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白銀の戦士は世界を二度救えるか  作者: バルバロ
リュグレムシア遠征編
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トォキ村に起こる変異

 モナガンがその村、トォキ村についた時、全ては終わっていた。

 実際のところ“それ”が起こる前にトォキは滅びの道を辿っていた。二度に渡る飢饉、傭兵くずれの賊の襲撃。一度はズニェールの救済を得たが、二度目は起こらなかった。

 村長は決断し、年老いたもの、体の不自由なものから順番に毒草を調合しできる限り苦しまぬよう、黄泉へと送っていった。

 彼らが次の春を、この冬をなんとか乗り越えようと思い足掻いていたときに、それは訪れた。

 窮地にある時、人は安易な、耳心地の良い誘惑に取り入られるのだ。


「……どうなっている、なんだこれは」

「先生、なにが、あれは一体……」


 モナガン含む計五名の魔術師と、その門弟および必死の懇願で同行を許されたピーシースたちはその村の、元がどうであったか及びもつかぬような凄惨たる有様に言葉を失った。


「魔術……なのですか?」

「……」


 ピーシースの問いにモナガンも、他の魔術師も答えない。答えられない、彼らの知る魔術と何もかも異なる、それでいて魔術によるものだとしか思えない現象を前に動揺していたのだ。

 そこにあったのは例えるなら、むき出しの臓器。脈打つ肉塊が歪な人形、あるいはかつてそうであったのではと想像させる塊。

 それらが鈍い動きで、細かく震えながら列をなしてどこかへと行進していた。

 ときにそれらは唐突に刺激を受けたように大きくのけぞり、うめき声を上げながら硬直ののちに再び動き出す。

 小さな村ではあるが、その中を動き回る集団は十や二十どころではなく、パッと見えるだけで三桁に届きそうなように見えた。

 怖気の走る光景に唾を飲み込んだ一同だが、彼らと正体不明の異形とを挟んだ反対側に別の音と、異形が発したと思しき甲高い悲鳴のような音がする。

 慎重に、それらに気づかれぬように村を迂回して状況を確認しに動く。

 あったのはモナガンのいくつかあった想像とかけ離れた姿だった。


「君は……なぜここに」


 つい先日見た姿、モナガンがその場に着いた時は異形の頭部付近を剣で切り飛ばした瞬間だった。

 “少年”は慣れた風に、斬り終えたと同時に頭を失った異形と距離を取り返り血を躱している。

 油断ならぬ眼差しで異形の群れを見つめていた少年、クロムはモナガンらの気配に気づいたようで視線のみを向け、そして驚いたように表情を変えた。


「モナガン……、どうしてここに」

「それはこちらも同じ気持ちだが、我々はいま来たばかりだ。状況を聞きたい」


 そう話すとクロムは異形とモナガンたちを見比べ、体は異形に向けたまま少しだけ近づいていった。


「僕らもここに来てからそう時間は経っていない、着いた時すでに“彼ら”は変異し、どこかへと向かって移動していた。それを脅威と認識したため対応している最中だ」

「彼ら……」

「逃げている最中だった村人らしき男性が、あれらにぶつかった後に取り込まれ、同じものに変異するのを見た」

「――なんと」


 モナガンの横にいる別の魔術師が思わず声を漏らした。モナガンも同様である、あの異形はそれ単体で魔術として成立しているということだ。そして影響力も強く、対象を即座に取り込むということは強力な魔力を有していると想定される。


 それがこれだけの数、放置した場合の被害、討伐を行う際に必要な兵数。どちらもモナガンの頭を痛ませるが、それでも今すぐ対応しなければ間違いなく大きな被害が産まれる。

 そしてなにより、これを行った魔術師を放置する訳にはいかない。


「済まないが頼まれてくれないか」


 クロムがモナガンらに声を張り上げ呼びかけた。


「これらは村の奥から発生しているように見える、どうか様子を確認してくれないか」

「馬鹿かお前!」


 ピーシースが怒鳴った。モナガンの身を案じてだろうが、当然大きな危険を伴う行為である。


「……いいでしょう」

「先生!」

「二手に分かれましょう、私とカライデ。残りは反対側から村の中心へ」


 一瞬おののいた魔術師たちだが、すぐにうなずき行動を開始する。

 クロムに頼まれるよりも、もともと彼らはこうした状況――想定を超える状況ではあったが――に対処するためにここへ来たのだ。危険も、多少の戦闘も承知している。モナガンの選定により、四人ともこうした荒事に長けた魔術を修めている。


「君はここで?」

「ああ、村から出すわけにいかない」

「何十人いると……」


 ピーシースがそう声にしようとしたが、クロムの鬼気迫る表情、そして歴戦の戦士を思わせる気配に言葉を飲み込んだ。


「ピーシース、君は……」

「いえ、着いていきます。いざと慣れば見捨ててくださって構いません、足を引っ張るようなことはしませんからどうかお側に……!」


 こちらもまた迫力のある様子にモナガンも渋々承諾した。ここで時間をかける訳にも行かない。


「戦闘や撤退の際はシレナが支援してくれるはずです」

「わかった」


 モナガンも上空にわずかだが魔力の気配を感じていた、それがシレナによるものだろうというのは先日の会話と、その際に少しだけ見た魔術からわかった。


「行こう」


 モナガンらは足早に、だが警戒を張り巡らしながら走り出す。

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