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43話 世界を跨ぐ初めての等価交換

ご覧頂ありがとうございます。

 亀田ドラッグストアに入って買ってきたものは、予定していた哺乳瓶一式と熱下げシロップに、店の入り口で特売していた蜂蜜を何となく購入。占めて五千二十四円な~り、財布の中の残金が割とヤバイ。

 何か稼ぐ方法を早急に考えねば、……最近金の悩みばかりの気がするな、やっぱりカード錬金術をもう一度解禁するべきか、本当に何かバイトを始めようか悩む。

ここもアルバイトを募集しているようだが、残念な事に時給と時間帯が合わない。


 蜂蜜に関しては甘い物に喜んでいた様子の話を思い出したのと、特売に目が行っての購入だ、一キログラムを四本……勢いでかごに入れたのだが、缶の粉ミルクも結構重いので自転車のかごに入れても、帰るときのバランスが心配だったけど『窓』の枠一つを使って収納し、楽々手ぶらで帰る事が出来た。

 これも物品交換士の一つの特権(?)だよな。


 それよりも自転車を漕ぎながら思ったのは、哺乳瓶やら粉ミルクをレジで精算する際、マスクをして眼鏡をかけた茶髪の店員の、俺を見る目つきが「こんな夜中に高校生くらいのガキが、何故ベビー用品?」と語っていた気がして、とても鬱陶しく店を出るまで睨まれていた感じだ。

 あんなのが店員で本当に大丈夫なら、あまり客が来ない時間帯なんだろうなと思うが、もしかして強盗対策の一環? なんて事ある訳無いか。


 家に入る前に外から見た感じ、誰も俺が外に出た事は気が付いてないと思う。

 窓をカーテン越しに確認しても、明かりはどの部屋も消えていたしね。

 さあ玄関を開けよう、としたところで後ろに妙な気配を感じて、首だけ肩越しに振り向く……誰も、居る訳がない。


 病魔とか呪いとかオカルティックな事が重なったせいで、神経がきっと過敏になっているだけだな、そうに違いないと決めつけ俺は家の中へ逃げ込んだ。

 やっぱり夜中に出歩くのは感心しないよな、ちゃっちゃと買ってきたものを師匠に渡して、早く寝てしまおうと思い台所へ急ぐ。


 さっそく『窓』から取り出した物を並べ、冷蔵庫を開け待っていた師匠に矢継早に使用法を説明し、メモを取らせ渡していくがどれを渡しても驚きの表情で「ほほ~!」「なんと!」「これは良い!」と返事が返って来るのが面白かった。

 粉ミルクの説明の際、師匠に「これが乳の代わりになるとは、そちら側は随分と女人が居らんようだの。それでこのような物があるのか」と感心したように頷かれた時は、言葉の意味が分からなくて「へ?」と答えた俺は、さぞ間抜けな顔をしていたに違いない。


 その後二人揃って黙ってしまったが、師匠は俺のその顔に、俺は師匠の質問の意図に気付き笑い出し、ナイナイと手を振って否定しておいた。

 粉ミルクから、女性の比率が少ないなんて発想が浮かぶ師匠は、かなり面白い人だと思う。


 他にも哺乳瓶の人工乳首の出来やその透明感に、素材は何なのかガラスなのか等聞かれたが、シリコンゴムやポリプロピレン製の瓶の説明など面倒なので素材名だけ答え、“そういう物”なんだとだけしか伝えなかったが、師匠はしきりに「しりこん? ぽろぴれぴろん?」と呟きながら首を傾げていた。

 ……ハッキリ言って名前を間違っているし、いったいそりゃ何の呪文だよ。


 一応『窓』に入れて履歴を見れば答えられなくもないのだが、いい加減時間も遅い上に、突然家族の誰かが起きてこないとも限らないので、なるべく早めに片付けようと考えたけど、師匠に蜂蜜のボトルを最後に渡した所で、腕を掴まれ代金の話題へと移ってしまう。


「アキートよ、蜂蜜をこんなに沢山渡されても、村の人間ではとても払えるような代金を持ち合わせてないぞ!?」


「え? いやなんか甘い物が喜ばれていた様だから、昨日渡したあの粉の代わりに蜂蜜と水それに塩を混ぜれば、似たような物作れるかなって思ったんだけど?」


 砂糖でも良かったけど薬局じゃ売って無かったし、蜂蜜ならあっち側にもありそうだと考えて買ってきたのがどうも裏目に出たのかも知れない。村の人が支払えない上に師匠がこんなに興奮するって、どんだけ蜂蜜は高いんだよ!


「この量の蜂蜜じゃと、一本最低でも二アグは在りそうじゃ。これだけでも大銀貨で1枚はするの。それにこの柔らかなのに確りした容器、この前の『かっとぱいん』の入っていた入れ物にも似ておる。この様な物値段の付けようも無いぞ?」


「うーん、そう言われても困るよ? 俺も分かんないな」


 師匠も変に真面目で律儀だから、おいそれと値段を決めかねているに違いないな。

 何か公平に分かる……って、オイオイ良く考えなくても俺らは“物品交換士”だったじゃないか、どうも俺も師匠も頭が回ってないようだ。

 途端におかしさが込み上げるが、師匠に向かってグっと親指を立てる。


「師匠、こんな時こそ“銀の天秤”を使う俺達“物品交換士”の出番じゃないかな?」


「ほっ! ふはははっ、正にお主の言う通りじゃ。全く、いくつに成ろうと自分が常に“物品交換師”である事を忘れてはいかんのう。それではさっそく天秤に載せて確認しようではないか!」


 夜中の変なテンションの上がり方をしているせいか、師匠と俺二人してかなり馬鹿になっている自覚があるが、初めて師匠の“銀の天秤”の効果をこの目で確認する事になった。

 目の前に天秤が現れたので、俺が片方に蜂蜜のボトルを一つ載せもう片方に師匠が「どれどれ」と言いながら先ずは中銀貨を一枚乗せる……まあ、釣り合うとは師匠も思っては居なかったようで、ニヤニヤしながらあの綺麗な財布から銀貨を追加していく。

 俺はその楽しそうな師匠の様子を、同じようにニヤケながら釣り合うのを待つ――





 暫くして、まだ釣り合わない天秤にそろそろ師匠を止めるべきか悩んでいるが、師匠は額から汗をダラダラと流しつつ、それでも顔色を変えながら更にもう一枚銀貨を積み上げた。

 先程からグラグラと天秤は揺れ始めたのだが、師匠の銀貨の乗った側には中銀貨が既に三十枚、前に聞いた比率だとこれだけで既に大銀貨十枚分、師匠の店の店員の月給で考えると実にほぼ五ヵ月分だ。

 俺はもう良い! 早く釣り合ってくれと胃の辺りを押さえながら祈っていたのが通じたのか、やっと天秤が釣り合ったのは良いけど、コレ一本が大銀貨十枚分!? ぼったくりも良いところだ!


 コレ近所の特売品でレジの近くで一本四百二十九円だったのに、あっちじゃ給料五ヵ月分って婚約指輪よりたっけーよ!!

 最初は楽しそうだった師匠が、今は心なしかぐったりして自分の出した“銀の天秤”を椅子に座り見上げている。


「……なあ、師匠確か蜂蜜だけなら大銀貨一枚とか言ってたよな? 俺の目には中銀貨三十枚、つまりは大銀貨で十枚で釣り合ってるように見える。これは師匠の“銀の天秤”もしかして壊れてないか?」


「なっ!? 何を言うか!! ワシは今まで生きてきた五十と数年、“物品交換士”としては三十年以上じゃが、一度としてこの“銀の天秤”が壊れた事などありゃせんわ!!」


 師匠が俺の言葉に憤慨しているが、夜中に叫ばれるとマジ困るって! 兎に角師匠を宥めて落ち着かせ、一度頼んで仕切り直しにしてもらった。

 師匠はそれを納得してないが、俺としては疑問だから考える。

 

 確か師匠は蜂蜜の量で値段を予想していた、中銀貨を載せたのも見栄え的に多い方が良いし、何よりあの過程を楽しんでいたし俺も喜んで見ていた筈だ。少しずつ値段が上がっていくほうが、取引する相手としても嬉しいよね?

 だが、結果は両方が楽しいなんて物じゃなく、圧倒的に俺だけが得するようなありさまだった。


 そりゃ確かにお金は欲しいと思ったけど、気分は良くないよね師匠なんて憔悴してたし? だから俺はボトルの封を開け、棚から別のどんぶりに中身を移して再度天秤に載せて貰い、確認をお願いする。

 俺はあの値段が“蜂蜜だけ”ではなくガワの“容器の値段”も加味されたんじゃないかと考えたのだ。

 再度交換を行った結果は――


「……釣り合うぞ、釣り合ったんじゃ! アキート、お主いったいどんな魔法をつかったのじゃ!? 今は大銀貨一枚と中銅貨八枚で釣りおうとる」


「俺は魔法なんて使ってないけどさ、つまりこっちの“容器”の方は師匠の所じゃ大銀貨九枚くらいの価値が在るって寸法だな。長年商人をしている筈の師匠が、蜂蜜は大銀貨一枚と言ったのにあの値段差はどう考えたっておかしいだろ? だから中身は師匠の予想に間違いないけど、師匠の“知らない”素材の容器は値段を付けられないって、……最初に言ってたしね」


 俺がそう言って種明かしをすると、「あっ!」と思い出したかのように師匠は言い、俺がニヤッと笑うと師匠も同じく笑った。

 こういう事は両方が納得してやらないと、それこそ“物品交換士の初心者”として、これから名乗っていけないよな。


ついに“物品交換士”と自分を認め“初心者”としての心構えを刻んだ明人。


つづく

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