表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕はヒーロー  作者: 緋色の石碑
最終章 誰かのためのヒーロー
99/120

第二話 チェイス

「ママーっ!」


「なあに? なつみちゃん」


「あのねあのね! わたし1番になったよ!!」


「見ていたわ。あなたの走り、誰よりもきれいだった」


「ほんとう!?」


「本当よ、私の一番大事な娘……」



――アル忘レラレナイキヲク



――アル忘レサラレタキヲク

 「うおおおおおおおおお!!」


俺は懸命に炎を発散したが、この世界は全く壊れる気配がない。


「やべえぞ、こうしてる間にもあいつは朔たちと……」


 待ってろよ2人とも! なんとかこらえてくれ!



**


「あなたが、殺したの?」


その言葉の意味を、誰もが理解していた。私が、自分の父親――彼女の夫を殺したのかと言っているのだ。


 もちろん、草薙を倒したのは朔だ。だけど、それを言うと真っ先に朔が狙われる。朔は今、立ち上がることもままならない状態だ。狙わせるわけにはいかなかった。


 「そうだ」


私は、魔王に1歩近づく。


「なつみ、だめだよ逃げよう!」


エアの制止。そんなもの、意味ないことだって分かっていた。エアの足だって、震えているのだから逃げられない。


「どうして? なつみ……」


魔王は涙を止めることなく、私に近づく。その声は私がよく知るものであるはずだったけれど、ほとんど記憶にない。


「すべては、あなたのためだったのに」


「何の話だ」


「ククッ、分からなくて当然よね、私があなたの記憶を消したのだから」


 心臓が高鳴る。やはり、私の記憶が孤児院に入る前後から始まっているのは、魔王が記憶を消したから――「地球にいた時から」、そんなことができることを考えると、私たちは一緒に住んでいたか、少なくとも近隣の住民だった可能性が高くなる。



**


 「魔王は――魔王はお前の……」


「魔王はお前の、母親だ」


**


 草薙の言葉を反芻する。やはりこの女が、私の――。


いや、そんなことを気にしている場合じゃない。今はみんなを逃がさなければ!


 右手を伸ばし、ツルを出現させる。私が時間を稼ぐ!


「はあああああああああ!!」


 魔王の足元に向かってツルを投げ込む。これで拘束すれば――!


「まだまだあなたの実は青いわね」


 突然、目の前から消えた魔王。瞬間移動か!


次に魔王が現れた場所は、私たちの近くではなく、草薙の死体のそばだった。


「ああ……なんて無残な姿に……草薙さん、私の宇宙で一番大切なひと……」


魔王は冷たくなった草薙の頬に手を当て泣いた。彼女が彼を愛していたことは、誰の目にも分かることだった。


 私が今も解せないのは、本当に彼らが――私の両親なのかどうか、ということだ。


 でもどちらにしろ、それが分かったところで、私のやることは変わらない。それは私自身が、一番よく分かっていることだ。


 「この傷……」


白目をむいて死んでいる草薙の顔を優し気に触る魔王。そして、いとも簡単に気付かれる。


「これ――火傷のあとね。あなたも多少闘ったようだけれど、致命傷は炎の一撃。つまり――」


 魔王は振り返りながら、瞬時に眼からレーザービームを放った。バリアを展開して朔を守る。


「はぁ、はぁ……」


うんざりした表情でまたこちらを見る魔王。


「……なつみ、私本当にあなたのことが分からないわ。彼はあなたの父親だったのよ」


「だけど、おじいさんや私、私の大切な人を傷つけた!」


「やあねぇ、そんなもの、必要な犠牲よ。あなたと交戦したのだって、あなたの《力》を試すためのもの。世界の創世の際、あなたの《力》を残すだけの価値があるかどうかを試しただけよ」


 私は、みっともなくわめいた。


「嘘だ! そんなくだらないことのために、私の大切な人たちを傷つけたというのか!!」


「……馬鹿ね」


 そうつぶやいた魔王の瞳は、恐ろしいほど冷え切っている。


「世界を創りなおせば、私とあなた以外はみんな無に還るのよ? そんな人たちのこと、どうでもいいわ」


「なんだって……」


 私の中に巻き起こる《力》。これは、《絶望》――。


「全てあなたのためだったというのに、こんなことなら、記憶を消さなければよかった。私に歯向かうというなら、容赦はしないわ」


 植物属性の短剣――来る!


 「はあああああああああ!!」


接近し、短剣を振りかざす魔王。闇のバリアでガードするけれど、それをもろともせずにバリアを分断する。


「くっ!」


 後ろに引けば、今度はエネルギー弾の連射。私が闇を使うと知って、徹底的に植物属性で攻めてくるつもりか!


「ぐあああああああああ!!」


 ガードしきれずに、直撃する。吹き飛ばされて仰向けに転がってしまった。


「はあ、はあ……」


「なつみ、もうよせ!」


 朔が言う。でもここで引き下がるわけにはいかない。


 これは、私の問題だから。


 その時、かすかに氷の気配が動いた。美海さんだ。


 「エア、私を連れてって」


 背中で、張りつめた氷の声がした。



**


 「え……?」


私は美海の言葉に困惑した。なつみが闘っているこの状況で、美海だけを連れて逃げるなんて……。


 少し離れた位置から、魔王の高笑いが響いた。


「ハッハッハ! 過去英雄と呼ばれたあなたが、命が惜しくて敵前逃亡しようというの!?」


「そうね。勝つための――策よ」


 そうか、美海は何かを考えている。だったらここで美海を失うわけにはいかない。だけど、ここで私が離れたら、大きな戦力のロスになる――。


 「なるほどね、キミはあれを試そうとしているんだね」


 小夜嵐が澄まし顔で言った。あれって?


「闘いは好みじゃないし、いいだろう。ボクが連れて行くよ。行き先は?」


「……ハクシキーノの書斎。咲夜が石になっているはずよ」


 咲夜だけじゃない、ニュクスとヘメラ、アイス・プリンセスもだ。いったい何を――?


「わかった。妖精ちゃん、悪いけどトンズラさせてもらうよ」


「あ、ちょっと!」


「神寺宮美海、キミはさ……」


 小夜嵐は、美しい4枚の羽根を広げて、美海を乗せて行ってしまった。小夜嵐には、もう瞬間移動する《力》が残っていないんだ。


 みんな、限界が近かった。私も戦線に参加しなければ、なつみが死んでしまう。


 そういえばさっき、小夜嵐は美海に何を言おうとしていたのだろう。


 君はさ、時を巻き戻すつもりなんだろう?


読んでいただきありがとうございました。終わるのか終わるのか言ってる割に文字数少ないな。

次回、エアも参戦します! 最強のヒロイン頂上決戦(違)!

次回、第三話「ダイス」。お楽しみに!!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ