第四話 傲慢
「――俺、生きてる? 奴の攻撃を受けて、死んだはずじゃァ――」
「私が助けてあげたのよ、フェイク」
「魔王様! 何というお慈悲を――ありがとうございます!」
「……あなたたちが《感情》を武器にするというなら、無感情な《感情》――こんなのどうかしら?」
「ま、魔王様……な、何を――うっ」
――ある支配者の会話
「……『神寺宮朔』の能力発動を確認。優先ターゲットをサーチしています……『神寺宮朔』、危険度『中』。排除を実行します」
誰もいない大教室に、システムの音声が響いた。かつての面影のすべてを失った、フェイクがバズーカを俺に向けた。
危険なのはどっちだよ、と胸の中で毒づいておいて、俺も奴に倣ってあの構えをとる。
「バーン……」
「発射します」
「速いっ!」
さっきなつみに向けて撃ったのはブラフかっ!
直線状の奴の攻撃を避けようと、右に跳んだ時、何かが焦げる音がした。
「え?」
俺の両手からほとばしる炎。その熱気にやられた、木製の机だった。
そうだ、ここはハーノタシア星じゃない。燃えるものや壊れやすいものが腐るほどある。なつみが人払いをしてくれたとはいえ、構内で大火災でも起きたら留年どころの話じゃない。
でも――。
「第2砲も命中せず。さらなる精度向上を要求します」
この無感情な殺戮兵器、こいつを前にしてどう闘えばいい? ちきしょう、地球で闘ったことなんてないから、勝手が――。
いや、待てよ? 前にも一度、地球で闘ったことがあった!
**
「き、貴様っ!」
「上空なら、問題ないはずだ」
「なにっ」
「うおりゃーっ!」
**
そうだ、空なら! 俺は空への脱出口を探した。幸い、フェイクが侵入して来た時に開けた穴がある。こいつは機械だが、俺を追ってやって来るはずだ。いける!
「ついて来い、フェイク!」
まるで実行を促すように、スピーカーからチャイムが鳴った。俺は大穴に向かって走った。そして、空中に飛び出した瞬間に、炎噴射させて上空に飛び上がるつもりだった。だが――。
外に飛び出した俺を待っていたのは、たくさんの学生たちだった。
「え?」
ここ、1階だったのか! 授業を終え、外に出てきた学生たちと鉢合わせする。その中には、さっきまであの講義室にいて、外からこちらをうかがっていた学生もいた。
ごめんなつみ、せっかくお前が人払いしてくれたのに――!
俺は学生の視線から逃げるように、上空へと飛んだ。消えゆく声で、ある女子学生が
俺の名を呼んだ。
「神山、くん――?」
誰だ――?
「神寺宮朔の逃走を確認。発射します」
なに、追ってこない? 地上からそのまま撃ってくるつもりか!
雲を切り裂く、光線が迫る音。高い高い上空の俺を捉えた、3発目のバズーカ砲。
「バーン――!」
撃ち返そうとした俺を、理性が引き止める。地上には学生が――! 気功波は、撃てない!
「ぐあああああああああっ!!」
全身で奴の攻撃を受けてしまった。重力に従い。そのまま地表に落下する。大きな爆発音が響き、学生の悲鳴も聞こえた。
「きゃああ!」
「おいおい、これ大丈夫なのか」
「ぐ、――くっ」
大丈夫、まだ生きてる。次くらったらヤバそうだが、一撃くらいは耐えられる。
**
「冷静になれ。そうすれば、道は開ける」
**
銀太が教えてくれたことを反芻する。そうだ、落ち着け。気功波が打てないのは単なる位置の問題だ。相手が自分より下方にいなければ、いくらだって勝機はある。
その時、突然聞こえた女の声が俺の思考の邪魔をした。
「あ、あの、神山くん! だ、大丈夫?」
さっき俺の名を呼んだ女だ。人見知りによくあることかもしれないが、相手は覚えていてもこっちは誰だかわからない。
「ああ、大丈夫だ。これも映画の演出だから」
「演出……? ここに開いた穴の修繕費は部費に入ってるの?」
そんなことを話してる場合じゃない。地上から奴の姿が消えている。この大学ごと、空から消し去ってしまうつもりなのだろう、雲の隙間から俺を睨む奴を見つけた。
「……私、なつみさんを探してるんだ。さっき一緒にいたよね? すっごく久しぶりだから、話したくて――」
遠い遠い空から、奴のバスーカに光のエネルギーが溜まっていくのが見える。
「お前、名前は」
「え? ……エミ。栗原エミだよ」
「覚えとく」
そう言い残し、俺は上空へと飛んだ。人の名前と顔、覚えるの苦手なんだよな。名前は栗原、頭は茶髪で、そう、栗みたいな。大丈夫、覚えた。
「充填率、70……80……90%……」
「させるかよォ!」
奴の左側から、バズーカめがけて飛び蹴りをした。おかげで充填は止まったが、誤射していたかと思うと賢明な判断ではなかっただろう。フェイクは、相変わらず無感情な声で反応する。
「神寺宮朔の乱入を確認。被ダメージ、0.34%。神寺宮朔の被ダメージ、75%。勝率、98%です」
「勝負は確率なんかじゃ分からねえさ……ここから本領発揮だ!」
なつみが大学を出てから、もうかなりの時間がたっているはずだ。早くケリをつけねえと……。この位置からなら、撃てる!
俺が構えた瞬間、突然ノイズの入った女の声が聞こえた。
「……本当に好きなのね、その技」
「お前は……時の魔王!」
そう言えば、さっきフェイクがデータを転送するとか言ってたな。戦闘を見られていたというわけか。
「さっきのフェイクの一撃で勝負あったと思ったんだけれど……過去へ行っただけあって、少しは強くなっているのね。《影》が無くてもここまでやるなんて」
「ヘメラのことか?」
魔王は、俺の質問を無視して笑う。
「……フフ。時間旅行はどうだった? 忌々しい過去の英雄に、大切なことを教えてもらって強くなれたの?」
「……ああ」
「……その眼。気に入らないわ。自分の暴力性に気づこうともしないで、自分は英雄だと自負している生意気な眼」
「……俺は、そんなのじゃない」
「……例えば、自分の大学で闘うことで、あなたは自分の所属する場所を壊し、他の学生たちを危険にさらした。一歩間違えれば、死んでいた人もいたかもしれないわ」
「何が言いたい?」
時の魔王は俺を挑発しているのだろうか? それにしては、声に抑揚がない。
「あなただって単なる破壊者ということよ。私たちとあなたたちに、差異なんてない」
「……」
正直、否定はできなかった。
「なのにあなたたちは、血筋や目的、過去の英雄とのつながりから、まるで自分たちが正義の代行者で間違いないと言わんばかりに私の組織をつぶしてきた。それっておかしいと思わない?」
時間がない。終わらせよう。
「神寺宮朔のエネルギー充填率、70%、80%、90%……100、120……危険度『高』。退避を、退避をサジェストします」
「ほら、そうやって野蛮な方法で正義を騙る」
「確かに、俺たちの正義は間違っているのかもしれない。だが」
「思考回路に問題が発生しました、思考回路に問題g――」
俺は、バーン・ストライクを放った。それは上空の雲を切り裂きながら、フェイクのボディを粉々にした。
「お前たちは、紛れもない『悪』だ」
数秒の静寂の後、黒煙の中から魔王とつながっている通信機だけが、白いバリアに守られて姿を現した。
「それ、フェイクが壊れていても使えるのか」
「……『悪』か。むかしむかしも、そう言われた記憶があるわ。……皮肉なものね。他人の記憶は消せても、自分の記憶を消すことはできない」
「時の魔王――お前はいったい、何者なんだ?」
「――あなたたちの傲慢さが神の望んだ正解なのか否か、見定めることにするわ」
傲慢、ね。
「魔王、俺は必ず、お前のところに辿り着く」
「……お互い忌み嫌っているというのに――まぁ、あなたがこのまま突き進むというなら、いずれまた出会うでしょう。それじゃ――」
それだけ言い残すと、通信機は自壊し、小さな部品が大空に舞った。その光景は、どこか神々しくもあった。
「……確かに、魔王の言うとおりだ」
俺は地表を見下ろした。俺が落下して開けた大穴、フェイクが構内に侵入した時に開けた大穴。
それらの穴埋めの方法を、俺は知らない。
だが、進むしかないことも事実だ。
「なつみと、合流しよう」
俺は自分の声がくたびれているのを感じながら、明里さんの家を目指し炎を噴射した。
ああ、そうそう――なつみを探してた子がいたな……あの、栗みたいな頭の。栗原――誰だっけ?
読んでいただきありがとうございました。展開を思い悩み投稿が遅れましたが、魔王との会話でお茶を濁すことにしました。
次回、第五話「ルサンチマン」。お楽しみに!




