第九話 邂逅
「さてさて、英雄陣と影の封印者幹部の闘いが始まったみたいだね……冷徹なる氷属性は、どんな闘いを見せてくれるのかな?」
1日ぶりに、闇の国にやってきた。一昨日の激戦のことは、いまだ記憶から消え去ってはいない。
当然、私たちの一番の関心はニュクスにあった。ニュクスは私たちの大切な仲間だし、そもそも時の魔王を倒そうと言い出したのもニュクスだ。言いだしっぺを放っておくことなんてできないし、言いだしっぺがやっぱりリーダーにならなきゃね!
だから私は、私たちは、リーダーをとり戻すために、闘わなきゃいけない。
「幹部との戦いは、厳しいものになるだろう。はっきり言って、殺されるかもしれない」
と、パパは朝方私に言った。
「わかってる。心配しないで」
「ああ、若くても、お前は英雄の孫だ。僕には英雄の血は流れていないから、うらやましいよ」
「ねぇ」
私は興味本位で、パパに訊いた。
「お母さんのこと、好き?」
「ノーコメントだ」
笑ってしまった。こうして何気ない会話をしていると、まるで私たちがこっちに来る前の時のようだ。
明るいママがいて、厳しいパパがいて、高校受験だって慌てるお兄ちゃんがいて、私たちは至って「普通の」家族だった。
お兄ちゃんが大学生になってからひきこもりになってしまったのも、私たちがいなくなってしまったからだろう。
ごめんね、お兄ちゃん。
私たちは、英雄の宿命を背負わなければならない。
だから、早く平和な世界が来るように、
私たちは、闘う――。
闇の国。魔王の復活以後、ずっと暗雲が立ち込めている。
視線の先に映る黒くそびえたつ塔。あの中に、魔王がいるのだろうか?
「お待ちしておりましたわ」
緊張する私たちに声をかけてきたのは、アイス・プリンセス。
「あなた一人?」
私はプリンセスに訊いた。私たちは全員で来ているというのに、闘いの提案者である魔王側は一人しか人を寄越さないなんて。
「ええ、そうですわ」
プリンセスは澄ました顔で答えた。
「闘いは同属性の一対一ですから、大勢で来ても意味ないでしょう? こちらの能力者を無意味に晒しても、いいことはなさそうですし」
なるほど、魔王側に私たちの顔や能力は向こうに筒抜けなのに、こちら側は魔王側の能力を何も知らない。
意外とこういうのも、情報戦なのかもしれない。
「そんなことより、神寺宮咲夜さん。あなたの準備はよろしくて? 初戦はあなたなのですよ」
「わかってるわよ」
「それはよかった。では早速参りましょう」
プリンセスは、DTのための次元を開いた。
「参るって、どこへ?」
「各属性の能力者は、その国に行くことになっています」
「それも、魔王が決めた条件?」
沈黙が流れる。まるで、訊かれたくなかったとでも言うような表情だ。プリンセスと魔王は、仲が悪いのだろうか?
「……ですので、氷の国へ、といきたいところですが、残念ながら氷の国はありませんの。よって、水の国へ」
そう言うプリンセスの表情は暗かった。氷の能力者がいつも考えることはこれだ。もちろん私だって。
氷の国は、過去の戦争で、水の国に滅ぼされた。
プリンセスだって、その苦しみを背負っているのだろう。
ん?――プリンセス……? まさか、この人は――。
「行ってこい、咲夜」
お兄ちゃんが、私の肩に手を置いた。
「僕も、ここで待っているよ」
久々に聞いたお兄ちゃんの落ち着いた声。私は泣きそうになってしまう。
「うん、行ってくるよ」
私はみんなの期待、そして私自身の想いを引き連れて、次元のはざまをくぐった。
水の国――そこは美しい河川や泉、湖が存在する清らかな国だった。しかし、水の国を統治していた水の王、フロストルは、領地を広げるために、氷の国へ戦争を仕掛けた。
今から何年も前の話だ。
私が目にした水の国の光景は、私が想像していたものと全く異なっていた。
見渡す限り、氷、氷、氷――。美しい水の国が、氷河と化していた。
「これ、全部あなたが?」
「ええ。とはいえ、この国すべてではありません。ここ一帯だけですわ」
ふと、人の姿が目についた。恋人同士手をつないで歩いたまま、氷漬けにされている。
「これも?」
「どちらにしても、闇の国以外のほとんどの人は石化されていますわ。私がここの人を氷漬けにしたって、そう、誤差の範囲ですわ」
「誤差……?」
「いずれこの世界は、影のない一部の完璧な魔法使いによってのみ、支配されることになるのです。それが、魔王様の望み――。その実現のために、私たち幹部は働いているのです。能力を持たない一般人など、必要ありませんわ」
「……ほんとに、そう思ってる?」
私はプリンセスの瞳を見つめた。彼女の瞳は、私ほど冷たくはなっていない。そう、お兄ちゃんの瞳のように、まだ熱を持っている。
「あなた方は揺さぶりがうまいようですわね。ネクローに洗脳されたニュクスも、取り返すおつもりなんでしょう? でも言葉の揺さぶりなんかで、私たちは動かせませんわ」
プリンセスは氷の剣をつくり、振りかざした。
「剣術……? お嬢様らしくないね」
「お黙りなさい。行きますわよ!」
プリンセスが真っ向から私に向かってくる。このお姫様は、本当にまっすぐでわかりやすい性格をしている。まったく、なぜ私の周りはそういう人ばかりなのだろう。
「せいっ!」
横に切りつけてくるのか。剣の先端には氷山の一角のようなトゲトゲがたくさんついている。あれ当たったら痛いだろうなあ。物理的に。でも、もちろん魔力も込めているんだろう。
「はっ!」
半ば思考停止的にバリアを張る。が、いとも簡単に破られ、そのまま斬り付けられる。
「痛った!」
「バリアは斬撃に弱いようですわね。私のほうが1枚上手かしら?」
いや、それだけじゃない。あの剣がバリアを破るとき、物理的な強度の問題ではなく、むりやりこじ開けたような魔力の痕跡があった。これじゃ、いくら魔力を消費して強度の高いバリアを張っても意味はなさそう……。ていうか最近よくおなかをやられるなあ。
「さあ、どうしたのですか? まさか、なにもしてこないわけではないでしょう?」
となると、剣をかわしつつ隙を見て攻撃というのが妥当な線か。プリンセスの能力は、あの剣自体に氷の魔力を送ってるものだろうけども、私は氷をその場で作り出したりするほうだ。応用が利きやすい分、こっちに分はある。
「お嬢様って、意外と好戦的?」
「まさか。それもすべて魔王様のためです」
「本当に?」
「え?」
私の問いかけに、プリンセスの集中力が切れた。いまだ!
「アイスアロー!」
無数の氷の矢を生成し、そのままプリンセスへと飛ばす。
「この程度……はっ!」
プリンセスが念じると、氷の剣が盾に変形した。プリンセスの姿を丸ごと隠せるような大きな盾は、私のすべての矢を弾き返してしまう。
「なるほどね。それ、いろいろ変わるんだね」
「ええ。こんな風にね!!」
その瞬間、盾は拳銃に変化し、私に向かって発砲してきた。
「ちょっ……聞いてないよ!」
逃げ惑う私。弾の届かないところへ行こうとしたら、
「はっ!」
プリンセスが片手を上げた。すると、氷の壁が私の前に……。
「うそっ、私みたいに何もないところからも出せるの!?」
「当然ですわ」
「す、すっごいね……」
私は、あっさりと追い込まれてしまった。悪寒がする。それはピンチのせいなのか、ここの氷のせいなのか。
「死になさい」
プリンセスは私のおでこに銃口をつけると、何のためらいもなく引き金を引いた。
「な……なに、これは!?」
「ま、引けないんですけどねー」
「引き金が凍っている!? そんな、いつの間に!?」
「最初に剣で切り付けられた時、一部をどさくさに紛れて凍らせておいたんだ。盾にしたのはまずかったね。お嬢様の目では見られないでしょ」
「ぐっ……」
「魔力の出どころはおんなじだから、恐らく1つのものを別の形に具現化させていたのかなと思ったの。もしそうじゃなかったら負けてたけどね。勘が当たってよかった」
「所詮は時間稼ぎにすぎませんわ……」
プリンセスはすぐに凍らせた部分を解凍してしまった。
「ねえ」
「今度こそ!」
私は銃口にそのまま手をかぶせた。
「な!?」
「撃てる? あなたが本当に冷徹なら、私の手のことなんか気にせず撃てるはずだよ」
「あ……なぜあなたはそういうことをするのですか……!!」
プリンセスの声が震えている。明らかに動揺しているのがわかる。
「だって、さっきからお嬢様全然本気じゃないんだもの。力を出し渋ってるような気がする。その魔力の出どころ、大元が何か知らないけど、きっとその真価はいまと比べ物にならないほどの――」
「黙りなさい! あなたに何がわかるというのですか!!」
プリンセスが叫ぶ。お嬢様、傷つけてごめんなさい。
「わからないよ。だから教えて? お嬢様、なんであなたはプリンセスという名前なの? もしかして、あの戦争と何か関係があるんじゃ――」
「そ、そう、あ、あれは――」
プリンセスの、銃を持つ手が震える。私は魔法で、銃と手首ごと凍らせた。
「あ……」
「話して」
「私は、私の一族はっ、あの男との邂逅のせいで、滅びてしまったのです!!」
お嬢様は、氷の涙を流した。
プリンセスの一族が出会った男。私の記憶に間違いがなければ、それは。
英雄、神寺宮炸人の永遠のライバル、コロウだ。
読んでいただきありがとうございました。今回から前書き、後書きを使っていこうと思います。前書きで話しているキャラクターは、かなり終盤で出る予定です。




