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第106章

 ずっとずっと後のこと。


 一人の老人が村はずれの大木の下に座り、煙管をくわえて、ゆったりと話し始めた。


「予言の子はな……神にはならなかった。神よりもっと厄介なものになったんだ」


「何に?」座っていた子どもたちが目を見開く。


 老人は煙を一筋吐き出した。「自分自身さ」


「じゃあ、今はどこにいるの?」


「さあな。馬車の中かもしれないし、聖堂の中かもしれない。あるいはお前たちの中にいるかもしれない」


 子どもたちは顔を見合わせた。


 風が大木を揺らし、葉っぱがさらさらと音を立てた。


 その夜、多くの人の夢に一片の灰色の湖が現れた。


 全ての人ではない。ただそれを見る必要がある人だけに。


 湖面はとても静かで、星空を映していた。湖底には一つの顔があった。神の顔ではない。普通の、疲れた、しかし笑っている顔だった。


 それはヘマリスの湖だった。彼女はそれを夢の中に残した。それを見る必要がある全ての人々のために。


 ◇◇◇


 三柱の活規則が丘の上に立ち、遠くの夕日を見つめていた。


「終わったのか?」レテが尋ねた。


「終わった」ヴィラニアが言う。


「私たちは……成功したと言えるのか?」


「成功した」カサンドラが言う。「モーリガンは神にならなかった。世界は守られた」


「では、あの欠片たちは?」


「生きている。普通の人々のように生きている」


 レテはしばし沈黙した。


「では、私たちは?」


「私たちは観察者になる」ヴィラニアが言う。「もう人間のことに介入かいにゅうしない。ただ見ているだけだ」


「なぜ?」


「それがルールだから」カサンドラの声はとても軽い。「ルールは崇拝すうはいされる必要はない。ただ存在すればいい」


「では、審判廷は?」レテが再び尋ねる。


「アグリッパが処理する」カサンドラが言う。「彼は私たちよりも凡人を理解している」


 ヴィラニアは最後にもう一度遠くの聖堂を見つめ、振り返らずに暮色の中へ消えた。


 カサンドラとレテはその後ろに続き、緘黙侍女は音もなく虚無へと溶け込んだ。


 ◇◇◇


 別の丘の上。


 一つの影が崖の縁に座り、手の中でビー玉を弄っていた。


 その存在感はあまりに希薄で、風さえも彼を避けて通る。


 エーテル。


 彼はビー玉を目の前に掲げた。


 ビー玉の中には何もなかった。ただ透明なガラスが、星空を映しているだけだ。


「我々はやり遂げた」と彼は小声で言った。


 ビー玉の中から、オーラの声が聞こえた。遠い水の底から聞こえるように。


「誰も私たちを覚えていない」


「構わない。世界はまだある。それで十分だ」


「では、我々の任務は?」


「見続ける。記録し続ける。そして必要な時に、予言を伝えるべき者に伝える」


 エーテルはビー玉を掌に握りしめ、立ち上がった。


 彼は一歩を踏み出し、山風の中に消えた。


 誰も彼が来たことに気づかなかった。

創作のインスピレーションが少し枯れてしまったので、やむを得ず物語を早めに結末へと進めることにしました。皆さんに戦争編を思う存分楽しんでいただけず、申し訳なく思っています。

それでも、これまで支え続けてくださった皆さんに、心から感謝しています。

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