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58話 皆……寄ってく?

ご覧頂ありがとうございます。

 元々は、何とか逃げる隙を作ることができれば御の字と思って、静雄に短剣と籠手を渡したんだが、思った以上の成果がでて、結果“死人”を撃退することに成功したのだが、本当にアレでもう終わったのだろうか?

 一応“死人”が消えた変わりに、地面に残された一部に這い寄りながら近寄り、手に取って触ってみるとボロボロと崩れ去り、先端から土に変化しそれも塵になった。

 あの切れ味で標識と打つかり合った時に聞こえた音を考えると、もっと硬い鉄のような素材で出来た物を想像していたが、どうやら違ったらしい。

 できれば折角手に入った一部、『窓』の交換枠に入れて調べてみたかったのだが、残念ながら無理みたいだ。


 静雄VS透明人間?(に見えたであろう)の攻防を見守っていた秋山と黒川も、剣呑な気配が消えたので、こちら戻ってこようとしているのだが……。

 二人はいつの間にあんなに離れていたんだ? 逃げたのは正解だけど何か釈然としない。


「静雄、その短剣と籠手返して貰うぞ。俺に“渡す”と念じてくれ」


「……念じるだけで良いのか? 脱いだりは?」


「大丈夫だ、問題ない」


 俺はそのまま『窓』を開き、静雄の装備する短剣と籠手を選択し交換の決定ボタンを押した。

 “呪われた装備”で在る事に変わりはないが、何事も無く外せて俺のアイテムアイコン枠に留める事が出来たので、貯めていた息を軽く吐き出す。

 念の為静雄に呪いが“うつって”ないか履歴を見ると、どうやら静雄は抵抗出来ていたようだが、さっきの攻防で右手側に着けていた籠手の表面に、小さく切れ込みが入り革の部分が少々傷ついたのを確認できる。


 何にせよ静雄には、最初に斬られた傷以外は怪我も無く、無事に済んだので十分役立ったと言えよう。


「明人、さっきの武具は一体……。それは?」


「悪いが今はまだ答えられん。ああ、これは静雄がアレを叩いたときに、折れて落ちた物の成れの果てだ。俺には金属と言うか刀に見えたけど、今じゃこの有様さ。あれが本当に刀だとしたら、随分と変わった作りだったと思う。なんせ鍔の部分が見当たらなかったしな」


「そうか。鋭い気配を感じてそれなりに間合いを取ったが、……刀だったか。見えない凶器を持った、中々の腕の冴えを持つ相手。流石に暫くは打ち合いたくはないな」


「いや、そこは暫くじゃなく二度との間違いだろ……」


 そう言った静雄のは表情はさっぱりしていて、苦労はしたが良い対戦をしたとでも今にも言いそうな顔をしている。

 俺も多少他の人より変わっている自覚はあるが、それでも静雄程じゃないと思った。

 怪我を負っても戦うだなんて、どこぞの脳筋みたいじゃないか。……仮に声に出しても静雄なら否定しなさそうで微妙だ。


 そんな話をしていると近くまで来た二人は、辺りを見回し俺と静雄の横に来る。

 街頭に照らされた二人の顔色は、まだ少し青ざめている様に見えたが、それも当然だろう。突然見えもしない相手に襲われかけたわけだし、怖くて当然な筈だ。

 各言う俺も鏡を見ないと何とも言えないが、きっと相当酷い顔をしているに違いない。


「秋山に黒川も、とんだ事に巻き込んだようでスマン怖かったよな? それと言うのが遅れたが静雄、本当助かったよ。お前が居なかったら、俺は今頃どうなっていたやら。相手の一撃を受けた時ほんの一瞬だが、かなり激しく動いただろ? さっき斬られた傷は大丈夫なのか?」


「見えたのか? 相変わらず目は良いな。この傷なら多少痛むが、切れ味だけは真剣とそう変わらんのだろう。表面だけなら直ぐに薄く血が固まっていたが、動いたんで今はまた血が滲み出てきているぞ?」


「ねえ、もう平気? ……って、ええっ!? その傷深いの!? 大変だわ!! 安永君やっぱり救急車呼んで病院行こっ! 直ぐ、直ぐだからねっ! 私電話するよっ!」


「……もう、居ない?」


 秋山は近くに来てその怪我の有様を見てさらに青ざめ動転し、黒川だけはまだ用心深く辺りを見て警戒している。

 全く何で静雄はそんな冷静に受け答えられるんだよ! お前斬られて血が出てるって、絶対普通じゃないからな! そんな「転んだから擦りむいた」みたいに呑気に言われたら、俺だけじゃなく誰だって呆れるぞ。


「秋山だって普段俺を殴って血噴いても平然としてるくせに、今は携帯取り出して救急車って叫んでいるだろ? もっと自分を労わってやれよ。お前は十分その資格が在るんだからな? 「血が出ているぞ」じゃなくて、もっとそれを早く言え! 全く……どっかこの近場で手当てできる所探して、包帯とか消毒しないと不味そうだな」


「む、それは待て。秋山、救急車は不味い。手当は助かるが何処でする? 流石に人の多い所で見られれば、誤魔化しようが無い。幸いこの暗さだ、移動中遠目なら分からんだろう。ただし、一番近い商店街は明るさで一目で分かる。候補としては論外だ」


「なら、私の家。今の時間だと、まだ母さん帰って無い筈。……来る?」


 黒川は静雄の話を聞いた後、俺の顔を見てそう話す。

 そう言えば、少し歩きゃ俺の家よりは黒川の方が……近いか? 確かこの間家まで送った時の事を思い返せば、もう少し先の中央分離帯のある太い車道を越えれば直ぐだったかな?

 記憶を手繰りそこまでの道順を思い浮かべながら、他に案は無いだろうかと、何時もなら口を挟んで提案してきそうな、さっきまでワタワタしていた筈の秋山を見る。

 何故か胡乱げな表情に変わり俺を睨む、コイツ先程までの焦りはどこに消えたのやら。


「待ちなさい、変よねぇ。何で舞ちゃんがあんたの方を見て、『来る?』なんて聞くのかしらぁ~? 何だかとっても怪しいわね~」


「秋山その顔と口調止めろ。それに今の話のどこが変なんだ? 単に黒川が家に来るかどうか聞いただけだろ? 早く手当てをするのに丁度良いしな」


「ふむ。明人、早くって言うからには、お前は黒川の家の場所を知っているんだな?」


「あれ? 今黒川の家って場所言わなかったっけ?」


「あんたは、『来る?』の一言で舞ちゃんちまでの場所を、思い浮かべたわね? 知って無きゃ言うも何も分かっている筈無いじゃない」


 俺が黒川の家を知っていると、何か不都合でもあるのか? 何で言葉に責めるような雰囲気が含まれているのか全然理解できん。

 もしかして秋山の奴、仲良くなった黒川の家を俺の方が先に知っていたから、ガキみたいに嫉妬でもしてんのか? 今から行きゃぁ済む話だろうに、面倒くさい奴だ。


「別にどうでもいいだろ? ほら静雄が痛がってるんだからさっさと移動しようぜ」


「気にするな。痛みは無視できるが、移動は賛成だ」


「そうだった、ごめんね安永君。石田の奴がとんでもないこと言い出したから、つい反応しちゃって。あのね舞ちゃんこの男変態だから、あまり気を許しちゃダメよ?」


「……変態なの?」


「だーっ! お前は人聞きの悪いこと勝手に吹き込んでんじゃねー! 黒川、俺はいたって普通の健全な男子高校生だぞ、あいつの言うような変態じゃねぇ」


 首を傾げて俺に聞き直す黒川に、ナイナイと手を振り移動する為に立ち上がる。

 秋山よ、いい加減俺を変態扱いするのは止めてくれ。お前が俺をどう思おうが健全な男子高校生は、エロ本の一冊や二冊、三冊や十冊以上お宝を持っているもんだ。

 偶々俺があの時本屋で買った本を、お前が目撃したから余計に印象に残ったんだろうけど、そろそろ忘れても良いんだよ?


「さーて秋山の奴はいっそ放って置いて、さっさと行こうぜ。あまりここに居て誰かに見られても、絶対厄介事になるしな」


 俺はそう言って、バッチリ切込みの入り斜めってる道路標識を指さすと、静雄に手を貸し傷に響かないようにゆっくり立ち上がらせ、黒川の家へと進路を取った。


つづく

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