17、シーフレイド
†
クソっ……何やってんだ……俺は!!最初から盗賊なのは解っていた。荷馬車を止めずにそのまま男を撥ねてでも進めばよかったんだっ!!それなのに……なにが各個撃破だ……
そもそも、サフィーナを連れて来たのが間違いだった……後ろの警戒に10歳の少女をつかせるのも今考えるとバカげている……本当にバカか……何が保護者だ……保護なんてできもしないのに……恰好つけて……俺は……俺は……
「―――――マさん!ユウマさんっ!!しっかりして!!」
我に返ると、アイリが俺を揺さぶっていた。青い顔をしてアイリがこちらを見つめている。
そうだ……俺がしっかりしなきゃな。
俺は、荷台の後ろに移動して、盗賊の位置を確かめた。
馬に乗った盗賊は、荷馬車の進行方向とは逆に走り始めていた。荷馬車からの距離約10m。
俺は、荷馬車から飛び降り、走り出していた。
その時、馬にも追いつけるような気がしたんだ。
跳ぶ。地面を蹴る。
蹴る。 蹴る 蹴る。
駆ける。 駆ける。 駆ける。
盗賊の背中が大きくなる。 小脇に抱えられたサフィーナの表情もはっきりとわかる。
跳ぶ。サフィーナを奪い返す。
サフィーナを見る。擦り傷や打ち身はあるが、大きな怪我はないようだ。
サフィーナを奪われた男は目を見開いて、馬を棹立ちにさせ急停止する。まさか追ってこられるとは思わなかったのだろう。俺だって正直信じられない。
「お前、仲間をやったのかっ!!死ねっ!!」
盗賊は腰に下げた剣を抜き、俺とサフィーナに迫る。
その距離が5m 3m 2m
俺は、サフィーナを抱え、脇に転がると同時に、鋼糸を飛ばす。
シュルシュルと伸びていく鋼糸は、盗賊の頭を撃ち抜く。
糸の切れた人形のように、盗賊はしばらく馬に揺られ、剣を取り落し、ついに地面に崩れ落ちた。
「サフィーナっ!!大丈夫かっ!!しっかりしろっ!!」
看破でサフィーナを見るが、やはりステータスを見ることが出来ない。
サフィーナの反応がない。なぜだっ!怪我はないはずなのに!!
「サフィーナっ!ポーションだ!飲んでくれ!!」
俺はインベントリからハイポーションを取り出し、飲ませようとするが上手くいかない。
迷わず俺はハイポーションを口に含み、口移しで少しずつサフィーナの口に注ぎ込んでいく。
コクリとサフィーナの小さな喉が動いた。
よし!飲んだ!!もっと飲め!!死ぬなっ!!
さらにハイポーションを口に含み、サフィーナに近づくと……
「んーー♪ユウマー、もっとチューしてぇー。」
なんだよそれ……大丈夫なんじゃねぇか……チューなんて、いつでもやってやるよ……バカ。
「サフィーナっ!!お前っ!!」
俺が大声を出すと、サフィーナが起こられると思ったのか体を竦ませる。
「無事だったんだなっ!!良かった……本当に良かったよ……俺、お前が死んだんじゃないかって……」
あとは言葉になってなかった。気付いたらサフィーナを抱きしめていた。
サフィーナはきっと困った顔をしていたに違いない。
ダメだな。俺は。
しかし、いつまでもこの状態でいるわけにもいかなかった。
また、【気配感知】に反応があったのだ。おそらく後ろから盗賊たちが追いついてきたんだろう。
「サフィーナ。また荷台に隠れてろ。盗賊たちが追いついてきた。」
「いやだ。サフィーナもたたかう。ユウマはサフィーナがまもる。まほうつかう。」
サフィーナがいつもの気の抜けた瞳ではない。強い意志を感じる目でこちらを見つめる。
「魔法?いったい何するんだ?奴らがここに来るのにあと3分もないぞ。」
「私にとっておきの作戦がある。早く馬車に戻って!戻りなさいっ!!」
いつもと雰囲気の違うサフィーナに、俺は気圧されたように頷き、サフィーナを抱えて荷馬車に戻る。
どうやら、馬に追いつけたのは純粋にステータスが上がったからのようだ。まったく息を切らすことなく、荷馬車につくことが出来た。
「さっきの盗賊は殺った。でも、後ろの奴らが追いついてきた。あと2分ちょっとで奴らここに到着する。」
俺が、荷馬車にいる皆に伝える。
「私に作戦がある。まずはこの荷馬車から下りて!早くっ!!エギル!ウリリとライキを連れて早く移動して!!作戦は隠れてから話すわっ!!」
いつもと違うサフィーナに、皆も気圧され荷馬車から下りて近くにある岩陰に隠れた。
†
スルーされた……あたいの渾身の演技が……こんなか弱い女性が道で倒れているのに、それを無視しやがって!!あの黒髪の男、許さねぇ!!あたいに恥かかせやがってぇ!!
しばらくして、お頭たちの本隊と合流できた。くそっ……あたいの失敗を鼻で笑いやがって……
何にもできない奴ほど、人の失敗をことさら笑いやがる……刃物振り回すことしかできねぇくせに!
「おぅ。イリア。お前が失敗するとは珍しいじゃねぇか。」
「お頭。すまねぇです。この挽回は、すぐにでもやらせてもらいます。」
お頭は、特に気にした様子もなく、馬の後ろに乗るように顎をしゃくる。
本隊は皆、馬に乗って移動している。維持費がハンパなくかかるが、お頭の方針で、この方が得物を捕えやすく、逃げやすいのだそうだ。そのせいか、あたいたちの盗賊団『群狼』はこの辺り一帯では有名な盗賊団として幅を利かせていた。
「今回は、イリアの色気もダメだったようだなっ!!」
「うるせぇ!!股にぶら下がってる粗末なヒモ引きちぎるよっ!!」
「おぉ~~~怖ぇ、怖ぇ。ひっひっひ。」
まったく、うちの連中はデリカシーというやつを知らない。その言葉すら知らないバカの集まりだ。まぁ、あたいも、デリカシーの意味はよく解らねぇが……
「おい。先行隊が戻って来たぞ!!この先に、例の荷馬車が止まっているらしい!!チョグたちが上手くやったみてぇだ!野郎ども、準備はいいかー!!」
お頭が号令をかける。
「「「「おぉぉぉーーーー!!!」」」」
あたいらたちの馬は、目の前に見えてきた荷馬車に向けて疾走していく。獲物はもう逃げるのをやめたらしい。
「おーい!!ジェンスとザパンが死んでるっ!!ひゃはっは!!アイツら、獲物に逆に喰われてやがる!!ざまぁねぇなっ!!」
先行隊のダーザが叫んでいる。ちっ、仲間が死んだってのに笑ってやがる。イカれてるな。
「バカヤロー!!チョグもいるはずだ!奴はどこだ?探せ!!イリアは俺と荷台を調べるぞ!!
他の奴は、荷馬車に乗ってた奴らを探せ!!近くにまだいるはずだっ!!」
「「「「へぃ!!」」」」
皆は散会していった。
あたいはお頭の後について、荷馬車の後ろから荷台に乗り込んでいった。奴ら、荷物をそのまま残して逃げやがったみたいだ。逃げる時間稼ぎってか?バカな奴らだ。どうせ見つけてひん剥いて殺されるってのによ。
荷台には誰も居ないようだった。
「お頭、皆逃げちまって誰もいやせんね。でも、この積荷は、結構金目のもんがかなりありやすね。」
ガタン
奥で物音が聞こえる。
「誰だっ!!出てきやがれ!!」
お頭がドスの効いた声を出す。
『んーー!!!んんんーー!!』
呻くような声が荷台の床下から聞こえてくる。よく見ると、床に蓋のような物がついている。
「イリア、あの蓋を開けろ。」
お頭があたいを前に押し出す。あたいは、力を込めて蓋を持ち上げていく。
「んんーー!!!んんんーーー!!!」
そこには両手両足を縛られ、口に布を詰められた顔見知りがいた。
「お、お前、チョグか?なんで縛られてる!?お頭!こりゃどうなってやがんです?」
『あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁぁーーーー!!!!』
荷馬車の外から断末魔のような声が聞こえてくる。
「クソっ!!罠か……おい!外に出るぞ!!」
「で、でも、お頭。チョグの手足を縛ってる糸みたいなのが切れねぇよっ!!ナイフの刃をはじきやがる!!」
「そいつは放っておけ!!荷台の外に出ろ!!早くしやがれっ!!」
お頭に急かされて、あたいは荷台を降りた。
荷台を降り、周囲を見回すとそれまでの風景は一変していた。
周囲にいたはずの仲間の姿は見えない。いや、何も見えなかった。あたいたちは真っ白い霧の中に取り残されていた。
「クソっ!!どうなってやがんだっ!!なんだこの霧はーーーっ!!!」
お頭は、今まで聞いたことのないような絶叫をあげる。あたいは、それをただ見ているだけしかできなかった。何も聞こえない……何も見えない……気持ち悪い汗が背中を滑り落ちる。
時間にすると3分かそれとも10分か……とにかくしばらくすると霧が晴れてきた。
あたいたちの目の前に、抜き身の長剣を手に持った屈強な男が立っていた。足元には、数人の仲間が倒れている。
「てめぇがやりやがったのかっ!!イリアっ!!やれっ!!」
あたいは腰のベルトに刺したナイフを男に投げつける。だが、男は長剣を軽く翳してはじき返した。
ダメだ……勝てない。こいつは仲間を全員殺りやがった……化け物だ……
だが、お頭は違ったようだ。腰にさしたハンドアックスを持ち、目の前の男に突撃していく。
「死ねぇぇぇぇ!!おらぁぁぁーーー…………」
3歩だった。
お頭が男に突撃のために進めた歩数。
そのまま頭から地面につっこみ倒れ込み、ピクリとも動かない。
あたいは動けなかった。訳が分からない……お頭が殺られた……あのめちゃくちゃ強いお頭が……
突然、あたいの視界がぐるんと回った。青い空が見えている。霧はもう完全に晴れていた。
青い 空に 白い雲が なん で? そうか あたい 倒れてるのか
そのまま、あたいの意識は遠のいていった。
†
「で、ウリリ。こいつらどうしたらいい?生きている奴も全員殺したほうがいいか?」
俺は、縛って転がしている2人を見る。
「えぇっとぉ……一般的にはぁ、盗賊に懸賞金がかかっているとぉ、街で引き渡したときにぃ、お金がもらえますけどぉ……街まではあと1日ありますからぁ……そのぉ……。」
そりゃそうだな。いくら簀巻きにされてるからといっても、盗賊2人と野宿を共にするのは嫌だわな。
「と、いうことだそうだ。お前ら死んで欲しい。人の命を狙ってるくらいだから、死ぬ覚悟くらいはあるんだよな?」
俺は2人を睨み付ける。縛られた盗賊2人は震えあがっている。
一人は俺が麻痺させた男、そして、もう一人は例の道に倒れていた演技の下手な女だ。
今、俺たちは、襲われた場所からしばらく走った街道沿いで休憩中だ。さすがに死体が転がっているところで休みたくないからな。
サフィーナの作戦は大成功だったといえる。誰もケガなく盗賊団を全滅させることができたのだ。
そして、魔法の恐ろしさを感じるものでもあった。
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サフィーナの作戦
1.皆、少し離れた岩陰に隠れて、荷馬車に盗賊団を引き付ける。
2.1を確認後、サフィーナによる精霊魔法で周囲一帯を濃霧を発生させ視界を絶つ。
3.俺、アイリは【気配察知】【気配消失】を発動させる。
4.俺とアイリ・エギルペアに分かれて各個撃破していく。
―アイリ・エギルペアについてはアイリが精霊魔法の『スリープ』で眠らせた後、エギルが止めを刺していく。魔力切れ防止のため、俺から魔力ポーションを渡している。
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と、まぁこんな感じだったのだが、最後はサフィーナの魔力切れで濃霧が晴れ、エギルが見つかってしまい、俺とアイリが後ろに回り込んで盗賊に攻撃したという顛末だった。アイリが杖で女に殴りかかったときは驚いたが……。
そのあと、気が退けたが盗賊たちの死体をあさり、金目のものを回収していった。粗末な武具が多かったが、2000Gほどの現金が回収できた。他にも、盗賊の乗っていた馬を3頭鹵獲できたのは幸運だった。馬車を4頭立てにすることで、若干の移動速度が上がったのだ。これなら、盗賊に襲われ遅れた行程を取り戻せる。ウリリ曰く、このまま行けばあと1回の野営でエイラムに到着できるとのことだった。
俺は再び、転がされている盗賊を見る。口では盗賊たちを脅しているが、正直、殺せるか自信がない。散々殺してきて今更だが、無抵抗の相手を殺すというのはハードルが高すぎる。思わずため息が出る。
「ユウマ。何も無理に殺す必要はねぇぞ。それに盗賊ならどっかにお宝でもため込んでる可能性もある。もしあったんならひと財産だぜ?俺が聞き出してやるぜ?どうする?」
エギルが提案する。冒険者だったエギルにとって盗賊討伐などお手の物といったところか。
しばらく俺が悩んでいると意外なところから声がかかった。
「ユウマ。盗賊たちのお宝?なら私が聞き出してあげましょうか?もし、ユウマがそれを手に入れたいなら、私は協力するわよ。」
先ほどまで、魔力切れで寝ていたサフィーナだった。盗賊に攫われて以来、どこか違和感を感じる。急に大人びた喋り方になっているのだ。
「サフィーナ。もう寝てなくで大丈夫なのか?魔力ポーションならまだあるぞ。」
「ちょっと無理しちゃっただけ。大丈夫よ。それよりどう?欲しい?こいつらのため込んだお宝。」
まだ、顔色が優れないサフィーナであったが、少し妖艶な雰囲気で俺に聞いてくる。
「いや、欲しいっちゃ欲しいが、何か手があるのか?また、魔法でも使うのか?」
アイリ、ウリリ、ライキが不安げに俺たちのやりとりを聞いている。盗賊に襲われたんだ。一刻も早く街に逃げ込みたいだろう。また襲われるのは俺もゴメンだからな。
「魔法……まぁ、似たようなものね。ちょっとそっちの女を貸してくれる?大丈夫、心配ないわ。」
サフィーナは、女のところまで行き、彼女の頭に手を置いた。サフィーナは目を閉じ、集中を始める。
俺たちは、その様子を黙ってみているしかなかった。しばらくすると、サフィーナは目を開ける。
「アジトが解ったわ。エイラムの近くみたいね。遠回りしなくても大丈夫そうだわ。ウリリ、今日の野営地で一泊したあと、少し寄り道になるけど大丈夫かしら?明日の夕方前にはエイラムにつくはずだから。」
サフィーナは今日の野営地を予定している場所や、アジト、エイラムの位置を正確に把握しているようだった。サフィーナがどうなってしまったのか不安でいっぱいになる。しかし、それは皆も同じようで、得体のしれない不安に包まれている。
アイリは不安からか、俺の袖をギュッと掴んで離さなかった。
俺たちは不安を抱えながらも、次の野営地へ到着していた。皆、野営準備を黙々と行う。正直、俺もどうしていいかわからなかった。ただ、俺はやらないといけないことがある。
「サフィーナ、ちょっと話があるから来てくれないか?皆悪い。作業を任せていいか。」
俺はサフィーナを皆から少し離れたところに呼び出した。アイリなどは不安な視線を送っている。やはり、サフィーナの変化に心配を隠せないでいる。
「解ったわ。」
サフィーナは素直に俺の後に従った。
俺はしばらく歩いて、手ごろな石の上に座り込んだ。サフィーナも同様に、倒木の上にちょこんと座る。
「サフィーナ。何があったのか、説明してくれないか?皆も心配してる……いや、なにより、俺が心配なんだよ。」
「ごめんなさいね。ビックリしたわよね。急にいろいろとやってしまったから。何から説明しようかしら。まず、私のステータスを見てちょうだい?」
「知ってたのか?俺がステータスを見れたこと……」
サフィーナは静かにうなずく。
俺は、サフィーナを見つめ、看破と念じる。さらに、詳細看破……やはり無理だった。
「だめだ……サフィーナのステータスは見れなかったよ。」
「なら、魔力を100以上込めて見てくれない?貴方の減った魔力は……これで『魔力譲渡』」
サフィーナの手から紫色の光が出て俺を包み込む。何かが俺に流れ込んできているのがわかった。
ステータスを確認すると、これまでの戦闘で消費したMPがすべて回復している。
「MP全快してる……こ、これは?」
「後で説明してあげる。今は、私のステータスを見てちょうだい。」
MP100をつぎ込んでの看破は初めてだった。完全看破!!
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■ステータス
名前/サフィーナ
Lv.3/20
種族/人間/封仙 年齢/10/1003歳 職業/なし
HP 28/28 (3500/3500)
MP 62/62(3830/4000)
腕力 12 (1800)
体力 14 (1600)
敏捷度 18(2000)
器用度 28(2300)
知力 40(2800)
精神力 45(2100)
加護:天上主の加護
称号:迷い子 記憶喪失の子供 (転生した封仙)
スキル
【精霊魔法/Fランク】
(【精霊魔法/Sランク】【仙術/Aランク】【練丹術/Aランク】【看破】【隠ぺい/Aランク】)
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なんじゃこりゃーーーーーーー!!!!
最後まで読んでくださってありがとうございます。




