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第104章

 モーリガンは顔を上げ、あの裂け目を見つめた。


「もし私が拒否したら?」


「お前には拒否する権利はない。これは予言だ」


 アマラートがモーリガンの後ろから歩み出た。その顔色は青白いが、眼差しは異様に平静だった。


「御身」彼女は言った。「生贄を始められます」


 モーリガンは呆けた。


「全ての欠片がここに集まっています」アマラートの視線はその場にいる一人ひとりを舐めるように見渡した。


「あなたは最初から知っていたのか?」モーリガンの声が強張る。


 アマラートは答えなかった。彼女はただ自分の手を胸に突っ込み、あの木質の心臓――ルドス――を取り出した。


 それはまだ鼓動している。


「生贄とは……私の全てをあなたの苦痛に変えること」アマラートが言う。「そうすれば、あなたは神になる」


「やめろ」モーリガンが遮る。


「もう遅い」アマラートは微笑んだ。


 モーリガンはその心臓を受け取らなかった。彼女はアマラートの手首を握り、その心臓を彼女の胸に押し戻した。傷口が癒える。鼓動が戻る。


「なぜ……」アマラートの声が砕けた。


「まだお前に『望むか』と聞いていなかったからだ」モーリガンが言う。


 アマラートは呆然とした。


「望む?」彼女はその言葉を繰り返した。初めて聞いたかのように。


「お前は消えたいのか?」モーリガンが尋ねる。


 沈黙。


「私……」アマラートの唇が動いた。「私は……」


 彼女は言い終えなかった。しかしモーリガンには理解できた。


「なら、消えるな」モーリガンが言う。


 外域存在の声が再び響く:「モーリガン。これは予言だ。お前は抗えない」


 モーリガンは彼らを無視した。ただアマラートを見つめている。


「この八年間、お前は私を騙し続けてきた」と彼女は言った。


 アマラートの涙がついに落ちた。


「……はい」


「お前はこの日をずっと待っていた」


「……はい」


「では、なぜ嫌がる?」


 アマラートは口を開いた。涙が頬を伝って流れ落ちる。


「なぜなら……」彼女の声が喉の奥から絞り出された。「その後、違ってしまったから」


「どこが違う?」


「その後、私は死にたくなかった」


 アマラートはとても軽く言った。


「私は御身のそばにいたい。命令だからでも、予言だからでもない。私自身が……残りたいと思った」


 モーリガンは彼女を見つめる。


「それなら、なぜ生贄を?」


「それが唯一の方法だから」


 アマラートの声が震えている。


「あなたが神にならなければ、外域存在は諦めない。失衡は全てを破壊する。皆、死ぬ」


「お前はどうする?」


「私は……」彼女は「私も死にたい」とは言えなかった。


 モーリガンは手を伸ばし、彼女の顔の涙を拭った。


「なら、死ぬな」


 彼女は背を向け、裂け目に向き直った。


「聞こえたな。彼女は死にたくない。彼女は残ることを選んだ」


 外域存在の声が冷たくなる:「彼女の意思は重要ではない。彼女は我々のものだ」


「彼女はあなたたちのものではない」


 モーリガンの声は平静だが、空気を重くさせた。


「この八年間、私のそばに立っていたのはあなたたちの駒ではない。彼女だ。涙を流したのは彼女、笑ったのは彼女、残ることを選んだのは彼女だ」


 彼女は一瞬間を置いた。


「あなたたちは空っぽの殻を持ち去ることはできる。しかし彼女を持ち去ることはできない」


 裂け目の中でしばし沈黙が続いた。


 そして、その声が再び響いた。一抹の疲れを帯びて:「お前は彼女を理解しているつもりか。お前は我々を理解しているつもりか。しかしお前は何も知らない、モーリガン」


「なら、教えろ」モーリガンが言う。


 裂け目は答えなかった。


 アマラートが口を開いた。その声はとても軽く、遠くから漂ってくるかのようだった。


「私は彼らに遣わされた」と彼女は言った。「最初から」


 モーリガンは振り返って彼女を見た。


「旧神の時代、私は苦痛の神のそばにいた。後に彼は死に、彼らは私をあなたのそばに遣わした」


「なぜ?」


「なぜなら……私は苦痛から離れられない。それが私の本質だから」


 アマラートはうつむいた。


「苦痛がなければ、私は空っぽになる。冷たくなる。自分が誰だか分からなくなる」


 彼女は一瞬間を置いた。


「御身のそばにいるのは、ただ苦痛が必要だからだと思っていた。その後……その後は分からなくなった」


「今は?」モーリガンが尋ねる。


 アマラートは顔を上げ、彼女を見つめた。


「今は分かる」と彼女は言った。「私は残りたい。苦痛が必要だからじゃない。御身だからだ」


 モーリガンは一瞬間沈黙した。


 そして彼女は肩のマントを掴んだ。


 あの深海の裂け目から持ち帰った、アマラートが自ら彼女に手渡したマント。


「このマントは、あなたたちのものだ」彼女は裂け目を見た。「あなたたちはこれで私を操れると思っていた」


 彼女はマントを引き裂いた。


 惊天動地けいてんどうちの音もなく、光芒万丈こうぼうばんじょうでもない。


 マントは彼女の手の中で一筋の黒煙となって、風に消えた。


 しかし誰もが感じた。何かが、断ち切られたと。


 外域存在の声に初めて動揺が走った:「お前……何をした?」


「ただ自分のものを取り戻しただけ」モーリガンの声は平静だ。「あなたたちのマントは、返した」


 裂け目から鈍い震動が伝わってくる。


 それは苦痛――彼らの苦痛ではない。彼らがようやく感じた、この世界からの苦痛だった。


 あのマントが担っていた、モーリガンの体内の全ての欠片の苦痛が、今まさに裂け目を伝って彼らの意識へと逆流している。


 重くはない。しかしはっきりと。


 一本の針のように。


「神にならぬ」


 外域存在の声は平静を取り戻した。


「無価値」


 裂け目が縮み始める。


「アマラート、我々と共に戻れ」


「いや」アマラートが言う。


「お前の行く場所はない」


「ある」


 アマラートの声はとても軽いが、震えてはいない。


「ここが私の帰る場所だ」


 裂け目が沈黙した。


 そして、それは閉じた。


 空は元に戻った。


 アマラートは地面に崩れ落ち、大きく息を吐く。


「三度目だ」モーリガンはしゃがみ込み、彼女を見た。


「何が?」


「夢の中の声が三度言った。一度目は死にかけた時。二度目は生贄が始まる時。三度目は――お前を救う時」


 アマラートは何も言わなかった。彼女はただモーリガンを抱きしめた。


 遠くで、エレは地面に横たわり、その身体はほとんど透き通っているが、口元にはまだ笑みを浮かべている。


 アグリッパは遠くに立ち、この全てを見つめていた。その目は赤くなっていた。


 風が吹き抜け、焦げた匂いを運ぶ。


 空はもう完全に元に戻っていた。何もなかったかのように。

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