表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
万超と爪刀 ーバンチョウとソウチョウー  作者: 七五三沙 イコ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/25

第25話 白く 黒く

「──っ──がぼぼっ!」


 くそっ、魔邪者(アイツ)ッ! 今度はこんな水の塊になって襲ってくるとは──これだけの水を操りながら、地中を進んできたってのか!? どうなってやがんだ、魔邪者(まじゃもの)ってヤツは!

──と、頭のすぐ後ろで気配を感じ、ギョッとして振り返る。


「──もがもごっ!」


 もがもご──って、お初さん!? お初さんも取り込まれていたのか!? じゃあ、ひょっとして(そう)も!?

 あたりを見回すが(そう)のヤツは……いない。そういえば取り込まれる直前に〝気合い鳴き〟をしていたな……。自慢の脚力で上手いこと逃れたのか。猫は濡れるのが嫌いだっていうし──ナイスだ! (そう)! 


もがぶばん(お初さん)──っ!」


 すぐさま引き寄せると、お初さんは学ランの(えり)をむんずと掴んだ。さあ、ここからどうする!? 下に向かって泳ぐか!? それとも絶技で風のスクリューを──


「ばべっ──!」


 え? なに? 〝ダメッ〟って言ったのか?

 さすがお初さんだ。俺の考えなんてお見通しとでもいうかのように、強い調子で制止してきた。確かに、突然この水の空間に囚われたので空気を吸う(いとま)はなかった。つまり、今の俺には圧倒的に酸素が足りていない。


 ゴプン…… ゴプン……


 そうこうしているうちに地面が遠ざかっていく。

 こ、これどんどん上昇してないか!? 魔邪者(アイツ)がなにをするつもりかは知らないけれど、ヤバそうな雰囲気だ! ひょっとして(おぼ)れさせた後、高所から落とすつもりか!? だとしたらマズい! とにかく下へ! 下へ泳ぐんだ!


「ぶむっ! ぶむぅっ! ──っ! ──っ! む゛ふ──っ!」


 あと──少し! なのだが──


『……ッキ──ピ キッッ──キッ──キピキキキッ──』


 突然、外部との境界──水の球体の(ふち)()りガラスのようになって、外の景色が(かす)んでいく。それにこの音……まさか(こお)っているのか!?

 よく見ると、この空間全体に魔邪者の発する青白い炎が──まるで蜘蛛の巣みたいに張り巡らされている。

 あの炎……(こご)えるほど冷たかった。水をこんな速度で凍らせることもできるのか!? このままではあっという間に俺達の周囲も氷になっちまうぞ! そんな所に閉じ込められたら……いや、それどころか身体を凍らされて割れでもしたらそれこそ取り返しがつかない!


 一か八か、今ある体内の酸素を使って──!


 グイィー!


 髪を引っ張られる。見るとお初さんは瑞意召魂(すいしょうだま)を取り出していた。

 ちょ、ちょっと待った! ここの魔素って高濃度だろ! こんなトコで魔技を使ったらお初さんだって──!


「もむ゛ーっ! もむ゛む゛ーっ!」


 首をブンブンと振って、今度は俺がお初さんを止める。けれど……くっ……息が…………。

 俺かお初さん、どちらかが賭けに出るしか道はないと思われたその時──


「 ──ャオ……ォ──……──ォン…… 」


 遠くから聞こえた……これは、声? 水中なのではっきりとは聞き取れなかったが……今のは……(そう)の〝遠鳴き〟!? 氷越しに見えるあれは──やっぱり(そう)か!?


 ピシッ────!


 目の前の氷の壁に、円を描くような亀裂が走る。恐らくは(そう)のツメによる斬撃──それは俺達を(くる)むような円筒状(えんとうじょう)で、氷壁と水を斬り裂いた衝撃波は後方にまで突き抜けた。

 ガゴリンと鈍い音がすると眼前の氷塊が押し出される。外から見ればワインのコルク栓が抜かれるような感じだろうか。

 さらに、周囲を取り巻いていた青白色(せいはくしょく)炎糸(えんし)は先の(そう)の一撃によって断ち切られ、魔邪者の支配から解放された水は本来の性質を取り戻し、俺達もろとも勢いよく外へと放出された。


「──ぶぱっっ──っ!!」


 出れたっ! 空気! 空気! ズハーーーッ! ズパーーーーッ! 空気がウマい! けど! うかうかしていたら地面に叩きつけられちまう! その距離──ざっと十メートル!


「すぅはーっ! 万超! すぅーはぁー! 私が!」

「すぅぅはぁー! いや! すぅはぁー! ここは俺が!」


 今回の魔邪者(アイツ)はまだ呪いの弱体化がない。外に出たとはいえ、もし魔技を使えば、お初さんはどうしたって血を多く使うことになってしまう。だったら俺の出番だろがい! そのために修行したんだ!


 すうぅぅぅ……すうぅぅぅぅぅぅぅぅーっ!


 絶技を持続させるに足る酸素の吸引、今回は十秒──〝十秒吸気(きゅうき)〟!


 続けて──色々試した中で一番しっくりきた掛け声で気合いを入れ──同時に心で音を鳴らす!


 〝(すず)太刀(たち)〟!


『 リィン 』


 そして──傘をさすように木神刀を立てて持ち、その先端で竹トンボが回るように風を回転させるイメージ!


 〝絶技────()ロペラ〟!


 フイィィィィィィン!


 地面へ激突する二メートル手前で一瞬フワリと浮き上がり、そしてゆっくりと──着地!


 最後に、木神刀をブンと振り下ろして鈴の音で(しめ)る。


『 リィン 』


「……………………」

「おお……万超……」


 出ー来ーたーっ! 何度も練習した甲斐(かい)があった! 八百万樹の枝からもこの技で降りる特訓、何度もしたし!

 とはいえ安心してはいられない! まだ魔邪者(ヤツ)は直上! すぐにこの場を離脱して距離を取らなければ!

 でもその前に(そう)だ。アイツはどこに……確か遠鳴きの後は子猫の姿に──


「みぃー!」


 いた! よちよちと一生懸命にこちらへ走ってくる。


(そう)ちゃん! ありがとう!」

(そう)! すまない! 助かった!」


 こちらからも駆け寄り、手を伸ばす。




 ビ シ ュ ッ ッ !




「──み゛っ──っ……」



 パタリと……   (そう)が倒れた…………。



 …………  え?



 俺は今……なにを……見たんだ………………?



 突然……水が……槍のように……(そう)の……後頭部から(あご)を……つらぬいて……


 ウソ だ……

      だって……え…………? 爪が?

                   頭 が

  みま……見間 違い だろ?  真っ白だ

 そ

  んな…… 冗──── ……談…… なにかの……

                         爪 は

 だっ て まさ……か ウソに決まって アイツ が……

 ──っ

  ────はっ……っ……はっ……ぁ…………ぁ………………っ

                              息 が

   イ  ヤだ…………  な……んで…… ──苦し──────ぃ

 爪 が……

    こ  んな簡単 に? アイ ツとは── …………く……も

                           なんで こん な

      や り…… ダメだ ろ やりな おして…………なん で?

   爪 は

    だって……いつも俺より……っ はぁっ──はぁっ…………っ……

                                 俺より 

  先を……歩いて………… それが  こんな こんなあっけなく…………

 ウソだ……

       ウソだ……

             ウソだ!

 よく…………も…………  苦しい……

      胸が──── ……っはっ──っはっ……  息が……

  ……………… ────っ ────っ


 よ く も……


 見上げると──俺たちと共に流れ出した後の空洞が、傷を修復するかのように奥の方から(ふさ)がり始める。

 水を通して見る(ゆが)みのせいだろうか……未だ球体の中心に陣取っている魔邪者(ヤツ)の顔は笑っているみたいだった。



 よ  く  も  !



 黒いものが込み上げてくる……

 俺の内側を……塗りつぶしていく……


「 万超! 」


 こちらに狙いをつけながら、頭上の巨大な流塊(りゅうかい)がジワリと降下を始める。

 押し潰すつもりか……それともまた取り込むつもりか……


                         「 万 超 !! 」


 上 等 だ よ。

 や  っ  て  み  ろ  よ。

 炎で全部蒸発させてやる。酸素? 知るかそんなもの。どうなろうと──


       「  万  超  ! ! ! 」


『 パ ァ ン ! 』


 お初さんに右の頬を張られたが、俺は見向きもしなかった。止めないでくれ──(アイツ)の仇を────俺が────


「  みぃぃーっ!  」


『 プ ニ ィ ィ ン ! 』


────っ!?


 左の頬に、肉球の感触──これは ドロップニッキュ子猫バージョン!? 視界の(はし)で、元気よく俺の顔に蹴りを入れる小さな生き物──!

 (そう)が…… (そう)が生きてる!?


「みぃー! みぃー!」


 確かに生きてる! どうして!?

 頭が混乱し、俺は(そう)を見つめたまま固まってしまう。


「離脱するわよ!」


──わっ!?


 身体がわずかに浮いたと感じた次の瞬間にはもう、地上すれすれを舞う燕のように高速で低空を飛行していた。


 ズシャアァァァ──


 水の球体から五十メートルくらい離れた所で浮力が消え、地面で何度か転がりながらの荒っぽい着地。


「乱暴でゴメン! 怪我はない!?」

「みぃー!」


 (そう) だ…… 本物だ……


「なんで……」

「み?」

「なんで(そう)が……生きてるんだ……」

「ああ、ホント間一髪だったわよね!」

「……お初さん……が?」

「──だよ? 爪刀(そうちょう)の後頭部に刺さる直前、魔邪者(アイツ)の操る水の先端だけをマシュマロみたいに魔技で柔らかく変えてやったのよ」

「で、でも確かに貫いたと思ったけど──」

「それはだって……いくらクッションを挟んだとはいえ、そのままだと上からの圧力で地面に叩きつけられちゃうでしょ? だから弾力のある水のつっかえ棒を(あご)の下に生成したの。あ、こっちは私が魔技で創り出した水ね」

「あ……あの一瞬で……?」

「ふふん♪ 私を誰だと思ってんの? 私よ?」

(そう)……」

「み?」


 俺は子猫の(そう)を抱え上げ、目を閉じて、そっと(ひたい)を押し当てた。


 自分が助かった時より嬉しいのはなぜだろう……


 よかった── 交通事故(あの時)のようにならずに済んで……


 本当に……  生きててよかった……


「み゛…………み゛──」

「タップしてる。万超、(そう)ちゃんタップしてるから!」

「あ……悪い」


 いつの間にか力が入ってしまっていたようだ。(あわ)てて地面へ下ろすと(そう)は、


「ふみー」


──と、ひと息つくように鳴いてから、一度だけ、お返しとでもいうように……俺の手へ(ひたい)(こす)りつけたのだった。


「お初さん、本当に、本当にありがとう。俺も(そう)も、どれだけ礼を言っても足りないよ!」

「みぃ!」

「天魔導士として当然のことをしただけなんだけど……ま、それは言いっこなしにしとこうよ。私もさ、君らに助けられてるんだよ?」

「……助けられてる?」

「み?」

「そ。助けられてる。──でも、今はそれよりも……」


 お初さんの視線の先……表面を波打たせながら、巨大な流塊(りゅうかい)がゆっくりとこちらへ向かってくる。


「あの姿って……お初さんへの意趣返(いしゅがえ)しのつもりかな……」

「そうかも。前回の戦いで水の魔技、かましてやったからね。技までそっくりだったし、憎たらしいったらありゃしない。──にしても、あの水槍攻撃と氷結のコンボじゃ、さすがの万超でも()()()()のは難しいんじゃない?」

「ぐむ……確かに……どうすっか……」

「私、思ったんだけど……今回の戦い、鍵は爪刀(そうちょう)じゃないかな?」

「みっ!?」

「あれほどの量の水を球体の形に保つ青白い炎……それを見事に引き裂いた爪刀(そうちょう)のツメには、期待するところ(だい)よ」

(そう)のツメで魔邪者(アイツ)(まも)っている水の(よろい)(けず)り、さっきみたいに流してしまおうってことか」

「ええ。削って、削って、最終的に中心の本体を叩く! 手順としては、八百万樹の桃を食べた時と一緒よ!」


 ま、まぁ……同じ……か?


爪刀(そうちょう)が二回大きくなる──名付けて〝デカデッカ形態〟でいられる時間は、まだほんの十秒ちょっと。しかもその後は子猫の姿まで戻ってしまう。だから私と万超で魔邪者(アイツ)を引き付けて、爪刀(そうちょう)が回復する時間を稼ごう」

「わかった。けど、回復に要する時間ってどれくらいだ? (そう)、お前わかるか?」

「みぃ……?」


 (そう)が目を(つむ)って首を(かし)げる。まぁ、そうだよな……。出来るようになったばっかだもんな。


「今回はちと長丁場になりそうね……。ゴメンね……私もあの水、削るの手伝いたいんだけど……さっき魔技を使ってわかったんだ。呪いの弱体化がない状態だと魔邪者(アイツ)の周囲、やっぱ魔素が濃すぎて、たぶん血が足りなくなる。(そう)ちゃんにかなり負担かけちゃうけど大丈夫?」

「みぃぃーーっっ!」


 よかった。前回と違ってお初さん、無茶をしなさそうだ。


 そんでもって(そう)も、やる気は十分らしい。


 おしっ! 俺も気合い、入れるぜっ!



「よおぉーし! それじゃあ 反撃開始よ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ