42話 呪いと疑惑
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俺は心が落ち着くまで暫く師匠に待ってもらい、目を閉じ顔を拭うが泣き顔を見られたのが照れくさく、開いたままになっていた『窓』に視線を戻す。
最初にセットしてあった短剣と籠手だが、履歴を目で追っていくと持ち主だった護衛の男の名前は、マグナゲード・ゴルオア・イェガン(三十二)歳……どうも慣れない響きなのでしっくりこないが、イェガンは商隊の護衛だったのは間違いないけど、読んでいくうちに俺はその内容に目を疑う。
イェガンが病気になった原因は、どうやら村に来る途中で“病魔と呼ばれるモノに襲われている事”が原因ぽい、その病魔との戦闘の際に傷つけられた腕の傷から感染し、籠手にもその病魔の血が付いている事が分かった。
……いつから病原菌は人と戦闘をするようになったんだろうか? 確かに体内に入り込んだウィルス(菌)が、体の抗体と戦うのをミクロ的視点で捉えると、戦闘と言えなくもないだろうけど、なんだって実際に武器を振るって等身大で戦ってるんだよ。このイェガンって男は!
確かに熱や赤いぶつぶつが出たり、こちらの病気である風疹や麻疹の症状に似てるけど、コレはそれとは違いその病魔の“呪い”から来るらしい。
感染する呪いなんて初めて聞くので、俺としてはもう驚くしかないが、よくある怖い話に出てくる、見たら呪われるビデオテープと同じ様なもんか?
「アキート、先程までと違いお主のその表情から察すると、何か気が付いたのかの? やはり原因はあの護衛の男からの物で在ったのか?」
「俺にも良く分からないけど、風邪とかの病気じゃなくて“病魔の風邪精の呪い”? みたい。コレってどういう事なの?」
「風邪精じゃと!? ……なるほどのう。お主が知らぬのも当然じゃが、きっと件の商隊はこのオグンの村に来る前に、この地域ケルートとバールチェスタの間にある“風穴の谷”を通った、もしくは近付いたに違いない。あそこは風邪精が集まる地じゃ、単に襲われただけでは周りの人間まで呪いには掛からん。多分風邪精の止めを刺したのは、その短剣の持ち主の護衛の男で違いあるまい! つまりじゃ商隊の連中は何らかの理由で、風邪精の核を取りに入ったに違いないの」
俺の問いに対し興奮して話した師匠は、口を閉じると何やら目を瞑り考えに沈んだようだが、俺の言った話だけで場所まで特定できるくらい、風邪精は有名なのかな? それに風邪精の核とか、何に使うのに必要で取りに行ったんだろうか? そもそも知識が無い俺には憶測も立てようがないので、師匠が思考の底から戻って来るのを待つ。
その間村人の使っていた布等も調べて行くが、やはり……って俺もコレ呪われるんじゃない? 俺は焦って自分の身に着けている物を調べて行くが、特に呪われもしてなく、履歴をよく見てみると“抵抗しました”とだけ書かれてた。
あっさり抵抗しましたって書いてるけど、俺のどの抵抗力? 免疫的な抵抗力? それとも不思議な力的な何か? もう“病魔の呪い”とかオカルト的過ぎてついていけんわ! 俺はそう見え無いかも知れないけど、ソッチ系は苦手なんだよ!
それに、そんな危ない物取ってくんなと、俺は一言このイェガンって奴に言ってやりたい気分だ。
「……理由が在ったとしても、風邪精の核を故意に取りに行く事は禁止されておるから、村に危険があろうと躊躇せず体調が回復次第、そのまま直ぐに村を出たに違いないの。ある意味村を見捨てたのと同じで、これは十分に厳罰に値する事じゃ! 薬の代金を払う契約もして名を残していたが、村が滅びれば証拠も消えるとでも思ったんじゃろうかの? 最悪滅びなくてもあの病が、まさか呪いだとは普通は思わんし、商隊にしても水だけ補給すると、何も売ろうとせずにさっさと消えたと言うてたしな」
「それってスゲー怪しいしその商隊も、村を見殺しにしたのと変わんないよな? 禁を破って取るのもバレると不味いって話なのに、危険を冒して手に入れようとしたその風邪精の核って奴は、何に使えるんだ? 師匠ならそれも知ってるんじゃね?」
「無論知っておるよ。風邪精の核は、大きさに比例してその効果の強さも変わるんじゃが、普通は風邪精が自然に死んだ際に残した核を拾って、風の要素を付与する道具やそのまま装身具等にするか、風の要素を使う際の補助具に使ったり様々だの」
「思ったより幅広い使い方なんだな。でも落ちてるのを拾えるなら、態々戦ってまでして呪われて取る必要はなくね?」
俺は思った事をそのまま口にだし、それをどう思ったのか師匠に苦笑いされる。
だが、師匠がその笑いを消し真剣な顔になり「他言無用じゃぞ?」と、目をギロリッとさせてそう言うので、その気迫に黙ってウンウンと頷く。
「最初にお主に言った話は、普通に風邪精の核を使う場合の例じゃ、じゃがワシが過去に噂で聞いた話に、この核を生きたまま風邪精から取り出すと、一度きりの竜巻や嵐などを起こさせられる、誤った使い方があるそうじゃ。流石にそのやり方まではワシも知らんが、この噂を聞いた時は“シャプーアの陰”だと思っておったよ……」
師匠の言うシャプーアとは人々の善の行いをアカフ(神)に告げる白蛇らしいが、その陰とはアカフに嘘を告げるもう一匹の黒蛇だそうだ、良く分からんが虚偽に使う諺だってさ。
突然師匠が“シャプーアの陰”なんて言うもんだから、シャプーアって何? って俺は思ったよ。
「実際に風邪精から核を奪い取り、呪われると分かって止めまで刺す者が出た以上、先程の噂話に変な信憑性を感じたせいか、どうも妙な胸騒ぎを覚えるわい。それに風穴の谷を守備する警備隊も居た筈。……全て単なる勘違いで済めば良いのじゃが」
「それはそうとして、先ずは病気と言うかこの“呪い”の効果をどうにかしないとな。一応病も治るし抵抗も出来るみたいだけど、村の子供が全員熱で倒れたのも、抵抗出来なかったからって思えば納得できる。病気の潜伏期間と言うよりは、履歴を見て行くと、呪いに触れて徐々に蝕まれたって感じだし。この短剣と籠手は真っ先に処分するべき物って事は、間違いねーよな」
「その短剣と籠手じゃが、一番は箱に封じ寺院に持っていく事じゃの。問題はワシがそれまでに、呪いに抵抗し続けられるかと言う事じゃ……」
俺はそこで『窓』を開きアイテム枠に入れたままの短剣と籠手を見て、このままここから出さずに固定しておけば、触る必要も無いので誰も呪われる事が無い事に気が付いた。
「師匠、良ければこの二つ俺に預けるか? このまま絶対誰も触れない場所に保管できるから、これ以上呪いも拡散したりしない筈だぜ? 師匠がその寺院とかに着いたら、改めてそっちに渡せば問題解決だろ?」
「おお! アキート、それは上手い手じゃの! それではその二つはお主に預けよう。危険な事じゃが、ワシにはもうお主に頼むしか出来そうもないわい。この礼は薬の件も含めて必ずさせて貰うぞ」
そう頼まれた俺は師匠に向かってニカッと笑うと、ドンと胸を一つ叩いて答える。
「へっ、師匠が誇りに思う弟子を信じて任せてくれ! ……オカルトとか関係ないみたいだしな。あとこっちの荷物は戻させて欲しい、こっちは呪いとか関係ないみたいだから、また使えると思う」
師匠にそう言って確認した物の山を渡し、消えた商隊と護衛の男をどうするか相談する事にした。
それと言うのも、下手にこの話を村に広めても厄介事に巻き込まれる、もしくは村人に“呪い以上の災難”が見舞われる恐れも無いとは言えず、そんな事にならないように今の所は単なる“うつる病魔”だった事にしようと話を纏める。
次は配った薬の値段だが、この事に関しては先に師匠が村長に安くすると話していたので、水の要素の秘薬とは違う“新薬”として少数売り出す為に、モニターとして使った感想等を意見して貰う事を条件として、今回のみ値段を抑えたと言う触込みで、大銅貨五枚=中銀貨一枚で売る事に決定。
流石に安すぎても拙いと言う事で、仕方なくこの値段に落ち着いたのである。
そう言う訳で俺は夜中にもかかわらず、必要になった赤ちゃん用の哺乳瓶一式と、専用の熱止めシロップを求めに二十四時間営業の、亀田ドラッグへ自転車を漕ぎ出す事になった。
つづく




