表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕はヒーロー  作者: 緋色の石碑
第一章 そよ風がはこぶ冒険の物語
3/120

第三話 低調

 僕の家族の話をしよう。


 僕には両親と、妹がいる。3年ほど前までは、4人で平凡な暮らしをしていた。

妹は容姿端麗でありながらもはっちゃけた中学生で、同じ中学の男子生徒から告白されることも多かったようだ。


 それ以外は特に目立ったところのない、「普通の」家族だった。僕は引きこもりなんかではなかったし、明里さんもいなかったし、自分が――自分の親も――英雄の血を引いているだなんて思いもしなかった。それなりに幸せであったように思う。


 僕の生活が変わったのは、3年前、急に父さんが「宇宙へ行く」と言い出した時だ。僕の両親は宇宙開発事業をしているらしかったが、その詳細は全く教えてもらえなかった。両親が秘密主義者なのは今に始まったことではないので、僕は特に気にも留めず楽観的に考えていたのだ。しかし、父は続けてこう言った。


**


「咲夜も連れていくから」


「なっ――」


 驚いて食卓から立ち上がった僕を父は笑いながら制止した。


「そうあわてるな――どうしても咲夜の力が必要でね」


「中学はどうするんだよ」


「近日中に退学届を出すつもりだ。心配ない、咲夜は秀才、いや天才だから中学など行かなくても大丈夫だ」


……親バカ親父め……。


「でも、どうして咲夜なんだ?」


「あわてることはない」


父は同じ言葉を繰り返すと、あまり語りたくなさそうな顔をした。


「お前の力が――必要な時も必ずやってくる――だから、今は日常生活を楽しめ」


「嫉妬しないでね、お兄ちゃん!」


咲夜が、身を乗り出して快活な声で笑った。


咲夜の《力》――僕の《力》――英雄の血を引く家族――。



**


 「今なら、全部合点がいく」


僕はなつみにそう言った。


「朔が英雄の血を引いているなら、当然妹や両親も英雄の血を引いている――今回のことと、朔の家族の出張は何か関係がある――?」


「だろうな。『宇宙開発事業』っていうのはおそらく、ハーノタシア星で何かしているということ――妹たちは何かを必ず知っている」


「それで、どうするんだ?」


 なつみに似合わない、少し不安げな声。こいつはこいつなりに、僕のことを心配しているのだろうか?


「――僕は、家族のことを知らなきゃならない。だから――行くよ」


「了解」


なつみは親指を立てウインクした。褐色の肌と対照的な白い歯がまぶしい。


「必ず帰ってくるから、待っていてくれ」


「うん――あのさ」


「ん?」


なつみは少し照れくさそうにしながら尋ねた。


「朔は――英雄なのかな?」


「まさか」


 僕は魔法の教科書に書かれていた手順通りに、次元の裂け目を探しながら言った。


 「僕は――除け者になるのが嫌なだけだよ」


 見つけた。ブラックホールに似た構造なのだろうか、それとも突然吹き始めた風の影響だろうか。大学構内に突然現れた虚空は、僕を吸い込もうと必死になっている。


 「いってらっしゃい」


僕を吸い込もうとしている強風の中から、なつみのか細い声が聞こえた。


「ああ。帰ったら――」


「え、なに? 風が強くて聞こえない」


「――帰ったら、勉強を教えてくれ」


「わかった! 気を付けてね」


 僕は言えなかった言葉を心の中で噛み殺しながら、異次元世界への1歩を踏み出した。



**


 『「――私たちを助けてくれると覚悟が決まったら、次元の裂け目を見つけてハーノタシア星に来てくれ。ヘメラや下級の魔法戦士たちは、ポーターがなければ次元移動はできないが、君なら1人でもできるはずだ」』


『「――次元を超えたら、ヘメラがそちらに迎えに来ているはずだ。彼女の指示に従って、私が封印されている泉に来てくれ」』



 ――わかったよ、《悪魔》様!



**


 「どうやら無事到着したようですね、よかったです」


 次元を超えると、女性の声がした。


「大丈夫ですか? 本当に申し訳ないのですが、時間がないんです」


 固い土。目の前に広がるのは、荒野とクレーター、たくさんの闘いの跡――。


そして、隣から聞こえる美しい声は――。


 「あ、明里さん!?」


「いえ、私は明里ではありません。ヘメラと言います。英雄さん、来てくれてありがとう」


 明里さんそっくりの女性は、慈悲深い声で僕にあいさつし、僕の手を握った。


「僕に魔王を倒してほしいってお願いをしたのは、あなたですか」


「ええ。でもごめんなさい、今は詳しくお話をしている時間はないの。敵が――」


 「見つけたぞ、ヘメラ」


声のする方を振り向くと、そこには全身黒タイツの2人組がいた。


「なんなんです、あいつらは」


「ニュクスを――《悪魔》を封印した悪い奴らの仲間です! ここは私に任せて、ニュクスの封印を解いてください!」


突拍子もないことを頼まれた気がするが、実はこれはエアが――正確には《悪魔》が書き残した魔法の教科書の手筈通りだった。


「――もしかしたらすぐに敵が攻め込んでくるかもしれないが、君の仕事は私の封印を解くことだ。場所は国の中心部にある泉――」


 《悪魔》を封印した悪い奴、か――。



**


 『「――君は、《悪魔》と聞いて、私の方が『悪』だと――彼らの方が正しいことをしていると思っているのかもしれない――しかしややこしいことに、『闇』にもいろいろと種類があってね。例えば、『正しき闇』と『悪しき闇』」』


『「つまり――《悪魔》などという禍々しい名がついてはいても、私のことを『正しき闇』だと認識してほしい。私が君のおじいさん、神寺宮炸人の後継者であることを忘れないでくれ。もちろん、君が信じるのなら、の話だがね」』



**


神寺宮炸人――僕のおじいさん。僕の家族のことを知るためには、とにかくこの人を信頼する必要がありそうだ。


「そのためには、まずは封印を解いてやらないと、な」


 僕が異次元移動――エアはDTと呼んでいた――をした場所のすぐそばに、その泉はあった。移動距離が少なくて済んだが、裏を返せば、ヘメラさんが闘っている場所と近いので危険でもある。


 問題の泉は――おおよそ泉と呼べるようなものではなく、むしろ沼地と言った方が適切なくらいだった。水は濁り、底が見えない。生物たちも死滅しているだろう。



**


『「――泉に着いたら、その泉に両手で触れてくれ。それだけでいい」』



**



 魔法の教科書にはそう記されていた。しかし仮にも――僕にはよくは分からないが――《悪魔》と呼ばれるものの封印が、そんなに簡単に解けていいものだろうか?



**


 『「――急かしてすまないね。封印されていても、この書物を遺せたように多少の力は使えるが、いかんせん低調なものでね。ヘメラのことも心配だ。急いでくれると助かる」』



**


 とにかく今の僕は、魔法の教科書に従うしか道はなかった。


「正しき闇――ね」


 僕は半信半疑ながら――両手で泉に触れた。


 すると、ちょうどエアの手を握ったときと同じように、突然泉が白く輝きだした。


「おお――」


 そして、ザバァという大きな音がしたかと思うと、泉の水が吹き出し――。



 「――ふぅ。やっと出られたね」


 全長170cmほどの《悪魔》が、僕の目の前に現れた。


※校正(16/11/12)

・誤記修正

・アスタリスク校正

・段落校正

・悪魔神→《悪魔》に修正

・「自分が――自分の両親も――英雄の血を引いているだなんて~」

 →「自分が――自分の親も――英雄の血を引いているだなんて~」に変更

(英雄の血を引いているのは片方だけです)

・朔の一人称変更「俺」→「僕」

・力→《力》に変更


※校正続き(17.1.30.)

・誤記修正

・アスタリスク校正

・段落校正

・悪魔神→《悪魔》に修正


できていなかったところを校正しました。

・その他微修正

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ