22話 その名を刻みつけろ!
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うーむ、物品交換士ねぇ。まあ、なっちまったもんは仕方ないか。
別に特に悪い事でもないし、ただ“こっち側”じゃ誰にも見え無いっぽいし、確かに特殊って言われたのも、あながち間違いじゃないよな。
言われてみれば、俺のこの不思議な『窓』の効果も、物品交換士って意味合いに間違いはなさそうだ。
「ちょっと釈然としないけど、俺は物品交換士になってたのは分かった。で、この爺さんの“銀色の天秤”はどう使うんだ? 物を乗っけて量るだけ?」
「お主はワシの言った事をな~んも分かっておらんようじゃの……。まあええわい、その天秤はワシと物を取引する際に効果を表す。これは物品交換士としての最大の特徴じゃろう? 天秤にぶら下がる秤に交換したい物を載せ、釣合が取れればそれは重さや形等関係なく、等価と認められ取引は確実なものとなる。物と物、人と人それら両方の良好な懸け橋となれる、偉大な御業なんじゃぞ?」
「うーん……。ん? 取引する相手にはその天秤が見えるのか?」
「当然じゃろ? 見えないのにどうやって相手は物を載せるんじゃ? そもそも釣り合っているか分からんではないか。その様な不確かな取引では相手も納得せんし、人と人同士良好な関係を築く事ができんわ!」
「どうどう、爺さんそう興奮するなよ。まあ、確かに爺さんの言う通りだわな。つまりこの“壁”があっても、物品交換士の天秤を使えば等価な取引も可能って事になる訳か……。交互に相手に物を贈れば取引にならないんかね?」
「それを真に出来れば、人と人の間に争い事など起きんよ。そういう意味ではこの天秤が無ければ“等価な取引”など、争い会う愚かな人同士では出来んと誰かが考え、ワシらに与えられたのかもしれんな……」
爺さんは俺を眩しい物でも見るかのように目を細め、貯め込んでいた息を吐くようにそう答えた。
ここで問題なのは、俺はこんな“銀色の天秤”なんて持ってないし出せない事だ、最初に『窓』を見つけた時だって、静雄から貰ったメロンパンで初めて“現れた”訳だし。
あの『窓』を開いて見ても、今のところ誰にも見えているような様子は無かった筈。
俺はもう少し爺さんから、詳しく話を聞くべきだろう。
「え~と、何か落ち込んでるようだけど。こうして俺を弟子? にできた訳だし、物品交換士としては立派に師匠してるんじゃないか? もっと自信を持てよ」
「ふはは、そうか。……ワシは自信を持って良いか。そうじゃな商人としてはそれなりの財を蓄え、名も知れたがこうして物品交換士としての弟子を持つのは初めてじゃからな。よし、ならばもう少し師匠らしい事をせんとな」
「そうこなくっちゃな! それで今更だけに聞き辛いんだが爺さん……いや、師匠! 俺あんたの名前知らないんだけどさ、お互い名乗ってみない?」
俺がそう言うと、爺さんもとい師匠は「あっ!」とでも叫びそうなくらい口を開け、そのまま盛大に笑いだし俺も釣られて笑った。
暫し笑い合いそれも落ち着いた頃、師匠と俺は名前を名乗り合った。
師匠の名前はマガーヴマト・ホラム・ラーゼスと言うらしい、ホラム家のマガーヴマトの子ラーゼスと言う意味だそうだ……とにかく長ったらしい名前だ。
なので面倒だから爺さんを呼ぶときは師匠、俺はそのまま明人と呼ぶ事に統一しようとの合意に達したのだが、最初師匠は「あきひと」と上手く言えなくて、俺を呼ぶときは「あきーと」になっていた。
誰だよアキートって、俺は味覚消失の自虐男じゃないぞ!
「さて、それで我が弟子アキートよ。お主はこの天秤を一日に何回使えるんじゃ? 一回か? それとも二回か? もしかすると三回まで使えたりはせんかのう? どうなんじゃその辺は?」
「師匠アキートじゃなく、明人です。えーとその質問の前に師匠は、一日に何回この天秤を使っての取引を行えるんだ?」
何かとてもニヤニヤしながら、師匠は俺に“交換”を出来る回数を聞いてきたが、一回や二回どころではなく使える回数何て、意識した覚えが無い。
師匠としては、自分が見込んだ俺の最初から行える“交換”の回数を聞いて、どれほどの力を伝授できたのかが、とても気になるようだった。
「ふむ、ワシもこの力を授かって既に四十年になるが。今では一日に四十五回まで使用できたんだが、この間お主を弟子にしたんで物品交換師”に変わったせいか、使える回数が三十回までに減ってしまったわい」
「十五回も減っちゃったのか……。何だか申し訳ない、悪いな師匠。やっぱり伝承するときに、回数を渡しちゃうもんなの?」
「いや~聞く所によると、これは運らしいからお主が気にする事ではないぞ? なんせワシが勝手に試した訳じゃしの。それに伝承されなければ回数は減りもせんしな」
なるほど、俺を弟子にできたから師匠は“物品交換士”から、“物品交換師”へとクラスアップ(?)したと言う事なのかな?
それなら減っても仕方ないと言える……のかな?
「えっと、それで物品交換師になって何か変化とかあった? 折角“士から師”になったのに、何もないって事は無いんでしょ? 実際そこのところどうなのさ師匠?」
「ほっほ、アキートよそんなに知りたいか? ならば教えて進ぜよう! なんと新しく“交換”の他に“等価値統制”を行えるようになったんじゃよ!」
「えっ?」
統制? 何それ? もっと派手な力がバーン!って宿ったりはしないのかな? 案外物品交換士って地味なの? いや、そりゃ勇者とか騎士とかみたいなネームバリューは無いけど、地味じゃね?
「これはかなり珍しい部類なんじゃが、二つの物品が等価の場合、それをくっつける事ができるようになったんじゃよ! 素晴らしいじゃろ! これで嵩張らないで物を運べるんじゃ!」
「えーと? どういう事? 重ねる? 同じ物を二個用意すると一個になる? つまり等価の燭台を二個用意して一個分の容量に?」
「そう言う事じゃの、これで同じ等価の品物なら一個分の容量で、沢山運べれるようになった訳じゃ。まあ、まだ回数はそんなに使えんのが悩みどころかのう」
「色々と突っ込みたい事はあるけど、便利で良かったっスね~師匠」
「うむ、お主には感謝せねばならんの。……で、お主は何回“等価交換”を使えるんじゃ?」
……どうしよう、俺交換の回数制限何て初めて聞いたし本当に意識してなかったけど、どこかに回数表示されてたんだろうか? でも、今ここで『窓』を開くと確実に師匠に“コレ”を見られてしまう訳だ。
何だか気まずいので、話題を誤魔化せないだろうか?
「じ、実はですね。今日はもう回数を使い切ってしまって天秤を出せないんですよ、それに話がずれちゃいましたが、師匠は何か困った事でもありました?」
「そうか、今日はもう出せないなら仕方ないの。……それと、アキートに言ってどうにかなるか難しいが、実はのう今ケルートにあるオグンに来とるんじゃが、村の子供の熱が下がらんくてのう。本当なら七歳を迎え近々お祝いをする事になっておったんじゃよ、それが熱冷ましの薬が切れておってこのままでは、衰弱で死んでしまうかもしれんのじゃ」
「ええ!? それってヤバイでしょ。医者は何してんの!? 病院に連れて行かないと!」
「それが、ここは僻地でワシも偶に商品を持って訪れる位で、施療院は遠すぎるし医者はここには居らん、だから困っていたんじゃよ。薬も少々は持ってきてるんじゃが、この地域に住む害虫や害獣の毒消しと、腹痛を治す薬、後は怪我の治療薬くらいで、熱冷ましの薬は持ってきて無くてな。どうも村で栽培していた薬草は使い果たしてしまったそうで、今は種しか無くてそれではとても効き目が薄いそうなんじゃ」
そう言って師匠は弱々しく呟く、俺が最初に師匠を見た時に暗い顔をしていた原因はこれだったんだな。
種じゃ効き目が薄いのか? 普通種の方が効き目は濃そうな気がするけど、向こうじゃ違うんだろうか? 俺には薬草の知識も薬の知識も無いから、その辺はサッパリな訳だけど、家に在る常備薬を使っても良いけど、効き目在るのかな? 緊急事態だし言ってみるか。
「うーん、熱冷ましね。明恵用の小児用熱冷ましなら少しかあったと思うけど、そっちの人に飲ませて大丈夫かわかんないから、危なくて試せないしな……あ、そうだ師匠その薬草の種って1粒でも構わないんで借りてくることは出来ませんか?」
「うん? 種を1粒くらい用意してどうするんじゃ? 1粒位なら話せば分けて貰えると思うが、何かいい案でも思いついたのか?」
「そうっスね、その薬草の効果とこっちの薬の効果が“同じ”なら、確認してみれば良い訳だから、もしかすると使えるかもしれないぜ師匠!」
「ふむ、お主がそこまでハッキリと言い切れるのなら、ワシも頑張らねばな。どれ少し席を外すぞ待っておれ、必ず薬草の種を持って来よう」
と、そこで俺の制服のポケットに入れていたスマホが鳴りだし、俺は“星ノ宮から連絡が届いたか!”と思ったが、取り出して着信の相手を確認すると、母さんと出かけている筈の明恵からの電話だった。
こんな時に連絡とは、我が妹ながら間が悪い奴だ。
仕方なく、スマホを耳に当て師匠に左の平を顔の前に立て、片目を瞑り謝る。
「あ、ちょと待った師匠。……もしもし~うん。はいはい、買った。ん? 大丈夫忘れてないって、プリンも買ったってば。うん、それじゃ切るからな。……お待たせ。で、えーと一度この扉締めてもまたすぐ繋げる、かな?」
「アキートはいったい誰と話して居ったんじゃ? ……ん? 閉めるとな? それは……そうじゃの~、ソウル文字を刻んでワシと、アキートの繋がりを強化すればできるかの? ふむ、割符を媒介に使って簡単な繋がりが強化出来るか試してみるか」
師匠は一度冷蔵庫から離れ、一分も経たず戻って手の平サイズの木片を持ってきて、それをパキッと割ると、片方を俺に差し出してくる。
「半分をアキートに渡す、今から“ソウル”文字を刻むからお主もそれに同じように刻むんじゃ」
「へっ?」
「だから、お主もその割符の半分に“ソウル”を刻み終わったら、それをワシと交換するんじゃ。そうする事で簡易的な縁の繋がりを強化して、こちらとそちらを繋ぎやすくする!」
「師匠、急いでいるところ悪いんですが、『ソウルを刻む』ってどうやるの?」
「ほえ?」
俺と師匠はそう言ったまま暫くの間固まっていた。
つづく
10/24 修正しました




