第11話
大体の日本人なら、鶴の恩返しの話を知っているだろう。
罠から助けられた鶴が、人の姿となって、その恩を返そうとする。
鶴は、決して見ないでくださいと断って部屋にこもり、己の羽毛をむしって、機織りして、恩を返す。
しかし、鶴の恩人は、見るなと言われているのに、機織りをしている鶴を見てしまう。
そして、見られた鶴は、悲しみ、去って行ってしまう話。
短くまとめれば、そんなお話。
ここで重要なのは、見るなと言われて、見てしまう場面。
そう、見るなと言われれば、言われるほど、見たくなるのが人の性。
……眷属の種族選び。
……今度は用心しないといけない!
そう思った。
思ったんだが……。
……思えば思うほど考えてしまう。
あの転生の間で、一度、俺の生まれる種族としてあがった、候補の種族。
エルダードワーフ。
エンシェントエルフ。
エルフとダークエルフのハーフであるダブルエルフ。
……いま、エルダーリッチの横で、それらの種族の眷属たちが片膝をつき頭を垂れている。
見るな見るなと、言われれば言われるほど、見てしまう。鶴の恩返し。
……見ちゃ駄目なのに。
……。
考えない考えない、と思えば思うほど、考えてしまう、あの時の種族。
……考えちゃ駄目なのに。
……。
小学生の低学年で知る人生の教訓。
俺、生かしきれず。
もう、眷属の卵を握りながら考えないぞ。
種族を決めてから実行するのだ!
しかし、あの時の種族で言えば、後は、ドラゴンかな?
ドラゴンなんて、眷属にしたらどうなる?
食べ物は? 狩に出て、自分で確保してくれるのか?
居住スペースはどうする?
外に番犬の如く置くのか? 確かにそれも悪くない。
もっとも、ダンジョンの城内部は亜空間になっていて広大なスペースがあるから大丈夫だと思うが。
普段から連れて歩くことは出来ないだろう。
別にペットを求めている訳ではないのだから、それはそれで良しなのかも知れないが。
しかし、大型犬とて、飼う時は様々な大変さがあるという。
人より賢いドラゴンだった場合、コミュニケーションは取れるのではあろうが、しかし、思いもよらない難題が出て来るであろう事は、想像に難くない。
考えすぎだろうか?
だが眷属は、ペットではないのだ。
後から飼えなくなりましたで、次の飼い主を探すようにはいかない。
コントロールしきれない問題に直面すれば、可愛そうな事になるのは、眷属のドラゴンだろう。
やはり、止めて置こう。
では、どうするか?
他の種族の候補?
リザードマン? ゴブリン? オーク?
いまいちぴんと来ない。
そもそも論として、はたして種族って決める必要あるのか?
俺の望む条件、強い、賢い、人型とかだけ念じるのでも、大丈夫なのでは?
試してみて悪い事は無いだろう。
駄目なら、種族を選べばいいだけだ。
次の眷属だが、ウツボの襲撃の事もあったし、防御は大切だ。
そこで、防御力のある眷属はどうだろう?
思うに、いまいる眷族は、いざと言う時、盾役を実行する専門の者がいるかと言えば、心もとない。
あえて候補と言えば、エルダードワーフだが、この小ささだ。
万一、エルダードワーフの盾や頭の上を、魔法の火炎や矢が通過したら、……ふとそんな事を考えてしまう。
緊急事態に、頭ばかり下げてもいられないだろう。
であれば、そう思って、俺は、新たな眷属の卵を握る。
知能があって力強い、体格の大きい者。
その条件の中で、俺が眷属にできる最高位の者。
強く強く念じる。
……、そして、光の奔流、魂の繋がりが起こって……。
そこには、褐色の肌に、やはり赤い針金のような毛質の長髪……の鬼?
髪の毛の生え際に、2センチメートルくらいの突起が二つある。
体格は筋肉ダルマとでも呼べそうな、盛り上がる筋肉。
目が大きくクリクリしている。
まるで、子犬か、ゴマフアザラシの赤ん坊のようだ。
そして、小山のような大きさで縮こまって平伏している。
「おで、おで、……」
と言いながら、より縮こまる。「俺、俺、……」と言いたいのかな?
確かに知能はありそうだ。……幼稚園並みの。
まあしょうがない。もはや、後に戻せと言っても、後戻りできない。
それに、確かに力が強そうだ。
ただ、盾役というより、特攻役だろうな……。
……。
気を取り直そう。
逆に考えれば、成功と言えるだろう。
種族を指定しなくても、大丈夫なのだと確認できたのだから。
であれば、もう一度試してみよう。
どうするか?
この際、力強さとか、巨大さは、止めた方がいいか?
次は、巨人のサイクロプスやトロールとかだったら、どうコミュニケーションをとったものやら解らない。
眷属なのに、敬語になりそうで怖い。
そこで、『軽速のブーツ』を見てひらめいた。
知能があって身軽で素早いという条件の中で、俺が眷属に出来る最高位の種。
これはどうだろう?
なかなか汎用性のありそうな眷属だ。
偵察、撹乱、追跡、情報伝達。
器用に色々とこなしてくれることだろう。
この世界で、大いに戦力になってくれそうな気がする。
今度は、知能が人間の成人平均以上を望めば大丈夫だろう。
ここまで絞れば、想像と違い過ぎると言う事も、無い……と思う。
……。
いま、新たな眷属が跪いている。
チーター頭の眷属が。
草原のスピードキング、チーター……頭の人型。
タイガー○スクの頭が、チーターバージョン。
いや、首までチーターかな?
良く見ると、肘の先から手の先までと、膝の先から足のつま先までも、チーターだ。
若干、手と足は大きくなっていて、指も長くなっている。
……偵察中に、情報のメモを取る時、役立つ手であろう。
……あと尻尾もある。
……これで合っているのかなぁ?
俺はもっとこう、……目立たない感じの?
……まあ、いいか。
眷属の卵も、あと二つだが……。
っ! チーター頭の眷属を見ていて、思い出した。
この際、ここまで来たらもう一人、やってみよう。恐らく、チーター頭も有能なのは有能なのだろう?
それならば、どれくらいのポイントだったか、正確には忘れたが、あの転生の間でポイント交換の際、自分が生まれる事が出来る種族に、金獅子なんてのもいた。
確か、……200,000ポイントくらいだったかな?
いや、300,000ポイントだったかな?
エンシェントドラゴンとかも、凄いポイントだったが、ポイントさえあれば、まだまだ色々いるなあと思ったのだった。
だから、チラッと目に入ったとき、自分が生まれる種族にこれも悪くないって一瞬思ったのだ。
当然、 ポイントが全然足りなくて、考慮すらしないで却下だったけど。
金獅子は、タイガー○スクの、ライオンマスクバージョンかな?
結構いいアイデアに思える?
駄目かな?
駄目でもやるけど、駄目かな?
しかし、ここに俺を押し留めるものなど何も無い!
実行っ!
金の獅子がいる。
……俺の前には、いま全身金色の獅子がいる。
金色の毛が光の角度で、キラキラしているライオン。
金獅子。ゴールデンライオン。まさに言葉のとおり。
賢そうに伏せの体勢で、頭下げているけど、でか過ぎで、すごい迫力。
伏せの上体で、ワゴン車くらい、あるのじゃないだろうか?
可愛さ指数が、ゼロだな。
……ちゃんとコミュニケーション取れるのだろうな?
眷属としての繋がりは確実に感じるから大丈夫だろうが。
というか、確実に大丈夫だろう。
こいつからは、他の眷属と明らかに違う繋がりを感じる。
ポイントの高さ故かな? 関係ないか。
だが、意識の繋がりを感じる。
どうやら、いまは何か食べたいらしい。
ペット系は、駄目なのに。
まだ、この世界の事情もわからないし、ドラゴン諦めたのに、ライオンが来てしまった。
……。
もう駄目だ。
エルフや、ドワーフ、その他もろもろの眷属たち。
もしかしたら、成功の部類かもしれないけど、俺が考えに考え抜いて、エルフ!!! とか思ったわけじゃないし。
何故か自分の想像や思っている事の斜め上を行く結果ばかり。
俺の中で漂う失敗感。
別に眷属たちが悪いわけではない。
生まれてみれば可愛い眷属たち……、金獅子と目が合っちゃったよ……すごい迫力。
……可愛がれるのかな?
……俺には才能が無い。
眷属の卵を扱う才能が……。
最後の一つはどうしたものか?
もはや、諦めて、きちんと、種族で選んだ方が良いのだろうか?
人間もありえるのか?
おっと、迂闊には念じ無い様にしないと。
そういえば、あの天使たちも可能なのかな?
天使。眷属。……無理でしょ?
普通に考えてみて?
天使は神様の眷属? 御使いの方でしょ?
まあ、無理だろうな?
……。
さあ、やろうか。
天使。
いままでで、最高の念を入れてやるっ!!!!!!!
……。
……、輝く虹色の光、そしてその光の奔流。
魂の繋がりが起り、眷属が生まれてくる!
光の奔流が、収束した先にいた眷属は……。
眷属は……。
……え?
…………天使?
………………本当に?
其処には、美しい翼を持つ天使の姿がある。
何度見ても、その事実は変わらない。
まさか成功するとは……。
自分でやって、自分が一番ビックリ。
最後の最後は想像通り。
狙いの結果を引けた。
……天使。
俺の眷属。
……成功して驚いてどうする、俺。
……。
と、取り敢えずは服かな?
皆生まれたばかりで、さっきから裸のままなのも、どうにかしないと、いけないだろうし。
*種族につきまして*
最近、ハーフをダブルというと聞きまして、エルフとダークエルフのハーフであるダブルエルフを思いつきました。
完全な創作ですので、違和感のある方は、流し読みいただきたく、お願い申し上げます。mーーm