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46話 立ってるだけ

ご覧頂ありがとうございます。

 教室に入って前の席を見ると、やはり静雄はまだ登校してないようだ。

 とりあえず自分の席に付ながら、玄関で出会った瀬里沢舜の事を考えてみる。

 瀬里沢舜は何故か俺の事を知っていた上に、例のビラを撒いた張本人に間違いなく、どうやら俺の事を事前に調べていた節を感じるが、俺の周りに奴が居た様な記憶は無い。


 あまり周りの事を気にしない俺でも、アレだけ目立つ(ポーズや言動などで)奴が近付けば気付かない筈がない訳で、仮に奴自身がとても隠れるのが上手いとして、周りを嗅ぎ回れたとしても、俺の持っている『窓』の秘密に気が付く事が出来る理由が思いつかん。

 師匠や俺の様に(厳密に俺はそうとは言えないが)物品交換士でも無ければ、『窓』を見る方法はソウルを解放していて、尚且つ交換対象に成らなければ基本的には見えす筈無いのだから。

 それ以外にも俺の持つこの指輪に興味を持ち、その価値に気が付き直で指し示す方法が思いつかない俺は、思考の袋小路に迷い込んでしまう。

 俺が無い知恵を絞り悩んでいると、前からくる秋山の姿に気が付いた。


「おはよ。あんた何朝から頭を抱えているの? ついに脳が……は前からだし、何か変な物でも食べた?」


「おはよ……。相変わらずお前は開口一番失礼な奴だな、別に普通だし俺が悩んでるのはそんなに変か?」


 俺が席で悩んでいると言うのに、秋山は変な物を食った等言いやがる。

 手ぶらで鞄は持ってないので、今登校してきた訳では無く俺よりも先に来ていたらしいが、俺の扱いが酷すぎじゃね?

 それにしても前に静雄から聞いた通り、本当に秋山の奴は毎朝他の教室を渡り歩いているようで、情報に間違いは無い。コイツは一体何時から学校に来ているんだ? そんな事を考えていると、秋山は開いていた隣の席に座り話しかけてくる。


「あんたが悩み事? そう言えばこの前バイトがどうとか、十万は稼ぎたいとかお金の事言っていたわね。悪いけど私はお金貸せないわよ? お金の切れ目は縁の切れ目って言うでしょ」


「いや、その事で悩んでた訳じゃないんだが。秋山、お前ってさ三年の瀬里沢舜って奴知ってるか?」


 俺がその名前を出した途端、若干眉を顰めると「あ~あの人ね、黙って何もしなければ顔だけは良いわね。顔だけは」と言う、二回も繰り返すって事は秋山から見ても、奴は美形と感じる程の男に違いない筈だが、話していると露骨に“嫌そう”に表情が変わっていた。

 やはり知っていたか! 今度からコイツの事は“解説の人”とでも呼んでやろうかな?


「ああ、確かに顔だけは良いのは俺も否定しないが、それよりお前がそんだけ嫌そうな顔をするって事は、何か他に奴の事で知ってるんだよな? 良けりゃ俺に少し教えてくれ」


「……あんた、実はソッチ系だったの? ほんの少しだけそうなんじゃないか疑った事あるけど、うわ~まさか本当だったなんてヒクわぁ」


 秋山は心底吃驚したとでも言う顔をして、口を押えて言うが言っている事が棒読みなので、ワザとらしすぎてウザイ。

 こいつの目が嫌そうでは無く、さっきと違って割と笑っているのが、俺をワザとおちょくってる確かな証拠だ。

 少しイラッとするが、コイツの持っている情報に背に腹は変えられない。我慢だ我慢。


「実は……って、静雄も来たか。丁度良いや、おっす静雄。今からちょいと聞きたい事があるんだが、お前もさ3年の瀬里沢舜って奴の事で何か知らないか? アホで顔が良いって事以外で」


「おはよう。明人に秋山、揃って何を話しているかと思えば、三年の瀬里沢? 俺も良くは知らんな。ただそれなりに奴は慕われているらしい、と言っても男子にだけだが」


「おはよう安永君。そうね私が知っている事は男子はそうでも、女子には蛇蝎の如く嫌われている事かしら? 一度話すと一方的に自分の都合の事しか話さない割に、話の内容も個人の私生活の事なんかずかずか聞いてくるから、碌な会話にならないらしいわ。前に一度興味本位で話した事あるけど、ある意味取り調べでもされてる気分になるわよ?」


「私生活ねぇ、例えばどんな?」


「名前から始まって、身長とか後は何処に住んでて趣味や入ってる部活。後は話が続いた場合、学校から通う通学路とか根掘り葉掘り色々? 後はセクハラ疑惑とかもあるし、兎に角女子の間では言い噂は聞かないわね。他で言えば偶にだけど雑誌のモデルとかしているみたいよ、服限定のモデルらしいけどね」


「なるほどな~、服のモデルね奴なら黙って立ってるだけで良いもんな。いい商売してやがんな。しかし女子と男子で割と意見が分かれるのか。女子に嫌われてりゃ男子にも忌避されそうなもんなのに、変な人望? を持っている奴だな」


 総合すると、ある一定の男子にはそれなりのシンパがいて、女子にはそれが全く無い感じか? 女子に対する対応があまりにも不味いだろ? それにセクハラ疑惑なんて噂が流れりゃ、そりゃ1対1の会話は理由でも無きゃ嫌がられるわな。

 思ったより奴の情報は手に入ったけど、あまり俺が欲しい内容じゃない。

 奴が何故俺に目をつけ、更に秘密まで知って指輪を示したのか……謎だ。


「それで石田は、何で急にそんな事を聞いてきた訳? 悩みって真逆あの人に……何かされちゃったの?」


「何で急にお前は興味津々になって聞いてくるんだよ? 俺は心底何もされてないと思いたいね。悩みって言うか今朝玄関で声を掛けられて、放課後に呼び出されたんだが、その理由に全然思い当る節が無いから、少しでも情報を得たかったってだけだ!」


「ふむ。こう言っては何だが、明人は変わった人物に好かれ易い性質に思えてくるな。星ノ宮に宇隆や黒川然り、俺と秋山もその範疇に入るかは微妙だが、皆少しは癖の強い人間なのは間違いないだろう」


「いや、癖のあるってお前自分の事そうやって言うのかよ。確かに皆一癖も二癖もありそうだが、あのアホはそんな風に見えなかった……だから余計にしっくりこないのかも?」


「私が何で一癖二癖なのよ。親切にあんたに色々教えてあげたりしてるのは一体誰かしら? 一度あんたの立場ってもんを教え込んだ方が良さそうね」


 横を見るとゆっくり立ち上がり、既に拳を握りしめ秋山は構えに入っていた。

 コイツが喧嘩っ早いのを忘れてついうっかり口を滑らせたが、そう毎回殴られる俺では無いぞ! 俺は素早く颯爽と立ち上がり、静雄を盾にし秋山から隠れる。

 どうだ! これでお前の拳は封じられた筈だ! 俺に死角はな……って、脛が脛がぁああああああぁぁ! 秋山の奴静雄バリアーを抜けて蹴りを放ってきやがった。

 真逆つま先を静雄の足の間から通して、俺の脛をピンポイントで狙うなんて。


「うう、お前手加減ってもんを知らんのかよマジ痛え! 拳を封じたと思ったら、とんでもない暴力女だぜ! 静雄、俺が許すコイツをやっちまえ!」


「明人、涙目でそう言われてもな。俺は何もできん。どっちもどっちだ」


「私は手を使ってないし手加減は必要ないでしょ? 大体あんたも悪いのよ安永君を盾にするなんて卑怯じゃないの」


 静雄の奴秋山の蹴り位止めてくれれば良いのに、まあ顔に喰らわなかったおかげで転ぶ事も無く、頭も打たなかったので保健室送りにはならなかったが、一瞬痛みで足が折れたかと思ったぜ。

 何て考えていたら予鈴が鳴って、担任が来たので秋山は舌を出して席に戻って行った。

 そして朝のHRが始まる――


 脛は痛むが、いつまでもイライラしてるのもアレなので、気分を変えるべく胸ポケットから師匠から貰った指輪を取り出し、嵌めてみる。

 確か使い方は自分の理解している言語を覚えさせ、その後に分かりたい言語を覚えさせれば……アレ? もしかして嵌めてる人が対象の言語を知って無きゃダメっぽい?

 英語を指輪に記憶させたいとすれば、英語と日本語両方がペラペラな奴でも無きゃ意味ないって事か!?

 今更だが、取りあえず日本語だけでも先に覚えさせるべく、指輪を嵌めて俺は授業を受ける事にした。


つづく

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