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第九十四章

 暗道を抜け、モーリガンたちがようやく光の差す場所に出た時、一人の影が飛びかかってきた。


 アマラートは後に続きながら、すぐに一歩前に出てモーリガンを庇った。


「アマラート、私はもうお前の保護は必要ない」


 モーリガンはしかし、アマラートの背中を軽く叩いた。


「御身をお守りするのは私の務めです。あなたがどれほど強くなろうと、先に死ぬのは私です」


 その言葉の端々に、アマラートはまた生贄いけにえの話を持ち出した。


 犠牲は必要ない。そんなものに意味はない。モーリガンはそう言いたかったが、アマラートには聞き入れられないと分かっていた。


 飛びかかってきたのは敵ではなかった——アイランサーだ。


「小さな星! 無事でいてくれると信じていた。私達の伝言を見たのだろ?」


「はい……母さん」


 スタシスとアイランサーは久しぶりの再会を果たした。二人はしばし見つめ合い、アイランサーの目尻はほんのり赤くなったが、こらえた。


「その身に……あなたの父さんの荊か?」


「はい」スタシスはうつむき、自分の腕に絡みつく荊の紋様を見た。「子供の頃、母さんが捨てようとしたものから拾いました。今、それが私の命を救いました」


「すまなかった、小さな星。私……」


「エコーからあなたの思いは伝わっています、母さん。もしあなたが変わるつもりなら、私はもちろん喜びます」


 アイランサーの視線はスタシスの後ろにいる奇妙な少女に注がれた——モーリガンだ。


 人のようで人ならず、体には角、ネックレス、イヤリングを掛け、左腕には黒い手袋をはめている。


 全身が「おかしい」という気配に満ちている。


 アイランサーは無意識に肩を強張らせた。


「彼女は誰だ? エコーはあなたと一緒に――」


「領主様」


 モーリガンが自ら口を開いた。声は平静だ。


「私はモーリガンです。こちらは私の従者、アマラートです」


 アイウェシルがアイランサーの後ろから歩み出た。


 彼女の甲冑にはまだ灰が付着し、顔には連日の戦いの後の疲れが残っているが、その目は依然として鋭い。


 彼女はモーリガンの身につけられた奇妙な装飾を一瞥し、驚きの色も見せず、ただ平静に言った。


「あなたのその身に隠されているのが神の欠片なら、もう隠れる必要はない。審判廷は当分ここには来ない」


「なぜです?」モーリガンが尋ねた。


「なぜなら彼らはポレモスの前で完敗したからだ」


 アイウェシルは、審判廷の騎士団がポレモスに粉砕された一部始終——盤、灰色の炎、傀儡——を余すところなく語った。


 モーリガンの身に宿る欠片たちは次々と姿を現した。


 カリオペとヘマリスはネックレスから姿を現し、パシュースはイヤリングから霧の塊が人の形に凝り、タナトスはあくびをしながらもう片方のイヤリングから半ば顔を出した。


「しかし、私たちは本当に調停に来たのか?」


 パシュースが口を開く。口調は淡々としている。


「外の音を聞け。うるさい」


 砲声、喊声、金属のぶつかる鋭い音が城壁の外から微かに聞こえてくる。まるで決して止まない豪雨のようだ。


「オネイリを探すのが一番だ」


 ヘマリスがすぐに言った。


「しかし戦争が止められるなら、なおいい」


「モーリガン」


 タナトスの声がイヤリングから聞こえる。珍しい真剣さを帯びている。


「あなたはもう強くなった。彼女たちを止められる手があるんだが、聞いてみるか?」


「聞かせてくれ」モーリガンが言う。


 タナトスはすぐには答えなかった。


 ただ笑っただけだ。


 その笑みにからかいはない。ただ「覚悟はいいか」という確認だけがあった。


 ◇◇◇


 城壁の外で、ポレモスは宮殿の方角から歩み出る一行に気づいた。


 彼の目——あの歯車の嵌った隻眼——が輝いた。恐怖からではない。警戒からでもない。興奮だ。


 人が多ければ多いほど、戦争は賑やかになる。賑やかであればあるほど、彼は強くなる。


 彼は浮かせた片腕を上げ、五指を広げ、そして——猛然と握りしめた。


 足元の地面が震え始めた。


 白黒の格子が地底からせり上がり、まるで無限に広がる盤のように、戦場全体を呑み込んだ。


 64の格子。一つ一つが十頭の馬が並んでも立っていられるほど広い。


 境界線では灰色の炎が燃え上がり、空は戦の煙に覆われる。


 盤領域——黑白戦場くろしろせんじょう


「これは……強制的な将棋か?」


 カロンはようやく一人の空のエルフ戦士を撃退し、息をつく間もなく、目に見えぬ力で盤の上に引きずり込まれた。


 彼女の足元に、一格の暗金色の光が輝く——王の位置だ。


 彼女はうつむいて一瞥し、顔色を曇らせた。


「しかし、なぜ私をエルフと同隊にさせる?」


 彼女は顔を上げ、盤の中央に立つあの騎乗の影に向かって叫んだ。


「お前たちは皆、私の敵だからだ!」


 ポレモスの声が盤の中央から聞こえる。歯車が鉄の軌道を碾くように低い。


「お前の戦略がどれほど強力か見せてみろ、カロン。武力だけでは、何ともならん!」


「くそっ」


 カロンは歯を食いしばり、流体の衣が身の周りで逆巻き、墨綠色の甲冑かっちゅうが幾重にも厚くなる。


 彼女は自分の脇を一瞥した——同じ側に割り振られたエルフ戦士たちが、警戒した目で彼女を見ている。


 かつての死敵してきが、今は無理やり同じ側に立たされている。


 盤の反対側では、灰色の炎が逆巻く。


 ポレモスの傀儡たちが炎の中から歩み出る——8人の短槍を持つ軽歩兵が前、2人の重槌を持つ攻城者が後ろ、2人の双刃曲刀を持つ戦騎が側翼を遊弋し、2人の灰色の炎の長弓を持つ射手が高所を占める。


 そしてもう一人、双刃の長戟を持つ女武神が、ポレモスの脇に立ち、塔のように沈黙している。


「始まるぞ」ポレモスの長槍が空を指す。


 盤上の格子が同時に輝く——半分は白、半分は黒。カロンは白方に立ち、ポレモスは黒方に立つ。


 灰色の炎の川が盤の中央から裂け、戦場を真っ二つに分ける。


 ◇◇◇


 盤の外で、ディスコルディアは白色の稲妻となって、戦場の端の雑兵たちの間を縫う。


 彼女は人を殺す必要はない。ただ軽く擦り過ぎるだけでいい——電流に触れた者は一時的に混乱に陥り、なぜ戦っているのか、そばの戦友が敵なのか味方なのかを忘れる。


 それだけで戦局を傾けるには十分だ。


 これは彼女が初めて、混乱の中から逃げなかった瞬間だった。


 これは彼女が初めて、誰かの隣に立った瞬間だった——ポレモスの背後で——利用されているのでも、脅されているのでもなく、自ら留まることを選んだのだ。


 刃が耳元を掠め、両親の死を思い出させても、彼女は去らなかった。


「ディスコルディア」


 声が彼女を呼び止めた。


 彼女は立ち止まり、白い髪が風に揺れる。


 モーリガンが一人で彼女の前に立っていた。


 アマラートも、他の誰もいない。


 ただ彼女自身だけだ。


「戦争には何の意味もない、ディスコルディア」


 モーリガンの声は平静だ。


「どうかその誤解を解いて、普通の人々に平和を取り戻してください」


「たとえ私がいなくても、この世界は平和じゃない」


 ディスコルディアの口調は淡々としているが、彼女の指は微かに震えている。


「あなたのことは知っている。誰もがあなたが救世の神になると信じている、モーリガン様。しかし救世は、決して口で言うほど簡単なことではない」


「私はあなたの苦痛を感じ取れる」


 モーリガンが一歩前に進む。


「あなたの糸に触れていなくても、それらは震えている」


 ディスコルディアは後退しない。


「あなたは自分の能力を呪いだと思っている」


 モーリガンは続ける。


「そして唯一、あなたに少しの慰めを与えているのは、ポレモスだ。そうだろう?」


 ディスコルディアの瞳孔が微かに収縮した。


「なぜそれを?」


「あなたたちの苦痛の糸が繋がりかけている」


 モーリガンの指先が空中で軽く一筆を描く。まるで見えない線をなぞるかのように。


「いや、彼の糸があなたに近づいている。彼はあなたの苦痛を自分のもののように思っている。彼には必要ないのに」


「なら、彼はただの自惚みとれ屋の馬鹿だ」


 ディスコルディアの声は冷たいが、その目は彼女を裏切っている——あの薄い霧を帯びた瞳の奥で、何かが揺れている。


「彼には愛がある」


 軽快な声が割り込んできた。


「あなたへの愛がね、ディア。前に言っただろう?」


 カリオペがモーリガンの後ろから歩み出る。ヘマリスがその脇に従う。


「悪いね、モーリガン」


 カリオペは首をかしげた。


「あなたはみんなに付いてくるなと言ったけど、私はディアを友達だと思っているからね。彼女を説得するなら、私も力になりたい」


「カリー……」


 ディスコルディアは彼女を見る。


「お前が言う愛は、本当か嘘か?」


「ほら、また誤解で疑ってる」


 カリオペは笑った。その笑みにからかいはなく、ただ確かな優しさだけがある。


「もちろん本当だよ。私は愛の欠片だ。見抜けないわけがないだろ? お前たちの周りのピンク色、もう爆発しそうなくらいなんだから」


 ディスコルディアは何も言わなかった。


 彼女はうつむき、自分の手を見つめた。


 かつて無数の人々を敵対させたこの手が、今、微かに震えている。


「愛……愛なのか?」


 彼女の声はとても軽い。


「誰かが私を……選んでくれるなんて、考えたこともなかった……」


 彼女は揺れ動いた。


 モーリガンの説得のせいでも、カリオペの証明のせいでもない。彼女が初めて自分に許したからだ——もしかすると、誤解が彼女の唯一の運命ではないかもしれない、と。

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