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僕はヒーロー  作者: 緋色の石碑
第六章 血縁という名の呪縛
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第十一話 決意

「なつみ、入るぞ」


「嫌っ! 入ってこないで!!」


「なつみ……どうして学校を休んでいる。先生もお母さんも心配してる」


「友達、できないんだもん……」



――アル忘レサラレタキヲク

 「なつみを離せ」


 俺がそう口にした時、なつみは首を締め上げられ、瀕死の状態だった。


「それで? 今更何しに来た」


草薙が、下卑た笑いを浮かべながら尋ねた。奴から目をそらさずに、答える。


 「あんたを、倒しに来た」


恐怖心がないわけじゃなかった。勝てる確証も、なかった。


 ただ、決意だけが、固まっていた。


「倒すぅ? 急に意気込むじゃねぇか、小僧」


草薙はそう言いながら、乱暴になつみを投げた。冷たい空気にさらされ極限まで《力》を使用したなつみが、いたたまれない。


「なつみっ!」


「ケホ、ケホ……平気だ、朔」


声がかすれている。当然だ。すかさず栗原が割って入った。


「新垣さんっ!」


「栗原さん――」


「ああ、新垣さんっ!」


 言うが早いか、栗原はなつみに抱き着いた。声が震えている。この子もまた、極限の中頑張った1人だ。


 「私、私――知らなかった、新垣さんがこんなに、命がけで……ボロボロになって闘っているなんて」


「巻き込んで、ごめんなさい」


「何言ってるの!? 私が勝手についてきたの! 久しぶりに会えたから……」


 栗原は、静かに泣いていた。なつみは栗原に任せておいていいだろう。


「とにかく、休も? 下に行けば安全だよ」


「でも、私は見届けなきゃいけない。2人は私のために助けに来てくれた」


「……栗原の言う通りだ。一旦下に行ってくれ」


 闇の城の下階には、今は使われていない小部屋がいくつかあった。


「でも、朔……!」


「いいんだ、なつみは充分頑張った」


 数秒間見つめ合った後、なつみが静かにうなずいた。


「わかった。頼んだよ、朔」


「さあさ、そうと決まれば下に行こう!」


 栗原がなつみの肩を抱いたその瞬間、草薙が重い口を開いた。


「……なんだ、この茶番は?」


「茶番?」


「無能力者の女、それに付き従う娘……あれは、なんだ? まさか、『友達』とでもいうつもりか?」


 口の端が震えている。激高の合図だ。だが、俺にはその理由がわからなかった。


 「まだそこまでの関係じゃない……はずだ」


「ゆ、許せん……今更友人など……俺は、俺たちは、あの子が生きていけないというから、世界を創りなおすことにしたというのに!!」


 歩き始めていたなつみたちが振り返った。


「なんの、ことだ」


「なつみ、栗原、早く行け」


「ああ、憶えていないだろうな! お前の記憶は小学5年生ごろから始まっているはずだ!」


 まずい。


「当たり前の話だ、何故なら――」


 お前の記憶を、消したからだ!


 「行け、栗原!!」


草薙の言葉をかき消すように、大声を張り上げた。栗原がどこまで理解したのかは分からないが、なつみを連れて黙って下に降りて行った。


「無能が……逃がすか」


闇の気弾が栗原の背中を襲う。風の気弾で相殺した。


「お前の相手はこの俺だ」


「ハッ……クク、ククク、ヒャーハッハッハ!! どうやら本当にヒーロー気取りらしいな! 神寺宮、すべては貴様らのせいだというのに!!」


 なつみと栗原は下へ行った。もう、他には誰もいない。


 強風が、俺たちを隔てるようにして吹いていた。


 「……貴様、魔王の正体に気づいているのだろう?」


「今の俺は、エアと融合している。エアの認識は俺の認識だ」


「ああ……秋子さん、《悪魔》や妖精に自分の正体を明かしたのか」


「秋子さん?」


 草薙のその呼び方には、親愛の情がこもっていた。世界の転覆を目論む人間とは思えない、あたたかな感情。


「彼女の名だ。俺がつけた」


「……なぜ、なつみの記憶を? お前たちはなぜこんなことを考えたんだ」


面倒くさそうに頭を掻く草薙。その眼は凶暴性を隠せないでいる。


「お前も質問が多いな。俺に勝ったら教えてやる。《力》の強弱がこの世界のルールだ」


 草薙が1歩詰め寄った。やるしかない。


 「俺を倒しに来たんだろう? やろうぜ、神寺宮」


 手招きして挑発された。いいだろう、乗ってやる。


「ああ」


「やろう、英雄さんっ!」


 エアの声がこだました。ああ、そうだな。


 もう、俺の心は揺らいだりしない。


 「はあああああああああ!!」


奴に急接近しても、なんら行動を起こすそぶりを見せない。様子見のつもりか? なら一瞬でカタをつける!


「だあっ!」


 みぞおちに逆巻く炎の一撃をくらわせたが、効いている様子はない。思った以上にタフみたいだ。


「うおおおおおおお!!」


 連続ジャブで奴を頂上の端まで追いつめる。いくら能力者と言えど、雲より高いこの頂上から落ちれば、ひとたまりもないはずだ。


「はあっ!」


俺の一撃によって、奴が宙に浮いた。その表情は満面の笑みだ。不気味だった。そして、奴が単に《力》を抑えているだけだったことに気づく。


 「図に乗るなよ、神寺宮……俺がこの頂から、堕ちるわけねえだろうが!!」


 急速で急激な《力》の逆噴射。それは奴を宙にとどまらせただけではなく、肩の下に両翼を生み出した。


 「黒い、羽根――!」


その姿は、ニュクスを連想させたが、その紋様は人間の苦悶の表情のようだった。


「あの翼……あそこから膨大な闇のエネルギーを感じる」


「エア――ニュクスのものと比べてどうだ」


「悔しいけど、奴の方が断然上だよ……こんな能力者がいたなんて」


 素直に驚愕するしかなかった。恐怖心が増大したと言ってもいいかもしれない。奴の《力》は、俺と互角かそれ以上だった。


 「さぁ、これで空中戦も可能になった! 貴様も飛べるんだろう? 来いよ、小僧!」


大声を張り上げる草薙。その少しじゃがれた声が、空虚な城に響いた。


「最初からそのつもりだ」


自分の声が震えていた。どんなに《力》を得ても、恐怖は影のように俺のあとをつけてくる。


「大丈夫、英雄さんはまだ飛べるよ」


 エアが《力》を強めた。俺の周りを、穏やかな緑の風が包んだ。


「もっともっと、高みを目指そうっ!」


「ああ」


俺も炎をたぎらせた。炎の渦が俺の周囲を守護する。


「いくぞ!」


 俺は、俺たちは草薙の元へと飛んだ。勝ってみせる、絶対に!


「うおおおおおおおおお!!」


炎と風の《力》を宿した拳は、草薙の頬に直撃した。草薙の重い身体が、いとも簡単に吹き飛んでいく。大丈夫、手応えはある!


「ぐううっ! さっきよりパワーが上がってやがる。小僧、今まで《力》を抑えていたな」


草薙はひるみもせず、嬉しそうに笑った。まだまだ奴には余裕がありそうだ。


「いいだろう、俺も全身全霊で殺してやる! へあっ!」


奴が力を込めると、複雑な紋様の両翼から数十、いや数百の小さな目玉が大量に出現した。


 「な、なにあれ! 気持ち悪い!」


「あれは――まずい!!」


「くらいな!」


一斉に発射されるレーザービーム。急いで炎の渦でガードするが、それでも数に圧倒されて貫通した。


「ぐああああ!!」


先に楼閣の頂上から堕ちたのは俺の方だった。そのまま闇の大地に身体を打ち付ける。


「はぁ、はぁ……ぐっ」


「大丈夫、英雄さん!」


 大丈夫、直撃は免れた。まだ、闘える。


遠くで豆粒のようになった草薙。だがその声はよく通る。


「ハッハッハ! 起き上がるのも必死かい? どうやら勝負あったようだな!」


「まだ、だ……」


 ふらつきながらも立ち上がり、右手を伸ばす。暗い空に、自分の傷ついた白い腕が存在感を放っていた。


左手首で軌道を固定。かなりの距離があるが、届くはずだ。


「エア、まだいけるか」


「もちろん、どこまでもついていくよ!」


 エアが笑っている。そうだよな、ここで終われない。


 運命に、ケリをつけるまで。


 俺は、心の限り叫んだ。


 「バーン・ストライク!」


読んでいただきありがとうございました。次回までに決着がつきそうにないのでこの章は十三話構成にします!

次回、第十二話「欠落」。お楽しみに!!

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