5.登校
感想いただきましたありがとうございます!
すごいうれしいです!
あと、何気にランキング見たら日間のアクションランキング上位に入ってて軽く、いや結構パニックになってました。
これからもよろしくお願いします。
12月8日軽く修正しました、何回名前を間違えれば気が済むんだかと…
「おはよー、久しぶりー、弥生ねー」
残暑厳しい9月初旬、平野弥生という少女が金白学院高校の校門前で周囲の学生に声をかけている。
「弥生-、久しぶりー、病気大丈夫ー?、うちらマジで心配してたんだけど入院先も教えてくれなくてお見舞いに行けなかったんだホントごめーん」
友人と思われる面々から謝罪の言葉を聞かされ道子は困惑しながら返答する。
時はさかのぼり梅雨明けのころ、ヒラノインダストリー本社ビルの一室で道子と由里が机を挟んで座っている。
「とりあえず学力は問題無いわ、あの子わざとテストを間違えて中の上ぐらいの成績をキープしてるから道子ちゃんがまじめにやってれば問題ないわ、それよりもこの前から気になってたんだけど、ちょっとお腹見してもらえるかな?」
「えっ・・・!」
「いやーねぇー、変な意味じゃないのよ、確認してい事が有って、もしかして期待してるの?」
「冗談はよしてください!」
そんな道子を見て由里はクスクスと笑う。
母親を早くに無くし、姉妹もおらず祖父に引き取られ、その祖父の関係者と言えば道場に通う男しかおらず私生活では女性らしい人はいなかった。
学校に行けば同学年に比べると身長も有り、落ち着いているためお姉さん的立場をとることが多く、今のように年上にけむに巻かれるようにからかわれる事は無かったので気恥ずかしさにほほを紅く染めながら上着をまくる。
「あー、やっぱりー、ちょっと待っててね」
それを見た由里はスマホを取り出しどこかに掛ける。
「もしもし、香田?あたし、弥生ちゃん病気で入院して学校に行けない設定だったよね、ついでに手術して体に大きな傷ができたからとか適当な理由を作って人前で素肌を見せられないようにしといてね、体育とかはもちろんNGよ」
由里は先ほどまでのにこやかさから豹変しいかにもビジネスモードと言った感じで話を続ける。
「なんでって、運動もしてなかった子が休み明けに登校したら腹筋が縦に割れてましたって何の冗談なのよアタシにとっては眼福だけど、『あっゴメン道子ちゃん袖まくってもらえるかな?』 二の腕に力こぶも有るわ、何の問題が有るかって?あんた口説いた女が服を脱いだら自分より体がキレっキレっだったらどう思うのよ、えっ・・・いやゴメンそんなつもりじゃ無かったのよ・・・、とにかくよろしく!」
由里は慌てながら電話を切る。
「まいったなぁ、そっち方面に疎いなんて知らなかったわ・・・」
「あの、何か問題でも・・・」
「うん、たいしたことないわ、弥生ちゃん頭は良かったけど運動は全くダメだったの、だからその体を見られたら影武者バレる可能性が急激に高くなるから予防線を張っておこうって事なの、ということで道子ちゃん体育は禁止と弥生ちゃんの時は常時長袖ね、OK?」
「わかりました」
「運動不足になる分は伊集院に付き合わせるからね」
道子がこの件を了承する際にいくつか条件を出した。
正確に言えばお願いだ、その一つが習慣となっているトレーニングの相手をしてもらうことだ。
本社ビルに併設されているアクティブ施設内で相手してもらえることになっているが、まさか従業員が出社している時間に来るわけにいかず早朝にやることになっていた。
そのため伊集院は会社近くの寮に引っ越してきたがこれに関しては
「近くに飲み屋街が有るって言うのに朝早いから行けなくてつらい」
とボヤいていた。
ちなみに道子も会社近くに有るセキュリティがしっかりしたマンションに引っ越している。
「とりあえず髪の毛はカツラにして、メイクはまともにしたこと無いって言ってたからとりあえず毎朝ここでしてあげる、いずれ自分でできるようになってもらうからやり方をよく覚えてね」
由里は道子に口紅を引きながら微笑む。
「よしっ!こんな感じね」
ほほを軽く支えて道子の顔を自分の方に向かせる。
「フフ、道子ちゃん綺麗だからこんなメイクは残念だわ、機会が有ればちゃんとしたメイクを教えてあげる」
「そんな、綺麗だなんて言われた事なんて無いです・・・」
まじまじと見つめられながらの言葉に伏し目がちになった道子の頬は赤く染まっていたがメイクのせいで由里には悟られなかった。
「じゃあ、これからは会話の練習よ、これが一番難しいと思うけど頑張ってね」
由里は弥生の普段の喋り方のパターンやイントネーションを細かく指導されたがこれが道子にとって一番大変だった。
鼻にかかった甘い喋り方で語尾を伸ばす会話は道子にとっては別ベクトルの話し方であった。
「取り合えずあいさつとか受け答えのパターンを作ってきたから9月までにはマスターしてね、あの子はあいさつ程度の知人はいるけど話し込むような友達は作ってなかったからそれで行けると思うは」
「それでもバレてしまうのではないでしょうか?」
「とりあえず休み時間とか昼休みはボロが出そうになる前に人のいないところにいどうしたほうがいいわね、ベンチのある中庭とか屋上とか図書室なんて静かにしてなきゃいけないから」
道子はそう考えると以外に会話の機会は少ないのかと考えるようになり、少し肩の荷が軽くなった気がしたが
「でも、とっさに何か反応を返さなければいけない時はどうしたらいいのでしょうか?」
「そうねぇ、そういう時は・・・」
金白学園高校3階にある2年生の教室の廊下に少し小柄で眼鏡をかけたボブカットの少女が歩いている。
「おおーい、風間ちょっと悪いけど職員室にみんなに配る小冊子が有るんだけど運ぶの手伝って貰えないかな?」
風間と呼ばれた少女は担任の頼みを断れず。
「・・・はい、解りました」
「すまないなぁ、一人で持つにはちょっと辛くて三分の一程度持って行ってくれれば助かるよ、ほかの先生には伝えておくから職員室で受け取ってくれ」
「えっ・・・、あ・・・はい・・・」
「舞ちゃん大丈夫?あの先生一番言いやすいからって何でも舞ちゃんに言ってくるね」
「・・・いえ、大丈夫です、遅れるといけないから1階の職員室まで行ってきます」
風間 舞と呼ばれた生徒は少しばかり我を出すのが苦手で気が弱く、咄嗟に声を掛けられ頼み事などをされると断り切れない少女だった。
舞が職員室に来ると冊子を受け取ったがその冊子は一冊一冊が分厚く、舞は両手で抱えるように持たないと運べず苦労していた。
階段に差し掛かると後ろの方からにぎやかな声が聞こえてくる。
振り向いてみるとクラスメイトの平野弥生が友人たちと会話をしながらこちらに向かってくる。
(平野さん、今日から登校するんだ、好きとか嫌いとかじゃないけど、少し派手で苦手なんだなぁ・・・)
舞はそんな事を思いながら階段を登る。
その2~3m程後ろを弥生を演じる道子たちが続く。
教室のある3階に登りきる前、舞は疲れてきてぼんやりした頭で聞くでもなく弥生たちの会話を聞いていた。
(相変わらずにぎやかだなぁ、わたしもあんな風に喋れたら少しは楽に生きれるのかなぁ、それにしても平野さんさっきから『ホントー?』と『すごいー』と『いいなー』ぐらいしか喋ってない気がする)
その瞬間足が上がりきらず舞は階段を踏み外した。
手すりを掴もうとしても両手がふざがっていて腕が動かせない。
そのまま重力に引かれて後ろに倒れていく、舞は恐怖でパ体が固まってしまい頭の中はパニックで真っ白である。
ふわりとした浮遊感を感じた時、後ろに弥生がいたのを思い出す。
(ゴメンナサイ!ゴメンナサイ!平野さん巻き込んでゴメンナサイ!)
だが、何か柔らかいながらも何か力強いものに当たったと思たらそのまま抱きしめられた。
道子が校舎に入り階段に向かっていると小柄な生徒がよたよたと荷物を持って歩いていた。
手助けしたかったが、声をかけるとバレてしまいそうで口が開けない。
また、周囲の知人との会話もしなくてはならず、気にはなったがそのまま階段を上がった。
3階に到着しようかとする頃、ふと前をいく少女見ると足元がおぼつかなくなったと思ったら足を踏み外してこちらに落ちてきた。
咄嗟に道子はカバンを投げ捨て片方の手で手すりを掴みもう片方の手と体全体で少女を受け止める。
道子より小柄とはいえそれなりの重さだ、手を放しそうになる。
だが、少女を守る一心で両腕と体幹の筋肉の力を振り絞り耐えきる。
手すりからはギシギシと衝撃に悲鳴を上げているような音がするが道子も手すりも無事耐えきった。
「大丈夫?」
道子はとっさに素の自分でしゃべってしまった。
しまった!と思ってしまったが後の祭りだ、とにかく怪我が無さそうなのでほっとした。
「あ・・、ありがとうございます・・・」
これ以上口を開くと正体がばれてしまうと思った道子はどうしようかと頭をひねる。
「そうねぇ、そういう時はニッコリ笑って胡麻化しなさい、とりあえず黙って微笑んでね」
由里の言葉を思い出した道子は静かにほほ笑んだが、演じてない本来の自分の微笑みのせいか舞は頬を赤らめてうつむいてしまった。