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僕はヒーロー  作者: 緋色の石碑
第一章 そよ風がはこぶ冒険の物語
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第十話 特攻

「行くぜ! でやああぁぁぁぁ!」


黒マスクの男は、大鎌を具現化させ、私に飛びかかってきた。


「当たらないよん!」


けんぱ、けんぱ、けんけんぱ。軽快なリズムで敵の攻撃をかわしていく。でも、奴の全力はこんなものじゃないはずだ。


「これならどうだ!」


男は、姿勢を低くしたかと思うと、大鎌をそのまま私に向かって投げ飛ばした。


「うおっと!」


軌道を読み、ギリギリでかわす。あんな重たいものを軽々と投げ飛ばしてくるなんて。


「やるね!」


「そんな口をきく余裕がいつまであるかな!」


姿勢をそのままにして、高速移動。あの姿勢で動けるなんて、どういう神経してるわけ。


「速い!」


「くらえ! シャドーストライク!」


 私に向かって腕を伸ばすと、奴は容赦なく目を狙ってきた。暗黒の鋭い閃光が目に刺さりかける。


「疾風閃光弾!」


とっさに同系統の攻撃で相手の閃光を弾き返す。しかし、私の反応は遅すぎた。


「遅い!」


奴は思った以上に小柄なのだろうか。直立しても、両手が私の顎の位置に来ている。


顎?


 そう思った瞬間、強烈なアッパーを食らう。


「ぐはあっ」


だいぶ長い間空中に浮いたような気がする。うまく着地したかったが、バランスを崩して無様にこけたような姿勢になった。まだこの体の感覚に慣れていない。


「ぐっ……!」


「妖精と言うから、かなりのやり手かと期待していたが……大した強さじゃなさそうだな」


「いきなり女の子の目を狙うような奴だから――あんたは強いんでしょ」


「勝負の世界に男も女もない。殺すか、殺されるかさ」


「いいよ。まだ本気を出していないんでしょう? さっきの彼みたいに、ネクローから瞬間移動を教わってるはず。使いなよ」


 男は自信たっぷりに笑った。


「いいのか? 死期を早めるだけかもしれんぞ」


「ご心配なく。私は――もっと速くなれる」


 せっかくなつみからもらったこのエネルギー、めいっぱい使わないと損だよね! 速く――もっと速く!


**



「そうだ! さすがは風属性だな、速いじゃないか!」


**


 私は神寺宮炸人の言葉を思い出していた。そうだ、私は、速いんだ。


 英雄の、名にかけて!


 「俺の動きについてこれるかな?」


 男の姿が一瞬にして消えた。気配を感じることすらできない。でも。


「私は、瞬間を超える!」


「遅いんだよオォ!」


背後に、男の気配。先ほど投げた大鎌を振りかざす。


「あんたがね!」


「なにぃ!? 消えた!?」


 私は一瞬で姿を消し、奴の上をとった。


「こっちだよ」


「馬鹿な! 瞬間移動のスピードを超えるだと!?」


「私は風の妖精――信念を持って、あなたを倒します」


「や、やめろ……」


怯える男を無視し、私は回転を始めた。もっと、もっと、もっと!


「ぐっ、なんだこの強風は!?」


 私の回転力に呼応して、私を中心に大きな渦ができる。そしてそれを従えたまま、奴へと特攻する。


「はあああああああああああああああああああああああああああああああ!」


「ぐ、あんな衝撃をまともに受けたら……闇よ、俺を守れ!」


男がそう叫ぶと、奴の前方の空間を覆う大きなシールドができた。関係ない、貫通してみせるから。


「くらええええええええええええええええええ!」


 ガキン、という強烈な音が響いた。それと同時に、シールドにヒビが入ったのを確認する。


いける!


「勝負の世界に男も女もないって言ったよね。それと同じで、勝負の世界に人間も妖精もないのよ」


「ち、ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


「これが、フルパワー!」


 私は全身に力を込め、一閃を試みる。その瞬間、私の体が白く輝き始めた。


「え? ちょ――待って!」


「な、なんだ?」


「待って――でちゅ」


 あたちは、5歳の姿に戻ってしまったでちゅ。


**


 呼ばれたはいいけど、あんまりやることがなくて、ちらちらと銀太の姿を盗み見していた私だけど、突然、エアがつくった風のドームが決壊したから驚いた。


「なんだ、いきなり壊れたぞ」


「闘いが、終わったんだよ……たぶん」


安堵しかけた私たちを迎えたのは、幼女の泣き声だった。


「やばい、姿が戻ってる!」


「まさか、あれが翼の女か?」


「力を使いすぎたんだ! まずいよ」


「どうやら、風のパワーは時間制限つきだったらしいな! 首をかきとってやる!」


私は急いで黒マスクの男に向けてツルを伸ばす。距離が遠すぎて、届くのに時間がかかる。


「おい、間に合わないぞ!」


銀太の言う通りだ。これじゃあエアが殺されてしまう!


 ツルの先端が焼け焦げたのと、朔の姿を確認したのは、ほぼ同時だった。


「これ以上」


朔は限度を超えて燃え盛っている両手を無視し、男につかみかかった。


「これ以上――誰も傷つけさせはしない」


 私はその後姿を、遠い遠い昔にも見たような気がした。


 「ひぃ……」


そのまま男を空中に投げ飛ばすと、右手を大きく伸ばし、軸がぶれないように左手で右手首を固定する。


「バーンストライク!」


そう叫んだ瞬間、朔の右手からすさまじい炎が放射され、空中の男に直撃、跡形もなくなった。


「これが――炎の力」


朔がこちらに向き直る。やばい。私はそう確信した。


 「え、英雄しゃん……だめでち、落ち着くでちゅ」


「だから、俺がやると言ったんだ――余計なことをしたな、エア」


朔が辛辣に呟いた。エアは、うつむいて口をかたく結んだ。


「とりあえず銀太は無事なようだな、あと1匹はどうした」


語調が荒い。相当興奮している。自分の力を制御できていなさそうだ。


「逃げられたでちゅ」


ばつが悪そうにエアが申告すると、朔はもう一度エアのほうを向き、


「逃げられた?」


とエアの言葉を繰り返した。


「どこに逃げたんだ。まだ近くにいるんじゃないのか?」


「い、いや――たぶんネクローのところに行ったでちゅ。もうこの近くには――」


 エアが言い終わる前に、逃げたはずの男の気配を背後に感じた。


「やばい! 銀太!」


私の植物の壁は、銀太の前方しか守っていない。後ろからは丸腰と同じ状況だ。


「よくも、よくも仲間を殺しやがったなー!」


 振り向いてその姿を確認する。やはりあの男だ。銀太に向かってクナイのような黒くて短い武器を投げつける。


まただ、間に合わない!


 即座に朔が反応して、ジェット飛行で私たちのもとへ向かおうとする。その瞬間、朔の後ろに人影が見えた。


「がっ!? 誰だ、貴様は!」


両手両足を封じられているのだろうか。朔の動きが不自然な姿勢で止まった。


そして、朔の動きを止めた人物がこう言うのを、私は聞き逃さなかった。


 「だめだよ――お兄ちゃん」


**


 本当は、私が登場するのは第3段階になってからだったんだけど、ママの報告によると、いつまでたってもお兄ちゃんがまともに戦えないって言うから、ちょっと早めに私が出てきちゃいました。


「お前――咲夜なのか」


久々に聞くお兄ちゃんの声。私に縛られて、苦しい? 私は、楽しいよ。


「これ、外せよ! 何なんだ!」


「怒らない怒らない。これは氷で作った縄だよ。お兄ちゃんは手足を1ミリも動かすことができない」


「氷? 氷なら炎で!」


お兄ちゃんが力むけれど、私の縄はほどけない。


「だ~め~だ~よ~。溶かそうとしたって無駄。私の氷は、お兄ちゃんの炎より強力だから」


「馬鹿なこと言ってんじゃねえ! 銀太が殺される!」


「銀太先輩なら、平気だよ。ほらみてみ」


 銀太先輩の体は、予想通り、強力な水の壁に護られていた。


「計画通り、って感じかな」


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