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7.スモルト村にて


 スモルトの村。

 山間部に位置する農村である。麦畑の中に家々が隠れているという風で、その大きさもエルテナより小さい。山の自然が目的で来る旅人もいるだろうが、村に来るまで馬車で少々かかるのでそう多くはない。

 のどかな田舎だ。平和すぎる。


「クルミリスって可愛い名前ですけど、そんなに被害があるんですか?」

「あるよ、放っておいたらそれはもう大被害。毎年この季節になると、農村からこの依頼が来るのは恒例になってるからね。依頼が沢山あるのは嬉しい事だけど」

「恒例って」


 毎年被害がある事が分かっているのなら、村の人が退治をすればいいのではないだろうか。収穫期になる度わざわざギルドに依頼したのでは、費用がかからない訳ないのに。

 だが黄金色の畑を見回しても、女性やおじいさんが多くいるだけで、若い男の人なんて見付からなかった。

 というより、最低限の対策もされていない。柵を立てるとか、案山子を立たせるとか、それくらいの事はしていてもいい筈だが。


「狩人は、一応いる事にはいるんだよ。だけどリスが群れで襲撃して来るのに、一人二人で全部倒せる訳ないだろ。それに若い男は他の町に出て仕事を探す方が多いから、村にはあまりいない」

「あぁ、それならギルドに依頼した方が早い訳ですね」

「そういう事」


 狩人という言葉が普通に出てくるところもまた、違う世界に来たなと感じる。

 クルミリスは今、畑には見当たらない。真昼間から出てくるほど馬鹿ではないのだろうから、山奥の方で餌を探している頃か。

 山奥でリス探しなんて、大変そうな。

 そう思いふと山の方を見上げると、ある物が目に入った。木々が生い茂る中に、上から村の方へ細い道が出来ている。木々がなぎ倒され、強引に作った様な荒れた道。他の場所は道ほどではないが、木が折れている場所も多々ある。


「あの道の先って何かあるんですか?」

「ん? 道なんて……あ、アレか」


 ロルに指差して示すと、特に不思議がる事なくこう言った。


「アレがクルミリスが通った痕跡だ。あの通りに辿っていけば、多分群れに会えるな」

「……リスが通った、痕跡?」


 木々がなぎ倒されている、アレが? たとえ群れとはいえ、リスが通っただけでああなる物なのか? リスって木を押し倒して突き進むのか?

 とりあえず、脳内のリスのイメージに、かなりの修整を入れなければならない。出くわしてからでなくて良かった。心の準備はより念入りにしておかないといけない。

 私はこれから、持ってきた紅炎刀で、そのリス達を斬らなくては。


「地の精ノームたちが教えてくれた。クルミリスはあの先にいる」


       * * *


 二人は仕事に慣れているので、落ち葉を掻きわけてどんどん登っていってしまう。歩き方のコツか何かを知っているのか、いつもの道と大して変わらない速度を保って。少し後ろで、私がついて行っている。

 そこまで傾斜のある斜面ではないのだが、木の根や石が散乱した道を歩くのは体力が奪われる。

 山に登るなんて、今まで林間学校以外でほとんど経験していない。しかも今日は、刀を抜いての戦闘も加わる。

 今になって不安になってきた。リスに轢き殺されたら、いやその前に戦闘中に転がり落ちて頭を打つとかしたら、私はどうなるだろう。


「私、ちゃんと戦えますかね」

「大丈夫だよツバキ、安心していいって。こんなの見たら怖くなるの分かるけど、私がしっかりサポートしてあげる。それに、肉食じゃないしさ!」

「元はといえば、フランが私をこの世界に呼んだ訳ですが……」


 フランの魔法を信じて大丈夫だろうか。無邪気な笑顔を浮かべる幼い少女だ。時折見せる大人びた表情は気になるが、フランの魔法に対する不安感は、まだ払拭できない。

 それに、草食だろうと肉食だろうと、木が幹からへし折れるほどの巨体なら大して変わらない気がする。

 ならば、ロルに見習って動けば大丈夫か。少し先を行くロルを見ると、急に立ちどまった。フランも私も、それに合わせて歩みを止める。


「……いる。見ろ、あっち」


 真剣なその言葉を聞き、一気に身が引き締まる。

 少し遠くに、獣の体毛が見えた。名前の通りクルミ色の、毛足の長いあれは尻尾か。小さな耳がせわしなく動く。手に何かを持って食事中の様だ。

 背中を向けていたそいつは、気配を察知してか振り向いた。これから倒すべきその相手の顔は、


「可愛いじゃないですか!」

「見た目だけならな」


 大きく黒い邪気のない瞳。小さな鼻。ふっくらと膨らんだ頬袋。

 これぞ愛玩動物。異世界にも可愛らしい見た目の動物は存在するのだ。

 もっとも、ロルの言う通り見た目だけなら、という話だが。


「……体高何メートルくらいあります?」

「3メートルくらいは余裕であるぞ、確か。あんな動物、村の人間じゃ太刀打ちできないから俺達を呼ぶんだよ」


 今見えているのは、一匹だけだ。いや、一頭と数えたくなる大きさだが。

 あれが群れで畑を襲う。考えただけでも恐ろしい。人間は襲わないのかもしれないが、どちらにしろ下手に手を出すと踏み付けられるか弾き飛ばされるだろう。


「一匹目、片付けちゃおうか。頑張ってねツバキ、応援してるよ」

「え、私がやるんですか?」

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