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76話 瀬里沢邸 廊下

ご覧頂ありがとうございます。

 片手には瀬里沢の携帯を持ち耳に当てながら、もう片方の手でスマホを弄るが浅く斬られた肩がじくじくと痛む。


 ぎこちない動きで操作を続けてもやはり電源は入らず、秋山が連絡を取ろうと電話をしても反応が無かったのは、俺達がこの屋敷に踏み入れたのが原因ではないかと思う。

 それも単なる勘でしかないのだが、あながち間違いではないだろうと推測する。

 そうやって俺と秋山が携帯で騒いでいると、倒れた瀬里沢の親父の様子を窺っていた静雄が、何かあったのか急に俺に声をかけて来る。


「明人、これを見ろ。昨日お前が言っていた話は、この事じゃないか?」


「俺の言った事って? ……うわっマジか」


 俺に静雄が示した物は、瀬里沢の親父が持っていた刀の事だったのだが、それが急速に早回しの様にボロボロになり、昨日見た“幽霊”の時と同じ様に跡形も無く崩れ去った。

 その動きに連動するかのように、痙攣したままだった瀬里沢の親父はクタッと頭を床につけると、その動きを止める。


「さっきの天井に張り付き、強襲してきた技は並じゃない。あの動きは手に握られた刀だったモノから何某かの“チカラ”を受けていたと見るのが正解か? 確か星ノ宮も会場で会った際、宇隆がそれを防いだとか言ってたが、よく守れたものだ」


「ん~ああ見えて、宇隆さんも何かしらの護身術でも身に着けているのかもな。なんせ常に一緒に居るだろあの人? 星ノ宮も結構なお嬢様らしいしな」


 うん、そう考えるとお似合いの主従だよな。まさに姫と武士って感じか?

 もっとも星ノ宮は姫っていうよりか、女王様とか魔女って感じだけどな。

 自分で言って置いてなんだが……似合いすぎて洒落に成らん。


「それにしても明人が襲われるまで、俺が気配を探る事が出来ずに不意を突かれたのも、瀬里沢の父親が殺意を全く放って無かった事が原因だな」


「その気配と言うか俺も昨日みたいな明確な殺意のある威圧感と言うか、全然感じなかったから大丈夫と思ったけど、ちょっと油断だったわ……って、あれ? 静雄君や、君さっきの刀“見えた”のか?」


「ちょっとー? そっちだけで会話しないで、何が在ったのか私にも分かるように教えなさいよー!」


 秋山の奴言いたい放題好きに叫びやがって、今は放置だ放置。

 昨日は見えなかったアレが、今は静雄にも見えるのは不思議だが有利な条件が増えた事はありがたい。

 何と言っても師匠から素質はあるって言われたのは確かだけど、付け焼刃程度の風の要素じゃ瀬里沢の親父に襲われた時に、咄嗟に使えなかった事が俺自身を全然信用できない訳で、今の俺の実力だと精々静雄の横や後ろからの牽制か、援護くらいしか役に立てる場面が思い付かん。

 やっぱり母さんが帰って来るのを待って『清涼の腕輪』を持ってくるべきだったかな?

 ただ、そうなると一度は御仕置を食らうので、時間的猶予は無くなるし微妙か。


 思案している間に静雄が何をしているかチラッと見れば、瀬里沢の親父の脈を図っているようだが、その表情から察するに命に別状は無そうだ。そして静雄は倒れる瀬里沢の親父から離れると、廊下と障子が切裂かれ丸見えになっている部屋の中を見回している。何か気になる事でも在るのだろうか?


「明人、確かここに入る前に須美さんが、瀬里沢との電話の際“何か重いものが倒れる音がした”と言った場所は、ここなのでは無いか?」


「まあ、携帯がここに落ちてた訳だし、静雄の言う通りかもな。じゃあ須美さんが聞いた音の正体は?」


「……瀬里沢が倒れた。とかか?」


「うーん、それかこのおっさんが倒れた。もしくはそこの柱が斬られて廊下に落ちた音とか?」


「誰が倒れたって~? ねえ聞こえてる? 無視しないでよ!」


 秋山が煩いので静雄と話していた事と、瀬里沢の親父が突然襲い掛かってきて倒した経緯を伝える。

 その間口を挟まずに聞いてくれたのだが、普段の秋山と違い気味が悪い。


「ふ~ん、何か奇妙な事になっているわねって今更よね。瀬里沢さんのお父さんが居るって事は、お母さんやお婆さんに瀬里沢さん本人はどこに?」


 おっと、気が抜けていたけど父親が居るって事は、母親も襲ってくる可能性が高いのか? 静雄の攻撃当てても、本当に大丈夫かね?

 婆さんは会った事もないし、部屋で……無事だとイイナ。


「秋山、今は先ずは一人確保したし後は三人助け出して件の“幽霊”さえ倒せば終わりだ。つまり俺と静雄は既に目的の五分の一はもう済んだって訳だ、幸先いいぞ~」


「あんたねぇ、簡単に言うけど肝心のそのアレと言うか“幽霊”を、どうやって倒すって言うのよ? あんたが昨日言っていた“当て”はどうなったの? そこまで言うからには確かなんでしょうね?」


 あっ、そう言えば兎に角急いでここに来る事で頭がいっぱいで、肝心の“当て”の事を静雄に説明するのを忘れていた。ううむ、秋山のくせに生意気な。

 流石に声に出しては言わないが、感謝してやろう。良く気付いたな偉いぞ秋山!


「HAHAHA! 何を言うかと思えば。勿論“当て”はある。これから静雄と連携して倒すつもりだから、お前は……マズイ。黒川の奴ここに来ちまうかも!?」


「はあ? あんた急に何を言いだしてんの? 何で舞ちゃんがそっちに行くのよ?」


 そうだ、俺は結構前に黒川からあのメールを貰って、全く返事もせずに風の要素の扱いをモノにするのに練習ばかりに頭が行っててすっかり忘れていた。

 時間的な事を考えると、もしかすると俺達より先にここに来ている可能性は……。


「いや、ここに来る前に黒川からメールが在って、瀬里沢の家に向かうにつれて物が壊されてるって、真っ二つに成った自販機の画像張り付けてきたから、あいつの事だから調べに来るんじゃないかと思って」


「ちょっと!! 何であんたはその時直ぐに止めなかったのよ! バカじゃないの? もう本当信じらんない!」


 確かにバカと罵られても言い訳できない。

 もし本当に先にここに来ているとすれば、今頃どうなっているか。

 確率的に考えると、奴の性格で前しか見えてない状況だったら、八割くらいで既に中に居そうだ。

 そう考えて冷汗を掻いていると、静雄から少々鋭い声が飛ぶ。


「明人! 少々騒ぎすぎたらしい。奴が来たぞ!」


「げっ、何ちゅう間の悪い! 秋山! 不味いアレが来た。今電話を切ると次繋がるかどうか分からん。だからそのままで頼む」


「えっ? えっ!? わ、分かったわ。私も動くね!」


 瀬里沢の携帯を落とさないようにストラップを右手に巻き付けて持ち、奥の間から例の音をズリズリ、ザリザリと立てて奴が廊下を進んでくるのが静雄の言うように見えた。

 距離が在るが試しに集中し、風の要素を当てる為に狙いを定める。


「明人、ここで奴を倒すのか一端引くのか決めてくれ。俺はどちらでも構わん」


「俺が昨日言っていた“当て”が通用するのかやってみる。静雄は引く準備をしていてくれ」


 どうやら今は静雄にも奴の全身が見えているので、昨日の夜よりも遥かに対峙しやすい筈だが、奴は一度倒したのにこうして戻ってきている。

 何度でも黄泉帰るのかは分からないが、一当てした後に様子を見て、効果が弱かったり躱されるようなら、今は移動の遅い奴を相手にするより、まだ見つかって無い瀬里沢や黒川が来てないのかを確かめる方が先決だ。


「動きが早くなった! 明人!」


「アフ=カ・アーフ!!」


 狙い通りの場所に当てる様に、俺の内で集中していた回転を上げる風の要素を、指を立て右手を前に突き出し刺すように解き放った。

 今の言葉は練習中に間違って唱えたのだが、『マアーフ』だと狙いが全然定まらず、複数の風が吹き荒れるので威力も微々たるものだが、『アーフ』だと単発でそれなりに威力があり、常に展開させ釣竿の様に薙ぐよりも今の所一番強いのだ。

 目には見えなかったが、指先から甲高い音とともに風切音が鳴り風の刃が発射され“幽霊”の腕に当たり、渦が右回転をするようにその箇所を切裂き、飛び散った奴の体の一部が揺ら揺らと辺りに滞空しスッと消える。


 狙った箇所は頭だったのだが、大きく的をハズレた。

 しかし、師匠の言うように効果は抜群だった!


つづく


12/30 風の要素を使った攻撃の説明に、少々加筆致しました。

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