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「――非常に残念だが。マグラルド、お前の処遇は追放刑に決まった」
兄上にそう言われたとき、僕は政敵に負けたのだな、と、思った。
兄上は――いや、兄上たちは、貴族や王族に顔を向けた公務をし、僕は国民を見る公務をしていた。王族とはそういうものだと思っていたのだが、今の状況を鑑みるに、それは正しくないと思い知った。
より正しくは、貴族や王族を掌握し、国民のために動かねばならない。
どれだけ国民のために動こうとも、貴族や王族、皆に敵に回られて引きずり降ろされるようでは、何一つ、意味がない。
僕に、「王族は、国民あってのもの」と、育てた子爵家生まれの母の隣で、「貴族たるもの、駆け引きの一つもできず、どうするのです」と口酸っぱく、貴族社会のなすべきことを教えた教育係の言うことも聞き入れるべきだと、反省をした。
したが――今更、もう遅い。
ペルアディアを追い出し、僕の婚約者になると言い出した、イーヴル伯爵家の一人娘。彼女は、聖女ではなかった。恋する少女の暴走、などではなく、その背後にある、イーヴル家が、ペルアディアという、強大な聖女の力を持つ彼女を、この国から追い出したかっただけ。
神与地の領土を奪う。
そして――我が国から独立し、国を作る。
そのイーヴル家の目論見に、僕も賛同していたということに、されてしまった。
僕自身が自らを鍛え、警備兵を移動させたのは、企みがばれぬように密会するチャンスを作るため、だとか。
ペルアディアとの婚約を、あまりにもスムーズに破棄した、だとか。
何一つ、僕の真意を分かっていないと言わざるを得なかったが、他から見れば、国力をなくすための行動、と言われても仕方がないことを、してきた自覚はある。
僕自身を鍛えたのは、ペルアディアに何かあったとき、彼女を守るためだったし。
僕の周囲の警備兵を減らさせたのは、僕を守るよりも、彼女のいる王城の敷地内そのものを警備する人間を増やしてほしかったからだし。
ペルアディアの婚約破棄を決めたのは、彼女を、こんな不自由な王城から、解放したかったから。
何一つ、分かっていない。
「もうあのお方には、会えないのですね」
情報を吐かせるために、イーヴル伯爵家の人間は、全員、貴族のための牢へと収容された。その際に、イーヴル伯爵令嬢が、ぽつりと、こぼした。神与地にいる協力者の男、ストインに、恋に落ちたのだと、いつだか、彼女は言っていた。
――そして、その一言に、僕は気が付かされる。
追放刑になるのであれば、同じようにして、国外に行く道を選ばざるを得なかった彼女を、探すことができるのではないか、と。
聖女の移動は、国同士の決まりで、必ず報告されるようになっている。それによれば、彼女はまだ、隣国にいるはず。
イーヴル家に嵌められ、伯爵令嬢がストインという男と結ばれるよう、一足先に『障り』の呪いを受けてしまった、このような身になったところで、彼女を見つけられるだけの時間が僕にはあるか、分からなかった。それでも、残り少ない人生、自分のために使うことができるのなら、彼女を探したかった。
彼女の両親を奪っておきながら、彼女を恋しく思うなど、なんとおこがましい。僕が直接下した命礼でなくとも、止められなかった時点で、僕も同罪。
それでも――聖女の勤めを果たす傍らで、毎日のように、会いに来てくれる彼女の笑顔に、僕は救われていたのだ。
あの城で、王子の中では最も地位の低い子爵家の母を持ち、国民のためだけに動く僕を、うとましい、煩わしいと思っていた人間ばかりだったから。
彼女が笑顔を見せてくれているたび、自分の努力を認められるような気がした。
そうして、僕は追放刑を執行され、国を出てから、とある街へと足を運ぶ。
情報得るなら、人の出入りが多いところ。それはすなわち、冒険者ギルドがある街。
ついでに冒険者になり、少しでも金を稼ぐか、と考えていたところに、僕は一人の女性と出会う。
「ねえ、君! もしかして、今から冒険者になる? 剣を持っているってことは前衛職? 前衛職だよね? 良かったら、あたしのパーティーに入らない?」
それは、今後一生、僕が恩を返し続けることとなる、リリリュビと名乗る女性だった。
ご愛読ありがとうございました。
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