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僕はヒーロー  作者: 緋色の石碑
第二章 それぞれの想いが、闘いを新たなステージへと導く
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第十話 快感

「能力者ってのは、数奇な運命なもんだねえ。それぞれの思惑、それぞれの願う世界。それが違うから、世界ってのは面白いんだよね!」

 「私の一族は、氷の国の王族でした」


 凍った世界で、静かにプリンセスは語り始めた。


「氷の国は平和な国でした。芸術方面に秀でるものを排出することが多く、小説家、漫画家、オペラ歌手などが活躍する国でした」


「でも、魔法力はそんなに強くないものがほとんどだったのです」


「水の国の王は、そこに付け込んだ――だったよね?」


 ここに来てすぐ読んだ、ハーノタシア星の歴史書。そこには氷の国の悲惨な歴史が記されていた。


「水の王フロストルは、隣接する氷の国を戦争で屈服させ、支配しようと試みたのです。もともと軍事方面に長けていなかった私たちは、あっさりと敗北、水の国に併合されることとなってしまいました」


プリンセスは泣き続けた。かつての栄光に思いを馳せているのだろうか。


「それ以後、命からがら逃げてきた私たち王族は水の国の重役に就くことすらできず、僻地に飛ばされ、平民として生きてきました。そんな時」



『お前たちが王族か』


 「青髪の男に出会ったのです。我々を滅ぼした水軍の副隊長、コロウだったと、おばあさまからお聞き致しました」


やっぱり。水の国のコロウ。彼はおじいさんとの闘い以後、ライバルとして、そして最高の相棒として、おじいさんたちをずっと支えてきた人だ。


「あの男は、私の一族を抹殺しようとしました。もはや力を失い、平民同然の私たちをです。彼曰く、まだ闘いは終わっていない、だそうですが、私たち一族はこりごりだったのです。もう戦意などありませんでした」


 そう、コロウは、勝利に固執する男だった。おじいさんと出会って、その性格も変わっていったと聞いているけれど――。


 「結局生き残ったのは私のおばあさまだけでした。その後彼女は水の国の男性と婚姻し、私がここにいるわけです。残念ながら、私に水の能力は発現しませんでしたけれど」


「そうだったんだね」


「私は憎い――。必要以上に私たちの一族を殺し、穢し、家族の幸せすらも奪っていったあの男が! あ、あの男のせいで、私は、私には――。」


 その瞬間、急激にプリンセスの魔力の流れが変わったのが分かった。私の思っていた通り、これが彼女の「異質な」全力……。


私は彼女の脇をすり抜け、距離をとる。そうしている間にも、プリンセスの周りを黒い光が包み込んでいた。

黒い光――? そんな、そんなことがあるはずがない! だってやつらは、《影の封印者》なのだから――。


「あなた」


 黒い光の中から、プリンセスが姿を現した。いや、あれはプリンセスですらない。あれは、プリンセスの影――。


プリンセスを思わせる黒いものが、口を開いた。


「私たちが影の封印者だからって、影が出ないと思っていたでしょう? その通り、私以外は影なんて出ない、闇なんてない、完璧な超人たちですわ。でも私は、魔王の実験台として、影の、闇の性能がどの程度なのかを測るためのモルモットとして幹部に任命されたのですわ」


「ひどい……だからあなたは本当は、魔王を嫌っていたんだね。そんな気がしていたんだ」


 「能力者が抱える心の闇――それが膨大になり、別の形、人格を持つようになったのが《影》と呼ばれる私たちですわ。そして、《影》などという余計な存在を持たない、完璧な能力者のみで世界を統治すること――。それが魔王の目的」


「私は知ってたよ。でもあなたに《影》があったなんて」


「心に闇を抱えない人間などいませんわ……。一般人は、それを《影》にする能力が備わっていないだけのことなのです。まあ、あなたに影はなさそうですがね」


皮肉たっぷりのセリフ。ちっとも嬉しくなんかない。


「いまのところね。まだわかんないけど」


 「私は別に、影を封印すべきだとか、そういったことを考えているわけではありません。ただ私は、この方法以外では生きていけないのです」


《影》の悲痛な叫び。でももう、涙を流してはいない。


「また、平民として暮らせばいいじゃない」


「この異質な力を持つ私が、王族の血を引く私が、いまさら平民として生きていけるわけがないでしょう! 苦しくても辛くても、利用されているとわかっても、こうするしかないのです!」


 《影》の後ろでは、魂を抜かれたプリンセスが目をはらして立っている。


「基本的に、《影》が出ているときは本人は動けないのでしたね。相当上級の能力者は別ですけれど」


 ニュクスのことか。ニュクスの影であるヘメラとエアは、それぞれ独立に生きている。


 ふと、《影》のほうを見る。拳銃が二丁になっている。それに、ガトリングガン!?


「あなたに恨みはありませんが――これも能力者の運命(さだめ)――お死になさい」


《影》は、ガトリングを乱射した!


 やばいやばい、どうする!? バリアもダメ、かわすのもダメ、となったら――。


そうだ、プリンセス!!


私の身体を、弾丸が貫いた。


 「はあ、はあ……《影》だと、力を湯水のように使うことができるのですね――。ウフ、ウフフ……身体中に快感が走ります……」


「どうです! 魔王様!これこそあなたの知りたがっていた《影》の力! まさかこれほどまでに素晴らしいものだったとは……。まあそれけ、彼らが脅威になるということですが、とにかくあの小娘は死んで――」


「死んでないよ」


 私は上空に氷雷(ひょうらい)を作りながら、答えた。


「な、なぜ……確かに私の弾丸はあなたの頭を撃ち抜いたはずです……!!」


「あれはわたしの作った氷人形だよ。本物そっくりだったでしょ? 結構魔力使っちゃった」


「そ、そんな……」


「本物のプリンセスを見て思いついたんだ。あの人、動かなくて人形みたいだから」


「ぐっ……」


「それでも、自分自身なんだよね」


 上空の氷雷は、かなり大きくなってきた。これをぶつければ、おそらくプリンセスを倒せる。


「ねえ、私たち、敵じゃなくて仲間としてやっていけると思わない? ニュクスは、彼女自身が《影》をいくつか生み出しているから、《影》に寛容なんだ」


「《影》も能力者も、能力者も一般人も共存できる世界。それが私たちの目指す世界なの。だから私たちは、魔王と敵対してるんだ」


「なるほど……あなたたちのことはよくわかりました。でも――。」


 プリンセスは試し撃ちのような感じで、2、3発を撃ち込んだ。氷雷は壊されるどころか、それを吸収して大きくなっていく。


「私が油断した一瞬のすきに、これほど完成度の高い氷を生み出すとは……やはりあなたは、選ばれた英雄なのですね。私が、《影》をもってしても、絶対に届かない領域……。いわば氷の絶壁、でしょうかね」


「お嬢様……。」


「私も私なりに、けじめがつきましてよ。あなたも、かなり冷徹な気持ちでそれを作ったのでしょう? ならば、私に撃ちなさいな」


「お嬢様……いままで辛かったよね――あなたの時を、永遠に凍らせてあげる」


私は氷雷をプリンセスに向かって投げた。


「さよなら、お嬢様――。」


「あなたも――心の闇に、負けぬよう。さて、おばあさま、いまそっちへ向かいますわ」


どしゃあああああ、と大きな轟音が響いた。それは《影》と、プリンセスを跡形もなく消し去った。


「――ふう」


 「お疲れ様、よく頑張ったわね」


どこからともなく、女の声がした。


「誰っ!? 姿を見せなさい!」


「私、魔王よ」


 ま、魔王!? 魔王って女だったの? いや、嘘かもしれない。信じるのはやめておこう。


「あなたたちの闘いぶりをずっと見せてもらっていたわ。アイス・プリンセスもさすがの《影》の力だったのにねえ。さすがだわ、英雄の血は」


「でもまあ、それだけニュクスとエアはできるってわけね。ヘメラは戦闘向きじゃないでしょうけど。今回の闘いにエアを指定しなかったのはそういう意味よ」


「……打算的ってわけね」


「あら、いいでしょう? 私たちには《影》の力がないもの。ハンデをくれたっていいわ」


私は虚空を睨み付ける。


「エアだって、闘いたいわけじゃないわ」


 「……次の試合は非力なヘメラね。こちらの圧勝でしょうけど、今度はそちらが《影》なのだから、面白くなりそうね」


「高みの見物ってわけ?」


 「あなたのお兄さんが《影》に目覚めたら、どうなるのかしらねえ……楽しみだわ」


「お兄ちゃんは、心の闇に負けたりしないわ!」


「どうかしら。それより、もうそろそろプリンセスがかけた氷の魔法解けるはずよ。凍った人々も解放されるわ。はやくお兄さんのところに戻ったほうがいいんじゃなくて?」


「ぐっ……」


「それでは、ごきげんよう……」


 魔王(暫定)は一方的に話を終わらせた。私も渋々、DTして闇の国に帰ることにした。


読んでいただきありがとうございました。今回で、朔側と魔王側、それぞれの闘う理由がわかっていただけたことと思います。

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