30話 指先一つで驚きの効果
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兎に角時間も無いので、静雄の合図で更衣室の鍵を開け中へ入るが、こうなってしまうと外の様子はもう分からない。
外に関しては二人に任せるしかない俺は、カメラの位置を分かっているし、さっと交換をしようとした所で、カメラを『壊さなければならない』事を思い出した。
画像データは黒川が修正したはずだが、昨日の現場を映した事を考えると、カードも纏めて壊したほうがばれ難い筈。
ただ、力任せに壊すと誰かが故意にやった=カメラの存在を気付いた第三者を匂わせる事にも成りかねないので、あまり不自然な壊し方は不味い。
そう考えた俺は、鞄の中に何か使えそうなものを持っていなかったか、急いで確認すると中には当然教科書、筆記用具、他単三乾電池十本セット、ペットボトルのジュース一本……碌な物が無いが、何とかしてこの道具を使って、カメラを不自然ではない壊し方が出来ないか頭を捻る。
取りあえず『窓』でカメラの状態を見てみると、昨日と違い電池が切れているようで、今は電源が入ってない。
昨日館川が隠しカメラのデータを回収前に、俺達に捕まったから当然ではある。
以前の履歴を見ると館川は充電の切れた単三電池を、データの回収と共に交換している様だった。
なるほど、通りで二十八時間分は保存できる機材なのに、七時間の撮影が終わった後放置されていた訳だ。
ロッカーに隠されているカメラは、電源とカメラを無理矢理繋げた様な手作り感満載で、色々と配線やらは隠れているとは言え、カバーも無くコード類は剥き出しだ、精々が黒のビニールテープで巻いてくっ付けている工作レベル。
これなら鞄に入れっぱなしになっていた単三と交換して通電させた後、同じく入れっぱなしだったジュースをロッカー内で零して濡らし、ショートでもさせれば物理的な破壊よりは不自然さは無い筈だ……と思う。
俺はカメラをショートさせると『窓』の履歴で壊れているのを確認……と言うかここまで小さいと防水なんてできないのかな? そう思いながらmicroSDカードを『窓』を使い、隠しカメラの中へ戻す。これでカードもジュースまみれだ。
勿論指紋はふき取ってあるので、こうしておけば調べられても誰の指紋も見つかりはしないだろう。
予定の作業を全て済ませた辺りで目覚ましとは違う「ジリリリリリ」と、けたたましい非常ベルの音が鳴ったので、思わず体がビクつく。
警察がこちらに向かって来たので、予定通り黒川がボタンを押したに違いない。
時間的に一年の生徒がグラウンドに出て、授業が始まったのを確認後に来たのだろうが、おかげで十分時間が出来て仕掛けの終わった俺は、更衣室を出ると静雄に合流すべく先ほど居た位置まで戻る。
「静雄、状況は? ベルが鳴ったって事は警察が来たんだろう? ってお前何してるんだ?」
「警察ならベルが鳴った途端引き返したが、念には念を入れ目も誤魔化すだけだ」
そう言う静雄はポケットから煙草と派手なオイルライターを取り出すと、徐に火を点けそれを天井に近付けた途端に、横に在った防火扉が反応して動きだし徐々に閉まっていく。
待機していた場所はプールと校舎を繋ぐ渡り廊下の近くで、この天井付近に設置された火煙探知機に、煙草の煙を当てた静雄は何事も無かったようにそれを消し、窓の外に投げ捨てた。
「呆れた。お前何時の間にそんな物用意していたんだ? 最初からこうなる事を予想でもしてないと普段持ち歩かんだろ?」
「ふむ、俺は別に予測などしてないが先ほどの奴らから取ってきた。見回りの教師に見つかれば、調べられるだろうから貸を作っておこうとな」
確かに、あんな場所に不自然に集団で倒れていたら、変に思われ持ち物検査くらいはされそうだが、本当に静雄がそこまで考えての行動なのか怪しい……勘や何となくと言われた方がまだ分かる。
静雄的に何か他にも理由が在りそうだが、俺には分からんな。
と其処で非常ベルが止まると今度は校内放送が流れ、現場確認をするまで生徒は慌てず騒がず、教室で待機するようにとの指示があった。
「お、そろそろ急いで離れないと警察もだが、先生方までこっちに来るな。黒川ももう先に逃げたんなら、俺らもばれない様に戻ろうぜ」
「うむ、しかし数日前にも言ったが、明人は変わったな。偶然とはいえここまでして他人に関わり合いになろうとは」
「ん~変わったと言うか、変わらざる負えないと言うか、そうだな静雄の言うように少しは変わったかも。おかしいか?」
「いや、良いと思うぞ。誰かの為に一生懸命になれる人間は、自分も大切にできる人間だ。前の明人は何か困ったりすれば『仕方が無い』と諦めが早かったからな。今は例え困っても何とかしようとする気構えを感じる」
「……そうか? まあ、静雄が言うならそうだったんだろうな。あ~あ、お前に説教される日が来るとはな~。今日は随分と饒舌だが、俺はそんな風に見えていたのか?」
「偶にな。俺はそんな明人に背中を預けて良いのか考えもしたが、今は間違って無かったと言える」
そんなに俺は諦めやすい奴だっただろうか? ……うん、割とやる前から『無理』って決めつけて何かと諦めていたかも。
今も割と無理な物は無理って言うけど、『窓』を使えるようになって出来る事が増えたせいか、『何とかなるんじゃ』って考えられる余裕が出来たのが原因かもしれない。
言われてみれば今回の事も、最初に黒川を見つけてここまで関わり合いになる事を前はしなかった筈だ、でもアレは『窓』が在ったからこそ気が付けた事でもあるし、俺は変わったと言われても実はあまりピンと来ない。
「でも、結局俺は出来る事しかやらんし、無理と思ったらハッキリ言ってお前や誰かを頼るからな! 勝手に色々期待されても困るぞ」
「承知した。だが出来るかどうか試しはするんだろ? それで十分だ」
俺はそう言ってニカッと笑うと、静雄も笑顔で返してくると普段の厳めしい表情では無く、その顔はとても穏やかに見えた。
が、その後静雄の奴、あのバカ力で俺の肩を思いっきりバンバンと叩いてきて、俺は骨が折れるかと思ったね、後で見たら紅葉見たく赤く手形が確り着いてたよ。ちくしょーめ!
俺達は揃って窓から出ると、誰にも見つからないようにコソコソと、教室まで逃げ出すのだが、その間に校内放送がもう1度かかり、火災を知らせる非常ベルは誤報だと流れ、俺達は見つかることなくやり遂げれたと喜び合った。
――教室に着くと「風邪は治ったの?」「石田、重役出勤か!」「あの、大丈夫?」「仮病乙~!」等声が掛かる。……最後の奴誰だ?
実はC組もD組との合同授業で女子生徒が盗撮された疑いがあるとして、同じく聞き取りが行われ、自習となっていたそうだ。
先生も居ないので誰に咎められることも無く、おかげですんなりと教室に入ることが出来た。
「その様子だと、見つからず上手く来れたようね? ……あれ? 石田、あんた昨日ぶつけた顔と鼻もう治ったの? 何か早すぎない? 仮病と合わせてアレも演技?」
「アホか! 誰が好き好んで演技までして鼻血出したり、皮膚の色を変えるかよ。治ったの! 俺の脅威の回復力を驚くが良いわ! ……だからってポンポン殴るのは止めてください死んでしまいます」
俺がアホと言った途端、秋山の奴脇を締めて拳を繰り出してきやがった! お前は本当に俺をどうしたいの? マジ泣きするぞ! それにそこっ! 静雄、秋山の台詞で今頃になって手を打って納得するのかよ……さっき会った最初に気付けよ。
「むっ、そう言えば今言われて気が付いたが、明人よ確かに治るのが早すぎないか?」
「だあっ、お前ワンテンポ遅いよ。と言うか早く治る分には良いじゃねーか。誰にも迷惑かけちゃいねーし」
「いや、もしそんなに打身や打撲を早く治す薬でもあるなら、是非教わりたいと思ったまでだ」
「んあ~、そうだな。確かに薬なのは間違いないけど、飲むのに凄い勇気が必要だぞ? 俺あれをもう一度飲むか、骨を折るかどっちが良いか聞かれたら、悩むわ」
「あんた、どう考えても飲む方がマシでしょ? バッカね~悩む必要無いじゃないもしかしてマゾ?」
そんな話を三人でしながら、静雄には今度その薬が手に入れば持ってくると言い、五限の時間は過ぎて行った。
つづく