87話 瀬里沢邸 強者の驕り
ご覧頂ありがとうございます。
※残酷な表現がありますので、気になる方は読まない事をお勧めします。
「ふっ、どうやらあの『お呪い』とやらの効果が在ったようだな!」
「ふん!」
《おのっれ、くっ、があああああ!》
伊周の怒りの籠った声が頭に響いてくるが、テレパシーに近いものなら何故攻撃貰ったくらいで途切れるのか良く分からんが、兎に角静雄と宇隆さんのラッシュが入る。
おお! また良い所に入った! 二人の攻撃も凄いが幽霊って塩で燃えるのか? 秋山の奴良くあんな物手に入れて来たもんだ……。
お蔭で宇隆さんの一撃が綺麗にめり込んでたけど、何で伊周の奴は透過しないで食らったんだ? 本当にあれを玩具と舐めきって食らっていたなら、救えない相当のアホだな。
秋山の奴を褒めてやりたいとは思うが、何故に俺に請求書が回って来るんだよ! まったく黒川よもっと言ってやりなさい。
だいたい必要経費ってなら、稼いでいる瀬里沢にもってけよ。
何とか二人の猛攻を捌いていた体勢が崩れ、回避ができて無い伊周を畳みかけるように、更に二、三と続けて宇隆さんのトンファーがヒットし、合わせて静雄の拳も入っていた。
何か、このまま倒しちまいそうだな、いいぞ! もっとやれー!
それを見つめる珠麗さんは、どこか複雑な表情を浮かべていたが、俺の質問に答えるべく口を開いた。
「二カ月間、と聞かれても思い付くのは本当に掃除と陰干しくらいしか……」
「奴は何かが原因で封印が解けた筈なんだ。丁度時期が重なるのは、話に聞いたそれしか思い当たらないんだよ。何か変わった物や起きた事……ほら何か落として壊したとか、破いたとか切ったとか色々在るだろ?」
「別に壊した物など在りませんが……、変わった物と言えば包みに入っていた守弘さんが持っていた刀を見つけたくらいでしょうか」
「刀か、それ以外に何か思い当たる物は?」
「あれは、研ぎに出そうかと孝明さんと話した時に、中々鞘から抜けずちょっと手を切りましたが、それ以外の物は珠世や須美さんに聞いてみない事には……」
前方で繰り広げられる攻防を見つめながら、珠麗さんはそう答えてくれた。
印象に残っている手掛かりとしちゃその刀が十分怪しいのだが、それだけで決めつけるのはまだ早い。
その件の刀を見つけて、俺の『窓』を使えば確証は得られる筈だ。
結局伊周を如何にかしない事には身動きが取れないし、須美さんに会うのも瀬里沢の両親に確かめるのも、どちらをするにも先ずはここを抜け出すのが先決。
このまま二人が奴を倒し切ってくれると、非常に楽なんだけどな。
「珠麗さん、その研ぎに出そうとしていた刀って今どこに?」
「確か鞘に仕舞い孝明さんに預けてそれから……」
カンッ ガキンッ
「うあっ!」
「むぅ!」
《真逆あのような物に儂が不覚を取るとは……この痛み、貴様らを屠り駒などにせず魂も喰らい尽し、存分に晴らして進ぜようぞ!!》
「逆切れ恥ずかしい。大人気ない」
「うんうん、舞ちゃんの言う通りね。勝手に油断しただけの癖に、それを私達のせいにして怒るだなんて、図体だけ大きいただのガキよ」
《先程から女子の声がするが、どこに居る! 隠れていようが必ず見つけ出し、その腸引きずり出し良く動く舌を切り落とし、最期は己の臓物を咥えさせ、その口を封じてくれよう!!》
「ヒィ! そ、その辺で止めておいた方が、あまり怒らせないでくれたまえ」
確かに黒川と秋山の言い分には賛同するが、お前ら毒舌炸裂だな。
伊周の怒り顔に益々皺が寄り、口からは文字通り気炎を吐き出し凄い形相になって、写真で見た仁王像を彷彿させる。
瀬里沢の奴の言うように、怒らせすぎると見境無くなって危ねぇ。
人って奴は、往々にして図星を突かれると相応に悔しいし、相手を逆恨みする原因にもなる。
まあそのお蔭で、目の前で静雄と宇隆さんの二人が反撃され隙だらけなのに、怒りのせいか構うことなく秋山と黒川の毒舌コンビを探しているようだ。
……もしかして奴には二人が見えて無い?
これは好都合だ、静雄と宇隆さんが離れた今が使い時!
俺は風の要素を前に放った以上に力を込めて、新たに練りその回転を上げた。
《があああああああああ!》
怒りのせいか行き成り叫んだ伊周は、右腕に力を込め震わせる。
そうすると右腕が肘の手前から裂け、中から一本の刀が肉を割ってせり出すと奴はニヤリと笑って左手の刀を静雄に、右腕の刀身は奇妙な輝きを放ちながらそのまま宇隆さんに振り下される。
その異様な光景を見て受ける姿勢で居た静雄と宇隆さんは、咄嗟に更に下がった様に見えた。
その為、伊周は腕を振りぬいた今動きが完全に止まって良い的だ! 喰らえ!
ッキン ゴトッ
「っ!? 特殊合金の斬鉄まで出来るのか!」
《カカカッ! 咄嗟に下がったお蔭で何とか防いだか、おしいおしい。もう少しで腕諸共断ち斬ってやれたものを、だがそれも……次で終いぞ!》
伊周は右腕の刀を再度構えるとその刀身が怪しく輝くが、俺の方が速い!
「アフ=カ・アーフ!!」
《なっ!?》
避けきれて無かったのか、伊周の放った斬撃は宇隆さんの持つトンファーを切り落としはしたが、追撃を放つ構えが隙を生み出し放たれた風の要素が直撃する。
俺の放った渾身の風の要素でできた刃が、此方を向いた伊周の頭に命中し、それを果物がジューサーに入れられた様に粉微塵に掻き雑ぜ、辺りに巻き散らせた。
うげっ、狙ったのは怪しい輝きをしだした刀を持つ右腕だったのに、ズレたせいで奴の頭をグズグズに飛び散らす。
生身では無い分肉片や血みどろの惨状ではないが、自分がやった事とは言え見てて『えぐい』ものがある。
当然(?)ながら、伊周は床に倒れ乾いた音を立てその動きを止めた。
風の要素は流石にもう打ち止めっぽい。
手と足の先の感覚が冷え切って麻痺したように鈍く感じられ、酷く怠く軽い頭痛がし立っているので精いっぱいだ。
「終わった……のか?」
「なっ!? いったい今何が起こったというのだ!?」
「いやーーっ! って何これ! ええっ!? ちょっと今の掛け声からすると石田、もしかしてあんたが殺ったの!?」
「……(じー)」
「うわっ、石田君も随分えげつない事を……」
ははっ、もうどうにでもなりやがれ。
くそっ、なんか秋山の奴アレを見て顔を顰めていたのに、俺の方を見直すと微妙にニヤニヤして腹が立つ。
俺だってこんな厨二病みたいな事叫びたくねぇよ! あと黒川、お前やたら視線がギラギラしていて怖い。
真面なのは静雄と宇隆さんくらいで、瀬里沢は俺らが助けに来た事忘れてないか? その声には呆れている節を感じるぞ?
流石の奴も、こうして頭を吹き飛ばされちゃもう動けんだろ。
《……侮り、いや奢っていた。やはり一番の邪魔は貴様だったか》
「ちょっ、まだ動けるのかよ!! て言うかどこで喋ってるんだ!?」
「せいっ!」
「なっ!?」
「うっわー……」
「……(コクコク)」
「変身中と話している間は、攻撃しないのがセオリー。じゃないかな安永君?」
静雄の放った止めに、皆唖然として感想を漏らす。
まだ動けた様子の伊周の体は、静雄の止めの拳で穴が開き崩壊し始めた……。
だが、右腕から出てきていた刀が浮き上がり、その刀身の切っ先が俺に向くのと体を支える力が膝から抜けるのが、ほぼ同時だった。
《最後のこの一撃、貴様だけでも取り込めれば儂の勝ちよ!》
あっ俺、死んだ。
……と思ったけど、宙を飛び迫るその刀を見たが、それを避ける事も無く体に届く前に倒れたお蔭で、俺の後ろに在った大理石でできた像に刺さると、カタカタと震え少しずつ抜け落ちる。
ガシャリと音を立てて俺の額を叩き、小さな切り傷を負わすのを最後にその動きを止めた。
「痛っ!」
伊周の奴本当に宣言通りに最後の最期に俺に対し一撃を放ったのだ。
力を使い果たしたのか、それとも単に静雄の拳が致命傷だったのか分からないが、もうあの声は聞こえてくる事は無く、刀身も先程みた輝きを失い所々錆の浮く古い骨董品の様になっていた。
つづく




