16話 クラスに一人はいる佐藤君(さん)
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俺は職員室から出て、室内プールに移動しようと廊下を走っていたのだが、その時行き成り顔に強い衝撃と痛みが襲い、反動で俺は廊下に倒れそのまま尻餅を突き、そのあまりの痛さに顔面を押さえて、芋虫の様にジタバタするしかなかった。
「ふぅおううぅぅおうううう!」
「ご、ごめんなさい。まさか廊下を走ってくる人が居るとおも……石田?」
俺は鼻から伝わってくる痛みと熱さで、口を開く事が出来ず。
そう話しかける相手に対し、顔を押さえながら無言で頭を上下に振ったが、どこかで聞いた事のある声だ。
「ちょっと、あんた大丈夫? 廊下を前を確認もせず走っていたあんたが悪いのよ。本当確り前見て無きゃ危ないわよ? おかげで地図落としちゃったじゃない」
そう言われて涙で歪んだ視界で横を見ると、確かに天井から下げて使うタイプのデカい地図が転がっていた。
俺は横から飛び出てきた『これ』に気付くのが遅れ、顔面に衝突したのか……って超イテーよ、このバカやろー! お前も前方不注意じゃねーか! 文句言ってやろうと頭に血が上って見上げると、そこに立っていたのは呆れた顔をして俺を見下ろす、秋山だった。
「石田あんたその顔、鼻血でてるわよ。立てる? これで今日あんた2回目ね。そんなに鼻血ばかり出して、貧血とかフラフラしない? 血は足りてる?」
「ふぐぅ、全部お前が原因じゃねーか……鼻血とまんねぇ。また鼻がグラグラするし。全部お前のせいばかりだー! ちくしょうマジイテー」
俺はここで一度秋山に対して、宣戦布告でもするべきか考えたが、戦力的に静雄が居なければ勝ちは無いと俺の頭脳ははじき出し、泣く泣く諦める事にした。
……オノレ、イツカコノウラミハラサデオクベキカ。
「石田今のあんたの顔は狂気、いえ凶器だわ。これあげるからさっさとその怖い顔拭きなさい。見てると夢に出そうで嫌だわ」
「ふうぅ、あ~クソッまた制服にも血が付いたし。お前にクリーニング代請求しても、俺に罰は当たらないと思うんだが、秋山はケチだからティッシュしか寄越しゃしねえ」
「別にケチで結構よ。ティッシュ貰えただけ私に感謝しなさい。それに石田にお金渡すくらいなら、募金でもした方がましよ。まあいいわ、それで何であんたは授業にも出ないで廊下を走ってた訳? 職員室に呼ばれたと思ったら全然帰ってこないし、安永君心配してたわよ?」
「ふん! 親友である静雄が、俺を心配するのは当たり前だろ。俺だって静雄が職員室に呼ばれたら、ついにヤッちまったかと心配するさ」
「あんたのどこが親友の心配なのよ……。あんたの心配なんてその頭の出来ぐらいでしょ? で、今から教室戻るなら地図のそっち側持ちなさいよ。いくら日直だからって、私一人に運ばせるなんて酷い話でしょ?」
「何で俺がお前を手伝う必要があるんだよ、俺は怪我人だ! それに日直はもう一人居ただろ? えっとほら、さ、さ、メガネ君? あいつはどうしたんだよ」
「あんたね、いい加減クラス替えから三カ月近いんだから、名前ぐらい憶えてあげないさいよ。佐藤君なら先にプロジェクター運んで行ったわよ。あれ古い機械だから結構重いのよね」
「……古いとかじゃなくてあれ、車輪付の台座ないから。一人で運ぶのマジキツ過ぎじゃね? お前の方がよっぽど酷いよ。つか、先生はどうしたんだよ?」
「先生なら、腰が痛いとか言って先にプリントと、写すフィルムもって先に行ったわ」
「なるほど、上手い逃げ方だ。佐々木君南無」
「……佐藤君だから」
俺は秋山に職員室に呼ばれた訳は、重要な任務を承った為と言葉を濁したが、聞き入れられず、ダメだと言っても地図を放置して俺に着いてきやがった。
何を言ってももう無駄かと思い、俺は廊下の角に立て掛けられた地図をチラッと見てため息を吐く。
今日の授業は出ても出なくても、進む事は無いだろうと確信して、仕方なく秋山を伴って更衣室へと急ぐことにした――
今俺と秋山は、ほんの少し前にも入った室内プールの横にある更衣室の中へ、黒川から預かった鍵を使い中に居るのだが、秋山には盗撮の話を屋上でしてあるので、詳しい事情は話さず隠しカメラ探しと言って、ロッカーや壁、天井、それに換気口も見たが、館川の仕掛けたと思われる『カメラ』的な物が全然見つからない。
「まいったな……あれだけ任せろって3人に大口叩いたのに、どこに仕掛けられているのかサッパリ分からん。まあ、簡単に分かる位ならとっくにばれているよな~」
「ねえ、今思ったんだけど。その隠してあるカメラを石田が見つけたら、中身ってどうなるの? 確認したいんだけどさ、まさかそのまま『見れたり』しないでしょうね?」
「へっ? あ~、どうだろ? 仮にも隠してるくらいだから、物は小さいだろうし画像の確認て、その場で出来るとは思えないんだが、それがどうかしたのか?」
「あんたね分かってるの? そのカメラって『私も』写ってる可能性もあるのよ! 何で気が付かないのよ! 本当デリカシーの欠片もない変態ね!」
そう秋山に言われて、目の前に居る秋山を見ると顔を赤くしている。
俺はその様子を見て途端にコイツを生々しく感じてしまい、顔に血液が集中し暑痒くなると思ったら、鼻から鼻血が垂れた。
……決して秋山の裸を思い浮かべたりなんてしてない、無いんだからね!
俺は近くに来ていた秋山から少し距離を取り、極めて冷静に答える。
「あ~あ~、すまん。すっかり見つけなきゃって事に集中して、配慮がなって無かったな。と言うか、この場所でその反応は止めてくれ。流石に俺も恥ずかしいわ!」
「それは鼻血を止めてから言うのね! あんたここで変な気でも起こしたら、大声で叫んでやるし私の交友関係を使って、あんたの変態的行いと行動をばら撒くからね!」
「へいへい、お前も顔赤くして言っても説得力ないからな。紳士な俺で良かったと思えよ? ちなみにこの更衣室、なんでか防音だから叫んでも誰も来ないと思うぜ?」
そう言って俺は秋山から視線を剥がして、探索を再開する。
しっかし、何処に隠してあるか全然分からんな、……そうだ、窓で部屋の中の物をアイテムアイコン化表示できれば、履歴を調べりゃ分かるかな?
秋山も大人しく俺から離れて探し始めたので、俺はさっそく例の言葉を呟き、トレード窓を開いてこの『部屋』自体を、アイテムアイコン化させてトレード枠に載せる事に成功し、思わず「よっしゃー!」と口に出しそうになって、慌てて口を手で塞ぐ。
……とまあ、ここまでは割と順調に進んだのだが、ここからが大変な作業だった。
単純に履歴と言ったが、この更衣室を利用しに訪れる生徒や先生等、1回に利用する生徒数もクラスごと、部活ごと、個人まで含めて遡ると、本当アホみたいな回数と文書量になって、見ているだけで目がチカチカして来る。
それにソート機能的な物が無いので、一々調べて行かなければならない、とても地味な作業になった。
チラッと横目で秋山の様子を窺うと、コイツは壁に顔を近づけて真剣にカメラを探しているのだが、自分の体勢にもう少し気を付けろよ! 集中するのはいいが頭を下げ過ぎて、こちらに尻を突きだす格好になるので、あまり長くないスカートから色々見えそうでヤバイ。
俺はここに居ない三人の『笑って無い』顔を思い浮かべ頭をクリアにし、窓に集中しなおす。
一応日付で履歴は別れているが、どの日が館川の作業が行われた時なのか、それを分からなければ結局全て見ていくしかなく、成果としては生徒が居なくなる時間帯を外す事を、十分程調べてやっと学んだ(気が付いたとも言う)くらいだ。
「ねえ、そっちは見つかりそう? 壁に穴が無いか調べてるんだけど、見当たらないしロッカーの方が有力かしら?」
「ロッカーは俺が調べてるから、他を頼むわ。流石に俺一人じゃ厳しいから助かる。そのまま秋山は壁が終わったら、気になる場所が無いか女性ならではの視点でも見てくれ」
「分かったわ任せなさい! 絶対見つけてそんなカメラなんて壊してあげるわ!」
「いや、壊していいのか? まあ任せるわ」
館川の証言で警察や先生達が、後で更衣室を調べに来ると思うから『消す』データだけを何とか取り出したいので、秋山より先に見付けねばと履歴をどんどん展開していく。
何時何分、誰がどのロッカーを使う等、一回の利用で着替えは二回分になり、履歴にはそれがズラーーッと載っているのである。
……残り時間二十分弱で俺の気力は持つか?
それに五限が終われば放課後になり、部活動で着替える女生徒が来るので、必然的に俺がここに残り調べる事が無理になる。
があああああっ、こんちくしょーー! 俺の頭に閃きを起こせー!
……ふぅ、少し落ち着けた。
よく思い出そう、たしかあのカメラの画像データの中には、接写で写された微妙なアングルの物が在った筈、低い位置から上に向けての絶妙な画像だったので、思わず感心……じゃなく際どいなと、俺の心の画像保存ファイルに鮮明に記憶していたから、背景を考えて下段ロッカーから、アイテムアイコン化して調べれば一つは見つかるに違いない!
五分ほどしてmicroSDカードを使用した、一度の撮影で最高二十八時間まで保存できる隠しカメラを見つけたが、電源の確保の関係で一回に七時間ほどの撮影しかできてないようだ。
館川は普通に体育の授業に出ながら、その後日に回収でも全然問題なく、色々と写せるわけだ……上手い手だが最悪だな。
俺は同じ『隠しカメラ』に絞ってアイテムアイコン化選択をし、この部屋に隠されていた合計三個のカメラを見つけた。
だが、この隠しカメラを取り外す為の道具の事を失念していた俺は、残り時間十分を切った所でそれに気が付き、焦りと時間配分のミスで冷や汗を流す。
不味い、カメラの位置は分かってるので後で回収すると考えると、館川の証言による警察の介入に加え、問題となった更衣室の鍵の管理はより厳重になるだろうし、本気で余裕なんかない!
俺は藁にもすがる思いで、トレード枠に載せられた三つのそれを、もう一度確認しようとしたところで、秋山が話しかけてきた。
「ところで、もしカメラを見つけても。それって本当に館川さんの仕掛けたカメラなのかしら? 無いとは思いたいけど、別の誰かも仕掛けてたらと思うと、ゾッとするわね」
俺は秋山の話を聞いて『ある事』を思い出し調べると、そこに打開策は在ったのだ!
「秋山! お前凄いわ。俺は時計の残り時間を見て焦っていたけど、お前は確実にカメラを見つけようと、其処まで考えて調べていたんだな。見直したわ」
「え? ええ。って、本当だわ! 急いで見つけないともう時間ないじゃない! ほらあんたも早く見つけなさい!」
「ああ、お前の一言で確信できた。後は俺に任せてくれ!」
そう言った俺に対し秋山がキョトンとした顔を向けるが、それを他所にトレード枠に載ったカメラを選び、俺は再度『窓』を操作した。
遂に見つけた隠しカメラ、だが彼らに残された時間はあとわずか!
彼らは本当に時間内に隠されたカメラを取り出し、三人の美女に託された任務を見事達成成るか! まて次回!