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第8話

連絡を受け取ったのは次の日の職場で、何時ものように校正作業をしている時に鳴った電話である。

 「もしもし、ああご無沙汰しております。ええ、順調ですよ、ええ…… はい?1週間後!?………

 はい…… 分かりました、失礼します。」

 

 私は大きく溜息をつきながら天を仰いだ。どうすれば良いのだろうか、こういう時に真っ先に相談出来る相手は最早一人しか思い浮かばなかった。

 

 「それで僕の所に来たと。」

 「ああ、君はこのプロジェクトの中心人物の一人だからな。」

 「まだ3人しか居ないじゃないですか、今の所は。」

 「もしこの報告会を晴れて通過する事が出来たら、企業から大量の予算が流れ込み、自由に人材を獲得出来る予定なんだぞ。」

 

 「そうなったら素人の僕なんてお役御免じゃないですか。」

 「何を言う。この脚本の原案は君が考え出した物じゃないか。」

 「『僕達』です。」 

 「そうだったな。とにかくオリジナルストーリーは考え付いた者にしか、最後まで書き出しきれない。だから君が途中から外れる事なんてのはありえないんだ。」

 

 「おだててくれるのはいいですけど、まだ全然プロットなんて出来てないですよ。」

 「私みたいな素人には、そこら辺の資料だけ見せられても正直イメージが掴み難いと思うんだ。想像力の乏しい中高年は特にね。」

 「つまりプロモーションムービーを製作すると。でも出来るんですか?一週間で。」

 

 「私にも分からん。アニメの作り方なんて想像だに出来ないからな。」

 「そもそも何で一週間後に早まったんですか。」

 「先方はそこまでの説明はして来なかった、だが口ぶりからにわかに焦ってるのが感じ取れたな。とにかく一週間後だと。」

 

 「映像の話となるとまたカチャーノフに会いに行くようですね。」

 「彼には私から連絡を入れておく。とにかく早い内に話を通しておかないと。」

 

 家に戻った私はすぐさまカチャーノフに電話を入れ、すぐ次に合う約束を漕ぎ着けた。しかし彼が指定した場所は自宅ではなく、とあるレストランであった。

 

 「ここですか?まぁなんの変哲もない普通の店ですね。」

 セルゲイはこと口が減らない男である。

 店内に入るとカチャーノフが既に席に着いていた。

 

 「今日は自宅じゃ無いんですね。」

 「え、ああ、実はな、この前まとめた事話してみたんだ、ほら実際製作するとなると彼女が主導する事になるからさ。」

 「それで?」

 

 「それで、怒ったさ。そりゃ二度も自分抜きで劇場版アニメの計画が進められて。脚本が完成したらそれを作れと言われるんだからさ。」

 

 「前回休みなら呼べばよかったんじゃないですか?」

 「僕ってほら、社内で発言権が無いんだ。いつも言われるままに仕事してきたから。それに才能もあっちの方があるし。」

 「前の会社の上下関係そのまま引き継いだ感じですかね。」

 

 「それに考え方がスピリチュアルな部分あって。実際に宇宙に送った犬を主人公にすると言ったら最初は反対されて、それで僕がここまでの経緯を説明して、少し考え込んだと思ったら、宇宙が見たいと言い出したんだ。」

 

 「はあ……」

 「それで僕の家に特大の望遠鏡を持って来てさ。」

 「それは、何故?」

 「僕の家は周りが真っ暗だから、天体観測にはちょうど良いんだ。それで今の自宅は彼女のプラネタリウム状態って訳さ。」

 

 「これは厄介そうですよ、ポクロフスキーさん。」

 「これは多分みんなで説得しないと、解決しない問題だと思うんだ。」

 「えっ、僕もですか?」

 セルゲイは明らかに嫌そうな顔をしていた。

 

 「ここでごちゃごちゃ言っても仕方ないし、今夜向かおう。とりあえずここで腹ごしらえしてからな。」

 料理は美味しかったが、正直あまり喉を通らなかった。

 

 二人を車に乗せて、魔女の家へと向う。

 「そう言えば彼女の名前をまだ聞いてなかったな。」

 「名前はウルシュラ・レシニャク。だけど普段は渾名で呼びます。」

 「渾名とは。」

 「その……『博士』と。」

 「ソイツは強烈ですね。」

 「いや私達は普通に名前でいいでしょう。」

 

 カチャーノフ宅に到着した、彼女は庭で望遠鏡を覗いていた。

 全員車を降りて、カチャーノフが先に行き説明した。

 

 「あー博士、ちょっと事情が変わって例の二人が相談があると。」

 彼女はカチャーノフをチラッと見た、するとカチャーノフはこっちに来いと手で合図をしてきた。

 

 「はじめまして…… ではないですね、私はニコライ・ポクロフスキー、チスタター社の新聞記者です。隣に居るのはセルゲイ。私がこのプロジェクトの脚本を頼んだ人間です。」

 「どうも。」

 セルゲイは小さく挨拶した

 

 少し間が開くと、彼女は手を回すジェスチャーで続きを促した。この間ずっと望遠鏡を覗いている。

 「はい。実はこのプロジェクトを依頼して来た先方から、予定されてた計画報告会を一週間後に早めるという連絡が届きまして。」

 

 「それで貴方に、その報告会で発表する映像の製作をお願い申し上げたく逢いに来た訳であります。」

 私はなるべく刺激しないよう言葉を選んで話した。

 

 彼女は天体観測を止めてこちらを向き大きく息を吐いた。

 「レニシャクですよろしく。」

 「こちらこそよろしくお願いします。」

 名前を言うと握手を求めてきた。私は彼女が喋った事に少し驚いた。

 

 「さて、その犬が宇宙行く話。君が思い付いたんだっけ?」

 「僕とカチャーノフで考えました。」

 「私ねえ、宇宙には思い入れがあって。小さい頃に見たニュースに影響されて、飼ってた犬の名前をライカにしてたの。」

 つまり私達は、既に地雷を踏み抜いてたという訳だ。

 

 「だから最初聞いたとき『えっ?』て思ってしまったの。だけどこれも巡り巡った運命なのかなって、考えたのよ。」

 「だけどあのカチャーノフ、今まで全然私にそんな話しないで。最初あなた達を見た時、私が仕事してる裏で自分の友達呼んで、映画談議してるのかと思ったね。」

 「そりゃ怒りますよね。」

 「私、失礼な事したと思う。謝らないと。」

 「いやいやいや全然そんな滅相もない。急に仕事中に押し掛けたのは私達の方ですから。むしろ謝らないといけないのは私達の方です。な!セルゲイ。」

 「えっ?あっはい、すみません。」

 

 「どうやら君も中々扱き使ってるようだね。いいわ、私も貴方の指揮下に入る。その仕事は私に任せてちょうだい。」

 私は心強い仲間が増えたと同時に、プレッシャーも倍増した事をヒシヒシと感じた。

 

 

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