第36話
一夜明けて、目を覚ますと横でレオが寝ていた。
前回俺を心配して寝ないで横に居た時とは違い、ゆっくり寝ているようだ。
起こさないようにゆっくりと起き上がる。
そして、昨日の事を少し振り返る。
あの拘束の魔法具に乗った時は、本当に危ない場面であった。
しかし、虹色の玉と共に、俺の中から桁違いの力が溢れてきて、何とか助かった。
しかし、あれは何だったのだろう?
一応自分のステータスをオープンしてみる。
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【名前】ルイ・アリス
【年齢】0歳
【種族】$!‘$種・人$&’#
【称号】ダンジョンマスター・ランクE(ダンジョンランクA【レベル】2000)
【レベル】186
【スキル】モンスター創造・浮遊魔法・念動魔法・限定転移魔法・意思疎通能力・ダンジョン改変・眷属強化
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……種族については、もはや何も言うまい。
人の一文字が入っているのであれば、良しとしておこう。
しかし、【レベル】186、ランクEになっている。
あの桁違いの力が溢れてきたのは、これが原因だろうか?
ダンジョンのランクが変わると、ダンジョン領域の広さの桁が変わるように、恐らく俺の場合も、ランクがEに上がり、桁違いに強くなったのだろう。
この考えが正しければ、次はランクがDになる【レベル】250に達したとき、今回同様、俺の強さは大きく上昇するわけか。
しかし、それは良いとして、何故レベルが上がったのだろう?
そして、いまだに聞こえてくる虹色の玉の声。
虹色の玉の声について考えられるのは、魂と身体のシンクロが終了していないから、何らかの機能が俺の中でまだ生きているのだろう。
しかし、レベルは? 何故あがったのだろ?
虹色の玉の声の中で出て来た、叡智とは何だ?
推測に推測を重ねる事にはなるが、叡智とはシンクロが完全になされていれば、俺が持っているはずの悟性・理性・才知・知識などのことでは無いだろうか?
そして、今はまだ俺の中で眠っている叡智、この叡智の中に存在する悟性・理性・才知・知識などを自力で身につければ、身につけた部分が解放される。
それは、俺の中で眠っていたが故に、魂と身体のシンクロ率が上がらない前提が逆転し、解放されたが故に、魂と身体のシンクロ率が上がる事を意味する。
つまり、こうやってシンクロ率を上げていけば、完全なシンクロ状態である【レベル】2000の俺の姿に近づく。
よって、レベルも上がり、レベルが一定程度を超えればランクも上がる。
そう考えるのであれば、叡智以外の、他の部分でも適用可能だろう。
俺の中には、まだ眠っている力・スキルなどがあるはずだ。
そして、その俺の中で眠っているものと同様な、力・スキルを自力で身につければ、シンクロ率が上がりレベル、ランクも上がるのだろう。
ランクといえば、ランクが上がれば桁違いの力を得るように、もしかしたら、叡智やスキルも、レベルの上昇に応じてなにかしら開放されるかもしれない。
唐突に開放されたスキル『眷属強化』はこの為だったのではないか?
俺の中の直感は、これら全ての推測が正解であると感じているが、違うだろうか?
まあ問題は、眠っている力・叡智・スキルが、どんなものか解らないから、狙って身につける事が出来ない事か……。
……大問題だな。
後は、レオから敵全滅メッセージを受け取った後に感じた力の上昇だろう。
あの時も、レベルが上がったのだと思う。
たしか、【魔力の獲得により眠りし力との共鳴を確認。これにより、魂と身体のシンクロ率が一部上昇します】だったかな?
恐らく翼人の死によって、魔力の吸収が行われたのだろう。
そこで考えられる事としては、魔力はダンジョンコアを通して俺に流れ込んで来る力ともいえる。
そして、ダンジョンコアがまだ虹の光を放つ頃に、俺に移譲した力も、当然ダンジョンコアを通して流れ込んで来た力。
この二つの力は、ダンジョンコアを通して来るだけに、近しいものなのかも知れない。
故に共鳴しあい、流れ込んで来た魔力の大きさに応じて、眠っている力も解放される。
例えば、そこに置いてあるだけでは動かない磁石も、もう一つ磁石を持って来れば、動き出すみたいな……?
ただ今回は、持って来た磁石の磁力が小さ過ぎて僅かしか反応しない。
ならば、もっと魔力を吸収すれば、さらに俺の中の力が解放されるかも知れない。
……だからと言って、無闇に人を殺す気など無い。
では、どうやって魔力をダンジョンコアに吸収させるのか?
動物を連れて来て、家畜を飼ったり、放った動物を狩ったりするのも一つの方法だろう。
動物が死ねば、恐らく、ダンジョンコアが魔力を吸収する。
それも良いだろう。
ただ、前々から構想にはあったのだが、この天空島に、国家を創るのはどうだろうか?
『天空島アリス王国』
いずれは、君臨すれども統治せずとなるかも知れないが、いまは、安定させる事を優先する。
故に、俺が王である王制国家。
そこで人や亜人に天空島で暮らしてもらって、天空島で寿命を迎えてもらう。
そして天寿を全うすれば、魂は解放されるが、本来霧散するだけの魔力はダンジョンコアが吸収する。
もし、幸せに暮らして貰えるならば、お互い、ウィン・ウィンな関係ではないだろか?
幸せの定義は人それぞれ違うだろうけど、俺は日本を参考に考えたいと思っている。
即ち、幸福追求権だ。
公共の福祉に反し無い限りにおいて、自らの幸福を追求する権利を与える。
当然法律は守ってもらうが、それ以外は基本自由だ。
そう、法の下の自由と平等の権利を与える。
家の所有や、田畑の所有などの物権や、債権など、財産権も与える。
最低限の国民の義務は、天空島アリス王国、国民の四大義務だ。
教育の義務、勤労の義務、納税の義務、緊急時における兵役の義務。
このためには、学校も当然必要だろう。
天空島アリス王国の発展の為には、公共施設、社会保障の整備も、ゆくゆくは整える必要があるだろう。
この世界の国家を見た事は無いが、奴隷やモンスターのいる弱肉強食の世界である。
自分の家など持っていても、領主が必要とあらば、何の金銭的補償もなく没収される世界だろう。
……たぶん。
しかし俺の国では、万一、誰かが所有する家が必要な事が起きても、それが補償された上で徴収されるわけである。
当然、金も払わないのに、労役を課すような真似もしない。
この世界においては、なかなか魅力的な国になるのでは無いだろうか?
今回リリーたちを天空島アリスにむかえるのは、今後、天空島アリスに人間や亜人が暮らす為の前段階として、良い試金石となるかもしれない。
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天空島アリスに人間や亜人が暮らす……そんな事を考えていた為だろうか?
俺とボーン、シルバで、リリーたちを迎えにいった時、待ち合わせ場所のルル島大岩にはリリーと五人の女性翼人と、……それ以外の翼人が多数……。
いや、多数どころか、数百人くらいいる。
「どう言うことか?」
また罠をはって敵対するなら、この島以外の周辺諸島も容赦なく攻撃するよ?
そう思いつつ問いかけると、
「あの、エル様の事を皆に話しましたら、皆、一緒に行きたいと申しまして……」
「え? エルのこと言っちゃったの?」
驚きすぎて、思わず日本にいた頃の、普段の言葉遣いが出てしまった。
しかし、リリーはそんな事は気付かないほど恐縮して、
「も、申し訳ございません。
昨日、あの後、皆にエル様に跪いていた事を聞かれて……。
あの、あの、口止めされていなかったもので。
その、言って良いのかと……」
確かに、ダンジョンマスターの件とは違って、口止めはしていなかった。
そうは言っても、空気読んで欲しかった……。
……しかし、まあ、しょうがないのか?
伝説の始祖様の再来だし……。
リリーの話からは、いまここにいるのは、昨日の島にいた翼人たちと言うことかな?
もう一度で良いから、エルのご尊顔を拝ませて頂きたいといったところか?
……ただのソックリさんなのだけれど。
「しかし、今日エルは連れて来てはいない、残念ながら会わしてやる事は出来ない」
「え、いや、あの……」
リリーが歯切れの悪い受け答えをする。
「何だ? はっきりと言え」
「あの、一緒に行きたいとは、この大岩までではなく、その、天空島アリスまで行って、その……エル様にとご一緒に……」
つまり、天空島アリスに行き、天空島アリスで生きたい、と言うことか?
……いきなり数百人?
リリーたち六人でも迷ったのに?
「ほう、ア、ア、アリス様に御仕えしたいのか?
中々、解っているではないか」
シルバが急にご機嫌な声を上げる。
シルバ、お前は何も解ってないぞ。
その事は、解っているのか?
「ボーン、どうだ?」
「嘘は無い様でございます」
「そうか……」
目的は、エルに仕える事なのだろうが、……。
どうせ試して見なければ解らないのだ、六人だろうと、数百人だろうと、変わるまい。
いや、変わるか。
それでも、数百人分の魔力はオイシイ。
いや、そうではなくて。
数百人分の人材は有り難い。
これから天空島アリスを発展させていく為には、人数も時として力になるだろう。
この際だから、希望者は全員連れて行き、試しにやるのは悪くない。
上手く行かなかったら、ルル島に帰らしてやればいいだけの話だ。
「良いだろう。皆を歓迎しよう」
俺がそう言うと、息を殺して、リリーとの会話を聞いていた翼人たちから、歓声が沸き起こる。
これから、この者達と、天空島アリスを発展させていくのだ。
ぜひ、アリス島を繁栄させ、皆が自由で平和な幸せに暮らせる天空島、そして国家としよう。
しかし、だからこそ今しっかりと立場を分ける事も大切だ。
何時ものようにはっきり言っておこう。
俺が手を軽くスッと上げると、ボーンが翼人に向かい、声を出す。
「静聴!
天帝様のお言葉である」
翼人たちが、俺のほうを見てくる。
「我は、皆が崇敬するエルの主にして、天空島アリスの王。
今後は、天空島アリスに住む皆の王ともなる。
我は、天空島アリスを発展、繁栄させ、皆が幸福に暮らせる天空島を目指す。
これに賛同できる者は歓迎しよう」
翼人たちは神妙に俺の言葉を聞いている。
「異議無き沈黙は同意と受け取る」
俺はそう言った後、翼人皆を見渡す。
誰もが、沈黙を守っている。
「我が名は、ルイ・アリス。
天空の島のアリスだ。
以後よろしく頼む」
俺がそう言うと、一瞬の静寂の後、喜びの歓声が広場に広がった。
そして、天空島アリスの新たなる門出を祝福するように、優しい花の香りを運ぶ一陣の風が吹きぬける。
天空島アリスの歴史が、始まった瞬間であった。




