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88話 瀬里沢邸 美味しいとこだけ丸かじり

ご覧頂ありがとうございます。

「つ、疲れた~。俺はもう動けねぇ」


「流石は明人、あれを瞬時に見切り避けるなど、並大抵の動きでは無い」


「ふん、それも込だろう? 石田よ。どうやらお前は随分と私達に隠している事が在りそうだな?」


「石田あんた、掠ったんじゃない? 額切れているわよ。それと宇隆さんの言う通り、さっきのアレ何だったのよ? あのバーンって頭がなっちゃう奴」


「ん……? 何か、落ちてる」


「いや~、助かったよ。これでもう終わりなんだよね? 流石にこれ以上の厄介事は勘弁して欲しいね!」


「「「お前が言うな(フッ)!!」」」


「ごめんごめん、だけど皆が無事で本当に良かったよ。仮に殺人事件なんて起きたら、今度はモデル雑誌じゃなく新聞の一面に僕の顔が載って、これ以上僕のファンが出来ちゃ困るからね」


 やれやれ、瀬里沢は相変わらず平常運転だな。

 まあ、そんな所が同志とやらにも受け入れられ、皆を纏めるリーダーになっていたんだろうけど、珠麗さんも孫の言動に若干呆れているようだ。

 秋山や黒川それに宇隆さんは勿論、静雄でさえ同じように苦笑いをしている。

 これも何とか伊周を倒し……そういえば黒川は何か見つけた様な事を言っていたけど、何が在ったんだろう?





 ……何が何だか良く分からないけど、真琴たちが件の幽霊を倒したみたいね。

 それにしても、皆色々と『変わった』何かを持っている。

 何故黒川さんと秋山さんは、あれだけ真琴と安永君の近くに居たのに襲われなかったのか? 安永君の拳が幽霊に当たると微かに燃えていた事、まだあるわ。

 石田君が右手を前に突き出した後で、その幽霊の頭が弾け飛んだ。

 いったい何をすれば、あんな事が手も触れずに出来るのか? 正直驚いたと同時に、あれが他の誰かに向けられた事を考えると背筋が寒くなった……。

 そんな事は起きないと思っても、『絶対』は起こりえない。

 私は些細な事でも人が他人を怨み、妬み、憎む事を事実として知っている。


 この先も今までの様に、警戒もせず笑顔で会話する自信が私には……「星ノ宮君? 今の君の様な人を、今までにも僕は見た事があるから言うけど。自分で檻を望んで囚われたら、もう、抜け出せないよ?」


「わ、私は……そう、私は石田君を『怖い』と思ったわ。どうして皆あんな安堵した笑顔になっているのか、分からなかったのよ? その私がどうやってあの輪の中に入れと言うの?」


「君はまだ落ち着いて感情的に成らず、思考する事が出来ている。だから、自分で選択できるんだ。君も多少不思議な事が出来るだろうけど、僕の見る限り『あの子』は飛び抜けて他人と違うのが分かる」


「それは、だけど菅原さんは怖くないの? 隣に居る人は武器も持たずに相手をあんな風にしてしまえるのよ?」


「先ず、あの子は魂の輝きからして『違う』んだよ。何をどのようにすればあんな輝きを放てる様になるのか分からないが、あれは視えるモノを惹きつけてやまない宝石の様なものさ。その畏れさえ惹きつける要因だが、良く思い出してごらん。本当に怖いのは武器を持った人かい? それとも武器そのものかい?」


 そう私は、私の大切な人があんな風になる事が怖い。そんな事を出来る武器も怖い。だけど、本当に怖いのはそんな物を簡単に他人に向けられる『心』を持つ人だ。


「……ありがとう。菅原さん、私はもう少しで大切な『仲間』に疑いを抱き敵意を持ったまま近寄り、勝手に嫌悪して受け入れられず、終いには今まで私を恐れた人と同じ様に、排除しようとする『モノ』になる所でした」


「僕がこうして言わなくても、自分で気が付けたとは思うけど。少しそう言うモノに長く触れてきた、年寄からのちょっとしたアドバイスさ。気にする必要はないよ? 誰しも人は理解できない物を一番恐れる。が、何事も相手を理解しようと思える心から色々始まる。その気持ちを大切ににしなくちゃね」


 菅原さんはそう締めくくると、とても嬉しそうな笑顔を私に向けてきた。

 この方も、誰かにそう思われ苦しんだ事が在るのだろうか? それなのにこうして人に笑顔を向けられるその心の強さに、私は少しだけ勇気を貰った気がする。

 大丈夫、きっと私もこの方の様に、笑顔で皆と向かい合えるわ。


「しかし、あの子はいったいどうやってあそこまでの輝きを持ったんだろうね? 僕は純粋に興味を持ったよ。それにあの風術の冴えは素晴らしいね、中々あのように力を操れる若者は、僕の生業とする業界には珍しい。是非ともお近づきになりたいものだ、それに僕が少しレクチャーしてあげれば、あの駄々漏れの輝きも押さえて、余計な物をあまり引き寄せない事も直ぐに可能になるよ。いや、本当に砂漠でダイヤモンドを見つけたどころか、油田でも見つけたように気分が高揚してくるね。いっそ、僕があの力をもっと引き伸ばしてあげて……そうだ養子に迎えて、僕の義理の息子になって貰い菅原の姓を名乗らせるのも良いよね? うんうん、これはとてもいい考えに違いない。実はね僕には娘が一人いるんだけど、この娘が酷いんだよ? ちょっと修行をキツクして、反抗し言う事を聞かなければ、人様に間違えてその力を振ったら危険だからね、その反抗心を折るのに縛り上げて滝に突き落したり、随分と心を鬼にして色々やったらさ、逆切れして人に向けちゃいけないってあれほど言った術を師匠であり親である僕に向かって放ったんだよ? その時のお蔭で暫く体を動かせなくなり結局仕事を二件もキャンセルしたせいで、頭を下げなくちゃいけなかったし、同じ生業の人から、見合いしてみないかと言われて十分にセッティングしたのに、相手の息子さんを半殺しにした挙句、見合いに使った料亭の部屋まで壊したせいで、かなり肩身の狭い思いまでして、もうね泣いても良い? それと……」


 ……箍が外れたと言うか、視線は一点を見つめたままで物凄いお喋り。

 菅原さんも、色々と抱え込んでいらっしゃるのね。特にその娘さんの事が大半だと思うけれど、随分と嫌われているご様子。いったいどのようにすれば、そんな女性になるのか親御さんの……はぁ。


「もう、あちらに行っても大丈夫の様ですし。積もる話は後でも宜しいですよね?」


「あ、これはすまない。ちょっと僕も興奮してしまったみたいだ、これはちょっと恥ずかしい所を見せてしまった。すまないね、それじゃあ……うん?」





「安永君、少し座って休んだら? 胴着も切れているし痛そう。宇隆さんも腕大丈夫だった? そのトンファーだったっけ? 壊れちゃってるけど、怪我は無い?」


 余裕のある秋山は静雄と宇隆さんの手当て? を始め座らせて色々診ているようだ。黒川は伊周の消えた辺りをカメラで写している、もうお前ら二人は好きにしやがれ!

 俺は瀬里沢の手を借り、上半身だけをゆっくり起こすと最後に投げつけられた刀が崩れていないので、手に取ろうとしたが珠麗さんに話しかけられ止められた。


「お待ちになって、その刀ですけど先程話していた守弘さんの持っていた刀に違いありません。鞘も一緒に在ったはずですけど……」


「ん、きっとこれ。だけど割れて砕けてる」


 刀に手を伸ばすのを止め、黒川が手に持ったそれをよく見えるように持ち上げてくれたのだが、見事に先端がボロボロに崩れ、中央には拳の跡……。

 もしかしなくても、伊周の体を形作っていたのはこの鞘だったのか? そうなると俺は視線を刀に移し、『窓』を開いてその情報を読み取る。


 結果は予想通り、真っ黒だった。

 どうやら伊周の言った様に、瀬里沢の家を守護と言うのは本当らしいが、今の時代にははっきり言って必要のない守護で、力での解決と子孫を残させ必ず男子二名が生まれるように『調整』してきたらしく、長男がある程度育った時点で、次男に『憑りつき』食う事で継続し契約の延長を行っていたようだ。

 珠麗さんが伊周と面識が在ったのは、生前旦那である守弘さんの弟として在っていたんだろう。

 だが、食う段階でその刀で倒されることで、一度封印され力を蓄えつつ眠っていたが、二カ月前の陰干しの際元所有者の守弘さんは既に亡くなっていた。

 しかも受け継ぐ所有者を指定して無かったので、偶然珠麗さんの血を受けた事で覚醒し徐々にその封印を解き、護身刀に宿っていた守弘さんをも取り込み、更に力を増しこうして仮の肉体を持つ様にまでなったらしい。


 最終的には珠麗さんを食い実体を持つ気だったのか……。

 今も刀には戻ったが、触った物を操ろうと所謂『死んだふり』をして、俺や他の誰かが触れるのを狙っているに違いない。

 どうやら、あの鞘が在れば触っても大丈夫だったらしいのだが、壊れちまってるしどうしよう?


「これが御婆ちゃんの言っていた、御爺ちゃんの刀なんだね? 伊周さんって確か事故で死んだって言う、御爺ちゃんの弟さんだったよね。昔写真を見せて貰いながら話を聞いた事が在るよ、とても強い尊敬できる男だったって」


 そう言って、瀬里沢は感慨深そうに喋りながら刀を拾い上げた。


「あっ! このバカっ! 珠麗さんが触るの止めたって言うのに!!」


「がああああああ!?」


「「えっ!?」」


「むっ!」


「おバカ」


 皆瀬里沢の話を聞いていただけに、止めようがなく刀はあっさりと餌を手に入れる事に成功した。


《クカカカッ! 儂は滅びぬ! 小僧今度こそ貴様を食ろうてやるわ!》


 カクカクとまだ支配が行き届いてないのか、微妙な動きをする瀬里沢に自分を確りと握らせた奴は、俺に刀を向けてそう言い放ち瀬里沢の顔で、あの嫌らしい笑いを見せる。

 なので俺も奴に向かって思いっきりニカッと笑みを見せてやった。


「明人! くそっ距離が!!」


「石田! 腕を犠牲にしても何としても逃げろ!」


「ちょっと! 何であんた笑ってんのよ! 逃げなさいよ!」


「きっと大丈夫」


《小僧何の真似だ? 諦めて食われる覚悟を決めたか? 腕で防げるものなら防いで見せるが良い。そのまま半分にしてくれるわ! 何なら最期くらい何か寝言でも言ってみるか? うん?》


「珠麗さん、あの刀俺が貰って良いですか?」


「えっ!? ええ?」


「んじゃ残念だったな伊周さん、いや『藤原伊周』の刀さんよ。トレード開始!」


 俺がそう呟き、『所有者』の無い刀は俺の『窓』の空いた枠の一つに確り収まると決定ボタンを押すことで、正式に俺の『所有物』になった。

 きっと、皆は突然復活した伊周が一瞬で俺に消されたように見えただろう。

 もっと早くあの刀が出ていれば、こんなに苦労する事も無かったのだが、それは思っても仕方が無い事か……。

 皆が必死な表情を浮かべる中、黒川だけは俺の方を見てニヤッと笑う。

 お前には一度見せてるし前は誤魔化せたが、これがただの『手品』では無いと完全に気が付かれたに違いない。参ったな。


つづく

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