56、新ビザンツ王国
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「ようこそいらっしゃいました。『新ビザンツ王国』へようこそ。」
馬車で『新ビザンツ王国』の貧相な入り口まで来ると、2人の門番と1人の騎士が出迎えた。3人とも気持ち悪いほど笑顔を浮かべている。
「改めて名乗りを上げておきましょう。我らはエルフの集落『エルドラン』の族長ハウザーからの使いで参りました。ユウマ・アリムラと申します。過分なご歓待感謝いたします。」
クロ子が俺の代わりに名乗りを上げる。これが過分な歓待ねぇ……笑顔の門番3人だけじゃねぇか。にしても、クロ子の奴、なかなか堂に入った名乗りじゃないか。人は変われば変わるもんだな。俺はその様子を馬車の中から窺っていた。
「私は近衛騎士のムールと申します。それでは、私が王城まで先導させていただきますので、ついてきていただきたい。」
騎士はそう行って、馬車の前を馬で先導し始める。って王城って……まぁ、王様がいるから間違いではないか。
馬車は問題なく集落の中に通された。立派な館が中央に聳えているが、その周囲にある家々との落差が激しい。古い家を無理やり改築して住んでいるという有様だ。それに、あんな木の柵じゃ魔物の襲撃にも耐えられないだろうな。
「なんだかあの建物だけ立派で違和感があるよね。」
アヤノが馬車からの眺めに思わず口にする。もちろん騎士には聞こえないように小声で。
「ここに移り住んで5年であんな立派な建物を建てたんだろ?他の家ももうちょっと手直ししてもいいのにな。」
ダイチも同じようにここの村長、いや国王に不満を感じているようだ。
確かに、一点豪華主義のような集落だった。中央の館までは石畳が敷かれている。ただ、見ると中央から順に家々の改築が行われているようだ。どうやら国王はそのうち全体の見栄えを良くしたいのだろうが、金銭的にも人員的にも限界なのだろう。見たところ畑もない。クロ子によると食糧事情も芳しくないらしい。これも十長老のトータティスから得た情報と一致していた。
「こちらで一旦、止まっていただきます。」
騎士が館の前で声を上げる。そして、俺たちの馬車の扉を開け、女性陣が馬車から降りるのに手を貸してくれる。なかなか紳士的じゃないか。
「ご丁寧にありがとうございます。」
代表して騎士たちにアイリが礼をする。
「いえ、来賓の方々にはご丁重に接するように言われておりますので。」
まだ若い騎士が少しはにかみながら言う。そりゃアイリだけでなく皆のドレス姿はかなりのインパクトがある。
「いや、それでもありがとう。皆、このような場に慣れてなくて緊張しているんだ。助かるよ。」
俺も騎士に礼を言っておく。イメージと違うな。もっと高圧的に来られると覚悟していたんだが……。
「いえ……もったいないお言葉です。」
「それでは、これより王城へご案内させていただきます。」
俺たちは騎士の後に続いて館に入っていく。クロ子とダイチ、アヤノが先に入り、俺とアイリ、そして、ミコト、ノア、サフィーナが続く。俺の方にはシラユキが乗っている。中はなんとレッドカーペットが敷かれている。セレブになった気分になるな。いや、今は俺たちはセレブリティの体なのか。胸を張って堂々としなきゃな。お、クロ子とダイチは堂々としてるな。アヤノは、あ、笑顔が張り付いている。まぁ、仕方ないか。
少し歩くと大き目な扉の前までやって来た。どうもこの先に国王がいるらしい。
「それではこれより国王様との謁見の間です。準備は良いでしょうか。」
「ああ。あ、このシラユキはとても賢いし人語が理解できる竜だ。このままでも構わないか?」
「あ、はい。ですがくれぐれも粗相のなさらないようにお気を付けください。」
ま、クロ子からの話もあるしな。外交か……気が重いな。
『エルドランからの使者の入場です。』
中からの声を合図に扉が開かれる。中は豪華絢爛な内装だ。高そうな絵画や彫刻が並んでいる。謁見の間の左右には家臣であろう者や騎士たちが並ぶ。
「それでは、玉座の前まで行き、跪いて、頭を下げてお待ちください。」
若い騎士から助言をもらう。
「ありがとう。」
俺はそう言うと騎士ムールの言葉に従う。他のメンバーもそれに倣う。
何で村長に合うのに、ちょっとドキドキしなきゃならんのだ!!
『国王様のご入場です。』
その声に合わせて、楽隊によるファンファーレのような音楽が流れる。
はぁっ!?どこの世界に村長登場で楽隊が音楽流すんだよっ!!笑いそうになるのを必死で耐える。ダイチなどは軽く震えている。耐えろ!ダイチ!!がんばれっ!!
ファンファーレが止み、衣擦れの音が聞こえる。どうやら国王がやってきたようだ。もうこうなったらこっちも付き合ってやるよっ!!本物の国王に会ったと思ってやりきってやるっ!!
「使者殿、面を上げよ。」
厳かな声が聞こえる。
「突然の訪問に、お時間をいただき、ご尊顔を賜りまして恐悦至極にございます。」
顔を上げると長身痩躯の中年の男が立っていた。ロマンスグレーの髪を後ろに撫でつけている。顎鬚を少し生やしている程度で、王様という風格はない。強いて言うなら、仕事の出来る執事や文官といったイメージだ。だが、その頭には華美な装飾の王冠が輝いている。
「そなたがユウマ・アリムラか。噂は聞いておる。『エルドラン』での精霊王の一件を解決したとか……エルドランの救世主とか言われておるそうじゃな。」
意外だった。俺の事を知っている。ただの貴族崩れじゃないな。独自の調査網を持っているという事だ。
「お恥ずかしい限りです。ここにいる皆の助力があってこそでございます。」
ヤバいな。ペースを握られた。
「して、此度の書状は以前の物とは少し毛色が違っていたがどういうことか。」
「はい。以前こちらに赴いた使者の返還のお願いに参りました。こちらの地下でお世話になっているとお聞きしましたので。こちらで然るべき対応をさせていただきたい。」
こちらもカードを切っておこう。他国の使者を無断で拘束するとなれば、外交問題になるのは当然だ。ま、村長に拘束されてるんだけどね。
「ほぅ。どこから聞いたのか知らぬが、良く知っておるな。あの者たちは使者であったか。我が国内で不逞を働いた故に拘束したのだ。」
これは使者だったことを知らなかったと言い白を切るつもりか。だが、国王の言葉は絶対だ。向こうが理不尽な事でも、国王自身が言ったことだ。それが事実になってしまう。
「それでは保釈金代わりと言っては何ですが、『エルドラン』の名産品をお納めいただきたい。これはその一部となりますが……」
俺はそう言って、魔鋼糸で織られた反物をインベントリから取り出して見せる。
「ほぅ……これは、マジックシルクではないか。」
マジックシルクというのか。国王の言葉に、列席の家臣たちは感嘆の声を上げる。物によっては、これ1つで屋敷が立つと言われるほどのものだ。破格の保釈金だろう。
「それから、今後、我々との交易を行なっていただきたいのです。この辺りは森の魔物も強く畑の作物の栽培も困難な土地柄。今回、我らは手土産といたしまして、『エルドラン』の森の恵みをお持ちいたしましたので、お納め下さい。」
さらにインベントリから果物や酒、穀物類が入った箱を取り出して見せる。
「おっと、これは無粋な物をお見せして申し訳ありません。」
少しだけ見せてから再びインベントリにしまい込む。
周囲の家臣たちは明らかに、動揺している。中には生唾を飲む者などがいるようだ。食糧難はここに入る面々にも深刻な問題なようだ。
「まぁ、良かろう。そうか。このような品々、感謝いたす。彼の者たちの保釈を認めよう。ミムラ。準備をしておけ。」
国王は横に控えていた魔術師風の男に声をかけた。ん?ミムラ?黒髪の東洋人?異世界人か?
看破!!
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■ステータス
名前/ミムラ・カズヤ
Lv.7
種族/人間 年齢/28歳 職業/新ビザンツ王国宰相
HP 150/150
MP 120/120
腕力 130
体力 130
敏捷度 130
器用度 130
知力 130
精神力 130
称号:転生者
装備:魔術師のローブ 魔術師の杖
スキル
-EXスキル【予知夢】【百人配下】【機械化】
-スキル【土魔術/Cランク】【水魔術/Cランク】
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やっぱり異世界人だったか。癖のありそうなスキルが並んでいる。でも、異世界人の割にはステータスが平凡だろうか。
「こちらこそ保釈を認めていただきありがとうございます。手土産は後ほどお渡しさせていただきますので。」
もちろん拘束されているエルドランの人たちと交換だ。
「良かろう。では、ささやかながら歓迎の宴を用意しておる。それでは私は準備がある故に、これで退出させてもらうぞ。ミムラ。使者殿の相手を頼んだぞ。」
そう言って国王は玉座を立つ。
『国王様、ご退出ッ!!』
また、ファンファーレのような物が鳴り響いた。
その後、その他の家臣や騎士たちも同様に謁見の間から退出していく。そして、俺たち一行とミムラ、そして、騎士のムールだけが取り残された。ミムラは幾人かの使用人に指示を出すとこちらにやって来た。
「使者殿、それでは準備ができるまで私の家でお待ちください。何しろ、控室というものがありません。狭苦しい所ではありますが、どうぞこちらへ。それからユウマ殿は異世界人ですよね。私もそうなのです。何かと不便でしょうが我慢していただきたい。」
ミムラは国王が去ると気さくに声をかけて来た。異世界人だという好もあるのだろう。俺たちはミムラの家に案内されることとなった。
「それは助かります。ここに来てから半年は経ちましたが、色々と大変で……。あ、ちなみにこのアイリとサフィーナ以外は皆、異世界人ですよ。」
そういうと、ミムラは目を丸くする。これほどの数の異世界人を目にするのは珍しいことなのか?
道中、世間話をして様子を窺うことにした。といっても館の裏手にある建物がミムラの家らしい。
「そうでしたか。異世界人の強さは身を持って知ってますからね。しかも子供たちばかり……色々とご苦労があったんでしょう。」
ミムラはミコトやノアに憐憫の目を向ける。
「帝国で何かあったのですか?異世界人に関する何かが……」
たまらずクロ子がミムラに質問する。
「ええ。帝国の有力者たちは異世界人たちを子飼いにして強力な私兵に仕立て上げています。5年前の政争でも、裏では異世界人同士、かなりぶつかったと聞いていますよ。そう、君たちのような年端もいかない子供たちもね。」
ミムラは悲しそうな目で遠くを見つめる。
「それでガラハド大森林帯へ逃げ込んだというわけですね。でも、この集落を国とするのはあまりにも……」
クロ子がこれまで貯まっていた思いを口にする。
「クロ子っ!」
俺がクロ子を窘める。
「いえ。いいのです。ユウマ殿。それは私も、そしてエドガー様も解っている事。あぁ、エドガーというのは国王様のお名前ですよ。」
意外なことにミムラは核心に触れられても怒る様子はなかった。
「殿というのは、堅苦しいので、呼び捨てで構いません。それよりも、エドガー様は王というものに執着されているのは、やはり5年前の事件が原因で?」
「では、ユウマさんとお呼びしましょう。その通り。5年前の事件でエドガー様は歪んだ考えを持つようになられた。以前は聡明で思慮深い方だったのですが……。それほどまでに、陰惨な事件でしたよ。」
帝国でのドロドロとした駆け引きか。考えただけでもゾッとするな。
俺たちは見えて来た少し大きめの家に案内された。漆喰が壁に塗られた木造の家だった。村の家の中では綺麗な部類に入るだろう。
「それでは、中で宴の時間までごゆっくりお寛ぎください。今日はこちらに泊まって行かれると良い。私は1人暮らしなのでこの家では広すぎるのですよ。部屋も余っていますし、ベッドは後から運ばせますので。」
中は簡素ながらも綺麗に片づけられた部屋だった。家具なども必要最低限の物しか置いていない。俺は罠かもしれないと思い、エドガーとの謁見からずっと樹木魔法で周囲の心を読んでいた。しかし、このミムラの言葉にも嘘は見受けられない。本当に歓迎してくれているようだ。
「ミムラさん。ありがとうございます。では、先に食糧品などの手土産をお渡しさせていただきたいのですが、どうしましょうか。」
「解りました。では、私について来て下さい。私も依然来られた方の引き渡しの手続きがありますので……。」
俺とミムラさんが外に出ようとすると、
「あ、あの!ザハルというエルフが無礼な事を言いませんでしたか?それだけが心配で……。」
アイリが声を上げる。そうだ。ザハルはともかく他のエルドランの人たちも囚われているはず。アイリとしても、先ほどからそちらが気になっていたんだろう。
「大丈夫ですよ。あの方々は丁重に扱われていますよ。ああ、一人暴れだしそうな方がいましたが、食事を抜くと大人しくなりましたね。」
やっぱり暴れようとしやがったかザハルめ。っていうか、今回はザハルは悪くないのか?ま、ザハルの事だし別に構わないが、他のエルフたちが無事ならそれだけで朗報だ。
「そうですか。皆、無事なのですね。良かった……。」
アイリは安堵したような声で言う。
「この家の中の物は自由にお使い下さい。では、少し私は出ますが、何かあればこちらのムールさんにお伝えください。」
若い騎士のムールが俺たちの監視役兼接待役のようだ。歳が近そうだとかそんな理由だろうか。ま、気の良さそうな人だからいいか。
「なら、ユウマさん。ここは私が責任もって面倒みるから安心して行って来て。」
アイリが俺を見送ってくれる。
「アイリがいてくれるなら安心だな。こっちはシラユキだけを連れていくことにするよ。それじゃ、ムールさん。連れがご迷惑かけるかと思いますが、よろしくお願いします。あ、これ『エルドラン』のお菓子です。皆で食べてください。」
俺はインベントリからマールが大量に作ったクッキーやパウンドケーキなどを取り出した。
「え、これ……私が食べてもいいんですか?」
「これマールって人が作ったお菓子なのー。とってもおいしーんだよー。」
サフィーナがさっそくポリポリとクッキーをつまんでいる。はぁ……礼儀作法のトレーニングはいったい何だったんだよ。
「と、とりあえずザハルたちを引き取ってくるわ。」
俺とミムラさんが家を出た。再び館に向かうためだ。クロ子の話だと館の地下に前の使者たちが拘束されているらしいからな。
「ユウマさん。お話があるんですが、よろしいですか?」
家を出てまもなく、ミムラさんが話しかけてきた。
「構いませんよ。滞在中はいろいろとお世話になりますから。」
「実は、この国の事なのですが……、こんな茶番に付き合っていただき申し訳ない。」
「いえ。まぁ、最初は驚きましたが、エドガー様も色々あったんでしょうし……。」
「ありがとうございます。ですが、こんな形態は長く続くはずありません。それはエドガー様もご理解いただいているはずなのですが、意固地になられているようなのです。」
「そうですか。確かにここでの食糧難は見ていて解りました。それに人口に対して兵士の数が多すぎる。」
「はい。兵士も狩猟や採集を行っていますが、どうしても安定的な食糧が得られません。ただ、いつ帝国からの追手が来るか解りませんから、兵の数は減らしたくないのです。」
「気持ちはわかります。ですが、帝国が本気で来るとここの兵数では太刀打ちできないのでは?まぁ、魔物に対する備えがありますから戦力は必要ですが、今の状況はあまりにもアンバランスです。」
「その通りなのです。ですから、私としても、ユウマさんからの氏族連合のお話は私たちにとってもありがたいのですが……。」
「障害はエドガー様のお気持ちだけ……と?」
「はい。」
「氏族連合としても人間との交流は必須ですし、人間の貴族社会に長けている皆さんが一因になっていただけると心強い限りですよ。俺で良ければ力になりますよ。」
「ありがとうございます。私は、この国を壊してしまいたいのです。そして、エドガー様もこのような妄執から解放して差し上げたいのですよ。」
おっと、かなりの過激な発言だな。国を壊す……ま、実際は集落を壊す事になるんだろうが……
「壊すとは物騒なお話ですね。」
「すでにこの国自体、壊れかかっているのです。ちょっとした切っ掛けさえあれば自壊するのですから。」
ミムラさんの目には狂気などは見られない、しかし悲しみが湛えられていた。
「自棄になったというわけではないようですね。でも、エドガー様の気持ちを壊すのは骨が折れそうですよ?何か策があるんですよね?」
「ははは……。何もかもお見通しですか。私には【予知夢】という未来を読み取るスキルがあるんです。帝国での政争もこれで逃れることができました。……近いうちにこの付近で強大な魔物が動き出すのですよ。山のような巨大な魔物がね。」
「それって……早く避難させないと被害が出てしまいますよ!周辺の集落にも声をかけないと!これをエドガー様には伝えたんですか?」
「いえ……まだです。ですから先にユウマさんに伝えておきたかったのです。我らを保護してくれるという確約が欲しかったんです。」
回りくどい……それだけ心配だったということか。俺たちの使者を拘束したりしてるしな。
「解りました。保護をお約束しましょう。でも、エドガー様が俺たちに保護を求めなかったらどうするんです?」
「その時は、私がエドガー様を説得します。だからお願いします。力を貸してください。」
深々とミムラさんは俺に頭を下げる。
「これはガラハド大森林帯全体の問題ですから。よし、シラユキ!このことをエルドランのハウザーさんに伝えてくれ。それから、ここの人たち500名分の受け入れ準備を頼むと。できるか?」
<了解した。援軍要請はいるか?>
「大丈夫だ。俺たちだけでなんとかしてみる。」
<承知した。我もすぐに戻ってくる。>
そういうとシラユキは翼をはためかせ、大空へ飛び上がり見る見るうちに上昇していく。
「ユウマさん。ありがとうございます。」
ミムラさんが再び頭を下げる。
「いえ。で、その巨大な魔物ですが、どのあたりで復活するのか解りますか?」
「すいません。そこまでは解りません。このあたりの森の中ということくらいしか……」
「そうですか。いえ、大丈夫です。ミムラさんも皆を避難させる準備を始めてください。」
「はい。それは、騎士たちを中心にもう始めてもらっているのですよ。ですから、ユウマさんがお持ちになった手土産はすべて出さなくて結構です。今夜の宴用に少しあればよいですから。」
なるほど、すべて準備は整えていたということか。つまり、今回、俺たちがここにやって来させるために、わざと前の使者たちを拘束した?……いや、考えすぎだろう。
俺たちは拘束された使者たちの解放の手続きをしに、そのまま館の地下へは降りて行った。
最後まで読んでくださってありがとうございます。




