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84話 瀬里沢邸 初手

ご覧頂ありがとうございます。

 ガシャン


 うん、確実に今の蹴りで何か壊れた。

 集中しようとしたのに、行き成り気が削がれる……。


「い、石田君? 何も無理に壊す必要は無いんだよ? 流石に何でもかんでも壊すのは……」


「ばっか、ちげーよ足場作らないと躓いて転んだあげく、アレを避けそこなったらどうすんだよ! 無理にじゃ無いの! 必要な措置!」


「……お前ら、集中しろ」


 ほら静雄に怒られた。瀬里沢の奴め壺の一つや二つ、さっき『命を大事に』って作戦立てたのに聞いてなかったのか? おっといかん、風の集中が途切れる。

 俺は深呼吸して、右手の指先を構え意識を研ぎ澄ます。

 静まった様子を確認したのか、一瞬静雄が首を動かした気がした。


「明人、さっき蹴飛ばした箱だが文字通りの物だとしたら、景徳鎮の壺だぞ」


「へっ?」


「……その壺を譲って下さった方は、もういらっしゃいませんし。飾る事も最近は在りませんでしたから、どうぞ御気に為さらず」


 景徳鎮、名前くらいは聞いた事あるけどそんなに価値ある物だったのか~って、珠麗さんその言い方はズルいよっ! 何か思い出の遺品みたいでしょ!?

 その辺の物が全部お宝に見えてきた、俺は絶対に『窓』で確かめたりなんかしないんだからね!


 悪意のある余裕とでも言うべきか、アレは踏み込んでは来ないで此方の様子を窺っているようだ。

 相手の持つ刀の長さは、大体教室にあった長い六十センチ定規より少し長い程度だが、相手の腕の長さを含めると中々にその攻撃範囲は広い。

 もっとここが狭ければ、振り回すのも困難だろうけど今動ける範囲での影響力は測った様に御誂え向きだった。

 実はこれも、相手の望む展開に誘導されていた結果なのだとしたら……。


 ゴクリ


 緊張感が高まり瀬里沢なのか、それとも自分が唾を呑み込んだ音なのか、既に分からないがやけに大きく耳に響く。

 だが、踏み込みの速さで言えば静雄も目を見張るものがある。

 懐に潜り込めれば、静雄の方が有利な筈。

 静雄もそれが分かっているのでジリジリと動き、アレの隙を伺うが合わせる様に体の向きを変えられ、中々踏み込めず対峙したままだ。


 いつでも抜刀できる相手の前に戦意を保つ、これはいくら静雄でも精神力を削られるだろう。

 やはり、隙を作るには俺が先手を打つしかない。

 俺の中で回転を上げる風の要素を指先に止め、十分に練ったそれをアレに向け撃ちだした。


「アフ=カ・アーフ!」


 叫んだと同時に耳に残る甲高い音を出し、見えない刃が空気を切り裂く。

 狙い通りに飛んだことで気が緩む俺と違い、静雄は俺の動きを見なくとも合わせたように鋭く踏み込んでいった。

 アレも少しは俺に当然ながら注意は払っていたようで、放った風は生憎躱されたけど、その抜刀を封じた結果静雄の踏み込みは成功し、その懐に潜り込んだ。

 ただの素手なら大した威力も無いだろうが、今の静雄は謎な鎖編み込み手袋にグローブを装備している。

 効果は間違いなく在る筈で兎に角当てる事を重視したのか、その拳の軌道は最小限の動きを辿り、振りかぶる余裕が無い分あまり加速力は足されてない。


「凄い当たったよ!!」


 後ろに居た瀬里沢が、興奮してそう声を上げる。

 まだ始まったばかりだが、初手はこっちが奪った。





「ふん、それにしても次期当主であらせられる奏様が、このような場所に真逆ご学友の為に自ら来られたのですか? 随分と『親しい』間柄なのでしょうな、先程名を上げていた者を助けに態々御出でに来るくらいですし……。いったいどのような『仲間』なのか是非ともお教え願いたいものですな」


「それは……、高野宮の叔父様には関係の無い事でございましょう? 逆に訊ねますがそもそも高野宮の叔父様は何故ここに? 麓谷の事は本家の領分で分家の方が来る予定は無かった筈ですよね?」


 さっきまでの気軽な片鱗は全く消え失せた高野宮武弘と名乗った派手な小父さんは、どうも星ノ宮さんとは因縁めいたモノが在るみたい。

 どっちも放つその剣呑な雰囲気が漏れていて、これ以上私の精神を削るのは止めて貰いたいわ。

 舞ちゃんもどこか居心地の悪そうな顔をして、菅原さんの傍に行っちゃうしどうせならこっちに来て欲しかったな。

 宇隆さんもしかめっ面であの派手派手小父さんを睨むし、もうさっさと石田と安永君の所に行っちゃおうかしら?


 けど、どうして舞ちゃんしかお勧めしない何て言うのかな?

 それだと中へ助けに行けないんだけど、私だってただ策も無く無謀に突っ込む訳じゃ無い。

 秘密兵器の一つくらいは、ちゃんと用意して持ってきたんだからね!


「あ~おほん。君達の確執は如何ともし難いのはある程度知っているけど、ここで言い争うのは無意味だよ? 寧ろ騒ぐなら本気で邪魔だから帰ってくれないかな? それとも『たかちん』は僕の言う事が聞けないのかな? ん?」


「「「「たかちん(えっ)?」」」」


「ばっ! なぁあっ!? ぼっ、ぼかぁ別にそんな心算は無いんだよ。そう、ちょっとこの暑さにイライラしてしまい、真に申し訳なく思う所存です。その、菅原君? 邪魔しちゃ悪いし車に戻って待っているから、気の済むまでお好きどうぞ……はぁ」


 とぼとぼと派手派手小父さんは車のドアを開けて、中へ入って行ったので表情は見えなかったけど、確り溜息は聞こえてましたよ~?

 いったい『たかちん』とはどんな弱……友情で菅原さんは手綱を握っているのか、少し興味が湧いたわ。

 毒気を抜かれたのか、星ノ宮さんも宇隆さんもあの険しい表情を消してポカンとしている。……二人のこんな表情ってかなりレアよね。

 舞ちゃんの持っていたデジカメに撮って……もう写してたの。

 何だか急に逞しくなっちゃって、いったい何があったのかしら?


「さ、静かに成った事だし三度目の正直って、言った人は何故三度目は成功するなんて思ったんだろうね?」


「……」


 特に誰も返事を出来ず、菅原さんは懐に手をやりまた紙を取り出すと、「行け」と呟きそれを宙へ放った。

 どう言う原理なのか、とても興味があるけどやっぱり糸も何も見えない。

 だけどそれは、同じ軌跡を辿らず今度は門の中へと飛び込んでいく。

 それを見た星ノ宮さんと宇隆さんは、二人仲良く固まっていた。

 本当に頼りになる『助っ人』さんだ、舞ちゃんは何処でこんな人と知り合いになったんだろう? これが終わったら絶対一杯お喋りだ!


「私も行く。大丈夫?」


「ん? ああそうだったね。じゃあ……痛っ、抜くより切れば良かった。こうして、ここをこうやって……。うん、舞ちゃんこれを持って行くといいよ。本当なら僕も一緒に行きたい所だけど、ここからちょっと動けないんだ。済まないね」


 舞ちゃんがそう訊ねると、菅原さんは髪の毛を何本か抜いて器用に紙に編んでそれを渡す。

 確かにあれはちょっと痛そうだった、分かっていれば切ってあげたのに。

 って、舞ちゃん一人で行かせるの!? ダメダメ私も行く!!


「はいはい! 私も行きます! 舞ちゃんだけで行かせるなんて、天地神明もダメって言うに決まってます」


「あのね、これ以上僕も余計な毛は抜きたくないの。そろそろデリケートな年なんだから、毛根にダメージはちょっとね。うーん……困ったねぇ」


「な、ならば私が秋山と行こう。黒川は平気なのだろう? さっきは良く分からず聞き分けなく無礼をした。が、あの高野宮様を『たかちん』などと、呼ぶとは思いもしませんでした。胸が空く思いです」


「いや、だからね。確認するけど君は多少縁が在るのだろうけど、その相手を守るのに『死ねる』かい? 僕が止めるのも、こうして聞いているのもそういう事なんだよ? 僕は偶然とは言え舞ちゃんをある意味『煽った』責任もあるからこうして『助っ人』もしているんだ」


「良いわ、私が許します。真琴、先程の貴女の失態を取り戻して見せて、それが出来るまでは私はここに残ります。私の代わりも含め、確りその役目果たしてきなさい」


 さっきの話だと星ノ宮さんの従者として、宇隆さんは一緒に居るのだから離れるのは不味い。だけどここから動かず安全だから、『代わりに』って星ノ宮さんも素直じゃないんだから。

 本当は一緒に行きたいと思うけど、ここで星ノ宮さんまで行くって言えば、絶対この話は流れちゃう。ごめんね、そしてありがとう星ノ宮さん。

 そう心の中で感謝していると、舞ちゃんが菅原さんの着物を引っ張った。


「……嘘はダメ」


「はぁ、舞ちゃんには参ったな……分かった。宇隆さんが自分の身は自分で護れると言うなら、それ貸して貰えるかな? なあにちょっとした、お呪いって奴だよ。秋山さんは舞ちゃんと手を繋ぐこと、だけど決して離してはいけないよ? これが約束出来るなら、いいよ」


 私と舞ちゃんそれに宇隆さんは顔を見合わせ頷くと元気よく「はい!」と答える。

 菅原さんは、そんな私達に目を細めて扇子で仰ぎながら笑みを浮かべ、星ノ宮さんも私達の目を見て頷くと「行ってらっしゃい」と言ってくれた。

 待ってなさい石田、安永君を助けに私達も今度こそそっちに行くわよ!


つづく


12/27 修正しました。なので静雄君は抜く間も与えず、接敵に成功。

 理由としては幽霊さん、刀をまだ“抜いてない”のに『切っ先を向ける』ってどうやって? と言う理由からです。

 読み返して『やっちゃった』って思いました(爆)。

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