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23話 アキート

ご覧頂ありがとうございます。

 師匠が言い出した“ソウルを刻む”と言う行為に、俺は心当たりがある筈もなく目を瞬いたが、言った師匠も俺の質問に対して同じような反応だ。

 これはお互いの認識に齟齬があるからだと思うが、そもそも『ソウル』ってよく言う(ソウル)の事で合っているのだろうか?

 それに文字と言うからには見えるわけで、俺は俗に言う“人魂”何て物を見たり“幽霊”と言うような、不思議な物を見た事は無いので、あまりピンと来ない。


 師匠が俺にさらりと告げるあたり、あちら側では、『ソウル』と言うものは日常的に使われている物なのだろうか?


「え~、師匠に訊ねますが『ソウル』って何ですか?」


「……なんじゃ、アキートは『ソウル』を知らんかったのか? ソウルとはこの世の存在するものならば、あらゆるものに宿ると言われとる、五つの要素を司る器の事じゃよ。すなわち地、水、火、風、空の五つの要素が合わさり、正しく調和する事で物事が釣り合うと言い伝えられておる筈なんじゃが……」


 師匠がそう指折り五つの要素を数えチラッと俺を見るが、そんな五つの要素……四大元素は何となく分かっても“空”って何だ? ソウルの器なんて物を感じた事が無いので返答に困る。

 なので正直に思った事を話すが、やはり俺はソウルに関してはサッパリ分からん。


「どっかで似たような話を聞いた事はあるけど、その『ソウル』って奴は俺にもあるのかな? 勿論師匠はその『ソウル』を使えるんですよね?」


 俺がそう言うと、師匠は頷いて右手に嵌めていた青く光る指輪を撫で、俺に良く見えるように向ける。

 この指輪がどうかしたんだろか? 別段変わった物には見えないが、サファイアやオパールましてやダイヤ等の宝石と言うよりは、パッと見だと俺にはガラス玉にしか見えない。

 なので、一瞥すると特に珍しい物にも見えなかった俺は、軽く肩を竦めた。

 そんな俺の態度を見て師匠は、ニコニコと指輪を撫でるだけだ。


「無論じゃよ。そもそもお主と話をするのに使っているこの指輪、これはお主の中に存在するソウルに直接働きかけ、火の揺らぎと空の広がりを感知して、ワシのソウルと同調し話をしているわけじゃし。そもそもこの指輪の力を貯めるのに、ワシの得意とする、空の要素をソウルの器から引き出しているからのう」


「あれ? それじゃあ俺に会って、さっき師匠が驚いたのは話しかけられた言葉が分からなかったせい? それであの時慌てて外していた指輪を付けたのか」


「あ~うむ、流石にこの村であの指輪を着けっぱなしだと少々問題があってのう。部族が違い国が違えば使う言葉も違う、だからこれはワシの商いに随分と重宝している指輪じゃよ」


 そう言って嵌めていた指輪を抜き取ると、ニヤッと笑った師匠は口を開き喋り出したが、俺の耳に入ってきた言葉は、先ほどまで普通に話していた“日本語”とは全く違った、音の羅列にしか聞こえなかった。

 俺はその突然の耳慣れない言葉に吃驚して、慌ててジェスチャーで師匠に指輪を嵌め直してと伝え、その様子を見て師匠はニヤニヤしながら、再び青く光る指輪をその右手の指に輝かせる。

 ……いや、マジに知らない言葉で急に話しかけられると、結構ビビるわ。


「ふぁっふぁっは、どうじゃ驚いたじゃろ? さっきのワシの気持ちも分かったであろう。それはさて置き、この指輪で会話が出来ると言う事はだ、お主にもちゃんと五つの要素を備えたソウルが宿っている証拠じゃよ。他の物で言うならお主に渡したあの“底なしの水袋”も似たように、水と空の要素を付加した特別な物なんでのう」


「理屈はわからんけど、つまり俺にもソウルがあってそれが無ければ、師匠との話は成立しないって事だな? それじゃあその指輪があれば、もしかして動物とも会話できたりするのか!?」


 俺はその効果を聞いて直ぐに閃いた事を、興奮して師匠に聞いてみたが帰ってきた答えは酷く簡潔だった。

 “その対象の動物が、人と同調出来る程の力と知恵を持っていれば会話も可能”との事だった、つまり余程賢い動物でもない限り、人との会話は出来なさそうだ。

 イルカやオラウータンなら、会話できたりするのかな?


「……かなり話がそれたが、ようするにソウルを刻む事はお主にも可能じゃとワシは考えるが、先ずはアキートの中に宿るソウルをアキート自身が認識できない事には、普通は“使う”と言う事さえできんじゃろうな」


「突然そんなこと言われても、ソウルを認識ってどうやれば? 直ぐには無理っぽいし、この扉開けっ放しで待つこともできなくは無いけど、流石に俺の家族にばれるとかなり厄介な事になる。人命が掛かってるから無理なら仕方ねーけど、師匠何かいい方法ないのか? 幾ら種と薬の効果が分かっても、間に合わないと意味が無いからさ」


「うーむ。そうじゃの~このままじゃと、あの子も結局七歳の祝いの宴も出来ず、命名式さえすることなくソウルが昇華されるか……」


 師匠は上を見上げそう独り言のように呟くと、「待っとれ」と言って一旦俺の視界からずれる。

 もう一度冷蔵庫の前に戻ってきた時には、その手には小さな袋を持ち中から赤いルビーのような、菱形の石を取り出し俺に差し出した。

 師匠がしていた指輪が青いガラス玉なら、この石は赤い透明なガラスに見える。


「師匠その赤い綺麗な石は何だ? 凄い透き通ってガラスみたいだけど、何かの宝石か?」


「これは子が生まれ七歳を無事迎えた時に祝うと同時に、それまでの古い幼名を一度捨て、新たに名を授かる命名式の際に使うもんじゃが、アキートよお主は真に子を助けたいと思うか? もしその心に偽り無ければこれを受け取れ」


「助けたい気持ちに嘘はないけど、それを受け取っても俺の名前変わったりしないよね? 勝手に改名なんてしたら、きっと親父に泣かれて母さんにはブチ切れられると思う……」


「何と言うかお主の両親逆じゃないかの? ……まあ安心せい、お主はとっくに七歳を過ぎとるじゃろ。お主の名前は既にソウルに定着されて揺らぎは無い筈じゃ。覚悟が決まったならばそれを持ち、こう唱えるのじゃ“我生涯にわたり、己のソウルを磨き続ける事を今ここに誓う”とな。そうすればアキートのソウルは活性化され、自ずとそれを認識できるようになるじゃろ」


 俺を真剣に睨むかのように見つめ、ぐいっと師匠はそれを更に差し出してくるが、唱えろって言っても今の一回じゃ聞き取れなかった俺は、とりあえず受け取りもう一度何と言ったか、聞き直そうと思ったその瞬間。


「師匠なんて唱え……えっ?」


「むっ、唱える前に一気にきおったか!」


 唱えるも何も、俺がそれを受け取った瞬間にカッと目の前が光った気がしたが、それよりも俺は“上に”引っ張られ一気に上昇し文字通り魂が竦みあがった。


 いったい何が起こっているのか理解できず、必死に周りを見ようとすると真下に“自分が居る”のを知覚し、次に全身に光が降り注ぐと地、水、火、風、空それぞれに対する“色”を感じ、それらが一体になって自分の中に在る事を実感する。

 と同時に俺は“俺に戻っていた”目の前には師匠がいて、確かに俺の中にあるソウルの器の存在を覚え、その感覚に感動していたのだが、それも次の瞬間一気に冷める事になった。


 《あなたのソウルの器の解放を確認。新たにソウル文字を習得しました》


 そう、静雄から貰ったメロンパンの時と同じく、俺の頭の中に例のあの声が響き渡ったのだ。


「何コレ? 折角凄い体験して“俺生まれ変わった!?”って感動していた筈なのに、今逆にガッカリ感の方が強い……。師匠一応だけどソウル文字、使えるようになりましたー」


 俺の言葉は話してる内に徐々に感情が薄れ、最後の方は棒読みになってしまう。

 ちくしょー! 俺の感動を返せっ! それとも俺の感性がシステマチックなのか?


「ふむ、どうやら理解したようじゃが本当に大丈夫かの? 兎に角それがソウルであり、アキートの五つの要素を司る器じゃよ。それでは実践して使い方を覚えようかの? 先ほど渡した割符に己の名を込めて刻むとよい」


「はいはい、それじゃ一番明人ソウルを刻みまーす」


「アキートよ、何か随分と投げやりじゃな。もっとシャキッとせんか! ソウルを刻む事は己を刻むと言う大切な事なんじゃぞ?」


 師匠は眉を歪め不機嫌そうに言うが、感動を台無しにされた気分で少しだけイラっとした俺も若干不貞腐れた顔でソウル文字を刻む。

 このソウル文字も窓の様に“習得”してしまったので、特に考える事もなく簡単に刻めてしまったのだが、何故か俺の名前“明人”と刻もうとしたのに、実際に刻まれた文字だと“アキート”に成っていた。


《アキートはソウルを解放した!》

《新たにソウル文字を習得した!》

《だがアキートはガッカリした↓》


つづく

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