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僕はヒーロー  作者: 緋色の石碑
第二章 それぞれの想いが、闘いを新たなステージへと導く
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第七話 過密

 起爆せよ、確かにそう聞こえた。そして、爆発音も。ニュクスと戦っているはずの新垣先輩のほうに目を向けると、服すらほとんど破けてしまっている、新垣先輩が落下していた。


「あん? だいぶでかい爆発だったな。《悪魔》のやつ、死んだんじゃねーのか?」


気の抜けた様子でマリンが言った。私とお兄ちゃんは、戦闘態勢を解いた。


お兄ちゃんが先輩のほうへ加速する。


「待って!」


私は大声を張り上げた。


「なんだ」


 エアと融合したお兄ちゃんの声は冷静だ。エアとの人格融合というよりは、全く別の人格になってしまったように感じられる。だって、お兄ちゃんもエアも、冷静なんかじゃないもの。


「私が行くわ」


「お前、飛ぶのうまくないだろう」


わかってる。だけどお兄ちゃん行かせるわけにはいかなかった。だって、先輩はほとんど裸なんだもの。


 私はゆっくりと飛行を始めた。体の軸が安定しなくてふらふらする。ニュクスにやられた腹部が痛む。


 こりゃ、マリンを相手にはできないかな。


 私たちの、敗北だ。


 ママ、お兄ちゃん、私、先輩、そしてダグラさんがいて、私たちはネクローとニュクスの2人に敗北した。


手も足も、出なかった。


 英雄の名が泣いている、と思った。


 私たちは、英雄なんかじゃない。


「先輩!」


 私は、空中で無事に先輩を抱き留めた。先輩の体が、異常に熱い。


「先輩! 大丈夫ですか、先輩!」


「……あ、咲夜ちゃん?」


「はい、咲夜です。先輩、大丈夫ですか?」


「私……生きているんだな……自爆は失敗したのか……」


先輩は、小さくつぶやいた。その声には、悲痛な無念がにじんでいる。


「どうして自爆なんか……」


「私って不器用だから……ニュクスを倒すには、あれしか――」


「ニュクスは、必ず私たちが正気に戻して見せます。だからニュクスを殺さなくてもいいし、先輩が死ななくたっていいんです」


私は、いつの間にか泣いていた。


「咲夜ちゃん、痛いよ……涙が氷の粒になってる」


「え?」


「やっぱり、氷の能力者なんだね」


「先輩、体が熱いです。私が氷の服を作ってあげますから、どうか、休んでいて――」


私が念じると、先輩の体が氷で満ちてゆき、服の形になった。


「ありがとう」


「いいえ、このくらい」


私たちはゆっくりと地上に降りて行った。線上に、悲しい空気が充満していた。


私が着地すると、マリンがけだるそうに言った。


「おーい、その女なんか放っておいて、さっさと戦おうぜ? 私は戦いたくてうずうずしてるんだ」


「朔、咲夜ちゃん……」


「先輩、心配しないで。私がどうにかするわ」


とは言ったものの、私たちに勝算はなかった。どうするか考えていたら、背後から甲高い女の声が聞こえた。


「いいえ、そこまでよ、マリン」


「あ、プリン! 邪魔すんな!」


「誰!?」


振り向くと、そこには真っ白なドレスを着た顔色の悪い女が立っていた。


「ごきげんよう、神寺宮咲夜さん?」


まったく気配を感じなかった……。こいつもかなりの能力者?


「なぜ私の名を知ってるの」


「おやおや、ごめんあそばせ。私としたことが、名乗るのが遅れてしまいましたわ。わたくしの名はアイス・プリンセス。《影の封印者(シャドー・シーラー)》で幹部を務めておりますわ」


影の封印者(シャドー・シーラー)》の幹部? ってことは、マリンと同じ――。


「4人がかりで俺たちをつぶしに来たのか?」


 お兄ちゃんが厳かに口を開いた。マリン1人でも無理なのに、ここで2人だなんて――。


そのとき、ダグラさんが血相を変えてこっちに飛んできた。


「許さんぞ貴様ら……よくも俺の孫を……!!」


 ダグラさんの両手が震えていた。完全に冷静さを欠いている。でもプリンセスは全く動じていない。それにこの冷気――おそらく氷の能力者――。


なるほど、《冷徹》、か。


「ごきげんよう、神寺宮朔さん。今は中に妖精もいるのかしらね? そしてごきげんよう、ダグラさん?」


「貴様らまとめて。永遠の闇に葬ってやろう……!」


ダグラさんがすごむ。でもそれができないのは、本人が一番よく分かっているはずだ。


「いやですわね戦闘狂って。先ほどマリンに申しあげたように、戦闘はいったん打ち切りですわ」


プリンセスの言葉に、全員に緊張が走った。


「な、なぜだ……!」


「魔王様は、報酬を個人ごとに与えていますの。まあ私は何不自由ない生活をしていますから、物資には困っていないのですが……それで、みんながバラバラに戦うと、報酬の分配に困るらしいんですの。ですので日を改めて、――」


 日を改めて?


「私たち幹部とあなたたち、1対1で勝負していただきますわ」


「1対1――」


 プリンセスは、私たちの反応を楽しむように言った。


「多勢に無勢で戦っても、あなた方に勝ち目がないのはよくお分かりになったでしょう? これは、あなた方にとっても悪い条件ではないと思いますわ」


確かにプリンセスの言うとおりだ。1対1なら、私たちにも勝機はある。


「し、しかし!」


「おじいちゃん、落ち着いて。あっちの話を聞いてみよう」


 先輩がダグラさんをなだめた。その時、ニュクスとネクローも私たちのところにやってきた。ニュクスも致命傷を負っていた。両翼がボロボロだ。


「本当は、下っ端でもけしかけてあなた方を殲滅したいところなのですが、あなたの水の一派が下っ端たちをことごとく倒してしまったようなのでね」


 水の一派――ラギンが私たちの知らないところでそんなことを?


「こちらも長期戦をする体力は残っておりませんの。ちゃんとした舞台を設定して、叩き潰す。これでお互い文句はないはずです」


プリンセスが私たちを睨み付けた。冷たい殺気が、痛い。皮膚をえぐるみたいだ。


「俺たちが拒否したらどうする?」


「言っておきますけど、あなた方に拒否権はございませんわ。対戦カードも、魔王様がもう決定なさっているの。こほん、発表いたしますわ」


「第一試合、明日の早朝スタートです。私、アイス・プリンセス対神寺宮咲夜」


! 明日、私からのスタートか。


「第二試合、明後日ですわ。フェイク対ヘメラ」


「フェイク?」


「光の幹部ですわ。あ、そうそう、言い忘れていたのですが、同属性同士の戦いで、一日一試合ずつですわ」


ヘメラは戦闘能力は低い。1対1だと、不利かもしれない。


「第三試合、ニュクス対神寺宮朔」


「! 俺とニュクスだと!?」


「ま、例外もあるものですわ。実は《影の封印者》には、炎の能力者はおりませんの。ネクローがせっかく『新戦力』を導入してくださったのだし、私たちに対する忠誠を試すためにも、こうなったようですわ」


「待って! ニュクスは私たちの敵じゃあ――」


「次、第四試合、マリン対ラギン」


私の抗議は、いとも簡単に無視された。


「おっ、ついに私か!」


「次、第五試合、オータ対新垣なつみ」


「私は五日後か」


「そして最後は、ネクロー対そちらの『残っているメンバー』ですわ」


何やら、含みのある言い方だ。


「どういうことだ」


「だって最終日ですし、きっとそちらの人は『ほとんど死んでいる』でしょうからねえ」


「……」


プリンセスの余裕を持った言い方。こいつの強さ、ハッタリじゃない。


「それに、そちらの闇の戦力はこちらにあるんですから――妥当というところでしょう」


「……ニュクス……」


「以上ですわ。過密なスケジュールですけど、明日からお互い、がんばりましょうね」


 嫌味な奴……。


「それでは、ごきげんよう」


プリンセスがDTの空間を開いた。このまま逃がしてたまるか!


「待って!」


「何でしょう?」


「で、あんたらの親玉は何をしているの? この対戦カードだって、親玉が決めたんでしょう? だったら姿を現すのが筋ってものじゃないの?」


「……」


プリンセスは少し沈黙した後、口を開いた。


「魔王様はお忙しい方ですから。でも――」


プリンセスはそう言いながら、次元のはざまへと飛び込んだ。


「もしあなた方が私たちを倒したら、きっと魔王様は姿を現すでしょう――」


 こうして、プリンセス、ネクローは消えた。もちろん、ニュクスも。


「ニュクス――」


「心配するな、咲夜」


お兄ちゃんが私の肩に手を置いた。


「ニュクスは必ず俺が、助け出してやる」


「うん……」


 決戦の一週間が、始まる。


校正記録(2018.4.8)

・段落校正

・《》関係校正


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