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僕はヒーロー  作者: 緋色の石碑
第一章 そよ風がはこぶ冒険の物語
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第二話 丁重

……結局、何も持たずに来てしまった……。このまま大学に行っても意味がない。荷物を取りに帰るか――。


いや、ダメだ! もし家に帰ったら、またあの変な幼女に絡まれるかもしれない――。



**


 「お願いしまちゅでちゅ、英雄しゃん!」



**



**

 「――はい、はい。英雄を見つけたわ。予定通り闇魔族のセレモニーを始めて」



**


 僕が、英雄――?


 冗談じゃない!


 「お? 朔じゃん」


「あ? なつみじゃん」


 軽い言葉で僕に声をかけてきたのは、新垣(にいがき)なつみ。僕と同じ大学の同級生だ。


「どこいくんだ?」


「どこって、大学に決まってるだろ」


僕がそう言うと、なつみは大きな口を開けて快活に笑った。


「あっはっは! 手ぶらでか?」


 なつみの八重歯がのぞく。こいつ、男っぽい話し方をしなけりゃ、それなりに可愛いと思うんだがなぁ――。


「お前だって、ずっとサボってばっかだろ」


僕が少しムキになって言うと、なつみは人差し指を立てて得意げに言った。


「チッチッチ。私は計算してサボってるんだ。無計画の引きこもり君とは違うのだよ」


「言わせておけばっ――」


なつみは僕の言葉を遮り、


「今日は私、行く日なんだ。朔の荷物、取りに行ったげる」


と、言った。


 「うえ、そんなことしなくてもいいよ!」


「あんたこのままじゃ留年だよ!? それでもいいの?」


留年――か。


 「英雄よりは、マシかな――」


「はぁ?」



**


 「おかえりなちゃいまちぇでちゅ。英雄しゃん!」


 いた。やっぱりいた。浮遊系幼女。


「いつから子供いたの? ていうか結婚してたの?」


ごくごく自然に尋ねるなつみに、僕は肩を落として答える。


「違うんだよ――いや、もうどうでもいいです」


「ハーノタシア星に行く気になったでちゅか? でもその前にいろいろ準備があるでちゅよ――まずハーノタシア星には7ちゅの属性が――」


「準備があるのはこっちの方だ。教科書を用意するから、お前は黙っててくれ。帰ったら交番に届けてやるから――」


「なんでちゅか! 使用人の話も聞かずに!」


 そう言うと浮遊系幼女はプンプンと怒り、冷蔵庫へと(浮遊しながら)移動していった。


「おい、何する気だ」


「英雄しゃんがいない間に、この家を調査したでちゅ。この冷蔵庫の中には、プリンが入ってたでちゅ」


「ああ――勝手にしてくれ」


 僕は内心食べ物の怒りを抱きながら、教科書をカバンに詰めていった。


「ねえ、ほんとに放っておいていいの?」


なつみが俺の耳のそばで囁く。


「ああ、いいんだよ――どうせ飽きたら家に帰るさ。よっと、これが最後だな」


 僕は最後の教科書を手に取る。しかし、少し違和感を覚えた。


「これ、こんなに重かったっけ?」


「引きこもってたから腕力が落ちてんでしょ」


「いや、でもこれは――」


「ああ、1つ言っときまちゅけど」


プリンを食べていた浮遊系幼女が、したり顔で言った。


「その教科書、書き換えたでちゅよ」


見ると、表紙には『中国語入門』ではなく、意味不明なまがまがしい魔方陣が――。


「あはは! すごい、なにこれ!?」


予測不能、天変地異の事態に、なつみは驚くでもなく、怒るでもなく、はしゃいでいた。


「冗談じゃない! お前、いったい何なんだ!? 何をしに来た!!」


僕が声を張り上げると、浮遊系幼女は、こちらに移動して、かしこまった様子で口を開いた。


 「あたちは、風の妖精エア。《悪魔》ニュクスの愛娘でち!」


 風の――妖精――? 《悪魔》――?


「そ、それで――お前は何を――」


震える体を何とか抑えながら、僕は質問を続けた。


 「あたちのママ、《悪魔》がわるいやつらに封印されてしまったでち――封印を解くには、強い魔力――とりわけ、炎の英雄、神寺宮炸人(しんじぐうさくと)の血を引く――英雄しゃんの力が必要なんでち!


「あ、あ――」


 僕が言葉を失っていると、浮遊系幼女――確かエアと言ったか?――は、なつみの方を見て言った。


 「植物系能力者――《愛》の園ニーナ――あなたからも、力を借りることになると思うでちゅ」


「え、わ、私? でも私は――」


「ま、今はいいでちゅ。ママが復活してから、英雄しゃんが迎えに行くでちゅ」


「そ、そうなんだ――」


 僕たちがあっけにとられていると、エアは僕との距離をどんどん詰めてきた。


「な、な、な――なんだよ!」


「ちょっと試さないといけないことがあるでちゅよ。あたちの手を握ってくださいでち」


「あ、ああ――」


状況が呑み込めないままエアの手を握ると、突如エアの身体が白い光に包まれた。


 「う、うわ、なんだ!?」


突然の発光に驚いて手を離そうとすると、エアの大人びた声がそれを制止した。


「ダメだよ――まだ。まだ離さないで」


 そして――発光がおさまったとき、俺の眼前には――浮遊系幼女ではなく、地上系少女がいた。


 「うん、いい感じ! 地に足をつけてもクラクラしないし。これでレベル3ってとこかな――見た目は――」


 そういうと、エアは幼女の時には着ていなかったジーンズのポケットから手鏡を取り出し、自分の容姿を確認した。


「15歳ってとこかな! ありがと、英雄さん!」


エアは、満面の笑みをうかべた。


「お前、どうやって――だってさっきまで――」


「ん? ちょっと英雄さんの《力》を借りただけだよ。それじゃ、詳しいことはそこに書いてあるから。私、お母さんと打ち合わせがあるから行くね! 待ってるから!」


「あ――」


 「あのね、英雄さん」


あっけにとられている僕をよそに、慌てた様子で玄関を出ようとしていたエアが、僕の方を向き、丁重な様子でゆっくりと言った。


「私たちの星を――お母さんを、助けてください。お願いします」


「え?」


幼女の時と、態度があからさまに変わっている。少し僕は、その雰囲気に気圧されていた。


「あ、やば! ほんとに時間がない! こうなったら――」


 そう言うと、エアは瞬間移動でもしたかのように――いや、たぶん実際したんだ――ふっ、と消えてしまった。


あとには、茫然と立ち尽くす一般人2人が取り残された。


「とりあえず、大学行く?」


おそるおそる、なつみが言った。


「そうだな――」


僕は、魔法の教科書に目を落とす。


 たぶん中国語の単位は取れない。語学を落としたら――留年じゃないか。


**



 「ねぇ。それ、読んでみてよ」


 昼休み。大学内のカフェテリアで、なつみが俺に言った。


「え、でもここでは――」


 人目が気になるが、他の大学生たちは自分のおしゃべりに夢中なようだ。


「誰も聞いてないって。ね、読んでみて」


「わかった」


 僕は、重い魔法の教科書を開いた。中身は日本語だが、もちろん中国語に関する情報は1つも載っていない。



 「『こんな形で、突然君に助けを求めることになってすまない――神寺宮朔くん――いや、今は神山朔として生活しているのかな?』」


「朔、神寺宮って苗字だったの?」


「どうだろう――確か前に父が、改名したと言っていたような気がするけれど――」


「ま、いいや。続き」


なつみに促されて、続きを読む。正直、僕もこの話に少し興味がわいてきた。


 「『私の名はニュクス。ちょっと面倒なやつに捕まってね――今は封印されてしまっている。君がこれをもし読めているなら、それはエア――私の娘の魔法がうまくいっている証拠だ』」


「へえ、あの子すごかったんだね」


 風の妖精エア。鬱陶しい奴だったけど、やはりすごい魔術の持ち主だったんだろう。そして、こいつはやつの母親、《悪魔》――。


 「『簡単に私たちの星――ハーノタシア星について説明させてくれ。今の君には信じられないことだろうが、ハーノタシア星は7つの属性をもつ魔法によって成り立っている惑星だ』」


「『数十年前まで、私たちの星は野蛮な時代が続いていた。そのため、魔法はもっぱら戦争の道具として使われていた。もちろん、正義のために戦ったものもいる――神寺宮炸人のようにね――だが、中には魔法力を悪用しようという輩もいたんだ。それがシーボルスという名の男』」


「神寺宮――さっき、この人朔のことも神寺宮って言ってなかった?」


 そう言えば、さっきあの妖精も……同じ苗字――まさか!


 「『神寺宮炸人は、私の師匠は――非常に優秀で、正義感に燃える炎の男だった。しかし、シーボルスを倒した後、別の邪悪な者に殺されてしまったんだ』」


「『そして今、そいつらの仲間が、神寺宮炸人の後継者――私たちのことだが――の住処を襲い、私の仲間を虐殺してしまった。幸か不幸か、私は特殊な存在で、殺されはしなかったが、封印されてしまったんだ』」


「うわ、そりゃ大変だ」


大して大変じゃなさそうになつみは言った。


 「『その後彼らは、たいした魔法力のない一般人にも手を出し、ほとんどの人間を石化してしまった』」


「石化――石にされたのか」


そういえば、エアがそんなようなことを言っていたような気がする。


「『今、ハーノタシア星は悪の権化に支配されつつある。この世界を取り戻すには、君の力が必要なんだ』」


「おっ、頼られてるねー、朔」


「ぼ、僕はそんなんじゃ――」


 僕は続きを読もうと目を走らせた。そこには、大方想像していたことが書き記されていた。


 神寺宮炸人のお孫さん――神寺宮朔くんのね!


※校正(16/11/12) 

・アスタリスク修正

・段落修正

・悪魔神→《悪魔》に変更

・「『神寺宮炸人は――私の師匠は――非常に優秀で、正義感に燃える炎の男だった――しかし、シーボルスを倒し子供を遺した後、シーボルスの仲間に殺されてしまった』」


→「『神寺宮炸人は、私の師匠は――非常に優秀で、正義感に燃える炎の男だった――しかし、シーボルスを倒した後、別の邪悪な者に殺されてしまったんだ』」に変更

(子供を遺す前に殺されています。殺した奴はシーボルスの仲間ではありません)


・「神寺宮――さっき、この人朔のことも神寺宮って言ってなかった?」

 同じ苗字――まさか!


→「神寺宮――さっき、この人朔のことも神寺宮って言ってなかった?」

そういえば、さっきあの妖精も……同じ苗字――まさか! に変更

(先にエアが言っています)


※校正続き(17.1.30)

・アスタリスク修正

・段落修正

・悪魔神→《悪魔》に変更


できていなかったところを直しました。



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