第六話 戦闘
「くそっ、ネクロー様に報告だ!」
「あれ? おい、ネクロー様がいないぞ!!」
僕に倒された黒焦げ黒タイツと、エアに倒された首痛黒タイツは、
「くそう! 覚えてやがれ!」
と、捨てゼリフを吐いて逃げて行った。全身の力が抜けると。炎が消えた。
タイミングを見計らったかのように、ニュクスが帰ってきた。
「追わなくていいんですか?」
僕が尋ねると、ニュクスは少し考えてから、
「いや、いいだろう。あいつらは大した《力》を持っていないし、また現れたとしても今度は倒せるさ」
と言った。
「それにしても、よく頑張ったな。エア」
ニュクスはエアの頭をなでると、やさしく笑った。
「英雄さんのおかげだよ」
エアは少しはにかみながら、僕のほうを向いて言った。
僕が英雄という事実――少なくとも英雄の血を引いているという事実から逃れることは無理そうだった。僕は、素直にその事実を認めなければいけないのだろう。そして、僕のおじいさんのこと、僕の父親と妹のことを尋ねなければならない。
「あの、聞きたいことがあります」
ニュクスは数秒間僕の瞳を見つめ、笑った。
「君の質問にはなんでも答えよう。わかる範囲でね。しかしその前に、私たちのことを先に説明させてほしい」
「わかりました」
ニュクスは僕の質問になんでも答えると言っている。後から何とでも聞き出せるだろう。
「何から語り始めればいいのか、難しいね――そうだね、奴らのことから話はじめようか。君とエアが倒した黒タイツの男、奴らの属する組織は『影の封印者』というところなんだ」
「奴らの目的は何なんです?」
「こちらもまだ調査が必要な段階で、確定的なことは言えないのだが、おそらく奴ら――そして奴らを統括している時の魔王の目的は、神寺宮炸人の同胞やその後継者を抹殺して、世界を自分の手中に収めることだろう」
「僕のおじいさんも、時の魔王と戦ったんですか」
「いや」
ニュクスは、少し伏し目がちになったかと思うと、黙ったまま何も話さなくなってしまった。
「……?」
「あ、あのね! 実を言うと、時の魔王と炸人さんは戦ってはいないの。おそらく、炸人さんは時の魔王と出会ってすらいないと思うわ。彼の幹部――ネクローに殺されてしまったから」
ニュクスの代わりに、ヘメラさんが早口で説明した。
「ネクロー……」
ネクロー。それが僕のおじいさんの仇の名前。
「時の魔王は、直接自分では手を下さずに、自分の手下たちに仕事を任せているんだ。神寺宮炸人の親友だった光の能力者と、植物の能力者も死んでしまっている」
気を取り直したのか、ニュクスが再び話し始めた。
おじいさんの同胞たちが、死んでいる――? 僕は日本で引きこもっているというのに、僕の家族や同胞は命を落としているというのか。
「そんなの、許せない!」
俺の両手に再び炎が灯る。《情熱》という感情が、反応したらしい。
「君が気にすることじゃないんだ。それは君の両親が望んだことでもある」
両親? そうだ! 母さんや父さんはどうなっている!?
「あの、俺の家族は、どうなっている」
「安心してくれ。もちろん生きている。いずれ再会できるだろう」
ニュクスは落ち着いた様子で言った。そして、僕の心情をはばかるように、次の言葉を探した。
「あとのことは、私たちに任せるといい――あとすこしだけ、お使いを頼みたい状態ではあるが、戦闘面に関して、君がしなければならないことはもうない」
「闘わなくていい、と?」
「そうだ。元々君を呼んだ目的は、私の復活のためだからね。気分が高まって、下っ端の処理を頼もうとしてしまったが、そのせいで君を危険な目にあわせてしまった。本当にすまない」
そう言うと、ニュクスはゆっくりと頭を下げた。成長したエアが意外にも礼儀正しかったのは、この親の血を引いているからかもしれない。
そう言えば――エアの父親、ニュクスの旦那さんってどんな人だろう?
「今私がこうしてここに蘇っている時点で、君の任務は一応終了している。あとは日本に戻り、少し仲間を集めてもらえれば問題はない」
「仲間――? 戦う仲間か、『影の封印者』と?」
「そうだ、君の連れてきた仲間と私たちで、チームを組んで戦うことになるだろう。君は今まで通り、大学生をすればいい」
勝手に助けを求められて、異世界に連れてこられて――自分が復活したら、あとは用なしということか。 あまりに勝手すぎないか、この《悪魔》は。
「なにか不服そうだね」
「俺も、闘う」
俺は、きっぱりと言った。しかし、ニュクスは表情一つ変えずに、冷たく続けた。
「そう言うだろうと思っていたよ――炎属性は基本的に好戦的だからね。でもだめだ、君の両親から、君は戦線に参加しないようにするよう言われているからね」
「属性なんか関係ない。両親だってあんただって、勝手すぎるよ。そんな話聞かされて、あとはああそうですかなんて言えない」
「私だって、君の両親からの言いつけに背くわけにいかないのでね」
「あ、あの、一旦落ち着きませんか」
ヘメラさんが、おろおろしながら僕たちに言ったが、僕たちには届かない。エアはというと、ニヤニヤしながら、こちらを面白そうに眺めている。
「大体、あなたの復活にだって、俺の力が本当に必要だったとは思えない。手をかざしただけですぐに復活したじゃないか。ヘメラでもよかったんじゃないか?」
俺は熱くなって挑発的な言葉を浴びせた。両手の炎が、さっきにも増して燃え盛る。
「ヘメラは非力だと言っただろう? それに、そうでなくとも、君の力が必要だったんだ」
「俺のご機嫌取りのつもりなら、意味ないぞ」
「君に何がわかる!」
突然、ニュクスは大声で叫んだ。《悪魔》と言うけれど、意外と人間くさいところがあるのかもしれない。
「もうやめて、朔くん」
ヘメラさんがこちらに駆け寄り、僕の肩に手を置いた。
「勝手なことばかり言ってごめんなさい。でも、こちらの事情も分かってほしいの。あなたの力がなければ、ニュクスの復活――闇魔族のセレモニーが成功しなかったのは事実よ」
「信じられない」
俺が冷たく言い放つと、ヘメラさんは小さな溜息をしてから、俺をなだめるように言った。
「あのね、この計画は何か月も前から計画していたことなの。あなたの1人任せにしたわけじゃないわ。その証拠に――ラギン」
ヘメラさんは突然空中に向かっていったかと思うと、どこからともなく忍者が現われていた。
「に、忍者!? どこから!?」
「彼は水系能力者のラギン。西洋風の名前だけれど、忍者の修業を積んできた実力者よ。彼も、ニュクスの復活のためにあの泉に力を送っていたわ」
忍者は頭を下げた。忍者は、150cmくらいの小柄な体形をしていて、青い頭巾と青い装束に身を包んでいた。目は細目で、何を考えているかよくわからない感じだ。
「ニュクスの復活には、彼も文字通りたくさんのエネルギーを使ったわ。できるだけあなたに闘ってほしくないと考えた結果よ。どうかわかって」
俺はまだ納得していなくて、閉口した。
「あなたにはまだ頼みたいことがあるの。あの本を読んで少しは知っていると思うけど、《ポーター》という存在について話しておくわ」
そう言えば、魔法の教科書にそんなことが書いてあったような気がする。ヘメラさんたちは《ポーター》がないとDTできないが、俺にはできると。
「私もいろいろ作戦を練るのに、日本へお邪魔したことがあるの。その時にDTを使うのだけれど、非力な魔法使いは、移動先に『リンク』している人間の力を借りなければならないの」
「リンク?」
「非力な能力者が次元を超えるために、『リンクする』存在を地球に用意しているの――その人と自分自身を共有させることで、DTをより負荷のないものにできる。私の場合――橋本明里」
明里さん――そうか、どおりで最初に見間違えたわけだ。
「じゃあ、明里さんもこの星のことや時の魔王のことを知っていたんですか」
「ええ、リンクするにはやっぱり同意が必要だから」
僕は明里さんの置き手紙の内容を思い出す。
**
さっくんへ。昨日の晩御飯と、今日の朝御飯を置いておきます。ちゃんとしたものを食べてね。
追伸 これから大変だと思うけど、気を付けてね。どうか、死なないで。
**
僕の家族だけでなく、明里さんまで全部知っていたんだ!
僕だけ除け者にして、みんなで僕をはめたっていうのか!
「あなたに頼みたい最後の仕事は、このラギンのそっくりさん――ポーターを探してきてもらうことと、新垣なつみさんを連れてくることよ」
なつみだって?
「なつみを? なぜです」
「何でもよ。まだ私たちに協力しようという気があるのなら、お願いします」
「よろしく頼むでござる」
ヘメラたちは静かに言った。だが僕は――。
「俺は行かない。あんたら最低だ」
校正(16/11/12)
・アスタリスク校正
・段落校正
・《》関係校正
・朔の一人称、語調校正
・「日本には、この星にいる人間のそっくりさんが必ずいる」
→「非力な能力者が次元を超えるために、『リンクする』存在を地球に用意しているの」 に変更
(現在の設定とまったく異なる。英雄の章 「次世代の英雄」参照)




