(5)
大陸最古の都市リアンに次いで二番目に古い都市と言われるランバル。
この街に来るのも既に三度目。おのぼりさんから脱出し、もう慣れたものである。
「おめぇ何きょろきょろしてやがんだ。田舎もんに見られてみっともねぇからやめな」
自分ではそんなにきょろきょろしているつもりはないんだけど、他人から見ればそうは見えないらしい。
都会人への道はまだまだ険しい。
僕らが最初に向かったのはアネルカさんが襲われた場所。即ち殺害現場である。
そこは余り治安が良くないと言われる一角にある集合住宅の一室。
「一つの街を任されていたにしては質素な所に住んでいたのだな」
「あねさんは倹約家でしたでやんす」
「倹約家じゃなくてケチなだけだろ」
念の為アネルカさんが殺害されてから誰か来てないかを管理人に確認してみるも、トーマスさんと遺品整理に来たランスロッドさん以外は来ていないとの事だった。
鍵を預かり部屋のドアを開けると中は既に片付けられ、机と板だけになったベッドが置かれているだけだった。
何もない部屋の床はどす黒く変色していて、ここで何が起こったのかを語りかけてくる。
「何か分かる事あった?」
「特に変な奴の臭いもしねぇしなんもねーな」
「ナーガはどう?」
「事件から一週間も経っているのだ。有力な情報は何も残ってないと考えた方がいいだろう」
結局手掛かりは何一つ得られず、僕らは街の共同墓地にそのまま脚を伸ばした。
規則的に並べられた墓石の一つに、アネルカさんの名前と没年だけが刻まれている。それだけがアネルカさんが生きていた唯一の証である。
お墓の前にはランスさんが備えたのか、萎れた花束が物悲しく風に揺れていた。
手を合わせてアネルカさんの冥福を祈っているとフェンリルが耳元で囁いた。
「おめぇ気付いてるか?」
「勿論」
集合住宅を出た辺りから何者かが僕らの後をつけてきている。気配は一つ。
今は共同墓地を管理している小屋の陰に潜んでこちらを窺っている。それが盗賊ギルドの一員なのか、それともアネルカさんを殺害した犯人なのかはわからないけど、中々の気配の殺し方だしただの一般人とも思えない。
何よりも犯人に繋がるかもしれない大切な客人である。ここは是非とも生け捕りにしたい。
身を隠せる場所は小屋以外はないと言っても僕らがいる場所よりも圧倒的に出口に近い。単純に追いかけても逃げられてしまう可能性も高い。
相手に気付かれないように近づき奇襲を掛ける手は一つだけ。
「ナーガに任せてるから大丈夫」
そして物陰から絶叫しながら飛び出してくる人影。随分小さいけど子供だろうか?背丈は僕の半分くらいで茶色のコートを着込んでいる。
死角を突いた空からの奇襲に相手は何も出来ずに捕縛をイメージしていたんだけど、現実はそのイメージ通りにはなってなくて不審者は素早い動きでナーガの氷魔法をかわしている。
「チッしゃーねぇ俺様が手伝ってやるしかねーな」
そう言うとフェンリルは石つぶてを飛ばし、ナーガの魔法に全神経を注いでいた不審者の頭にクリーンヒットした。
「石なんてよく持ってたね」
「あん?石なんてそこらへんに幾らでも落ちてんじゃねーか」
頭で指すのは鎮座している墓石。
フェンリルそれは落ちてるんじゃなくて置いているんであって、そもそも墓石を割って飛ばすのは罰当たりですよ。
壊した墓石は後で修繕するとして、僕らは地面に倒れ付した不審者を取り囲む。
「人じゃなくて魔獣?」
そこに倒れていたのは人ではなく魔獣。茶色のコートを着ていると思ったのは茶色の毛皮だった。
「いったいなんでやんすか」
こんなに短い距離なのに息を切らせて遅れて到着するトーマスさん。尾行にも気付いてなかったぽいしこれでよく盗賊なんて勤まるもんだ。
五流呼ばわりしていた上司の敵討ちをしようって心意気だけは買えるけど、なんで彼みたいな人が盗賊ギルドに入ったんだろうか?
「トートじゃねーですか」
倒れている魔獣を見てトーマスさんが驚きの声を上げる。
トートってアネルカさんの使い魔の?この茶色の物体が?
似ていなくはないけどトートは真っ白な毛だったはずで、触って確かめるも以前のような背筋がゾクっとするような心地よい手触りではなく、ささくれだった藁を束ねたようなゴワゴワした手触りだ。
「似てるけど違いますよ。だって毛の色も手触りも全然違います」
確信を持って言ったけど「換毛で冬と夏じゃ毛の色が違うんでやんす」と答えが返って来た。
トートの種族は冬は雪が纏わりつかないようにサラサラとした保護色の白、暑い時期は棘などから身を守る為硬い茶色の毛に生え変わるらしい。
「しっかりするでやんす。誰にやられたんでやんすか?」
トート(仮)の肩を持って揺さぶるトーマスさん。
やったのはフェンリルだし頭を打った者を揺さぶるのは厳禁で、なんていうかちょっとずれているトーマスさんにアネルカさんも生前は苦労してたんだろうなと、思いを馳せながらも短剣に手を掛け警戒は怠らない。
あくまでトーマスさんがトートだと言っているだけで本当にトートなのかは僕らにはわからないからね。
「ゆさぶんなデブ。よくもやりやがったな豆粒チビが!」
あっこの声と口の悪さは間違いなくトートだ。警戒を解き短剣から手を離し「無事だったんだねトート」と声を掛ける。
続いてトーマスさんも「どこにいってたでやんすか。姿が見えないから心配してたでやんすよ」と安堵の息をつく。
「おめーら本気で言ってんのか」
何となくフェンリルが不機嫌な気もするけど「トートが元気でいるんだから喜んで当たり前じゃない」と言った途端パンパンと二発のビンタの音が辺りに木霊した。
うう・・・往復ビンタ、何で僕だけ・・・
ひりひりする頬を押さえていると「マスター本気で言っているのか?」とナーガが哀れむ目で僕を見つめる。
何を間違ったのか気付けないままトートに対する尋問が始まった。




