第三話 低調
僕の家族の話をしよう。
僕には両親と、妹がいる。3年ほど前までは、4人で平凡な暮らしをしていた。
妹は容姿端麗でありながらもはっちゃけた中学生で、同じ中学の男子生徒から告白されることも多かったようだ。
それ以外は特に目立ったところのない、「普通の」家族だった。僕は引きこもりなんかではなかったし、明里さんもいなかったし、自分が――自分の親も――英雄の血を引いているだなんて思いもしなかった。それなりに幸せであったように思う。
僕の生活が変わったのは、3年前、急に父さんが「宇宙へ行く」と言い出した時だ。僕の両親は宇宙開発事業をしているらしかったが、その詳細は全く教えてもらえなかった。両親が秘密主義者なのは今に始まったことではないので、僕は特に気にも留めず楽観的に考えていたのだ。しかし、父は続けてこう言った。
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「咲夜も連れていくから」
「なっ――」
驚いて食卓から立ち上がった僕を父は笑いながら制止した。
「そうあわてるな――どうしても咲夜の力が必要でね」
「中学はどうするんだよ」
「近日中に退学届を出すつもりだ。心配ない、咲夜は秀才、いや天才だから中学など行かなくても大丈夫だ」
……親バカ親父め……。
「でも、どうして咲夜なんだ?」
「あわてることはない」
父は同じ言葉を繰り返すと、あまり語りたくなさそうな顔をした。
「お前の力が――必要な時も必ずやってくる――だから、今は日常生活を楽しめ」
「嫉妬しないでね、お兄ちゃん!」
咲夜が、身を乗り出して快活な声で笑った。
咲夜の《力》――僕の《力》――英雄の血を引く家族――。
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「今なら、全部合点がいく」
僕はなつみにそう言った。
「朔が英雄の血を引いているなら、当然妹や両親も英雄の血を引いている――今回のことと、朔の家族の出張は何か関係がある――?」
「だろうな。『宇宙開発事業』っていうのはおそらく、ハーノタシア星で何かしているということ――妹たちは何かを必ず知っている」
「それで、どうするんだ?」
なつみに似合わない、少し不安げな声。こいつはこいつなりに、僕のことを心配しているのだろうか?
「――僕は、家族のことを知らなきゃならない。だから――行くよ」
「了解」
なつみは親指を立てウインクした。褐色の肌と対照的な白い歯がまぶしい。
「必ず帰ってくるから、待っていてくれ」
「うん――あのさ」
「ん?」
なつみは少し照れくさそうにしながら尋ねた。
「朔は――英雄なのかな?」
「まさか」
僕は魔法の教科書に書かれていた手順通りに、次元の裂け目を探しながら言った。
「僕は――除け者になるのが嫌なだけだよ」
見つけた。ブラックホールに似た構造なのだろうか、それとも突然吹き始めた風の影響だろうか。大学構内に突然現れた虚空は、僕を吸い込もうと必死になっている。
「いってらっしゃい」
僕を吸い込もうとしている強風の中から、なつみのか細い声が聞こえた。
「ああ。帰ったら――」
「え、なに? 風が強くて聞こえない」
「――帰ったら、勉強を教えてくれ」
「わかった! 気を付けてね」
僕は言えなかった言葉を心の中で噛み殺しながら、異次元世界への1歩を踏み出した。
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『「――私たちを助けてくれると覚悟が決まったら、次元の裂け目を見つけてハーノタシア星に来てくれ。ヘメラや下級の魔法戦士たちは、ポーターがなければ次元移動はできないが、君なら1人でもできるはずだ」』
『「――次元を超えたら、ヘメラがそちらに迎えに来ているはずだ。彼女の指示に従って、私が封印されている泉に来てくれ」』
――わかったよ、《悪魔》様!
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「どうやら無事到着したようですね、よかったです」
次元を超えると、女性の声がした。
「大丈夫ですか? 本当に申し訳ないのですが、時間がないんです」
固い土。目の前に広がるのは、荒野とクレーター、たくさんの闘いの跡――。
そして、隣から聞こえる美しい声は――。
「あ、明里さん!?」
「いえ、私は明里ではありません。ヘメラと言います。英雄さん、来てくれてありがとう」
明里さんそっくりの女性は、慈悲深い声で僕にあいさつし、僕の手を握った。
「僕に魔王を倒してほしいってお願いをしたのは、あなたですか」
「ええ。でもごめんなさい、今は詳しくお話をしている時間はないの。敵が――」
「見つけたぞ、ヘメラ」
声のする方を振り向くと、そこには全身黒タイツの2人組がいた。
「なんなんです、あいつらは」
「ニュクスを――《悪魔》を封印した悪い奴らの仲間です! ここは私に任せて、ニュクスの封印を解いてください!」
突拍子もないことを頼まれた気がするが、実はこれはエアが――正確には《悪魔》が書き残した魔法の教科書の手筈通りだった。
「――もしかしたらすぐに敵が攻め込んでくるかもしれないが、君の仕事は私の封印を解くことだ。場所は国の中心部にある泉――」
《悪魔》を封印した悪い奴、か――。
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『「――君は、《悪魔》と聞いて、私の方が『悪』だと――彼らの方が正しいことをしていると思っているのかもしれない――しかしややこしいことに、『闇』にもいろいろと種類があってね。例えば、『正しき闇』と『悪しき闇』」』
『「つまり――《悪魔》などという禍々しい名がついてはいても、私のことを『正しき闇』だと認識してほしい。私が君のおじいさん、神寺宮炸人の後継者であることを忘れないでくれ。もちろん、君が信じるのなら、の話だがね」』
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神寺宮炸人――僕のおじいさん。僕の家族のことを知るためには、とにかくこの人を信頼する必要がありそうだ。
「そのためには、まずは封印を解いてやらないと、な」
僕が異次元移動――エアはDTと呼んでいた――をした場所のすぐそばに、その泉はあった。移動距離が少なくて済んだが、裏を返せば、ヘメラさんが闘っている場所と近いので危険でもある。
問題の泉は――おおよそ泉と呼べるようなものではなく、むしろ沼地と言った方が適切なくらいだった。水は濁り、底が見えない。生物たちも死滅しているだろう。
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『「――泉に着いたら、その泉に両手で触れてくれ。それだけでいい」』
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魔法の教科書にはそう記されていた。しかし仮にも――僕にはよくは分からないが――《悪魔》と呼ばれるものの封印が、そんなに簡単に解けていいものだろうか?
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『「――急かしてすまないね。封印されていても、この書物を遺せたように多少の力は使えるが、いかんせん低調なものでね。ヘメラのことも心配だ。急いでくれると助かる」』
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とにかく今の僕は、魔法の教科書に従うしか道はなかった。
「正しき闇――ね」
僕は半信半疑ながら――両手で泉に触れた。
すると、ちょうどエアの手を握ったときと同じように、突然泉が白く輝きだした。
「おお――」
そして、ザバァという大きな音がしたかと思うと、泉の水が吹き出し――。
「――ふぅ。やっと出られたね」
全長170cmほどの《悪魔》が、僕の目の前に現れた。
※校正(16/11/12)
・誤記修正
・アスタリスク校正
・段落校正
・悪魔神→《悪魔》に修正
・「自分が――自分の両親も――英雄の血を引いているだなんて~」
→「自分が――自分の親も――英雄の血を引いているだなんて~」に変更
(英雄の血を引いているのは片方だけです)
・朔の一人称変更「俺」→「僕」
・力→《力》に変更
※校正続き(17.1.30.)
・誤記修正
・アスタリスク校正
・段落校正
・悪魔神→《悪魔》に修正
できていなかったところを校正しました。
・その他微修正




