15話 アタック!黄金ダンジョン
—日本・新潟県佐渡市
都心から外れたこの場所では、辺り一面、強烈な緑が燃え盛っている。
まるで巨大な斧が叩きつけられた様にぱっくりと割れた特徴的な小山は、日本有数の金鉱脈として歴史にその名を遺した。
今では観光資源となり地域を潤している。そんな金山の周辺で、最も木々が生い茂る、自然の濃ゆい場所がこの辺りだ。
斯様な場所へ、明らかに場違いな3人の使徒が舞い降りる。
「…これがチキュウか。」
「ここで主様は育たれたんですね!同じ大地を踏みしめることが出来て感動しますね!」
「でも主様の話だと、このチキュウのニホンって国は場所によって雰囲気も言葉も全然違うらしいよ。僕は、主様が住んでたオオサカに行きたいな~」
三体の機械天使
破壊使徒・リシュア
殲滅使徒・リューネ
殺戮使徒・リシェル
野田に使える三柱の使徒達は、マスターのためを最優先に考えるベガにより早速地球上に派遣されている。
3人は、初めての地上に感動したり疑問を抱いたり兄妹としてじゃれ合いながら、鬱蒼と木々が繁る山間部へとある目的を持ってずんずん潜っていく。
「…あ!兄ちゃん見て!多分あれだよ!」
空を飛べれば探すのも楽なのになぁ、と面倒に思っていたリシェルだが使命には真面目だった。
山の虚、ぽっかりと口を開けた天然のトンネル。外から覗いても、光は奥まで届かず見通せない。
リシュアは事前に伝えられていたいくつかの検証を行う。結果が得られたので、洞窟の最終検証と突入許可を貰うために耳元の金属機器に触れた。
この金属機器は、昨日のベガニウムの発見と共にベガが地球上や遠方での活動のために開発した意志疎通ツールだ。固有に魔力的なパスをベガ本体と繋いでいるため、次元内のどこに居たとしても念じるのみでコミュニケーションが取れる。
[解析完了。魔力波動が目標と一致。周辺空間に侵入者を排除するためのシールドを展開します。突入してください]
「…よし、突入許可が出た。行くぞ」
「「はーい!」」
◆◆◆
この地球に適用されたばかりの魔力というエネルギーは、様々な特殊性質を持っている。
人類は本来、何十、何百年を掛けてそれらの性質を一つ一つ丁寧に明らかにしていくのだが——野田翔斗が現代に呼び出したイレギュラーに、そんな予定調和は通用しない。
様々な次元、ワールドでの活動経験からベガには魔力に関するあらゆる知識が蓄積されている。
魔力とは、言わば人の願いを叶える力。
実際、学問としての魔力学や魔力理論というものは物理や科学、認知哲学や医学を包括する、より学際的で学術的な側面が強いのだが。簡単に言ってしまえば魔力はそう言うものなのだ。
人の願いや欲、感情と言ったものに強く反応し引き寄せれらる。それが凝結し様々な物理的な作用を引き起こす。今回の「ワールド・アップデート」という更新と調整は、人類に魔力を授けると同時に補助輪としてステータスやスキルをくっ付けた様な仕様になっている。
ここ、佐渡金山は江戸時代から平成元年に至るまで日本有数の金鉱として栄えてきた。その時代を生きた人々の欲望、羨望、絶望、快感。非常に強大な感情が鉱山全体に染み渡っていた。
もちろん魔力はそれに反応する。まだ魔力を正確に感じ取ることの出来る人類は少ないが、ここら一帯は凄まじい密度の魔力に覆われている。
特定の場所に溜まった魔力がどうなるか。
例外はあるのだが、それは往々にしてある1つの結果を齎す。
◆◆◆
「"審判:殲滅"!」
当たり一面が爆発、閃光の暴威で殴り付けられる。
アイアンゴーレムやブロック・ヒポポタス、ゴールド・タートルと言った鉱山由来の高防御を誇るモンスター達は、リューネの固有スキルにより少なくなはいダメージを受けてしまう。
「……疾ッ!」
柄の長いハンマーを獲物に、リシュアはモンスター達を凄まじいペースで破壊していく。
【ブロック・ヒポポタスを撃破しました。パーティに経験値が入ります】
【アイアンゴーレムを撃破しました。パーティに経験値が入ります】
後方では殺戮魔術式を独自に編むリシェルが、生態由来のモンスターの命を刈り取る度に目を細めていた。
「ダンジョンも思ったより手応えないね!!これだったら僕1人でも良かったかも!」
「リシェル、油断してはいけないですよ!今回は完全制圧が目的ですから、集中してください!」
魔力が溜まった土地の結末——ダンジョン。
特に、ダンジョンコア等の人為的に自然魔力を操作しダンジョンを創造する手段に則らず、あくまで自然発生的に生じたものはベガの見地では自然ダンジョンと呼ばれることが多かった。
現在この佐渡金山内部はダンジョン化している。
通常、魔力が生じて数日でモンスターが何体も生息するような強度のダンジョンは出来ないのだが……金鉱脈という、人間の欲望や感情が渦巻いていた土地の性質なのか驚異のスピードで成長している。
しかし、三柱の前に立ちはだかるにはまだ足りない。
彼らは、主である野田翔斗の権能を超知能であるベガが魔改造した『ガチャ』より産み出されし者。未だ黎明期の地球に於いて、あまりにオーバースペックな存在。
ダンジョンとしての将来性は抜群であっても、彼等を迎え入れる時期が悪かったのだ。
通常よりも大分広くなっている鉱道を進んでいくと、終点に近付くに連れ壁面の様子が変わっていく。
入り口付近は向きだしの岩肌。そこから、徐々に表出した金塊が見て取れるようになっていたが、この最奥近い場所ではほぼ全面が金で包まれている。
【グランアリゲーターを討伐しました。パーティに経験値が入ります】
やがて辿り着いた終着点に待ち構えていたのは——
【ダンジョンボス:ギガンティック・ゴールド・ゴーレムが現れました。戦闘が終了するまでボスエリアは封鎖されます】
それは、道中で散々倒してきた有象無象のモンスターとは比べ物にならないエネルギーを放っていた。
(……確かに、これは3人でないと厳しい闘いになった筈だな)
見過ごせない巨大なエネルギーに、リシュアは一瞬冷や汗を浮かべる。
しかし、彼等の思考回路に撤退の2文字は存在し得なかった。
「…行くぞ!!」
◆◆◆
「"審判:破壊"」
機械天使の長兄は、遂に自らの固有スキルを用いて黄金の巨兵を穿つ一撃を放つ。
「U,UGRAAAAAAAAAAAAAA!!!GRRRRRRRRRRRRAAAA…………」
断末魔は響き渡り、やがて
【ダンジョンボス:ギガンティック・ゴールド・ゴーレムが討伐されました。おめでとうございます。パーティに経験値が入ります】
【ダンジョンを踏破しました。踏破報酬をパーティに贈呈します】
【ワールド1492で初めてのダンジョン踏破を確認!ステータス情報を参照しリシュア様、リューネ様、リシェル様へ特別報酬を贈呈いたします】
【特別報酬:称号 《ダンジョンクラッシャー》】
「ふぅーー!やっと終わったよ~」
「最後のボスモンスターは中々骨がありましたね……」
「…俺達も精進が足りないな。明日から訓練を始めるぞ」
「うげっ!」
苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる末弟を尻目に、リシュアは取り決め通りベガへ踏破完了の報告を行った。
[了解しました。ご苦労様でした。事前の手筈通り、踏破報酬にはまだ手を着けないでください。今から採掘用アンドロイド達を送ります]
通信から暫く経つと、リシュア達がモンスターを撃破しながら通ったルートからアンドロイドの足音が聞こえてくる。
程なくして、採掘用アンドロイドの全機体が集結した。あとはここから部屋一面の金塊が規定量に収まるまで採掘と搬送を繰り返すだけだ。
「それにしてもおかしな話だよねー。主様がお金に困るなんて。地球人供はさっさと主様に全部捧げれば良いのにー」
「リシェルの言い方は良くないですけど、主様が本来なら資源に悩む必要がないと言うのは同意ですね。主様とベガ様がいる限り、戦力差は拡がるばかりなので地球文明は降伏か管理下に入るべきです。」
「主様は地球の出身者として、この土地や文明に愛着を持っておられる。それに、私達にさえ対等な目線を心掛ける優しいお方だ。
2人とも、事実だとしても主様の前で今の話をしてはいけないぞ。」
今回の目標は……金欠の野田に変わり、大量の金銭に換金できる資源を地球から持ち帰ること。
宇宙から地球を観測したベガが、金鉱脈とダンジョンが融合したここ『佐渡金山ダンジョン』を発見。既に枯れたとされるこの金山だが、ダンジョンと融合することで大量の魔金石を内部に保有する可能性が高いことをベガは事前に予測していた。
3人は安全に採掘作業を進めるためのモンスター駆除として派遣された。ちなみに今も、奥の方からポップしてこの部屋に向かってくるモンスターを返り討ちにしている。
リシュアは眷属の実務担当者として、この後のベガの計画と展望まで知らされている。スムーズに進行すれば、そう遠くない未来で日本は野田翔斗を頂点とした国家に様変わりしている筈だ。
「Ksyaaaaa…!」
(主様、もう暫くお待ち下さい。必ずその御身に世界の全てをお届け致します)
「破壊魔術、発動」
野田が聞いたら、その厄介さに全力で絶望しそうな祈りを捧げたリシュアは、この黄金に照らされる魔窟でまた一体のモンスターを破壊するのだった。