会人欄には、やはり『B.K.』。ベルント・コルフの頭文字だ。
私は別の票も引き寄せた。エルザの夫、トビアスの同僚、冬の崖崩れで死んだ配達夫。三件とも、受取票の筆跡は違うのに、立会人欄と検査印の位置だけが同じだった。
「本人が受け取れない金ほど、横から手を出しやすい」
マグダがいつの間にか湯を置きながら、低く言った。
「死者は文句を言わないし、遺族は通知が来なければ請求もしにくい」
その現実が重かった。紙の上で一度死ねば、二度目は金まで奪われる。
私は受取票の裏面へ光を当てた。薄く残った圧痕に、交換局保険処理という走り書きが見える。保険処理。つまり未着や死亡を理由に、別口で金が動いている。
「配達保険と弔慰金を、同じ連中が舐めています」
レオンハルトは机端の受取票を一列に並べ直した。
「なら、金の流れも同じだ」
「はい。紙を止めた側と、止めて得をした側がつながっています」
私は死亡兵一覧、受取票、保険処理控えを一つの紐で綴じた。嘘を別々にすると逃げ道が増える。まとめれば、逃げる先が狭まる。
その夜、エルザへ再調査開始の通知を書きながら、私は一行だけ追記した。
『あなたの夫名義の不正受取票を確認しました。こちらで回収処理を進めます』
知らせるのは酷いかもしれない。けれど、知らないまま踏まれている方がもっと酷い。




