表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕はヒーロー  作者: 緋色の石碑
第四章 未来に進むために、過去と向き合う
68/120

第十一話 親子

「トウトーラ歴 85

 炸亜が 息子が産まれたと 報告しにやってきた

 同時に ダグラに孫ができたと 彼女は言ったが 両親の所在は分からなかった」

 「なぁなつみ、この空間……」


「ああ。さっきまで一直線だったのに、あの女が現れてから分岐がいくつもできている。おまけに、方向も分からない」


「じゃあ、過去に向かっている可能性も?」


「あるだろうな。完全に攪乱(かくらん)された」


「とりあえず進もう。あっちに光が見える。きっと出口だ、離れるなよ、なつみ」


「あ、ああ……」



**


 「お、お前……咲夜に何をした!」


私に向かって叫ぶ声。本当に懐かしい、懐かしい声。


 私、あなたともっと仲良くなりたかったな。でもそれは叶わなかった。「この子」は、それができたんだろうけど。


 懐かしい、羨ましい、憎らしい。


 「『咲夜に何をした?』面白い訊き方だね、先輩。だって」


「私も、咲夜だよ?」


「お前は、一体……」


顔面蒼白になる銀太先輩。どうしてこうなっちゃったのかなぁ。私は、英雄だったはずなのに。


 「さぁね。とにかく、『この子』の肉体は私が頂いたわ。今気を失っている『この子』は、魂はあっても憑代(よりしろ)がないんじゃ動かない。いわば時が止まった、って感じかな」


「時が止まった、だと……お前、まさか本当に魔王側についたのか! この世界は取り返しがつかないって、それ本気で言ってるのか?」


「ふふ」


 ああ、冷静なふりをして熱い心を持つ男の子。私と彼が同い年だって気が付いたのは、私が死んでからだった。先輩呼びが定着しているけれど、「この子」はそれに気が付いているのかな。


「そうだよ」


 先輩――いや、銀太君を見つめて私は言った。彼の澄んだ瞳に映る私の瞳は、肉体を得ても冷たい、


「どうしてだ! お前は英雄の血を引くいっぱしの能力者じゃないか! どうして――ああ、もうわけがわからん!」


「ま、『この子』の肉体を返してほしければ、私を倒すことだね。銀太君じゃ、無理だろうけど。それとも」


 それとも、私を愛してくれますか?


「それとも、なんだよ」


「いや、何でもない。新垣先輩みたいな馬鹿なこと考えてただけ」


「新垣先輩、だと? お前はなつみのことをなつみ先輩と呼んでたはずだ」


 素直に驚いた。そうなんだ、仲良くなってるじゃん、私たち。死んでさえなければ、私たちにそんな未来があったんだね。


「ねぇ、アイス・プリンセスは魔王の幹部だったはずなのに、なんでそっちで仲良くしてるのかな」


「え?」


 変な笑いがこみあげてくる。この人は、馬鹿だ。馬鹿で真面目で、「あの人」に似てるから、だから仲良くなれると思っていた。


「『この子』、返すよ。ぜひ私を追いかけてきて」


私は抜け殻を投げた。銀太先輩がしっかりと受け止めた。


「お前、何が目的だ?」


「目的なんて、そんな大それたことはないよ。ただの遊び」


「遊び?」


「魔王様だって、あなたたちのこと、遊び程度にしか思ってないんだから。その程度の存在だよ。せいぜいあがけば?」


「……」


銀太先輩は答えない。安い挑発には乗らないところが、「あの人」とは違う。


私は、先輩に背を向け瞬間移動で消えた。「あの子」は、瞬間移動なんかできないはずだ。


 絆を代償に、命を代償に得た《力》。ちっとも嬉しくなんかない。でもその《感情》こそが、私の原動力になる。


 懐かしい、羨ましい、憎らしい。


 余計なことを考えないように、無心でリズムを刻み続けた。



**


 「お、戻ってたのか」


「クロウバーン、お留守番ご苦労様」


そっけなく答え、そばにあった自作の氷の椅子に座る。冷たい。そう感じるのは、私が肉体を得たからだ。


「うまく身体を奪えたみたいだな。顔色もいいし、足もある。お、お前結構かわいかったんじゃん」


「黙って」


「へいへい。にしても、やべえぜこりゃ」


「やばいって、何が?」


「俺、スペイダーとディアナがあの女を石にした後もこっそり隠れて見てたんだけどよ、石像になったあの女、誰かに連れ去られてたぜ」


「誰か? 誰かって、誰?」


「んなこと俺に訊くなよ。にしても、どうだい? 自分の母親のことが気になるかい?」


 クロウバーンは、無神経に傷をえぐる。リズムを刻め。余計な感情を差し挟むな。


 懐かしい、羨ましい、憎らしい。


 そう、それでいい。


 「……いいえ。誰が石像を持ち去ろうと無駄なはずよ。この星には私たちが、地球には彼らがいる」



**


 私は、気が付いていた。


 「おばさん」は、未来が変わるから深入りはするなと言っていたけれど、私の登場、チームの分散、おばあさんの石化――すべてが、「私のいた世界の過去」とは異なっている。


 つまり、もうすでに未来の改変は止められない。英雄と魔王、どっちが勝つのかすら予想がつかない。当たり前のように存在している私が、ある瞬間にはふっと、消えてしまうかもしれなかった。


 でも、変わってしまったものは、仕方がない。私は、今できることをやるだけ!



**


 チャイムを押した。真昼間のひととき。今日はめずらしく暖かい。太陽が、アスファルトを照らしている。


 「はーい」


軽快な声。あのとき次元のはざまで聞いた、切羽詰まった声と一緒だ。


「こんにちは、橋本明里さんですね? お届け物をしにまいりました」


「宅配ですか? えーっと、何も頼んでませんけど」


困惑する明里さん。そりゃそうだろうな。


「これなんですけど」


「きゃああああああああああああああああああ!!」


 私が石像を指さすと、彼女は卒倒した。


 「あの、とりあえず上がってもいいですか? 上がりますよ、上がりますからねー」



**


 「落ち着きましたか? あの、突然押しかけてなんですけど、私はここに長居できないんです。あなたに頼みたいことは、神寺宮炸亜さんの身体を、この部屋に安置すること。ヘメラさんの《ポーター》なら、事情はすべて分かっているでしょう?」


「ええ、でも、あなたのことは聞いていないわ。何者?」


「名は明かせません。でも、信じてください。私はあなた方の味方です」


「急に石化した炸亜さんを連れてきた人を、信用できないわ。あなたがやったのではないと、証明できる人はいる?」


 ぐぐ。結構頭が切れるなこの人。えーと、証明、証明……できるわけないじゃん!


 その時、部屋の窓から、黒い砲弾が撃ち込まれているのが見えた。


 「伏せて!」


「え? きゃあ!!」


 飛び散る窓ガラス。バリアを張るのが一瞬遅れていたら、2人ともお陀仏だった。


「な、なに……!?」


 怯える明里さん。私の目の前にいるのは、黒いもやに包まれた、人間?


「あんた、何者」


「それはこちらのセリフです。あなたは何者ですか?」


「通りすがりの――美少女」


 こんな時のためにカッコイイ二つ名を用意しとけばよかった。


「それは結構。あなた方が何をしようと、ハーノタシア星とこの星の運命は決まっています。どちらの星も、魔王様によって時を止められ、破壊され、創り変えられる」


「そうは、させないわ」


 私は《力》を込め、両手からツルを出してもや男の胸を貫いた。


「ぐはっ……植物系能力者……」


 あっけなくもや男は消えた。と思ったら、この家を囲むようにして現れた、無数の邪気が私の感覚を奪う。


「なっ! 明里さんは家にいて! 絶対出ちゃダメ、いい?」


「は、はい!」


「あ、あと言い忘れたけど、石化した人たちは魔王を倒せば元に戻る! だから、諦めないで!」


 私は急いで玄関のドアを開けた。一般人の目に触れたら、被害が拡大する。


「諦めないで、ですか……諦めも肝心ですよ、おじょうさん」


玄関先の地面に存在する、ブヨブヨとしたヘドロの塊みたいなものがしゃべった。それは一瞬で私の背丈を追い越し、もや男へと戻る。1人だけじゃない。この先の道にも、隣の家にも。何十、何百という数のもや男が、私を取り囲んだ。


「こんな過去じゃ、なかった――」


「その通り。刻一刻と未来は変わり続けるのです、我々の望むようにね。あなた方もよく頑張りましたが、私たちには勝てない」


「くっ――」


 この数――1人じゃ無理だ。


 その時、次元の扉が開いた。「帰ってこい」って? この世界に、こんなやばいものを置き去りにして?


 ごめんおばさん、私、まだ帰れないよ。


「まさか、立ち向かうというのですか? この数の私たちに」


「だって私は――」


 その時、2つの《力》の出現が、私の心に光をさした。


「これは、この《力》は――!」


 神寺宮朔と、新垣なつみ!



**


 「見つけたのか」


 ニュクスが俺に問いかけた、聞こえないふりをする。


「見つけたんだろう? ずっと諦めていた人を。迎えに行ったらどうだ」


「彼らが過去へ行ってから、1年だ。ハクシキーノが言っていた時間稼ぎももう限界まで来ている。ここで俺が離れるわけにはいかない」


「私のことなら心配するな。エアとアイス・プリンセスで、何とかしてみせる」


「だが……」


 俺の考えを見越したかのように、ニュクスは笑う。


「分かっているさ。このタイミングで、閉じていた時間が動き出した。普通に考えれば、彼はもう――闇に堕ちている」


「……」


「向き合うのが怖いか? ダグラ。自分の、息子に」


「炸亜が帰ってこない。やられたのかもしれない」


「そうかもな。だがそれとこれとは別の話だ。まさか、怖気づいたなんて言うなよ? お前は、炸亜の――そして、あの子の父親だ」


「……行ってくる。決着をつけたら、すぐに帰ってくる」


「ああ」


 俺は飛んだ。息子も、俺をめがけて飛んでいる。



**


 「よう、親父。何年ぶりかな? 40年以上も会っていないはずだ」


「……45年だ。いや、46年になる」


「そんなにか! どうりで俺もおっさんになるわけだな」


「……生きていたのか。今までどこで、何をしていた?」


「ククク、それは親父が一番よく知ってるんじゃないのか? あの星で、家族と暮らしていたよ」


「……」


 とがった黒髪に、褐色の肌。こいつは間違いなく、俺の息子だ。


 「なぁ、親父」


 なつみは、元気かい?


読んでいただきありがとうございました。新しい話書くの楽しいですね。

怒涛の展開、作者もどの順番でまとめようか思案中です。

次回、第十二話、「おしろいばな」。お楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ