第13話
魂の融合最終工程の時に、ダンジョン領域内の地図は俺の頭の中に入っている。
故に、俺は迷うことなく眷属たちを宝物の間の前まで導く。
宝物の間はダンジョンコアルームのすぐ奥だから、迷いようも当然無いわけだが。
しかし、この間取りは、少々頂けない。
ダンジョンマスターがこの世界に生まれた直後、迷い無くダンジョンコアと融合するように、互いが、直線状にあるよう生みだされた便利仕様。
初期設定通りなのだろうが、一階の入り口直ぐにダンジョンコア。
天空島のダンジョンコアは、持ち出されると墜落でしょ?
危なすぎる。
その為の、魂の完全融合が終わるまでは防御モードなんだろうけど。
俺も、時間と共に、引き付けられるような感覚をダンジョンコアから感じたし、魂の融合最終工程は、ほぼ確実に実行されるのだろう。
転生の間の時、光の玉から、一言あっても言いと思うが、……。
まあ、「魂の融合最終工程が完了して、魂が完全融合すれば、大体のことは、対処可能でしょ? 駄目だった人は、運がなかったって事で」という設計か?
確かに、自然界なんて、運勝負の部分はあるわけだが。
生まれた直後にライオンの群れがあったら、ほぼジ・エンドだし。
ダンジョン魔法の、ダンジョンの改変を使って、後で間取りを変更しようかな。
優先順位は高めで行こう。
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眷属たちを引き連れてダンジョンコアルームに入ると、ダンジョンコアは、その虹色の光を失って、磨きぬかれた水晶の様に美しい透明となり、部屋中央の、八角柱の上に浮かんでいた。
大きさも変わっていて、一抱えほどの大きさだったものが、直径2メートルほどの大きさになっている。
……これはこれで、迫力がある。
なぜコアがこうなったかの理由は明確だ。
コアは、魂の融合最終工程で、俺に、亜神の魂としての、全ての力を移譲した。
この為、いまは天空島ダンジョンを維持するために必要な機能を有した、マジックアイテムになったが故の結果だ。
詳しく分けて説明するなら、虹の光部分の凝縮していた力は俺の中に移譲され、凝縮していた力がコアの中から無くなったので、本来の大きさまで戻ったのだ。
しかし、ただのマジックアイテムになっても、コアが大切なのは変わらない。
なぜなら、コアの主な機能の一つといえば、天空島を浮遊させる事だ。
俺から魔力の供給を受けて、浮遊魔法を発動させている。
俺も天空島を浮かすことは出来る。
浮遊魔法を使えるようになったから……たぶん。……出来ると、思う。まだ試してないけど。
まあ、俺が出来たとしても、それは、天空島を外部から浮かせる事のみ。
と言うのも、コアは天空島に内部から魔力の根を張って、直接的に浮かべる特殊な方法が出来る。
それと比べると、俺がやるのは、魔力の効率が悪い。
このため、俺がやれば、魔力切れを起こして直ぐ墜落だろう。
そう、この事実は、コアが持ち出されると、天空島は墜落する事を示している。
他の機能にも重要なものがある。
天空島の移動だ。
天空島の移動には、俺がコアに手を置いて、念動魔法を行う。
コア無しで外から動かすことも不可能では無いが、アホほど魔力を消費する。
エコじゃ無い。
それに、天空島内部と一定範囲の外部をコアに映しだしたり。
何と言っても、本来拡散する魔力を吸収してダンジョンのレベルを上げてくれる。
当然、同時に俺のレベルも上がる。
いや、この考え方は逆のようなのだけど。
俺のレベルが上がるから、ダンジョンのレベルが上がる。
ダンジョンは俺の一部だからだ。
それを明確に示している理由の一つとして、ダンジョンコアが破壊されても、俺は死なない。
魔力という、栄養を吸収する機能を失うから、それ以上のレベルアップは出来ないだろうけど。
天空島を浮かしたまま維持することも出来なくなるし、ダメージはあるのだが。
ちなみに、俺が誰かに殺されたりしてしまえば、ダンジョンコアはその機能を失って、壊れてしまうらしい。
人間で言えば、俺が本体、ダンジョンコアは内臓、みたいなものかな?
違うかな?
ダンジョンコアが壊れれば当然、天空島は墜落の憂き目に会う。
他の、タワー型ダンジョンとか、洞窟型ダンジョンでも、何かしらの不都合がありそうだ。
ともかく、ダンジョンコアの多機能性は、その虹色の光を失って、ただのダンジョン維持のためのマジックアイテム化しようとも、俺にとって、大事なものである事実は変わらない。
俺がコアルームで立ち止まり、そんな事を考えながら黙っていると、
「おで、おで、ここは、何? なんだな」
鬼丸がキョロキョロと不思議そうにしている。
「静かに。天帝様は、カルーバを検分しておられるのだ」
低く重々しい囁き声で、ボーンが鬼丸を制する。
「カルーバ?」
俺が不思議そうに後ろを振り返り問いかけると、ボーンが
「も、申し訳ございません。勝手な発言を」
骨が壊れるんじゃないかという勢いで平伏する。
ドガッと、音がした。
しかし、話す速度はゆっくりめで、低音の重みがある。
謝られて、こちらが気圧される声音だ。
ボーンの禍々しい威圧感もあいまって、こっちが謝りたくなってしまう空気感……。
……ボーンの態度にも、まいったな。話が進まないし。
「良い。お前には自由な発言を許している」
「それよりも、カルーバについて、お前の知っている事を話せ」
「ありがたき幸せにございます。我が失態、慙愧の念に耐えませぬ。これをお許し頂きましたご恩はきっと……」と、長々続く謝罪の言葉の後、ボーンは、カルーバについてやっと話し出した。
曰く、カルーバは天空魚と呼ばれる魔物で、中空を飛ぶ為の羽を持つ。
中々に珍しい種類の魔物で、戦闘能力・知的能力も高め。
素材としても役立つ部位があるようだ。
しかし、そもそもボーンはなぜ突然カルーバの話を始めたのか?
そこまで聞いて、
「お前が言っているのは、これのことか?」
と、ウツボをマジックバッグから取り出す。
「はい。我が至神たる天帝様。まさに、その魔物でございます」
「そうか。で、何故、カルーバの話を鬼丸に? いや、そもそも、なぜカルーバの事が出てくる。
死骸は、マジックバッグの中にあったのに?」
「? 鬼丸? 鬼丸とは……その?」
「ああ、すまんな。まだ言ってなかった。お前の後ろにいる、額に角を持っている鬼の名前だ」
と俺が言うと。
ボーンの後ろにいた、鬼丸が、くりくりした目をキョトンさせた後、
自分のことを指差し、「おっ、おっ、おっ」と始める。
「おでの、名前―! おでーっ! おでーっ!」
「おで、鬼丸!」
「おでのー! 嬉しい!」
「おで、おで、嬉しい!」
「おでのー! 名前、なんだなー」
「うでしぃー!」
大変なはしゃぎ様で、話が進まない。
自分の名前もあるのかと、ソワソワしだす者もいるが、皆の名前は、後にしたほうが良さそうだ。
場が落ち着き、もう一度ボーンに問うと、
「私には、鑑定魔法が有ります故、そこに散乱しております、カルーバの粘液を鑑定して、知り得ました」
「天帝様が、これを検分している物と考えまして、鬼丸に静粛を促しました」
ボーンは、鑑定魔法持ちか?
さっきまでの禍々しい雰囲気に気圧されていた俺はどこへやら、俺の中で、急速に親愛の情が沸き起こってくる。
自分の事ながら、勝手な奴め。現金な奴め。
と、思うが、これもまた人間の性。
とまた、勝手な言い訳が出てくる。
どちらにしても、眷属には、共に歩む者として、大切にしてやりたいと思っていたから、粗雑に扱う気は無かったのだが……。
どこまで使えるのかは、いまの所、解らないが、鑑定魔法が有る事は、素直に嬉しい。




