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【XIII】#2 Derangement/selectioN


 大通りにある探索者ギルド「赫灼のねぐら」にホロウ達三人は恐る恐る足を踏み入れる。

 外見は他のギルドと大差ないようだったが、中は酷いものだった。


 「わ……これは……、凄いね」

 「うええぇ……ちょーっと潔癖症のわたしはパスかなぁ」

 「野宿でお風呂に入らずに平然と出来る貴方は、潔癖症なんかじゃないわ」


 里乃が鼻を抓み、すぐにでも出ようとするのを、イズが羽交い締めにしながら、ホロウの後を追う。

 ホロウは乾いた笑いで誤魔化しているが、確かに里乃が嫌がるのも分かる。

 部屋の中は依存成分を多分に含んだ嗜好品の匂いと、度数の高いアルコールの匂いが漂っている。


 (まだ昼間だけど、「薄氷」に初めて入った時もこんな感じだったし、何処も同じか)


 種族が違えど、探索者は皆同じ。危険な仕事に身を投じ、明日を生きるために命を懸ける。

 それしか出来ないホロウも、酒こそ呑まないものの、殺っていることはそう大差ない。

 あちこちに酒で潰れた男が大半はテーブルに突っ伏して眠っているが、一部はこちらの方を見て口汚い罵声を浴びせている。


 『人間種風情が……人の身体でよくも赫に来れたな!』

 『おい、あんな上物がギルドに入ってきたぞ、皆で襲えば喰えるんじゃないか?』

 『バカ、辞めておけ。外の荒くれ者の一部はあいつらが殺したんだ』

 『特にあの黒髪の女は何の躊躇いもなく殺すぞ。刀で真っ二つだ』

 『狙うなら、あの真ん中のひ弱そうな白髪の女だ。それなりに育って、しかも攻撃も弱い』

 

 あちこちからそういった言葉がヒソヒソと聞こえてくるが、実際には誰も手を出してこない。

 黒髪の女、かつては黒髪だった自分のことかと錯覚しそうになるが、里乃の事だろう。

 メガネを掛けた理知的な灰色の髪の女は大人しく、白髮の女は弱々しい。

 そんな話が聞こえた頃には、イズの姿が見えなくなっていた。嫌な予感がする。


 「うわっ、何すんだ、止めろっ!!」

 「次、お姉ちゃんの悪口言ってみなさい、問答無用で私が殺すわよ」

 

 なんだか凄い話をしていたように聞こえたが、ひとまず気にせずにホロウはキョロキョロと見渡す。

 受付は何処だろうか。構造が同じなら、受付のカウンターがあって、そこで依頼を受けられる筈。


 (初っ端から情報収集しても良いけど、警戒されてるだろうし、暫くは依頼をこなして……)


 「あの、すみません。受付って此処であっていますか?」

 「えぇ、あってるわよ。随分派手に暴れまわってたみたいだけど、探索者だったのね?」


 ホロウが受付にて話し掛けた女性は、随分と妖艶な格好で出迎えてくれている。

 相手をしてくれているのは、暗めの金髪を一つに纏めて肩に掛け、軽いツリ目だが、キツさを感じさせない自分より五つ程上の女性だった。

 濃い化粧に、自身を最大限セクシーに着飾る格好をしているのを見たホロウは心の中で「受付嬢って言うよりかは風俗嬢って奴なのでは」と思ってしまったほどだ。

 とてもセエレやリオンとは大違いだ。蒼の区域の受付嬢も此処まで派手な格好はしていなかった。

 中々キャラが濃いなぁ、と感心していると、フリーズしていたと思った受付嬢がふふっと笑う。


 「よくよく見れば可愛い子じゃない。他のお二人さんもツレかしら?」

 「えぇ、まぁ……。此処で依頼を受けることが出来るって認識であってますか?」


 「あってるわよ。見たこと無い顔だし、他区域から来たばかりみたいね。あたしはヨハンネ」

 「ホロウ・ブランシュです。あっちはイズ・ブランシュとノイン」


 ヨハンネと名乗った受付嬢が帳簿らしきものをペラペラと捲っていると、驚いた表情を見せる。

 その本に何か記されているのか、少し気になったが、敢えて何も言わずにヨハンネから視線を外す。


 「あぁ、ごめんごめん。今過去の登録一覧見てたんだけど、同じ名前が白での登録履歴があるね。これって同一人物って認識で合ってる?」

 「あってます。そのホロウ・ブランシュです」


 ヨハンネはふむふむと、なにかに文字を書いている。

 やはり、白の区域で指名手配されていたことが問題なのだろうか。

 ある程度慣れた手つきで、書き記していたヨハンネは、よし、と言うと、ホロウを見る。


 「ホロウは一回トライブ抜けてるみたいだね。赫だとトライブ単位でしか依頼受けれないから、どっかに加入して貰うか、自分で再度作って貰う必要があるんだけど、どうする?」

 「当然、作るに決まってるわよね?」

 「決まってるじゃん〜?」


 先程まで居なかった筈の二人が後ろでホロウの肩を強く掴んでいる。それなりに痛い。

 こんな時だけ凄まじい連携力を見せつけないで欲しいなぁと、ホロウは苦笑いでトライブ結成の記入用紙に必要事項を書き記していった。



 ____________



 やるべき事務処理が全て終わり、ホロウ達はギルドに隣接していた酒場で軽く食事を摂ることに。

 ホロウ達の隣の席は何故か、人が近寄らずに少しだけ異彩を放っているが、二人が気にしていないようなので、ホロウも気にしないことにした。

 料理が出来上がるまでの間、ホロウ達はとりとめのない話をしながら、時間を潰していた。

 やがて、各々が注文した料理がテーブルの上に並べられ、イズや里乃は美味しそうに食べ始めている。

 イズの前にはレーヴァ原産の火喰鳥のチキンカツサンドと唐辛子が散りばめられたサラダ、コンソメスープ。

 里乃の前にはシンプルなホットサンドに、バナナジュース、デザートのジェラートが添えられている。

 どちらも可愛らしい食事なのだが、ホロウが注文したのはチーズとハムのサンドイッチ一個だけ。

 シンプルな上に、量も他の二人と比較すると多くはない。むしろ少ない部類にはいる。

 

 「魔弾ちゃん、それで足りるの〜?わたしのはあげないよ〜」 

 「別に大丈夫だよ。いつもの食事量も多くないし」


 実際に腹五〜七分で止めることが多い。そうしないと肝心な時に動けないからだ。

 他の二人が楽しく食べている間も、ホロウは近くの席での話し声に耳を傾ける。

 先程よりも情報量が少ないが、この区域では白とは違い、人間種を排斥する傾向はないようだ。

 どちらかと言われると、赫のように荒廃した土地に押し込められているオレラカワイソーみたいな考えを持っている者が多いらしい。

 今はめぼしい情報はあまり出てこなそうだ。意識を二人の会話へと引き戻す。


 「でも、本当に良かったのかしら。私達だけでトライブを作るだなんて」

 「仕事上必要なら仕方無くない?それに、わたしはあの名前気に入ってるよ〜」


 綺麗に食べている二人を横目に、ホロウは手早くサンドイッチを口に運ぶ。

 どうにもゆっくり食べるのは性に合わない。

 きっと、過去に急いで食べないと自分の食べ物を取られていたことが起因しているのだろう。

 

 「ね〜?魔弾ちゃん?」

 「ふえっ?えと、何?」


 急に話を振られたホロウは狼狽えたような声を上げて、里乃の方を見る。

 じと〜と粘っこい視線を里乃から向けられるも、見ていないものは見ていない。

 ごめんごめんと申し訳無さそうに謝罪し、何の話をしていたのか再度聞き直す。


 「だ〜か〜ら〜!わたしは、「ゴーステラ(星失)」って名前が気に入ってるの!」

 「そっかそっか。ぱっと名付けちゃったけど、里乃が気に入ってくれて良かったよ」

 「わ、私も気に入ってるからね?ね?」


 なんだかんだ二人も仲が良いのだろう。眼の前で取っ組み合いになっているが。

 早々に食べ終わっていると、こういった時にメリットが大きいのだ。

 二人の分の会計も済ませて、ホロウは一人で先に外に出る。

 朝イチに登録を開始して、もう昼餉が終わってしまった。ここからまた情報収集のために、動き始めよう。


 (想坂さんと氷空の事、どうしてこんなにも気になるのかな)


 ホロウは徐ろに空を見上げる。恒星がじりじりと肌を焼き、程よい暖かさが身を包んでいる。

 曇天に包まれ、時に雨が降っていただけの地獄とは違う。この地にもかつての仲間はいるのだろうか。

 止々呂美樹(とどろみいつき)不言月朔夜(いわぬづきさくや)、この世界にて存在を確認できていないかつての仲間は後二人になった。

 

 「ねー、ちょっと!先に外に出るなんて酷いじゃない!」

 「そーだよ〜、二人で食事とかしんどみが深すぎるよぉ〜」

 「え?でも二人って仲良しだよね?違うの?」


 その後、宿屋に戻ったホロウ達であったが、隣の部屋からは罵詈雑言が夜通し響き渡っていた。

 深い理由はないが、あの二人と同じ部屋で寝たくなかったのだ。

 意味は違えども、命の危機を覚えるから。



 _______________



 おまけ。

 現段階での登録証の記載。




探索者登録証


 名前:ホロウ・ブランシュ 性別:女 年齢:十七歳

 階級:乙種/二級 所属トライブ:『星失(ゴーステラ)』 所属レギオン:無

 職業:狙撃手、他十二種 種族:    属性:愚者/死神


 名前:イズ・ブランシュ 性別:女 年齢:十五歳

 階級:丙種/三級 所属トライブ:『星失』 所属レギオン:無

 職業:調律師、他六種 種族:   属性:星/死神


 名前:ノイン 性別:女 年齢:二十歳

 階級:乙種/二級 所属トライブ:『星失』 所属レギオン:無

 職業:刀剣使い、他十種 種族:人間種 属性:悪魔/死神


 

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