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側近タカハシ  作者: こんてな
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飛行機と側近高橋

1901年。

アメリカ・キティホーク。

海風が砂を巻き上げ、荒れた砂丘の上を唸るように吹き抜けていた。

その斜面を、一機の奇妙なグライダーが滑っていく。

「もっと右だ!!」

「風を見ろ風を!!」

ウィルバー・ライトとオーヴィル・ライトは、必死の形相で機体を操作していた。

だが次の瞬間。

グラッ。

翼が傾く。

「あっ」

ドシャァァァッ!!

機体は砂丘へ突っ込み、兄弟ごと転がった。

砂煙が舞う。

少し離れた場所でそれを見ていた娘が、ジュースを飲みながら呟く。

「うわ〜また墜落した」

高橋は無表情で答えた。

「本日四回目です」

「多くない?」

「かなり多いです」

兄弟は砂まみれで起き上がる。

「まだだ!!」

「次は行ける!!」

娘はその様子を眺めながら、空を飛ぶカモメへ目を向けた。

白い翼が風を掴み、気持ちよさそうに空を滑っていく。

娘がポツリと言う。

「でもさ〜」

高橋、嫌な予感。

「人が空飛べたら、めっちゃ映えそうじゃない?」

高橋は即答した。

「無理です」

「え〜」

「まずエンジンが重いです」

「飛行制御も未完成です」

「翼理論も発展途上です」

「そもそも今あそこで墜落してるでしょう」

娘は兄弟を見る。

ちょうどまた転んでた。

「たしかに」

高橋は頷く。

「はい」

これで終わる。

……はずだった。

娘がニヤッと笑う。

「あれ、高橋」

「なんとかできたりしない?」

高橋、即答。

「できません」

「え〜でも高橋じゃん」

「その“高橋なら何とかなる理論”やめてください」

娘はもう聞いてない。

「ねぇパパ〜!!」

砂まみれの兄弟が振り返る。

「なんだー!?」

娘は満面の笑みだった。

「もっとちゃんと飛べるやつ作ってよ〜!!」

兄弟は苦笑する。

「いやいや、簡単じゃないんだ」

「今のだってギリギリなんだぞ」

娘、指をさす。

「でも高橋いるし」

その瞬間。

兄弟の視線がスッ……と高橋へ向く。

高橋。

「やめてください」

ウィルバーが笑う。

「はは、さすがに無茶だ」

オーヴィルも肩をすくめる。

「空を飛ぶエンジンなんて、まだ夢物語さ」

娘、ぷくーっと膨れる。

「え〜〜〜」

「飛びたい〜〜〜」

「空から景色見たい〜〜〜」

「映えたい〜〜〜」

兄弟、困る。

高橋、嫌な汗。

娘、追撃。

「高橋〜」

「なんとかして〜♡」

高橋、天を仰ぐ。

兄弟も半分冗談で笑いながら言った。

「高橋、いけるか?」

その瞬間だった。

高橋の脳内に、



軽量エンジン



風洞実験



揚力データ



翼形状



プロペラ効率



機体バランス



操縦制御



墜落



資金不足



徹夜



世間の嘲笑



無限試作



が一気に流れ込む。

未来の過労が、見えた。

そして。

「……ゲフッ」

血反吐。

「高橋ィィィィ!!?」

娘が爆笑してる。

「出たァ!!」

ウィルバーが青ざめる。

「だ、大丈夫か!?」

高橋は膝をつきながら呟いた。

「……今」

「人生の五年が消えました」

娘はニコニコしていた。

「でもできる?」

高橋はしばらく黙っていた。

風の音だけが鳴る。

遠くでカモメが鳴いた。

そして。

高橋はゆっくり立ち上がる。

「……やるなら」

兄弟の顔つきが変わる。

「鳥の真似は捨ててください」

「え?」

「羽ばたきではなく、“固定翼”です」

高橋は砂地へ図を書き始めた。

「問題は飛行そのものじゃない」

「“制御”です」

兄弟が息を呑む。

娘だけがポテト食ってる。

そこから地獄が始まった。

風洞実験。

徹夜。

墜落。

また実験。

翼が折れる。

エンジンが吹き飛ぶ。

高橋は毎回スケジュールを引き直し、資材を調達し、兄弟のケンカを止め、資金繰りまでやっていた。

娘が言う。

「高橋、最近ずっと死んだ目してる」

「仕様です」

1903年12月。

ついに機体は浮いた。

ほんの数秒。

だが確かに。

人類は初めて、動力飛行に成功した。

娘が絶叫する。

「飛んだァァァァ!!」

兄弟は抱き合って喜ぶ。

高橋はその場に座り込み、空を見上げていた。

娘が駆け寄る。

「やったね高橋!」

高橋は遠い目で呟く。

「……そのうち絶対」

「“機内食がマズい”とか言い出しますよ、人類」

娘は笑う。

「平和でいいじゃん」

高橋。

「……それもそうですね」

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