77話 瀬里沢邸 倉前
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“死人”もとい、元瀬里沢の爺さん(?)の“幽霊”は俺に右腕を風の要素によって千切られ、その動きを止めるとこちらを睨む……と言っても、目玉は無く空っぽの虚となった眼窩で顔を向けているだけだが、相変わらず目玉の無い顔ってのは不気味で仕方ない。
俺の風の要素は集中して狙って放っても、かなり見当違いのズレた箇所に当たったので、やはり距離を取って使う場合は“幽霊”の近くに他の誰かが居ない時じゃないと、誤って誤射する可能性が大だな。
うっかり静雄にでも当てようものなら、俺の運命はそこで終わるだろう。
ぶっつけ本番で使う前に、試し撃ちして良かったかも。
そう思いながら瀬里沢の親父を肩に担ぎあげる静雄をチラッと見ると、俺の方を驚いた表情で見ていたが、その瞳はとてもキラキラとしていて悪いが静雄の面には似合わん。
「うーん、命中精度はイマイチっと。静雄の言葉を借りるなら要精進って所か? 静雄、奴の動きが止まった今の内に一端引くぞ」
「うむ、了解した。それにしても明人の言っていた“当て”とは“気”を使った《遠当て》の事だったのか!」
「えっ? いや~何だろ、まあそれは後で追々。今は分が悪いし逃げの一手だ」
何と言っても瀬里沢の親父が、またいつ起き上がり襲ってくるか分からないし、仮に“幽霊”と対峙している間余計な注意を向けるのも、放置していて突然不意を突かれるのも面倒だ。
やはり一対一になるよりは、どうせなら二対一の状況に持ち込み少しでも有利な条件で対峙したい。
静雄にはああ言ったのは良いが、そんなに瀬里沢の屋敷の中に詳しい訳でも無いから、行くとしても知っている所と言えば、瀬里沢の婆さんの部屋と夕飯を御馳走になった食堂、後は倉を改造した瀬里沢の部屋くらいしかないんだけど、少しでも距離を稼ぎたい為一番の離れに向かう。
廊下で動きを止めている“幽霊”を置いて、頭に浮かんだ場所へ俺は先頭に立ち静雄と広い庭に降りて、一番頑丈そうな瀬里沢の部屋へと移動する事にした。
四十秒程走り、庭の池を大きく迂回して瀬里沢の部屋である倉の近くまで来て、生い茂る庭木に身を潜ませながら息を整える。
静雄は荷物(瀬里沢父)まで背負っているのに余裕そうだが、俺は自慢じゃないが帰宅部故。緊張する中走ったせいか持久力が全然持たなく、肩で息をしてゼエハアと息切れ中だ。
そう言えば右手に持つ携帯から秋山の声が聞こえなくなったけど、もしかして電波が切れた?
「フッフッ、もしもし、ス~ハァー、秋山、おい聞こえるか?」
「……」
そう声をかけたが、返事は無く液晶画面を確認すると通話中にはなっているので、一応はまだ繋がってるようだが、はて? 秋山の奴は何をしているんだ? よく分からないが今は置いとくか。
「明人、息は整ったか? 瀬里沢の部屋までもう直ぐだが、誰も居なければ次はどこに行く? 一度瀬里沢の父親を屋敷の外に出すことも手だとは思うが」
「屋敷の外に出すのもいいけど、縄かロープそれかガムテープでも使ってそれで体の自由を奪っておかないと、安心して放置は出来ないかな。事情を話して須美さんに預けるにしても暴れられたら不味いだろ」
静雄の話を聞いて俺の考えを口にしながら瀬里沢の部屋へと移動する。
仮に黒川が先に屋敷に入っていたとして、逃げ隠れるとしたら一番確率の高いのはここだと思う。
昨日来た時も一人だけロフトに登り、心なしか楽しそうにしていたような気がしたし、効果が減ってはいたが例の御札もここに在ったので、黒川もそれくらいは覚えていた筈だ。
そう期待しながら倉の前に来て思いもしなかったが、ある意味出会うべくしてその相手と入口前で再会した……。
「やれやれ、その様子だとお嬢ちゃんは小父さんの言う事を聞いてはくれないようだ」
「ごめんなさい」
「いや、謝らないでいいさ。ただね、このままお嬢ちゃんを一人であの先へ行かせたとなれば、僕は娘に顔向けできないからね。勝手に後ろを着いて行かせてもらうよ」
それはダメっと言おうとして、小父さんの悪戯っ子みたいな顔を見て諦めた。
あのニヤッとした顔は何を言っても絶対着いてくるに違いない。
元々無理をするつもりも無いので、ある程度写真を取ったら石田君に連絡をして返事を待つつもりだったし、まだ高い位置にある太陽を見て一つ溜息を吐くと、ベンチから立ち上がり小父さんに向かってこう言う。
「ありがとう」
「フフ。ではお嬢ちゃん、小父さんはどこへなりともご一緒しよう」
最初私がもっと反対すると思ったのか、不敵な笑みを浮かべていた小父さんは私がお礼を言うと、とても朗らかな笑顔でそう答えた。
その笑顔を見て、私は私の父さんの顔を心の中で思い浮かべる。
――行先は予想通り瀬里沢先輩の屋敷へ向かう中、所々で物が壊されていた。
それをデジカメで撮影していきながら進み、もう少しで屋敷と言うところで茜ちゃん……まだそう呼ぶには少し気恥ずかしさが勝ってしまう、なので今はまだ秋山さんと呼ぶ友人から、携帯電話に着信が届く。
この着信音は石田君と安永君を除いた、仲間の女子三人だけに秋山さんが教えてくれた電話から掛かってきている音。
昨日の夜から今朝まで喋っていたから疲れて眠って、今起きた所なのかな?
立ち止まり小父さんに断ってから、電話を取る。
「もしも「あっ! 繋がったわ~良かった。ねえ、舞ちゃん今何処!! 無事よね? 瀬里沢さんの所になんて行ってないよね?」……うん」
「それが聞けて安心したわ。石田の奴、電話口で舞ちゃんが昨日の“幽霊”の足跡を追って、瀬里沢さんの屋敷の中に居るかも知れないって、騒いでいたからとっても心配したのよ」
「石田君が私の事を? どうして私が屋敷の中に?」
「あのバカ、安永君を巻き込んで昨日の“幽霊”を退治しに、瀬里沢さんの屋敷に入って行ったのよ。アレだけ怖い思いをした癖に……本当二人ともお人好しのバカよね」
秋山さんはそう呆れて言いながらも、その声からは信頼と心配それに何だかとっても優しい響きを感じた。
やっぱり私の思った通り、石田君達は瀬里沢先輩を助けに行ったんだ。
何だかんだ言いながらも、結局彼や私の仲間は困った人を見捨てたりしない。
それがとても誇らしく嬉しさが込み上げていると、隣から「やれやれ」と呟きが聞こえる。
「どうやら困った事になりそうだね。盗み聞きした訳ではないけど、お嬢ちゃん達の会話が耳に届いてしまったよ。その“幽霊”とやらの話、詳しく聞かせて貰えるかな?」
私がその言葉に驚いて小父さんを見上げると、先程私に見せた笑顔はそこに無く雰囲気が変わり、全くの別人と入れ代ったかのような厳しい視線を私に向けてきた。
その視線には咎めるような物は感じないけど、少しの怒りを感じる。
私はその視線に耐えかねて口を閉じ、コクリと頷くと小父さんは扇いでいた扇子を閉じて懐から『紙』を取り出すと宙に投げ、一言「行け」と言うとその『紙』は意思を持った生き物の様に飛んで行く。
「昼間から“幽霊退治”とは、言われてみると妙だが面白い。ただ、お嬢ちゃんと同じような学生さんには、自動販売機を真っ二つにするような相手は無謀じゃないかな?」
たった今、目の前で起きた事に驚き息をするのも忘れていたが、人助けをする彼らに浮かれた私の心に冷水を掛けられた気分になる。でも、他人から見ればどう考えても無茶な事だと言われれば否定する要素は見つからなく、私は知っている範囲の事をこの不思議な力を持った小父さんに話た。
つづく




