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10/25

10.事後

1/13 ちょっと修正

「なんでここにいるんだろう・・・」

 

 今、舞は川沿いに建てられたビルの一室でソファーにちょこんと座っている。

 そこは土間橋町と言われる江戸時代に材木を運ぶために作られた運河のそばだった。

 材木問屋が多かったせいで戦後までは市民の住居復興で景気が良かったが、建築の材料としての木材が使用されることが減少したため廃業が相次ぎ今はその機能を果たしていまい。

 オフィス街が近いく、ウォータフロントと言う事も有り、最近は洒落たカフェやレストランなどが作られ再開発されているが古いビルも多い場所だ。

 そういった場所は解体費用を考えると安い賃料で貸した方がまだ利益がとれるらしく個人で借りる人間が多い。

 

 窓から見える川は夕日を映し紅い道のようになっている。

 そのわきの遊歩道には家路に向かう人と仕事終わりに遊びに行く人が真逆の方向に向かっているのがパレットのうえでかき混ぜられた絵の具のようになっている。

「家に帰るの遅くなるって連絡しないとな」

 その様子を見て初めて夕刻と言うのを思い出した舞は小さく呟いた。

 隣を見ると弥生が座っているが目の前にいる3人の大人に色々言われ肩をすぼましている。


 台巣町であったことは現実味が無くアニメか映画のようだった。

 不審な男たちにナンパと言うには手荒な誘いに有った。

 恐怖で怯え小鹿のように震え固まっていたところを弥生に助けてもらった。

 ただ、その弥生の動きがいつも見ていた彼女の物とは思えないものだったからだ。

 少なくとも体育の授業で縄跳びもまともに飛べずにおり、まじめにやってないかと思ったが、顔を見ると羞恥に耳たぶまで顔を赤くしていて『あっ本当に運動ダメなんだ』と思っていた。

 それが3人の男を枯れ草を倒すようにのした。

 この前、階段で助けてもらった時と言い病気明けから別人のようだった。


 そしてこの状況にも困惑している。

 路地に現れた男女。

 男は学校の校門でよく見かけていた。

 弥生を送迎に来ていた人だ。

 自分の小ささもあるが、近づけば見上げないと舞には顔が見えないぐらいだ巨漢だ。

 体つきも筋肉質で腕と言わず脚と言わず膨らんだ筋肉でスーツが悲鳴を上げてそうだったがその体に無駄が無く、鈍重なイメージは見受けられない。

 女性のほうはスーツにタイトスカート、ハイヒールを履が良く似合っている。

 同性の舞があこがれるようないかにも仕事ができるといった感じの人だった。

 そんな二人が倒れている3人組を無視して語り掛けてきた。

「私は三浦と言います、こっちのデカいのだけが取り柄の男が伊集院です、申し訳ありませんが話が有るから付き合って貰えませんか?」

「すまねえな、このお嬢様の関係者なんだが悪いようにはしねえから、あと由里、いちいちディスるなよ」

 と、倒れている男たちには一瞥もくれず、ベルトコンベアーに流されるようにこのビルに連れてこられた。



 鳶色の大きいテーブルの真向いのソファーには由里と伊集院に挟まれて生真面目そうな男が沈痛な面持ちで口を開いている。

「それで、彼女が襲われそうになったから男たちをなぎ倒したという事なんですね、伊集院から聞いてますがあなたの武道の腕前は相当なものと聞いてますがもっとやりようが有ったのでは?」

「すみません、カッとなってしまい・・・」

「あの、平野さんは私のために」

 道子は行き過ぎてしまったことは実感している。

 道場では実践に即して鍛えられていた。

 だがそれを現実の場で使われる事は無く祖父や門下生としか行われていなかった。 

 あらゆるシュチュエーションをシミュレートした修練はおのずと次元の高いレベルに昇華していた。

 とは言え、それを現実に披露する事は無くさっきのが初めての実戦であった。

 それは、赤子の手をひねる様なもので残心を心がけている道子にとって起き上がってくるものかと身構えてたがマグロのように横たわり続ける相手に何か策略が有るのではと思い違いをするぐらい拍子抜けであった。

 

「風間舞さんでしたね、もしかしてレストランチェーン『サーカス・サーカス』のご令嬢ですか? 申し訳ありませんがこういわれても仕方がない事情が有るのです」

「はい、令嬢と言うには上品な家柄では無いですが・・・」

「いえいえ、お父上の仕事ぶりは尊敬していますよ、今回の件はヒラノインダストリーの経営にも関わる可能性が有りまして他言無用をお願いしたいのです、それに関してはお礼は・・・」

「ほんとうか!?あのレストランには世話になってるぜ、和食系も充実してるし、何よりお手ごろな値段でうまい!」

「伊集院うるさい!香田、風間さんには事情を説明した方がいいんじゃないかしら、道子ちゃんちょっといいかしら」

 そう言うと由里は立ち上がり道子に扉に来るよう目で促す。


 無意識に固く握り占めていた道子の両手は手はじっとりと汗をかいていた。

 年齢に比べて落ち着いているとか思慮深いともよく言われるが自分はそうは思っていなかった。

 何気ない行動で迷惑をかけてしまっている。

 二回りもの年上の大人に頭を下げられて頼みを聞いたこと、ヒラノインダストリーの社長に啖呵を切ったこと、そして今日の事、もっとやりようが有ったのではないか?

 そして、最終的な判断を他人に任せて流されているのではないか?

 色々な思いが頭の中でグルグルと渦巻き気持ちが悪くなってくる。


 ふと肩に柔らかい手が置かれる、優しくさすられた。

「そんな固い顔しないで、道子ちゃんまだ若いんだからいっぱい失敗しないとね、それから何を思って行動するかが大事よ、とりあえずメイクとウィッグ落としてきて」

「えっ?平野さん名前・・・」

「舞ちゃんだっけ、ちょっと待っててね、彼女のに対する疑問は有るでしょうけどね」

「ですけどいいんですか?」

「道子ちゃんらしくないわね、さあ、行った行った、舞ちゃんにはさわりでも話しておくわ」

 眉尻を下げて優しく微笑んだ由里は道子の背中を押す。


 白い無機質な壁に囲まれた洗面台の鏡の前で道子は無言でメイクを落とす。

「まだまだ未熟と言う事かな・・・」

 ネガティブな感情を追い払うようにパチリと頬を両手で叩き長く下した髪を後ろで纏める。

「ヨシ!」

 と、気合を入れ部屋に戻る。


「平野さんですよね・・・?」

 部屋に戻った道子を見た舞は顔を見て驚いたようできょとんとしている。

「由里さん説明は」

「ゴメンねー、色々話し込んでたらそこまで行かなくて、舞ちゃんびっくりした?」

 一時前とは別人になっていた道子に驚きのあまり言葉が出ないせいか壊れた人形のように舞はうなずく。

「どこから話したらいいかしら詳しい理由は言えないけど、ちょっと弥生ちゃん本人が学校にこれなくなっているのよ、でそれを知られたくないのよね、そこまではいいかしら?」

「はい」

「で、そこで代わりに投稿してくれることになったのがこの筒井道子ちゃん」

「由里!ざっくり説明しすぎだ!しかも軽すぎだろ!」

 狼狽した伊集院が立ち上がりながら由里に叫ぶ。

「そうですよ三浦さん、ちょっと雑ですね、弥生さんが学校にこれなくなったのは事実ですが、それは病気ではないのです、この事を知られてはいけない事情が有りまして代役を立てなければいけなくなったしだいなのです」

 香田は少し間をおいて再び口を開く。

「それを今、風間さんの隣に座られている筒井道子さんにご協力をお願いしているところなのです」

「学校には」

「言える訳が有りません、なので今回の事が知られると大変まずい事になります、風間さんにはぜひともご協力をお願いしたいのです」

 香田は深くため息をつき話を続ける。

「図々しいのは解りますし、金白学院に対して騙していることは解っています、どうかこの事は内密にできないでしょうか?」

 そう言うと香田は深々と頭を下げた。

「筒井さん・・・ですよね、今日はなんで助けてくれたんですか?」

 舞は道子の方を向き目を見ながら問いかけた。

「なんでと言われると、風間さんの後ろを変な男たちがつけて危ないと思ったから、何事も無くて私の行動が徒労に終わっても知り合いが不幸に巻き込まれるかもしれない事も無視できなかっただけです」

「そんな・・・、騒ぎになると困るのは解っていたのに何で助けてくれたんですか?」

「それは・・・、何も考えていなかったです、気づいたら体が動いていた」

 そう聞くと舞は花が咲いたように微笑んだ。

「筒井さん説明になってないですよ、でもなんとなく解りました優しいんですね」

「いや、優しい奴はあんなえげつない突きをしないと思うが・・・」

「伊集院!」

「プッ、解りましたこの事は秘密にします」

 そんな二人にやり取りを見てクスクスと笑いながら舞は答えた。

「ヨシッ、話も決まったとこだし二人ともお腹すかない?ご飯食べに行きましょうよ、舞ちゃんには道子ちゃんがメイク落としてる最中に帰るの遅くなるって連絡はしてもらったしね」

 由里はそう言うと立ち上がって伸びをする。

「そうだ、道子ちゃん今住んでるマンションそばでしょ、二人でちょっとそこで待っててくれないかしら?」

「そういえば、偶然とはいえよくマンションに近いビルが有りましたね」

「逆逆、ビルが有るからそのマンションを用意したのよ、会社も近いし何かあったらすぐ集まれるでしょ」

「そうです、納得です、それではのち程」

 道子は深々と頭を下げると部屋を後にした。



 二人が出て行ってにぎやかさと共におどけた表情だった伊集院の顔から表情が消える。

「で、由里、お前、風間の嬢ちゃん巻き込む腹づもりだったな」

「路地であれを見た瞬間は焦ったけどうまくいったかな?」

「ひどいな」

「まあ、利用と言うか学校で道子ちゃんの味方がいればなと言うのが本音かしら、あの子不器用だから上手くやろうとして頑張りすぎるんじゃないかと思うのよ、だからこの事で息をつける時間が作れればなって」

 頬に人差し指を当て脚色めいた思案の表情で由里は答える。

「そうだよな、いまだに俺との会話硬いし」

「それはあんたのせい、香田の軽い頭下げたところで納得しかねるでしょうけど舞ちゃんって子ならああいう風に話を持っていけばOKもらえると思ったわ、どっかの誰かみたいに馬鹿の一つ覚えで頭下げればいいってもんじゃないの」

「酷いですね、頭一つで人が動いたら経済的じゃないですか、ダメなら次の手を打つだけです」

「あーお腹すいた、伊集院車出して、みんなでご飯食べたら舞ちゃん家まで送るから」

「じゃあ、俺も一緒にメシを・・・」

「あんたは車で待機」



―――――― 同日同時――――――


「で、今日のパーティーに女連れてこようとしてしくってボロボロになたって訳だ」

「は・・、はい・・・」

「俺、そんなこと頼んだっけ?」

「い・・・、いえ、そんな事ありません」

「で、遅れてきたとお前らあれだろ、俺の機嫌を取ってこの前のミスをなかったことにしたいんだろ」

「りゅ、龍二さん、そんなことは・・・」


 多国籍な人間が集まり夜な夜な猥雑ににぎあう夜の街西古(さいこ)

 日本語が聞こえることが少ないその町の一角にある雑居ビル

 6階のフロアを全部ぶち抜いて作られたクラブのVIPルームに龍二がだらしなくソファに座っている。

 開店には時間が有り従業員もおらず龍二の声が静かに響き渡る。

 目の前には台巣町で舞に声を掛けた3人組が正座して小刻みに震えている。

「だいたい別に女に飢えている訳じゃないんだけどな・・・、あれ?お前らにはそう見えるの?馬鹿にされてるのかな?」

 そう言って笑うは目鼻立ちが整った端正な顔をしており、こんな所にいるよりもファッション雑誌にいるほうが似合っている。

「そんな事より待たされる方がむかつっくてーの、なあ、直也(なおや)もそう思うだろ」

「・・・別に」

 龍二の横には仏頂面男が立っている。

「まあ、いいや、とりあえずその女連れて来いよ、面子潰されたままじゃなあ」

「えっ!」

「えっじゃないって、早く行けよ」

「は、はい!」

 バタバタと追い立てられるように出ていく男たち。

 ドアが閉まるのを見てから直也が口を開く。

「・・・何を考えている、これぽっちも怒ってないだろ」

「だって、ド素人とはいえ男3人に囲まれて倒しちゃう女なんてすごいじゃん、会ってみたくない?」

「また悪い癖を」

「楽しみだな、退屈しないといいけど」

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