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48話 混ぜるな危険

ご覧頂ありがとうございます。

 学校中に鳴り響く四限終了の鐘の合図と共に、黒板と教師に集中していた生徒もそうでない生徒も、一斉に動き出すと昼休みの時間を有意義に過ごすべく、授業中に貯めた運動エネルギーを活発に燃焼し始める。


 そんな人の流れとは打って変わり、全くその様子が見られない者も中には存在し、その範疇に含まれるのが、冬眠から覚めた爬虫類の様に緩慢な動きで、ヨロヨロと何とか鞄から弁当を取り出そうとしているのが今の俺だ。


 何でこんな今にも死にそうな風になっているのかと言えば、あの実は『呪われていた指輪』の隠された効果である減退の力のせいで、僅かの時間であるが急激にカロリーが削らされたあげく、あまりに空腹過ぎてめまいに寒気、それに頭痛と体全体に感じる怠さのせいで、まさに亀のような超スローモーな動きになっている。

 そんな俺を前の席から旺盛にその健啖ぶりを発揮しながら口を動かしつつ、静雄の容赦ないセリフが俺に掛けられた。


「明人、それは何かの芸でもやっているのか?」


「そんなんじゃねぇ……腹が減りすぎて……上手く動けないんだよ」


 あの眠りから覚めてからどうもに体に力が入らず、静雄にも俺の答える声にその弱々しさが窺える筈だ。

 元々背も体格も普通な俺は太っている訳でも、ましてや内臓脂肪もそんなにある筈も無く、体脂肪の積載量が足りてない俺の肉体には、あの指輪を装着し続けるにはあまりにも細かったらしい。

 本来削られる筈の物が少なかった為、今朝食べた胃や腸に収められていた物が軒並み消え去った俺には、この動作さえ非常に骨の折れる事なのに、それを“何かの芸?”で片付ける静雄は間違いなく鬼だと思う。


 件の女性『ミヤーン』は体が土に還る前は、普段どのような食生活をしていたのか疑問が尽きないぜ。

 寧ろこの指輪をしていなけりゃ、食事のせいで肥満と成人病のダブルパンチでもっと前にぶっ倒れてたんじゃね?

 きっと第三者としてそんな暮らしぶりを見ていて、その相手が痩せ細り倒れたなら、医者と同じ様に匙を投げて『コレはもう無理』と頭に浮かばせるだろう事は否定できない。


 唯一の救いだったのは、取られるのはカロリーと余分な体脂肪系だけらしく、体内の水分は持ってかれなかった事ぐらいだろうか? 水分まで削られていれば俺はきっと授業中に天に召されるか、体ごと『ミヤーン』とか言う怨念に乗っ取られていたかの、どちらかに違いないと考える。そんな超常現象は真っ平御免だ!

 思考を止めず何とか弁当を引きずり出し、震える手で蓋を開けようとするが中々指先に力が入らない。


「ふむ、芸で無ければその動作は……連想ゲームか? その動きを強いて答えるならば『ひ弱な女性』か? それで缶ジュースの蓋を開けられない動作でもして、俺に上目遣いに目線でも送れば、完璧かもしれんぞ?」


「今俺にその『ひ弱な女性』って単語は死を招くワードと変わらないぜ……もう懲り懲りだ」


 恨みがましい視線を送る俺に苦笑いしながら、静雄は食べていたコンビニのロゴの入った惣菜パンを口に咥え直すと、俺が苦労して開けようとしていた弁当の蓋を開けてくれた。

 今だけは静雄が天使に……いや、強面のマッチョ天使など在り得んな、こう言う時は鬼の目にも涙だったか? どちらにしても俺は感謝の念を込めて静雄を見る。

 と、急に頭をボコッと叩かれ緩慢な動作で振り向いた先には、案の定と言うべきか秋山の奴が両手に購買で買った弁当とお茶を持って立っていた。

 たいして痛くは無かったが秋山の奴、俺の頭をペットボトルで叩きやがったな。


「な~によ。石田、あんた授業中寝ぼけて違う教科書出して俯いたから、起こしてあげようと声を掛けてあげたのに、そのまま固まって返事もしないから、どうせ寝ていたんでしょ? あんたって偶に授業中寝るにしても、あんな風に微動だにしないって今まで無かったし、周りから見れば相当不気味だったわよ? 何か在ったの?」


「あの時の声はお前だったのか!? 今だけはお前が天使に見える! マジ助かったぜ。アレが無きゃ意識が戻らず、そのままパックリ行かれてたかも……」


「はっ? 天使がパックリ? あんた変な夢でも見ていたんじゃないの?」


 怪訝そうな表情で秋山は答えるが、俺は指輪を嵌めた後からの記憶が曖昧だったけど、誰かに呼ばれ“意識だけが”起きたのは微かに覚えがある。

 あの声は秋山だったらしい、普段は単なる暴力装置兼情報収集機だが今回だけは助かった。

 

「秋山ぁ起こしてくれてありがとう。お前は本当に俺の命の恩人だぁ」


「はいはい、あんたに上目遣いの涙目で感謝されても……何か重いわ。安永君、石田の奴急にどうかしちゃったの?」


「どうやら明人は、今ひ弱な女性の演技の真似? をしているらしい。今朝話していた瀬里沢対策か? 兎に角明人は好きにさせてやって、秋山もそろそろ座って食べたらどうだ?」


「え゛っ? 瀬里沢対策に女子の真似って、あんたどんだけよ……。言っておくけど女子の方が嫌っていて、あの瀬里沢って三年は相当女好きよ? 真似じゃ意味ないわね」


「何だろう、この理不尽な仕打ち……俺、泣いてもいいよね?」


 秋山が揃い三人で昼食となった、今日はD組の三人とは合流しない。

 理由としては単に俺が動けないだけだが、ノソノソと箸でご飯を口に運びゆっくりと咀嚼しながら、先程静雄から出た瀬里沢の名前で、放課後に呼び出されていた事を思い出したけど、正直言って忘れていた。

 あんな体験を味わった後じゃ呼び出しなんて些細な事は、忘れてしまっても仕方がないだろ。


「泣くのは別に好きにすれば? でもあんたさ、放課後に呼び出されたって話だったけど、本当に行く必要ってあるの?」


「へっ?」


「そうだな、明人が行きたくなければ必要ないな」


 二人にそう切り返されて、何て答えれば良いか思い浮かばない。

 ただ、俺の秘密をバラされる事で降りかかる災難(トラブル)を考えると、行かない理由に成らず悩んでいた訳で、秘密となる俺の『窓』を誰かに話す事は無理だ。

 『窓』の事を話してしまえば、それこそ本末転倒である。

 俺の顔を“どうするんだ?”と言いたげな二人の雰囲気に、仕方なく返事を吐き出す。


「何故俺が呼び出されるのか、理由を色々と授業中考えていたんだ。で、思いついたのがコレはあくまでも予想でしかないが、屋上からあのビラを撒いた犯人は瀬里沢で、ビラを作ったのも奴の仕業だと俺は睨んでいる」


「屋上からばら撒かれたあのビラか? だがその理由は?」


「私も色々聞きまわったけど、結局誰がやったか分からなかったのに、何であんたは瀬里沢の仕業だって思うのよ?」


 よしよし、何とか上手く誘導できたな。何故って言われても犯人は瀬里沢で間違い無い事を、俺は既に知っている訳で理由なんて物は特に無い! それは今から適当にでっち上げるのだから。

 秋山が話していた“星ノ宮のファン”だって事に仕立て上げれば、簡単そうだしな。


「理由はアレだ、静雄は居なかったが奴はきっと非公式星ノ宮ファンクラブの会長か何かで、俺が星ノ宮に近付いたように見えて怒りあのビラを作り撒いた。丁度秋山が言った社会的制裁って奴を、瀬里沢達隠れファンの間では実行した心算だったんだろう」


「そう言う訳だったのね、確かに……言われてみれば凄く納得行ったかも。なのにあの日私がばら撒かれたビラを見て、直ぐに星ノ宮さんに了解を取って動いたから、あの噂に火が着く前に鎮火しちゃったのが、怒りの収まらない瀬里沢達の呼び出しの原因に繋がったって考えね?」


「そっ、だから今度は瀬里沢が直々に俺に文句を言うのか、それとも隠れファン達で実力行使に出るのか分からないが、きっと放課後俺を待ち受けているのは罠だと思う」


「ふむ。そう言う事ならば俺は明人に着いて行こう。一緒に呼ばれた場所に入らずとも近くに待機し、何かあれば直ぐに呼ぶと良い。相手が数で来るなら俺が補う、明人のその正面から相手を打ち破ろうと言う気概、確かに受け取ったぞ」


 ……何だか若干説明不味ったかも? 妙に二人が張り切っているように思える。と言うか正に意気投合って感じでガッチリ握手しているし。

 そう言えばこう思うのも何度目になるか分からんが、秋山も喧嘩っ早いが二年の付き合いで普段は静かな静雄も、一度闘争の気配が感じられると“鬼神”にも等しい奴になるんだった。

 眠れる獅子を起こしたかも知れん、適当に最近の話を継ぎ接ぎしてでっち上げた訳だが、瀬里沢には悪い事をしたかも……でもさ、俺を脅すなら少しくらい罰が当たっても、仕方が無いよね?


つづく

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