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僕はヒーロー  作者: 緋色の石碑
第六章 血縁という名の呪縛
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第十二話 欠落

「さいしょにうまれた こどもは れいてつと なづけられた

 さいしょの こどもは もっとも つよかった

 さいごの こどもの あたたかな ひかりに ふれるまでは」


――『ハーノタシア星創世記』 第三章 第一節

 俺の叫びと共に、熱い一撃が草薙の元へ向かう。大丈夫、届く!


「馬鹿の一つ覚えだな。まったく、母さんはこんなチンケな技に惚れていたというのか?」


軽く嘲笑うと、翼の目玉が炎の軌道を読み取り、一斉に闇の光線を発射する。赤紫色の光が、視界を奪う。


「ぐっ……」


「早くも貴様は体力を消耗している! この数では……勝てんぞ!」


数十、数百の光線は、俺の気功波に接触する直前、集合して1本の大きな気功波に変貌する。2つの気功波が、ぶつかる。


「ぐ……ぐぐっ……」


「消えろ、忌まわしき血族よ!」


「エア、行くぞ」


「了解っ!」


 俺は瞬間移動を超えるスピードで、奴の後ろに回った。無人の大地を光線がえぐる。


「なにっ!? 陽動か!」


「はぁっ!」


「ぐああっ!」


 後ろから、奴の背中を蹴り上げる。奴がブレーキ代わりに《力》を放出したせいで、大した飛距離にはならないが――!


 その瞬間、今まで沈黙していた翼の裏側から、数百の瞳が目を覚ます。


「なにっ!? 裏にも――!」


「英雄さん、防御が間に合わないっ!」


「ぐああああああああっ!!」


 下降したレーザービーム。今度は直撃だった。さっき落ちたところと反対側に、またクレーターができる。


 「所詮は逃げ腰のガキが考えることだ。その程度対処できる」


勝ち誇った顔で(わら)う草薙。こいつ、強い――。


《力》の大きさ、技の精度、そしてエアをもしのぐスピード。今のままでは、どこをとっても突破できない。勝機があるとすれば――。


 この闘いの中で、強く、速くなるしかない!


 「エア……俺たち、勝たなきゃいけないよな……」


両手をつき、立ち上がる。まだだ。


「うん」


「エア……俺たちは何のために闘ってる」


「呪われた運命に、ケリをつけるため」


 そうだ。あの時、次元トンネルでエアは俺にそう語った。



**


 「私たちはその呪われた運命にケリをつけたい。だけど、あなたのおじいさんを殺したネクローや、そのボスである時の魔王はまだ生きてる。星中のほとんどの人が石化された今、運命を変えるにはこの機を逃せないの。そのためにはあなたの力が必要。だから――」



**


 最初、俺はニュクスの身勝手さに協力を拒んだ。だが、闘いの中で引き下がれなくなっていったんだ。それは、自分の意志で決めたことだ。



**


 「ごめんね、朔くん。ちゃんと説明しなきゃいけないって思っていたのだけれど、なかなか言い出せなくて――。家族のことが心配でやってきた朔くんには、関係のない話だよね。巻き込んで、本当にごめんなさい」


「そんな、やめてください。もう乗りかかった船です。僕だって、負けっぱなしは嫌だし、ちゃんと一人で闘えるようになりたいから。それに、ニュクスを取り戻さなきゃ」



**


 そして――。なつみ。俺のかけがえのない友人。あいつの涙を、もう見たくないから。



**


「私は、私の家族のことがなにも分からなかった――今でも分からないことは多いです。でも、私たちの未来は、過去から始まっている、それだけは分かります! 今この瞬間、後悔しない生き方をしないと、いずれ悲劇が私たちを呑み込むことも!」


**


 俺は、エアに問いかける。


「なぁ、エア。俺たち、負けられないよな?」


「うん」


「もっともっと強く――もっともっと速く――なれるよな?」


俺の心の中で、エアが笑う。


 「今が限界なんて、誰も言ってないよ?」


「そう……だよな」


 瞬間、俺の周りを炎の嵐が包む。俺は無限に強さを追い求める。勝つために!


 「さらにパワーが上がっただと……? 若いっていうのは、そういうもんだったかい? 無尽蔵の力と可能性に、満ちていた――」


 今まで受けたダメージ……手痛いが、回復できないほどじゃない。俺は《希望》の《力》を使いながら、次のチャンスをうかがう。


 「英雄さん、光の《力》は危険だよ! 《絶望》の攻撃を受けやすくなる」


 《絶望》は《希望》を喰い荒らす、だったか。確かにそうかもしれない。だが――。


 「たとえそうだとしても、このダメージを放置はできない。それに、多少のリスクを負わずに勝てる相手じゃないさ」


「うん……そうだね」


「行くぞ!」


 瞬間移動で奴の眼前まで飛んだ。


「よう」


「性懲りもなく。お前の負けは決まっている」


「やってみろよ」


 俺の挑発に、草薙が顔を歪ませた。分かりやすい奴。


「があっ!」


 奴の足蹴りに、また降下する。大地に激突する前に、また瞬間移動。


「どうした? 俺は堕ちてないぞ」


「妖精に頼り切って勝ち誇りとは、無様だな!」


 また蹴られる。だが、同じだ。飛距離を確認する。順調だ。


「よう」


「このガキィ……!!」


 少し距離をとると、草薙は《絶望》の翼をはばたかせ、レーザービームを発射した。


「消えろ!」


 炎の嵐が、完全にレーザー受けきる。


「なに……」


「気功波はガードてきてしまうみたいだ。体術でやった方がいいんじゃないか?」


「生意気な口を、きくなぁ!!」


 奴の拳が直撃する。瞬間移動だ。よし、完全に使いこなせている。


 「後ろだ」


「き、貴様いつの間に……」


「やっと気が付いたか? 俺はだんだん速くなっているのさ。速さの限界点を超えて、な」


「さっきから俺の攻撃を受けていたのは、それを確認するためか」


「そうだ。さぁ、リハーサルはおしまいだ。やろうぜ」


 草薙の眼に血が宿る。奴も本気で来るだろう。ここが正念場だ。


「面白れぇ! 面白れぇぞ小僧! どちらが速さの頂点に立てるか、やろうじゃねえか! へぁっ!」


草薙の拳が俺に迫る。直撃する前に、奴の左胸に一撃を浴びせる。


「ごふぉおっ! ちっ……」


 深く入った。痛みに身をかがめた草薙は、今度は足を使ってくる。


「らぁっ!」


 瞬間移動で後ろへ。完全に見切っている。


「バーン・ストライク!!」


 目と鼻の先で撃つ気功波の威力は絶大だ。これで――。


「腐っても融合、か。見くびっていたよ。だが」


振り向いた奴の余裕は消えない。笑みを浮かべると、奴は黒い霧の中に消えた。闇の国全体が、霧に包まれている。


 「なんて《力》だ……」


「感心してる場合じゃないでしょ! 見えないから攻撃が……」


「ぐあっ、ぐっ、くっ!」


 連撃。重く早い一撃が俺たちを襲う。どこだ、どこにいる!


「とりあえず撃てば、その範囲だけは晴れるはずだ! やるぞ、エア!」


「う、うん!」


 その瞬間、草薙から制止の声が聞こえる。


「いいのか? 撃っても。お前の位置も少しいじってある。そっちの方向が、なつみと女のいる部屋かもしれないぞ」


「なに……!」


「自ら守りたいものを消し去る……。それも一興だ。だがそれでいいのか?」


 この方向に2人が……? ダメだ、《力》を探っても霧のせいで補足できない!


「騙されないで! 飛行位置から考えて、なつみたちが下りた下階よりは上にいるよ!」


 エア……。だが、これが罠だったら、俺は――。


 「意気込んだ割にはあっけない幕切れだな! 消えろオオオオオオオオオォォォォ!!」


 奴の気功波だ。だが瞬間移動で――。なにっ!? 


「か、身体が動かない……。な、なんだ、これは」


「かすかに植物の《力》を感じる。下半身をツルで縛られてるんだ!」


なんだと!? これじゃあかわしようがない! この一瞬でそこまで仕掛けるとは……!


「こんなところで……負けるわけには……くそおおおおおおっ!!」


絶叫が、むなしく響いた。


「クク、クハハハハハハ!! 小僧。お前に足りないものを教えてやる。経験だ。ガキの頭じゃ思いつかないような下衆なことも、大人は簡単にひらめく。そして文字通り力不足でもあったな! この国全体を巻き込んだ霧、そして一瞬で貴様を縛り上げる反応の早さ、どれをとっても貴様にはないものだ」


 奴の通告が、俺の心に突き刺さる。


 「お前は結局口だけなのさ! 絶対的に必要な戦闘のセンスが欠落している!」


「ぐっ……!」


確かに奴の言う通りだ。全力を尽くしても、俺は奴に届かなかったというのか。


その時、エアが優しく笑った。


 「しょうがないなぁ、世話が焼けるんだから」


「エア……どうするつもりだ」


「私が最大パワーでこの国の霧を晴らす。そうすれば視界は回復するでしょう?」


 エアが思いついた策。確かにそれは勝利のために必要なものだった。だが……。


「そんなことをしたら、お前は《力》を使い果たしてしまう。融合が解ける」


「そうだね、でもそれしか方法はない」


 エアの声は、毅然としていた。


「俺1人じゃパワー不足だ、なんて泣き言許してくれないよな」


「許すわけないでしょ。ここからは本当に英雄さんだけの闘い。――必ず勝って」


「ああ……エア、頼む」


「うん」


 周囲の嵐が激しく吹きすさんだ。もっと、もっと大きく!


嵐が、草薙の気功波をはねのける。よし、次だ。


「なんだ……? なにをするつもりだ」


「はあああああああああ!! ヴォルカニック・テンペスト!!」


 俺の全身から、《力》のすべてが放出される。暴風が俺の聴力すら奪う。だが徐々に、霧は晴れていった。


「無理やり活路を見出すというのか」


「大人が思いつかない方法さ! もっとだ、もっと!!」


「なんて貪欲な奴だ……霧が」


 そうしてついに、奴の霧は完全に払われた。それと同時に、俺の身体が白く輝く。俺たちの共有意識の中で、エアが幼児化していく。


「どう? わたしのちから、すごいでしょ?」


「ああ、ありがとう」


「負けるなんて――許さない、でち!」


「ああ、分かってる」


 視界が戻った。俺の向いていた方向に、窓に顔をくっつける栗原の顔があった。あのまま撃っていたら、俺は――。


俺を見つけ、にっこりと笑う栗原。なつみはどこだ? 奥で休んでいるのだろうか。


 奴に向き直る。隣には、雲に浮いた赤髪の幼女。


「お前には驚かされるばかりだよ。だが、今ので随分とパワーが落ちたようだな。それだけじゃない、もう瞬間移動を超えるスピードは出せない」


「その通りだ」


「負けを認めるのか?」


「いや……」


 奴も同じく《力》を消耗している。これが、最後の賭け。


「エア、離れてろ」


「はいでち!」


 右手を伸ばし、標準を合わせる。あの翼を、打ち抜く。


「またお得意のあの技か? 馬鹿め、俺が避ける可能性を考えないのか」


「バーン……」


 草薙の声には落胆が入り混じっていた。


「やはり子供というのは単純な生き物だ。失望したぞ」


「お前は避けない」


 俺の右手に、最後の《力》が充填されていく。


「なぜだ」


「お前は噓つきだからさ。その好戦的な眼差しは、俺との真っ向勝負を望んでいる」


「それはお前がそう思いたいだけさ」


 奴が身体を震わせ、構えた。これは反撃の準備か、それとも回避か。


「他にも嘘はある。さっきお前はなつみを殺しかけたが、はなから殺す気なんてなかったんだろ?」


「口の減らない奴だ」


「俺が到着する前になつみを殺すことなど容易だった。だけどお前はそうしなかった。なぜなら――」


 奴の眼は、俺を絶対に離すまいと捉えていた。


 「お前はなつみを迎えに来たからだ。新しく魔王がつくる世界へ、な」


 右手が熱い。限界を超えて《力》が溜まっている。これ以上は身体がもたないもしれない。だが、まだ足りなかった。


「だからさっき栗原を見て怒ったんだ。ここにきてなつみに友達ができたんじゃないかと焦った」


「……何の話かさっぱりだ」


「……俺たちは進化している。ずっと子供のままじゃないんだ。それは悲しいことかもしれないけど――俺たちは、どんなに辛いことがあっても、この世界で生きる!」


 溜まった。


「くらえええええええ!! 朝焼けの祝福ヘリオス・バーン・ストライク!!」


光を宿した一撃が、草薙へと一直線に向かう。さあ、どうする!


「くだらんガキだ……大人として、罰を与えねばならん。自滅などという生ぬるい手ではなく、俺による――死という形でなァ!!」


 奴が両翼を開き、目玉を開放する。レーザーで真っ向勝負を仕掛けてきた。


激しい光を放ちながら、俺と奴のすべてがぶつかった。


 「やっぱりな……お前も勝負を捨てきれないのさ」


「どうした神寺宮! さっきみたいに後ろへ逃げないのか!」


「あいにくその力もないんでな……あああああああああ!!」


 俺の気功波が奴のものを押していく。勝てる!


「甘い! 俺にはまだ両手がある! はぁっ!」


 奴の両手から飛び出した気功波が、レーザーと1つになる。ぐん。と大きくなった気功波が、急速に俺を押していく。


「ぐ、ぐぐ……まだだ……まだだあああああああああ!!」


「誤算だったな! 《希望》を込めた攻撃は、《絶望》には弱い!!」


「そうかもしれない。だが、……お前が《絶望》を糧にするなら、俺の糧は《希望》なんだ!」


 そうさ。この世界に来るまでは何の意味も持たなかった言葉。それが今、俺に最後の力を与えてくれる!



**


 「これは、君がくれた《力》だ」



**


 ニュクスの言葉を思い出す。俺も、この世界で、みんなからたくさんの力をもらった。


ありがとう、みんな。


「俺は、負けられない!! うおおおおおおおおお!!」


俺の気功波が、白く輝き始めた。奴の闇を押しのけていく。


「な、なに……急に《力》が……ま、まさか……こんな、こんな事があああああああああ!!」


 光が夜空の星を目指すように、《希望》が草薙をはるか上空まで吹き飛ばしていった。


「はあ、はあ、ぐっ」


「英雄しゃん!?」


《力》を使い果たした俺は、飛行力を失ってしまった。


「英雄しゃん、英雄しゃん!!」


 遠くで、エアの叫び声が聞こえた。エア、約束は守ったぞ。


 勝ったんだ……!


 大地に激突した瞬間、俺の意識は闇に消えた。



**


 「すごい……神山君、あのおじさんを吹き飛ばしたよ!」


「朔……やったのか……!?」


「あ! でも落ちてる落ちてる! やばいよ! ……あ」


「なんだって……朔、朔! ……ぐっ」


「だめだよ新垣さん! まだ動ける状態じゃ……」


「行かなきゃ……行かなきゃいけないんだ」


読んでいただきありがとうございました。力を使い果たした朔とエア! すべてが収束する大地で、ついに決着が着きます!

次回、第六章最終話「結末」。お楽しみに!

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