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05 後始末

 位置座標固定、転移のための力はまだ不足していると透明なパネルに表示されている。

 白い床以外は何もないような空間で、彼は一人いくつものパネルを操作し表示される波形や外界の様子を観察していた。

 滅びを止めたと思っている彼らの絶望はどれほどのものか、と思うとなぜか笑みが浮かんでしまう。

 油断するからいけないのだ、と言い訳のように心の内で呟いて彼は内ポケットから黒いカードを取り出した。

 使う場面があるかと思って大事に取っていたが、結局使いどころのないまま終ってしまった。

 自分が持っていても仕方がないだろうと後方へ放り投げる。


「あら、ラッキー。これがあれば権限は完璧にこちらのものだわ」

「勝利に酔って慢心なんて、本当に馬鹿よね」


 やりやすくて助かるけれど、と雫から黒いカードを受け取ったハクトはそれを前足で挟む。勢いよく振り返った人物が手を伸ばすより早くカードは消え失せた。

 力の衝撃波が飛んでくるが見えない壁によって阻まれる。

 気配も音もしなかったことに驚愕した彼はゆっくりと立ち上がり、大きく腕を広げて来訪者を歓迎する。


「いやいや、こんな場所までようこそ。まさか、ここまで来られるとは予想していなかったよ。レディはどうしたのかな?」

「世界を立て直している最中なんじゃないかしら」


 二人と一羽を見ながら男は首を傾げる。

 同じように首を傾げて雫はそう答えた。

 全身真っ白の男は血を思わせるような赤い目を向けるが、キィンと何かに弾かれ眉を寄せる。

 切り札(・・・)を所持していないので圧倒的に不利な男は、溜息をついて拍手をする。ここまで到達できた素晴らしさと自分を前にして怯まぬ勇気に。


「素晴らしい。本当に素晴らしいよ君達は。特に由宇ちゃんは短期間でティアドロップの力をものにしている。おや、隣にいるのは……オジジか。随分と若返ったものだね」

「お好きにどうぞ」


 きょとん、とする雫と溜息をつきながら訂正はしないビブリに男は満面の笑みを向ける。

 転移に必要な力が貯まり次第、早急にこの場を離れればいいだけの話だと考えて警戒を解く彼女達を観察した。

 ここまで来るのに苦労したとか、結晶が空だったからびっくりしたと告げる雫に謝罪しながら、世界の安定の為に必要な事をしているんだと説明する。

 一定の距離を保って穏やかな会話をし続けていると、漂っていた空気も柔らかなものになってきた。

 防御を解いたと感知した彼は彼女達の苦労を労いながら、笑顔で彼女達の足元に仕込んでおいた魔法陣を発動させる。


「いやいや、せっかく来てもらって申し訳ないんだけれど。退場してくれるかな?」

「え?」

「前回は肉体だけ消失させちゃったからね。今回はちゃんと中身も一緒だよ。安心してくれ」


 目を見開いた雫は足元の魔法陣に気づき、信じられないという表情で男を見つめた。

 ハクトを抱えていない右手を伸ばし「待って」と呟く声に男は「さようなら」と笑顔で告げる。

 そうして発動させた魔法陣は赤黒い光を発し彼らを包み込むと、そのまま何も残さず消滅させた。


「はぁ。凄く残念。想像していた以上に力が落ちていて、これじゃ私達の方が弱いものいじめじゃない?」

「あら、アレに同情なんて不要よ。消滅させるのがアレにとっても幸せなことだもの」


 はずだった。

 確実に術は彼女達を直撃したはずだというのに二人と一羽は無傷でその場に立っている。パチパチ、と足元で燻る赤黒い光を指で触ったビブリは楽しそうに微笑んでいた。


「なるほど。ティアドロップの力を利用した術ですか。攻撃に特化している罠のようなものですね」

「転移のための力を削ってこの程度。由宇達に感謝しないと」


 抱えていたハクトをビブリに渡すと、雫は髪を結わえ直して笑みを浮かべる。

 いくつもの魔法陣が宙に浮かぶ。

 赤黒い光を放つ魔法陣から閃光が放たれ、それは床を溶かすように抉った。

 意思を持つようにうねる光の鞭を避け終わったと思えば、無数の光の弾丸が彼女を待ち構えている。


「避ければ後ろの二人に当たってしまうよ?」

「心配無用です」


 後方にいる二人を守らなければいけないなら、下手に避けることはできないと男は思っていた。しかし、雫は気にした様子もなく真っ直ぐに突っ込んでくる。

 彼女を追尾する光の鞭を上手く誘導し、弾丸を放つ魔法陣にぶつけて大爆発を起こした。

 避けたせいでハクトとビブリに向かって無数の弾丸が振ってくるが、ドーム状の防御壁(プロテクト)に当たって全て消滅してしまった。

 弱っていても神たる男は自分の力に自信があったが、目の当たりにする光景には冷や汗を止められない。


「ね? 心配いらないでしょう?」

「くそっ!」

「余裕がないなんて、らしくないですよ?」


 ふふふ、と笑う雫は術を使用せず肉弾戦で男を追い詰めてゆく。遠距離攻撃に強い男にとって近接戦は苦手だが対応できないわけではない。

 術で身体強化をしながら雫の細腕を掴むと、そのまま赤い目でギロリと睨みつけへし折ろうとした。


「……何故だ?」

「身体強化は自分だけだとでも?」

「ぐあっ!」


 簡単に折れると思っていた雫の腕は、男がどれだけ力を入れてもびくともしない。

 掴まれていない方の手を彼の胸部に伸ばし、トンと軽く押せば男の体は木の葉のように後方へと吹っ飛んでいく。

 一方的な状況を眺めながら、ハクトはつまらなそうに欠伸をしていた。


「有り得ない。有り得ない。君にそんな力があるなんて、絶対に有り得ない。何故だ? 何故!?」

「そうね、有り得ないわね」


 レディと魔王の力の欠片を持ち、ティアドロップの力を上手く扱えるようになったからといってここまで成熟するわけがないと男は吐血しながら雫を睨みつける。

 レディと由宇が同調して一つになったとしたら話は分かるが、レディの気配を感じないので余計に分からなくなった。

 白い衣服と肌が赤色に染まってゆく。

 睨みつけながら手を伸ばしてくる男を見下ろす雫の頭上には、禍々しい気配を放つ魔法陣が展開されていた。

 音も立てずに魔法陣から顔を出す異形の化け物に、様子を見ていたビブリが手を出そうとするがハクトに制される。


「そうだ! お前の存在は有り得ない! あの時消滅しておくべきだったと、悔やんでしまうよ?」

「そう?」


 異形の化け物が大きく口を開き雫にかぶりつこうとする様を見て、男は笑みを浮かべる。ざまあみろ、と叫びながら大笑いをする男だったが右手を上げて化け物の口に触れる彼女に動きを止めた。

 だらだら、と化け物が零す涎は黒い染みになって床を汚す。


「対価は命、魂。見返りは蘇生か再生かしら? 失敗したようだけど。その場合、契約は無効でしょう?」

「なんだと?」

「失敗したのに対価をもらおうだなんて、ハクトはどう思う?」

「もちろん、消滅すべきね」


 赤黒い模様の化け物は見えない壁に阻まれているように身動きが取れなくなる。魔法陣から顔だけを出した所で動きを止め、威嚇するように低く唸っていた。

 そんな気持ち悪い化け物にも動じた様子はなく、雫は顔を上げると化け物を見つめる。

 一瞬、彼女の両目が橙色に光ったと思えばパァンと軽い破裂音がして化け物の頭部が吹き飛んだ。

 肉が剥き出しになり骨らしきものが見え、気持ち悪い肉塊がビチャビチャと落ちてくる。


「本当。こいつらは相変わらずマナーがなってないから反吐が出るわ」

「再生……するのですね」

「アレはそういう生き物みたいね。どれだけ深い傷を負っても再生できる。だからこそ、あの男は契約を結んだんでしょう。その力を利用する為に」


 雫は防御膜(シールド)で身を守っているとはいえ、化け物の体液や肉塊は見ていて気持ち良いものではない。

 修復、再生を始める化け物から視線を男に移すと腰を抜かし大きく震えながら嘔吐を繰り返す姿に溜息をついた。

 ラスボスたるもの、もっと堂々として欲しいんだけどというのが彼女の正直な気持ちだがそれを言っても男の耳には入らないだろう。


「ハクト……」

「構わないわ。おやりなさい、雫」

「し、ずく?」


 聞き慣れない名前に荒い呼吸を繰り返していた男が、虚ろな瞳で雫を見上げる。

 困ったように後方を振り返る彼女に、ハクトは淡々とそう返した。

 フードを被っている男の襟首を掴んでずるずると引きずると、雫はちらりと宙に浮かぶ魔法陣から顔を出したまま動かない化け物を見上げる。

 はぁ、と溜息をついて男を掴む力を強めれば「ひぃぃ」と言う引き攣った悲鳴が聞こえた。

 足を止めそうになった彼女だが、仕方がないと呟くと男をそのまま投げ飛ばす。


「うあぁぁぁ」


 男の体は化け物の頭部スレスレを通過して、滑るように床へと落ちた。

 抵抗する力もあまり残っていないのかごろごろと転げる男の姿に、ハクトは舌打ちをする。

 それを聞いていた雫は腰に両手を当てて、ムッとしたように頬を膨らませた。


「処理くらい自分でしてよね。私は化け物(・・・)の処理をするからさ」

「か弱い小動物に……」

「は?」

「……育て方間違ったかしら」


 血の繋がりは無いと言えどそっくりだと思いますが、と喉元まで出掛かった言葉をビブリは咳払いで誤魔化す。

 降ろしてくれとハクトに言われ屈んだビブリは、雫の手伝いをするようにと言われ静かに頷く。

 魔法陣から頭部だけを出している化け物を見上げる雫は困ったように腕を組んでいた。そんな彼女の元に顔を歪めながらビブリが近づいていく。


「彼女は……?」

「その区別すらつかぬ貴方だものね。放っておいても自滅するようなものだったかしら」

「あ……あぁ」

「笑わないでくれる? 気持ちが悪いのよ」


 横たわったまま体を起こす気配のない男に、ハクトは冷たい視線を向ける。自分の無様さも気にならなくなったのか、男は笑いだす。

 どうして気づかなかったのか、と呟きながら白いうさぎを見つめる彼は手を伸ばして触れようとしたがバシッと引っかかれて溜息をついた。


「私はもう一度君に会いたかった。君に会えれば玲にも会える。だから……だから」

「だからそれが気持ち悪いの。私の知ってる貴方はもう死んだわ。貴方が知っている誰かが死んでいるのと同じようにね」


 揺らぐことのない橙色の瞳を見つめながら、男は目を細めた。

 こうして会話をしているだけで昔に戻ったようだと懐かしさに浸りながら、汚れきってしまった己の手に視線を移す。

 白いうさぎは何も言わずその様子をじっと見つめるだけ。

 化け物の処理法を巡って話し合う雫とビブリの声が、静かな空間に響いた。


「もしも、こんな私にもまだ利用価値があるなら。好きに使ってくれ」


 もう満足できた、と呟く男にハクトは顔を歪めた。

 それではまるで自分のせいで今回の事件が起こったようじゃないか、と腹を立てるハクトに「その通りじゃない」と雫が呟く。

 ぎょっとするビブリだったが、雫は淡々と化け物を処理するための術を構築していた。


「そうね。雫の言う通りだわ。全ては欲望を抑えられなかった私達が引き起こしたこと」

「殊勝なこと言って心中とかやめてね。私を置いていく覚悟があるなら構わないけど」

「……怖い子でしょ? 玲はいなくなってしまったけど、今の私にとってあの子も娘のようなものだわ」


 もし雫と出会っていなかったら自分は目の前の男のようになっていたのかもしない。

 未来視という能力がなければ確実にその道を進んでいただろう。

 嘗ては夫だったものを見つめてハクトはそう告げる。

 彼女のまた自分と同じように、心に空いた穴を埋めようとしていたのだと知った男は優しく笑って「怖すぎる娘ができたものだ」と呟いた。


「お望み通り、貴方の命は余すところなく使ってあげるわ。愛する娘(リトルレディ)のためにね」

「そうか。やっぱり君は優しいな」


 そう言い残して神パパだった男は光の粒になり消えていった。

 綺麗な笑顔を残して。


「何だかんだ言いつつ、甘いのよねハクトも」

「ありがとう。雫のお陰かしら」

「雫様、もう少し丁寧にお願いします。再生するとは言ってもバラバラで収蔵するのは私も嫌なので」

「え?」


 今後使い道があるかもしれないという事で、ビブリが保管することにした化け物を魔法陣ごと本へ押し込んでいた雫は首を傾げた。

 きょとん、とした表情をしてグイグイと足で無理やり化け物を押し続ける。

 顔色を変えたビブリが慌てながら雫を止めようとするが、彼女は笑顔のまま化け物を本の中に押し込んだ。

 軽く暴れた化け物が尻尾で攻撃してきたので雫は避ける。しなる尻尾を掴んだビブリは美しい笑みを浮かべて思い切り引き千切った。

 悲鳴を上げて本の中に落ちてゆく化け物を見つめていたビブリは、ビチビチと動く尻尾を床に叩きつけ大人しくさせる。そして何事も無かったかのように本の中へ放り込んだ。


「さてと、終ったわね」

「そうですね。アレは趣味じゃないのですが、後々役に立つかもしれませんから利用方法を考えておきましょう」


 できることならもうあんな化け物は見たくない。

 相手の戦意を失わせる為に出現させるだけなら使えるか、と想像した雫だったがビブリが高笑いをしながらあの化け物を呼び出している姿に頭を横に振った。

 あまりにも似合いすぎていて恐ろしい。


「さて、用事は片付いたから細かい処理は管理者に任せて帰りましょうか」

「そうだね」


 やっと終った、と大きく伸びをする雫に帰るまでは油断するなとハクトが告げる。気の無い返事を聞きながらハクトは苦笑する。

 透明なパネルを操作していたハクトは橙色の魔法陣を出現させて数値を調整し始める。

 ここに来た時と座標が変わっているので再設定に時間がかかると難しい顔をするハクトに、ビブリが手伝いを申し出た。

 意外な申し出に喜ぶハクトはパタパタと耳を動かしてビブリの前にも透明なパネルを出す。


「これはまた……ぐちゃぐちゃですね」

「崩壊からの再生初め、だから仕方ないわよ」

「そうですが。ここまで酷い状況は中々お目にかかれませんから」

「そうね、貴方は崩壊している世界を満足気に眺めながら一人安全に転移するんだものね」


 うふふふと可愛らしく笑いながらビブリを見つめる雫に、ビブリは助けを求めるようにハクトを見る。しかしハクトもまた愛らしい笑顔を浮かべてビブリを見つめていた。

 確かに雫の言葉は否定しようのない事実で、ビブリ自身それのどこが悪いのか分からない。

 けれどそれが彼女達の機嫌を損ねているのも事実。


「今までの私は、ですね」

「あら、あらあら。これからのビブリは違うのかしら?」

「ハクト様、あまり苛めると私の能力が非常に低下します」

「あらぁ、それは困ったわぁ」


 全く困っていない、寧ろ嬉しそうな声にビブリは深い溜息をつくと目に見えぬ速さで透明なパネルを叩き始めた。

 力任せではない、ソフトな触れ方に少し引きながら雫は二人の作業が終るのを待つ。

 暇なのでその場に腰を下ろして胸元の透明なティアドロップを撫でていると、左肘を何かに突かれた。

 驚いて視線を移せばそこにいるのは一羽のクジャクバト。

 クジャが迷い込んでしまったのかと息を吐いた雫は、軽く目を見開いて笑みを浮かべた。


「帰るなら帰るって言っていけよ。見送れねーじゃねぇか」

「別に見送りは必要ないわよ」

「冷たいこと言うなって。あぁ、そうだ。お前の親父さんどうすんだ? あのままだと消えるぞ」


 こちらの世界の自分と途中で上手く入れ替わった自分の父親を思い出して雫は「あぁ」と今気づいたかのような声を上げる。

 忘れてたのかよ、と突っ込みを受けながら雫は誤魔化すように笑った。

 掌の中にあるティアドロップを見つめてペンダントを首から外す。クジャクバトの首に何重にも巻きつけながら頷いた雫はそれを父親に渡してくれと頼んだ。


「これを渡すだけで良いのか? 他に何か言いたい事は?」

「何もないわ。それさえあれば、あの人は帰ってこれるわよ」

「冷たい娘だなぁ」

「あの人はそういう人なのよ」


 世界が変わっても、血が繋がっていなくても“家族”というものに固執する父親。

 良く言えば愛情深い。悪く言えば執着が酷くて他を犠牲にするのも厭わない。

 もしかしたら自分の父親もあの男のようになっていたかもしれない、と呟く雫にハトは「ふぅん」と頷いた。


「悪いわね、ギン」

「お前が謝ることはねぇよ。今のお前が幸せなら、それでいい」

「オトコマエー」

「もっと感情こめろ」


 ぽんぽん、と軽快な会話が心地よい。

 父親とこういう会話をするのは難しいだけに、彼もまた自分の父親なのだなと雫は感慨深く思っていた。

 軽くギンの頭を撫でて目を細める雫に、ギンも嬉しそうに「へへっ」と笑った。


「雫、準備できたから帰るわよ」

「はーい」


 雫がギンと一緒にいることに気づいたハクトが、少し待ってくれていたのをギンは知っている。軽く視線だけで挨拶をして両者は同時に頷いた。

 立ち上がる雫の左腕に止まったギンは、体には気をつけろだの、好き嫌いはせず周囲の言うことには耳を傾けろだの細かく言ってくる。

 心配してくれているのは分かるが、口うるさい。

 そう言うのは由宇に言えと雫が言えば、ギンは大きく体を震わせ目を逸らした。


「由宇のこと、よろしくね」

「言われるまでもねぇよ」


 魔法陣から出現した扉は開いており、扉の向こうはぐにゃぐにゃと歪んでいてどこに繋がっているのか分からない。

 最初にビブリが扉の向こうに消え、ちらちらと雫を気にしながらハクトが消えた。

 扉の前まで来た雫は優しくギンをおろして、ウインクをする。


「美羽ちゃんにも、よろしく」

「なんだ、気づいてたのか」


 にっこりと笑みを浮かべて「バイバイ」と手を振った雫は、扉の向こうへと消えてゆく。

 それと同時に扉が消えて、周囲には静かで何もない元の状態に戻る。

 違う世界の自分の娘よりも少しだけ大人っぽい娘を見送ったギンは疲れた様子で深い溜息をついた。

 自分の可愛い娘も、あれくらいになってくれればいいのだがと思うギンだが今の由宇を思い浮かべ「無理だな」と大きく頷く。

 バサリ、と大きく羽ばたいた彼の首元ではティアドロップがいつまでも虹色の光を放ち続けていた。




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