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61話 別れた二人

ご覧頂ありがとうございます。

 ――学校の校門で別れた後、私は折角今までにない“仲間”と成った友人達と、新たに出会した不可思議な話を楽しんでいたのに、残念ながらその様な時間は流れるのも早く、何時もの様に送迎の車に乗り込み、これからの『予定』を真琴に説明され、不機嫌さを表情で表していた。


 窓の外に流れる景色を瞳に移しながら、実の所その瞳は何も見ては居らず記憶にも残さない。

 その今日の『予定』とは別に、確りと先程決まった“仲間”との日曜の約束がぶつからないか確認させ、午後1時には家を出られるようにスケジュールを整えさせる。

 最近部活内で問題になっていたあの事件を、その“仲間”と解決して以来部活は休止中であり、まだ活動の再開には暫くかかりそうなので、体が鈍ってしまわないように帰宅後も、少しの時間だが定期的に通っていた施設のプール利用時間も増やし、なんとか練習量は維持しているつもりだ。


 勿論今日も一度家に帰り、何事も無く『予定』が済めば泳ぐ気でいる。

 インターハイを目指すという言葉を隠れ蓑に、あの時間だけは優等生を演じる必要も無く、誰にも邪魔されず何も考えずに、一人で居られる息抜きのひと時。

 だからこの後の『食事会』と言う名目の、『顔合わせ』に出なければ成らないと考えると憂鬱になる。

 とは言っても、結局のところ自分が“星ノ宮家に代々伝わる能力”を、引き継げてしまった事が全ての元凶だったので、そこは仕方なく諦めるしかなかった。


 ただ、能力を授かった事に関して諦めはしても、その事で顔も見たくない叔父や叔母、他の家の者や紹介される企業のお偉方等の態度はまた別の話で、避けられないと頭では理解しても感情は抑えられる訳でなく、笑顔を維持する為のストレスで胃がムカムカしてくる。


「奏様、先程から既に何度目かの溜息を着いてますが、食事会の時にそんな顔をされては困ります。貴女様が快く過ごされる様にと、一緒に学校に通うことを仰せ付かったのに、これでは叱責されてしまいます」


「あら、そんな下らない事で一々目くじらを立てるような輩が居るの? もし真琴を叱責できる者が居るなら直ぐに言いなさい? 誰がその機嫌を損ねたのか思い知らせてあげるわ。隠しても無駄な事は良く分かっているでしょうに、どうしてこう無駄な事をするのか、本当理解しかねるわね」


 私がそう呆れる様に言い放つと真琴は一瞬目を逸らすが、その表情と仕草は力を使わずとも“しまった”と物語っているのが有り有りと分かる。

 それだけ長く私と過ごしているので、二人だけの時はお互いを星ノ宮と宇隆の家では無く、名前で呼び合う事にしていた。


 うっかりなんでしょうけど、こんな風にあまり隠し事の出来ない真琴だからこそ、他の者の様に傍に置いても煩わしさや鬱陶しさを感じず一緒に居られた。

 何より愚直なまでに正直で、良く言えば嘘がつけない一本気な性格、悪く言えば単調で猪突猛進、だがそんな真琴だからこそ私は、付き人だけとしてではなく、友人としても気に入っているのだ……。


「奏様? どうかしましたか? 急に黙って考え込んで。もしかして石田達の事ですか?」


「は? 何故石田君達に繋がるのか良く分からないけど、真琴はどうしてそう思ったのかしら?」


 単に真琴の事を考えていたと言ったら、一体どんな顔をするかしらね? 楽しそうだけどそれは言わずに、真琴の言葉の意味を考える。

 そんなに瀬里沢君の家へ私達抜きでが向かった事に対し、私が気分を害していると思ったの? ……不機嫌な顔になったのはどちらかと言うと、この後の事に関しての比重の方が大きかったのに、相変わらず勘違いをする子ね。


「最近奏様は、何か考え事をした後は決まってあの者たちの事を話していたので、今もそうかと思いました故。……違いましたか?」


「そう、だったかしら? ……そうかも知れないわね。真琴、やっぱりあの子達面白いわよ? だって本当に言った事そのまま嘘はついてないし、それに私にも窺い知れない変わった人間が一つに集まった。何故かそんな気がしてならないの」


 私の言葉を受け、真琴もあの仲間の顔を思い浮かべているのか、先程とは違い表情が柔らかくなったように見える。

 真琴も割とあの輪の中に居る事を、仲間だと呼ばれる事に悪い気はしてないのかもしれない。

 ううん、私だけじゃなくきっと真琴も絶対に楽しんでいる筈よ。


「はあ、確かに変わり者ばかりが集まったと、言われてみればそうかも知れませぬ。安永は見た通りの強者で、隣町の有名な道場主である安永兼仁(やすなが ともひと)の孫ですし。警察やその手の関係者で、あの方の捕縛術とその腕を知らぬ者は中々居りません」


「捕縛術? そう言えば、真琴の馴染みの磐梯兄妹も知っていたわね。私は遠目で見たことしか無いけど、あのお爺さんとは全然似てないから、真琴に言われるまで気が付かなかったわ。真琴がそこまで賞賛するのだから、かなり凄い方なのかしら?」


 捕縛術と聞いてもあまりピンと来ないので、知っているあの兄妹の事を持ち出してみたけど、安永君のお爺さんの事で私が知っている事と言えば、あのフサフサの白いお髭くらいね。

 凄い触り心地のよさそうな見た目だったから、はっきり覚えているわ。


「そうですね、昔からここ麓谷(ろくさこ)の地にある古い家柄です。私達星ノ宮や宇隆も同じく古い家ですが、あの家は我が家と同じく代々武を伝えてきた家。もっとも無手で言えば、彼方は最高峰。我が家とは比べるでもなく、相手にも成りませぬが」


「無手で、ならなのでしょ? じゃあそれ以外を含めたらどう? 真琴」


「獲物が在りならば、良い所までは行けるかと……」


 宇隆の者も自分の得意とする物を持てば、普通の人間に負ける事は無いのを知っているので、あえて聞いてみたけど無手の相手に良い所ね……もしかして謙遜?

 真琴の祖父も獲物を持てば鉄を容易く斬ると聞くけど、そこまで差が在るのかしら? 少しだけ興味が湧いた。


「なんとなく分かったわ。確かに安永君は他の人とは一線を画するわよね、……見た目からして規格外と言うか。でも、それ以上に良く分からないのは石田君よ、最初は誰かが言ったように、安永君の太鼓持ちかと思ったのだけど、結局謂れのない中傷に過ぎなかった訳よね。何時も一緒に居る彼も、私が知らなかっただけで古い家柄に連なる者なのかしら?」


「石田が、ですか? 生憎心当たりのある家は私は存じませぬ。正直、良く分からない特技を習得しているようですが、アレは手品と言っていましたし、何かしら種はあるのでしょう。逆に、奏さまから“見て”石田の奴は如何映ったのでしょうか?」


 石田明人、あの事件の時に出会わなければ、偶に合同授業で見かけるくらいの、単なる同学年の冴えない男子でしかなかった。

 その認識で間違えていたとは思わないが、偶然廊下で出会った黒川さんに手助けをし、そのまま盗撮犯まであぶり出し、一気に解決にまで導く事に繋げた人物だ。


 出会った当初は、ただの邪魔者以外の何者でもなかったし、途中の会話でも何度かこっそり確認したのに概ね“嘘”をついている事は無く、私の認識は変わり邪魔者から正義感の強いお節介な人物になった。

 もっとも、こちらから意図して質問を重ねた訳ではないから、誘導も出来ず仕方ないとは言え、話しぶりにも遅滞が無く……そう。


 まるで、あらかじめ全て知っているかのような素振りが気になり、本当は犯人であった館川の協力者なのではないかと、正直疑ったくらいだが警察での調書を聞く限りではそれも無く、ならば欲に反応するかと、少々突いてみればそうでもなく、純なのか、単なる格好つけたがりか分からなかった。


 兎に角私の周りには、あのような掴み処の無い者は居ないので、更に彼の事はお節介から不思議な人、それか悪く言えば変な人物と上書き認識されたのだ。


「奏様? 何か石田について気に病むことでも? そこまで気になるのでしたら、……直ちに調べさせますが?」


「真琴、貴女は少しずつ皮を剥ぐ様に、相手の隠しておきたい秘密を暴いてく楽しみを、私から奪うと言うの? 確かに知りたいと思い貴女に聞いたのは私であるけど、もう少しこの遊戯を分かって欲しいわ」


「奏様が本気を出せば、意図も容易い事でしょうに。成らば少しでも奏様の楽しみが長引くように、私は精々石田の皮がやたら分厚いことを祈るとします」


 そう、真琴の言うように容易く底が知れるような者だったら興醒めでしかないけれど、彼は私達に今までに見た事のない物を、本当に見せてくれるのではないかと確かに期待していたのだ。


「奏様、真琴様、そろそろホテルにつきます。衣装は部屋の方にご用意してあるとの事なので、案内の者が部屋までご同行し、そのまま着替えの手伝いを行います。会場に入る時間などは予定通りに連絡があると思います」


「分かったわ。真琴、どうせ貴女も一緒なのだから、着替えも済ませてしまいなさい。態々部屋を変える必要もないし、貴女の衣装も直ぐに移動させるように、田神いいわね?」


「了解致しました。連絡を入れますので、そのまま御二人はご一緒に部屋までお願いします」


 運転席からホテルに近付いたと田神が言う。

 それに対し通達するべき事を告げると、また溜息が自然と出た。

 今から日曜が待ち遠しいが、その前に片付けるべき面倒な『予定』をさっさと終わらせなければと、気持ちを切り替え何時もの作った笑顔を張り付け、準備を整える。

 さあ、私の戦場へ向かおう。

 どうせ他の主だった家の者も集まっているのだろうから、擦り寄ってくる者を取捨選択し、切り捨てる者を斬り、取り込む者はその血の一滴まで、我が星ノ宮の血肉へと変えるのだ。



つづく

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