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第9話

 俺は、何が起きたのかと、歯を食いしばり、剣を両手で抱えるように持つ。


 突然、動きを止めたウツボから、這いつくばりながら下半身を抜き出す。

 そして、辺りを素早く見渡す……、いや、出来ない。

 身体の麻痺が取れていない。

 焦りながらも、緩慢な動きで、振り返る。


 するとそこには、胴体を半ばから両断されたウツボ……と。




 ……天使?




 まるで、神話の世界から抜け出してきたかのような美しい天使がいる。

 この世界には、天使までいるのか……?


 逆光で良く見えない。

 天使の輪は見当たらないが、上品で透明感のある栗色の美しい髪の毛。

 白色の、頭から足首まである大きな翼。

 ゆったりとした白いローブを纏い、……手には血濡れの細剣。


 厳しい目つきで、ウツボを睨み付けている。


 あの細い剣で、ウツボを切ったのか?

 確かに剣の長さはありそうだから、1メートル近く太さのあるウツボを切ることも、不可能ではなかろうが、すさまじい技量だ。


 俺が見惚れていると、


「無事か?」


 突然後ろから声をかけられた。

 知らぬ間に、回りこまれたようだ。

 振り返れば、新たな天使がいる。


 しかし、言葉?

 言葉が通じている。

 聞こえてくる音は、明らかに日本語ではない。

 綺麗な優しい音色の言葉。

 恐らく、新たな力【……ダンジョン内のモンスターへの命令は、スキル意思疎通能力において……】と、虹の光の中で言われたスキルのお陰か?


「え、う“、だびじょら……」


 ええ、大丈夫です、と言おうとして気が付いた。

 舌にまで麻痺があるようだ。


「ああ、無理しないで結構」


 振り返った先にいた新たなる天使は、手を振り俺を制する。

 すさまじい美形の天使だ。やはり天使は美しい。

 髪の毛を短く刈上げ、声も男性だから、中性的に見えるが、男性なのだろう。

 ウツボを睨みながら立っている天使はおそらく女性。

 ローブの上からでもややふっくらと女性らしい身体のラインがわかる。


 ――天使にも、女性、男性、があるのかな?


 先程までの緊張感も無くそんな事を考えていると、男性天使が話を続ける。


「無理して答えなくていいのだ、頷くか、首を振るだけで良い。出来るか?」


 俺は素直に頷く。


 なんかさっきから、天使ならではの説得力があり、俺は、ついつい緊張を解き、その言葉に素直に従ってしまう。

 当然だろう。天使に会って良い意味で動揺しない奴、圧倒されない奴なんているのか? 地球に?


 まあ、ここは地球じゃないけど。

 そう、だから、最低限は、気を引き締めないといけない。

 そもそも、油断せず帯剣していれば、さっきも、あそこまで追い込まれる事は無かっただろう。

 この天使たちが、あのウツボモンスターの止めを刺してくれたのであろうが、突如襲われたのだ。

 この世界は、そういう世界なのだ。

 運が良かっただけと思おう。


「取りあえず、モンスターは心配しなくていいから落ち着いてほしい」

「身体は大丈夫か?」


 俺は、また素直に頷く。

 そこで気が付いたが、あれだけ鋭い歯に食いつかれたのに、ほぼ異常が無い。

 あるのは麻痺だけで、打撲程度の痛みはあるが、身体のどこかを食い破られたり、ましてや、骨にまで影響しそうな怪我は無い。

 ローブや服の防御力の影響か?

 それにしては、所々破れているが?


「現状を確認したいのだが、ここにはダンジョンマスターはいるのか?」


 頷く。


「では、ダンジョン管理権限保有者はいるか?」


 ダンジョン管理権限保有者? ダンジョンマスターとは違うのか?

 ダンジョンコアは、俺のことをダンジョンの支配権限保有者と言っていたが、それとは違うのか?

 しかし、このダンジョンの管理権限を保有しているのは俺だ。

 ならば、取りあえず頷いておこう。

 詳しくは、麻痺を何とかしてから、後で聞けば良い。


「そうか。では、管理権限保有者と少し話したいのだが、可能かな?」


 俺は少し考えて、首を振る。

 どうやっても今すぐは無理だろう。

 まだ口や舌、身体全体が痺れている。


「なるほど」


 少し残念そうにする男性天使。


「急だからであろう! 出直せばよい事」


 女性天使が口を挟んできた。

 あの天使、まだウツボを睨んでいるよ。

 怖っ……、戦闘狂か? 殺戮天使だな……。


「ならば、少し時間を置いて出直して来ればどうだろうか? 可能かな?」


 俺は頷く。


「そうか。では、ゆっくりと出直したいところではあるが、あまりのんびりと言うわけにもいくまい」

「実は、この天空島ダンジョンが我等の領空上に、もう丸一日あってな」

「急がして悪いが、三日後にもう一度来ると、管理権限保有者に伝えてほしいのだが。良いか?」


 俺が了承の意を示すと、満足そうに笑い「よろしく頼む」と言いながら、俺を壁側に寄りかからせた後、去っていく。

 そして、ウツボを名残惜しそうに睨み続けていた女性天使、……と、十人あまりの天使が男性天使につき従う。

 見えない位置に立っていたのか!

 迂闊だった。結果的に敵ではなかったとは言え、やはり、気を抜き過ぎるのは良くない。


 しかし、天使の領空を侵犯してしまっていたとは。

 俺のせいじゃないと思うけど、異世界初日から、やらかしてしまった。




□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■




 天使が去って直ぐ不安に襲われた。まだ麻痺が残っているのに、今またモンスターが現れたら?

 いや、彼ら天使だって、戻ってくる前提だ。危険なら、まだ出て行ったりしないだろう。

 しかし、誰がそんな事を保障してくれる?

 そもそも天使たちにとっては、俺など本来どうでも良い存在なのかもしれない。

 ダンジョン管理権限保有者やダンジョンマスターに会いに来たのであって、俺の事は単なる使用人の伝言係程度に見ていた可能性だってある。

 高貴なる者が、使用人程度を守る必要などない。

 と言ったところか?

 被害妄想が過ぎるかな?


 俺は落ち着か無い気持ちのまま、開いたままの扉を睨み付け、ただひたすら身体が動くのを待つ。




 しばらくたつと、落ち着かないなりにも、今回の事を教訓に、色々と考えた。

 目の前は、まだウツボの死体が転がっている。

 恐らく、あの天使たちが来なくても、こいつ一匹だったら何とかなったであろうが、絶対ではない。

 麻痺毒もあったし、危ない場面も多々あった。

 この世界は、危険が多そうだ。

 改めて思うが、平和な現代日本の感覚を引きずらないほうが良いだろう。

 まずは、仲間だ。仲間がいれば、最終工程の、魂の融合中に襲われる危険も回避できた可能性が高い。

 最も、仲間とは言っても、別に気の合う仲間的なものに、こだわる必要も無い。

 要は、味方である。

 自分の側につく味方が必要なのだ。

 そうであるならば、家族でも、親戚でも、友達でも、なんでも良い。


 ……俺の、不得意科目じゃないか!


 しかし、あの天使は、天空島ダンジョンが、丸一日もあると言っていた。

 時間の感覚が無くなっていて、よく解らなかったが、恐らく、あの融合に丸一日かかっていたのだろう。

 丸一日無防備でいたわけか……。

 やはり、早急に信頼できる味方が必要だ。


 家族、親戚は期待薄だ。

 この世界の、俺の両親がいる気配はまったく感じられない。

 いたら、生まれたとき大体そこにいるだろう?

 であれば、親戚のいる可能性も除外だろう。

 まてまて! もしや、他のダンジョンと俺は親戚か? 魂の半分は同じ亜神出身?

 ただ、亜神ダンジョンのように攻撃的なダンジョンもあるという。

 もしかしたら、逆に友好的なダンジョンマスターもいるかもしれない。

 しかし、どう会えばいいかも解らない。取り敢えず、保留だ。

 残るは、……友達。

 あの天使たち、友達になってくれるかな?

 最悪、味方寄りの、知人でも良いんだけど。

 まあ、直近プランAとして置こう。


 いや! そう言えば、……確か、ダンジョン魔法でダンジョンモンスターが作れるはずだが……。

 モンスター創造だったかな?


 あっ! 


 そう言う事なら、俺には、眷属の卵があるのでは?

 天空島ダンジョンの次にポイントの高い卵。


 超! 高級卵!


 そうだ、まず、これから試してみよう。


 俺は、麻痺が治ると直ぐに、マジックバッグから、八個の淡く光り輝く卵を取り出した。


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