表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/213

12話 素敵な罠

ご覧頂ありがとうございます。

「お前ら足速すぎだぁーもう少し俺を労われっ」

 

 プール前までのチョットした距離だったが、黒川も館川を捕まえて俺みたいに首を絞めているなんて事も無く、何とか三人には追い付きこうして直接話しかけることが出来た。

 何となくだが、俺が来たことで星ノ宮と宇隆さんが安堵しているような……もしかして黒川の奴すでに何か仕出かした後か?


「何故お前を労わらなければならん。労わるならお前などでは無く勘違いで犯人と思われた、黒川の方であろう」


「そうね、貴方があの時黒川さんを庇い私達の邪魔をした事で、二人が共犯じゃないかと私達のグループは余計に貴方がたに疑いを強める切っ掛けになったわ。まあ、不謹慎だけどおかげで面白かったわよ、貴方」


「大丈夫、私はまだ暴走してなどいないし至って冷静。少し二人に怒りが湧いたのも気のせい」


 宇隆さんが、面白かったと言った星ノ宮を窘めていたが、俺もちょっとイラッと来たし、黒川よお前も怒って良いと思うぞ。

 まあそれは横に置いとくとして、俺は黒川の言葉を聞いて、彼女が『あまり』感情的になっている様子が無いのにホッとしたが、何やら星ノ宮と宇隆さんはお互いの顔を見た後、チラッと俺の方を見るとため息を吐いた。

 お前ら、人の顔見てため息吐くのは凄く失礼だぞ! ……ん? 共犯!?


「……てことは何だ、お前ら俺の事を最初から疑っていたのか? もしかして宇隆さんと星ノ宮の行動も半分は演技だった? 館川の話で穏便にって意味は身内で済ませる積りだった訳? つまり俺がお前ら含めて全部引っ掻き回しちまったって感じか。……そりゃため息もでるわな」


「そうね、ある程度までは予想していたけれど、まさかここでC組の貴方が出てくるなんて、私達は皆全く思ってなかったのよね。ただ私は別として、宇隆なんて途中から演技じゃなく本気で怒っていたわ。黒川さんには……私達皆で確り謝るわ。勿論貴方にもね。問題は『私達の犯人』をまだ捕まえてない事よ」


「えっと? 宇隆さんや、これはどういう事だ? 星ノ宮の言う私達の犯人って?」


「まあ、星ノ宮様と私が館川を追った意味を考えれば分かる筈だ。一言で言うなら『犯人は現場に戻る』と言う事だ」


 星ノ宮はやっぱり楽しんでたな、宇隆さん……あなた本気で怒ってたもんね、お疲れ様。

 要約すると、二人を含めてD組の残ったメンバーはある程度『知っている』側の人間だったって事か? 敵を騙すには先ず味方からとは良く言うが、なんともえげつね~策だこと。

 きっと考えて実行に移す際、一連の流れを一番楽しんだのは星ノ宮だな。


 そもそも下着はまだ『見つかってない』から、袋の中身が下着でなかった黒川は、当然犯人から今は除外。

 そうなるとそれ以外の犯罪? 館川の言う証言が嘘だった可能性か? いや、あの館川の行動は確信してやっていた筈、それなのに俺が邪魔をしたせいで奴は自分の常識が崩れ、錯乱していたくらいだ嘘は言っていないだろう。

 奴の言う事を信じるなら『証拠』を取りにこちらへ走り去った筈だから。


「まだ捕まってない」「犯人は現場に戻る」って事は、二人の言う『私達の犯人』って館川なのか? 俺は黙って話を聞いていた黒川に顔を向けると、鋭い目つきで彼女は頷きこう言った。


「私の言う犯人も、二人の言う犯人も館川に違いないと思う。だからこうして追ってきた必ず私を嵌めた事を後悔させる」


 ますます分からなくなってきたので、俺は一度考えを整理する為今までの事を思い出す。

 今回起きた星ノ宮の下着消失事件で、館川が黒川を犯人にするには『証拠』が必要だ、でも星ノ宮の『下着』は『トレード』で消えたままだから、今の段階では実証は無理。

 このままだと館川は犯罪を行ってないので、三人が館川を犯人と呼ぶのはおかしい。

 じゃあ、最後に館川が言った『証拠』が『犯罪』=『犯人』の図式に成るにはどうすれば良いか? 館川は途中で黒川を尾行し『下着』を盗んだ犯行現場を見たと言い、更に「夢では無く『証拠』がある」と証言している。

 つまり、見た物を『証拠』として第三者に提示するには、『撮影』するしかない。

 と言う事は、館川は更衣室の中を撮影していた! ……三人の館川犯人説は盗撮が原因か。

 ただこの考えは三人が言うように、館川が絶対に犯人でないと成立しない、ヘボい推理だ。


「うーん、館川犯人説は何とか分かったけど、なぜ館川はそんな事をしたんだ? そこが腑に落ちないというか、スッキリしない。そもそもやることに意味ないよな?」


 俺が思った事を伝えると、三人に揃って呆れられた。なぜだ!?


「随分と長考していたが、お前は意外と頭が固いのだな。証拠で連想すれば直ぐだろう? それと、他人を陥れる奴に意味など……嫉妬の感情はお前には無いのか?」


「宇隆、きっと彼って損得でしか物事を計れない気の毒な殿方なのよ。そうよね? 少し人の身になって考えれば色々分かる事もある筈なのに」


「……あなたの周りには暖かい人しか居なかったに違いない。それはとても幸せな事。 あなたはそのままで良い。」


 三者三様に答えが返ってきた、まさに十人十色だ。


「と、兎に角今は館川の証拠を押さえないとな、更衣室へ急ごう」


 更衣室は当然だがプールのすぐ近くに在るので、直ぐに着く。

 四人で半開きのドアを覘き見ると中で館川が、こちらに注意を向ける事も無く髪の毛をガリガリ搔き毟りながら、手元の機械を弄りブツブツと呟いている。

 電気もつけずに手元の機械から出ている光だけで操作しているので、逆光気味で影が付き館川の事がより一層不気味に見えた。


「ふふ、ふひひぃ。ど、どれも、ち、ちゃんと撮れてるじゃない。な、何が夢でも見たよ。あ、あの生意気な男も、う、裏切り者の、く、黒川もぉこれで追い出せるわ。たた、退学よ退学ぅ私の気に入らない奴は、み、みんな後悔させてやる」


 直ぐに追い着いていたならば、館川もこんな簡単にこの場面を見せる事は無かったんだろうが、隣に居た星ノ宮と宇隆さんを見ると、少し憂鬱そうな顔をしている。

 半ば予想道理なのだが、黒川が裏切り者とはどういう意味だろうか? 黒川の方を見ると飛び出しそうになっていたので慌てて肩を掴んで止め、そっと四人共中に入ると俺は後ろ手に鍵をかけた。

 これで館川の出口は塞いだから、後はこのまま捕まえるだけだ。

 俺が薄暗い中、先に入った星ノ宮と宇隆さんの肩を叩きOKの合図をだす。

 宇隆さんが素早く館川の後ろに回りその手を掴むと、星ノ宮が部屋の明かりをつける。


「宇隆さん何か手馴れてない? まあ勝負ありって所か? 聞かせて貰ったぞ館川さんよ。そのカメラに証拠が入っているんだな?」


「は、離して、離しなさいよ! わ、私は嘘なんてついてない! そう私は正しいのよ! そこの男が邪魔していたけど、く、黒川さんが下着を盗んだ犯人なのは間違いないじゃない! ここにその証拠があるんだから! あ、あんたたち二人ともこれで退学よ!」


「ふ~ん、そうなんだ? 館川さん貴女は正しいと自分の主張をしているけど、貴女ここがどういう場所なのか、勿論分かって答えているのよね?」


「と、当然じゃない。ほ、星ノ宮さんこそ分かっているの? み、皆を、だ、騙してあなたの下着を盗んで、か、隠した犯人は、そ、そこの二人に間違いないのよ!」


「星ノ宮様、言っても無駄かと。ここに確かな『証拠』もあるので確認して終わりにしましょう。既に四限も過ぎていますし時間が勿体無いです」


「もう、宇隆はせっかちね。そんなんじゃ貴女と付き合う事になる殿方は大変ね。何事も楽しむ余裕が無いと疲れるし、面白くないわ違うかしら?」


 余裕のやり取りをするのも結構なんだが、俺は抑えている黒川が徐々に剣呑な雰囲気を醸し出しているので、早くどうにかしてほしい。

 具体的に言うと小柄なこの子を抑えるのに、俺の上腕二頭筋がパンパンだぜ。

 もう言っても良いよね? 早くしてそこのアホ主従!


「面白くなくて結構です。あなたに心配されなくても問題ないですから」


「仕方ないか、黒川さんを押さえている彼も大変そうだし分かったわ。そういう事だから、館川さん貴女の言う『証拠』確認させてもらうわね。そうすれば誰が今まで水泳部の部員や、他の女子生徒の『盗撮』をしていたのか『犯人』が分かるわ」


 館川は星ノ宮の言った事がやっと理解できたのか、必死に宇隆さんの手を振りほどこうと暴れだす。

 そこで星ノ宮はひょいと館川が掴むカメラを取り上げ、楽しげにカメラの操作をしていくが……徐々に顔を顰めて、宇隆さんをチラッと見て首を振ると俺を見た。ハテ?

 

「宇隆はこういうのダメだし、逆に貴方は得意そうだからやって下さる? 良く分からないけど、あと残り二回って表示されちゃったから間違えないでね」


 そう言うと可愛く「ねっ」ってカメラを手渡そうとして来るが、ねっじゃねーよ!

 館川の奴星ノ宮がそう言ったのを聞いて、急に勝ち誇った顔になりやがったし、こりゃカメラに何か仕掛けでもしていたに違いない。

 もしかして、あっさりカメラを取り上げられたのもワザとか?

 悔しいが、ただの何とかにハサミじゃなかった訳だ、中々やりおるぜ。


To be continued

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ